資本コストや株価を意識した経営を実現するために~日本企業の持続的成長と企業価値向上のための戦略と課題~
企業価値向上に向けた日本企業の取組みの現状はどうなっているか、課題はどこにあるのか、また、東証の市場区分ごとに企業の成長をどのように支援していくべきかなどについて、株式会社東京証券取引所上場部企画グループ統括課長の池田 直隆氏に伺いました。
株式会社東京証券取引所上場部企画グループ統括課長の池田 直隆氏に伺いました。
日本企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上が課題となるなか、東京証券取引所(以下、東証という)は2023年3月31日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」1というリリースを発表し、企業の資本収益性の向上を促す取組みを進めています。しかし、多くの企業で資本コストへの理解や事業ポートフォリオの見直しが不十分であり、さらなる改善が求められています。
企業価値向上に向けた日本企業の取組みの現状はどうなっているか、課題はどこにあるのか、また、東証の市場区分ごとに企業の成長をどのように支援していくべきかなどについて、株式会社東京証券取引所上場部企画グループ統括課長の池田 直隆氏に伺いました。
国際データ比較で資本コスト 経営の必要性が浮き彫りに
土屋
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(以下、「東証対応」という)について、2024年6月末時点でプライム市場では81%(1,335社)、スタンダード市場では40%(638社)の企業が開示しているという集計結果が出ています。昨年3月に公表した東証対応の狙いを、改めてお話ください。
池田 直隆 氏 株式会社東京証券取引所 上場部企画グループ統括課長 |
池田氏
では、まず全体的な視点からお話します。この取組みのきっかけは、2022 年4月の東証の市場区分見直しです。当時は各市場に何社が所属するかといった点にフォーカスが当たりがちでしたが、真の狙いは単なる数字いじりではなく、上場会社各社の企業価値向上を促す環境づくりにありました。そこで市場区分の再編後、7月頃から経営者や投資家、学者などの有識者を招いた会議体を立ち上げ、市場区分見直しの実効性に向けた対応について議論を重ねてきました。有識者会議の開始当初、日本市場のどのあたりに課題があるかを議論するなかで特に注目したのが、資本収益性や投資家評価に関する指標であるPBR(株価純資産倍率)の状況です。当時のデータではプライム市場上場企業の約半数がPBR1倍未満、TOPIX 500の企業群でも4割程度ありました。しかし、アメリカのS&P500では5%に過ぎません。データを国際的に比較することで、資本収益性や資本コストを意識した経営の必要性が改めて浮き彫りになったわけです。
土屋
日本企業の多くは、株価がその一株当たりの純資産(簿価)を下回っていたわけですね。
池田氏
はい。そもそも上場している以上、株主の期待リターンや資本コストを意識した経営は、コーポレートガバナンス・コードでも強調されてきました。9割以上の企業がそのような原則にコンプライしていると表明していますが、PBRなどの実態をみると課題があることが明らかな状況であり、より取組みの実効性を高めていくことが、現在上場企業に求められている重要な課題だと考えられます。そこで、2023 年3月に、我々は資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応をお願いしました。具体的には、取締役会で資本コストや資本収益性、株価など、自社の立ち位置を把握したうえで、改善に向けた取組みを検討し、それらを投資家に開示し、実行するというサイクルを継続的に回していただくことをお願いしています。
土屋
ここまでの手応えはどう感じていらっしゃいますか。
池田氏
先ほど具体的な数字も出していただきましたが、市場区分によって差はあるものの、初動としては多くの企業が前向きに取り組んでいただいていると考えています。滑り出しは良好と言えますが、今後の課題は取組みの継続性です。企業がこの取組みを一過性のものとして終わらせず、継続的にブラッシュアップし続けていけるかどうかが重要なポイントになると考えています。
土屋
この取組みの背景には、海外投資家が日本市場を素通りしてしまう、いわゆる「ジャパン・パッシング」への強い危機感もあったのでしょうか。
池田氏
海外投資家の呼び込みは継続的なテーマの1つであり、2022年の市場区分見直しの大目的として、国内外の投資家にとって魅力的な市場の実現を掲げています。今回の取組みは直接的に海外投資家を意識したものではありませんが、企業価値向上に向けて積極的に取り組む企業が増えることで、市場としての魅力向上につながっていくことを期待しています。
土屋
投資家からは好意的な反応があるようですが、「今度こそ本当なのか」という声も聞かれると思います。この点についてはいかがですか。
池田氏
はい、そういった声はよく聞きます。特に長年日本株を見てきた投資家からは、過去の施策で十分な変化が見られなかった経験から、慎重な見方もあります。東証では、直近の1年間で、海外投資家を含め、300社以上の機関投資家とミーティングを行う機会を持ちました。そのなかで感じたのは、日本企業の変化に対する期待や関心の高まりです。それだけに継続的な改善の流れを作っていく必要があると考えています。
土屋 大輔 有限責任 あずさ監査法人 マネージング・ディレクター |
開示内容が投資家の期待や実際の取組みと乖離
土屋
流れを作ることに関して、少し問題提起的な質問をさせてください。金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」2から発行された「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」で、「企業の情報開示は充実してきている一方、開示している内容と実際の取組みの内容が乖離している」との指摘がありました。東証の市場区分見直しに関するフォローアップ会議でも、開示状況から実質面へのシフトが議論されています。現時点で、日本企業にどのような課題があると感じていらっしゃいますか。
池田氏
まず、企業が検討して開示することがスタートラインとしては重要です。その意味で、多くの企業に開示を始めていただいたことは大変良かったです。ただし、課題もあります。たとえば、開示はしたものの、内容が投資家の期待と乖離しているケースや、開示していても投資家とのコミュニケーションが十分に行えていないケースなどがあります。現在の企業の状況を大まかに分類すると、開示、取組みの実行、投資家との対話が自律的に回っている企業がある一方で、取組みの実効性の観点から改善が期待される企業もあります。開示状況から内容面の実効性に注目点が移るなか、積極的に取り組もうとするものの、課題を抱えている企業にどうアプローチしていくかが重要だと考えています。
土屋
投資家もその辺りを注視しているように感じます。現在、市場全体への期待から株価は上昇していますが、個別銘柄の本格的な選別はこれからだと思います。取組みが進んでいる企業と遅れている企業で、今後優勝劣敗がはっきりしてくる可能性があります。遅れている企業をどう支援していくかが重要な課題ですね。
池田氏
そのとおりです。投資家の期待に応えるためには、単に開示をすればよいということではなく、実効的な取組みなのか、それが実際に進むのかが肝となります。特に、開示はしているが、中身に関して投資家から見るとズレが生じてしまっている企業などに対して、マーケット全体でどうサポートできるかが今後の焦点になると考えています。
課題は事業売却も含めた事業ポートフォリオ見直し
土屋
KPMGが実施した調査3によると、東証対応において41%の企業が事業ポートフォリオマネジメントを課題だと答えています。コーポレートガバナンス・コードは、取締役会が決定した事業ポートフォリオに関する基本的な方針を、投資家との対話で説明するよう求めています。しかし、そのことはコンプライしているものの、実は方針自体がないという企業も決して少なくないということを日々の業務でも感じています。つまり、やや厳しい言い方ですが、コーポレートガバナンス・コードではコンプライと言ったものの、実質的にはコンプライできていない、最近の流行りの言葉で言えば「ウォッシュ」のようになっているのではないかと感じています。そうしたなか、日本企業の事業ポートフォリオマネジメントの課題をどのようにご覧になっていますか。
池田氏
その課題認識は我々も共有しています。昨年3月のお願い(いわゆる「東証対応」)の本質は、単にPBRやROICといった指標の改善ではなく、中長期的な収益性を高めるため、事業ポートフォリオの見直しを含む抜本的な取組みを検討していただくことにあります。言い換えると、経営資源の適切な配分を実現していくということであり、そのためには資本コストや資本収益性を十分に意識しつつ、持続的な成長につながる研究開発投資や人的資本への投資、設備投資とともに、事業ポートフォリオの見直しが必要となる場合があります。しかし、多くの日本企業が、伝統的に事業ポートフォリオの見直しには消極的であり、特に事業の売却や撤退には苦手意識があるように感じています。この点は投資家からも多く指摘があります。グローバルな競争力を高めるためには、この部分の改善が不可欠かもしれません。
土屋
確かに、日本企業は買収には積極的ですが、事業の売却には消極的な傾向がありますね。その背景には、資本コストの意識の低さがあるのではないでしょうか。資本コストを下回っている事業でも、なぜか継続している企業が多いように感じます。日本企業の資本コストに対する理解について、どのようにお考えですか。
池田氏
そこが大きな課題だと認識しています。多くの企業は資本コストを正しく計算することに重きを置きすぎてしまっていると思います。実際、説明会や講演会で企業の方から一番多くいただく質問が「資本コストはどう計算するべきか教えてください」というものです。間違ってはいけない、違うと言われたくない、だから正しい計算方法にこだわるというのは日本企業らしい特徴とも言えますが、投資家の期待に応えるためには、正しい計算方法以上に、認識している資本コストの水準が投資家と揃っているのか、実際の経営判断で資本コストを意識しているかということのほうが重要です。
土屋
多くの企業が技術的な側面に注目しすぎていて、本質的な議論ができていないということですね。
池田氏
はい、多くの投資家の方から指摘をいただくポイントです。取締役会での議論も、単に資本コストの計算方法ではなく、資本コストを踏まえて、どのくらいのリターンを上げることがステークホルダーの満足度につながるのかという観点で行っていただくことが重要です。大切なのは、資本コスト、すなわち株主の期待リターンを上回る収益を上げることであり、それを基準に事業の継続や売却を判断することだと思います。
土屋
資本コストを意識した経営が浸透しない背景には、経営者の意識の問題もあるのではないでしょうか。特に「ベストオーナー」という概念を嫌う経営者が多いと感じます。事業を手放すことがネガティブに捉えられる傾向が強いようですが、これについてはどうお考えですか。
池田氏
事業の売却が従業員や会社にとってネガティブな結果をもたらすと考える経営者が多いのは事実です。ただ、その事業をよりよく成長させられる企業に譲渡することで、従業員を含むステークホルダー全体の利益につながる可能性があります。この点を理解し、経営資源を適切に配分することが重要です。
重要なのはキャッシュフローアロケーションと自社の企業価値の把握
土屋
最近は、株主還元、特に自社株買いが増えていますが、これについてはどうお考えですか。ほかに優先するべき取組みはないのでしょうか。
池田氏
もちろん株主還元自体は否定するものではありませんが、優先順位があると思います。今回、我々がお願いしているのは、中長期の目線での「成長」ですので、目先の収益性や株価の向上策として、とりあえず自社株買いや増配などの株主還元を行うということではなく、まずは中長期的な収益性向上に向けて、設備投資や人的資本投資、R&Dなどの成長投資にキャッシュをどのように活用するかを検討していただきたいとお伝えしています。成長に向けた投資と株主還元のバランスを適切に取り、成長のための資金は確保したうえで、不要な現金は還元するという方針を明確にするということが考えられます。
土屋
KPMGの調査では約40% の企業がキャッシュフローアロケーションの方針を持っていないという結果が出ています。稼いだキャッシュをどう使うか決められず、結果的に投資に回せていないということです。これは投資や株主還元の判断にも影響を与えていると考えられますが、キャッシュの使い方について、もっと深く考える必要があるのではないでしょうか。
池田氏
そうですね。最近では方針を策定・開示する企業が増えてきている印象はありますが、多くの企業が具体的な方針を持っていないようにも見受けられます。なかには、全体方針がないにも関わらず、株主還元や配当性向の数字だけは決まっていて、企業全体のビジネス戦略と一致していないケースも見受けられます。課題は、成長投資と株主還元のバランスを適切に取るために検討していただくことです。
土屋
事業ポートフォリオ戦略の議論とも関連していますね。企業が自分たちの経営資源をどのように配分するかを明確にしないと、投資も進まず、キャッシュの使い方も決まらない。悪循環に陥っている可能性があります。
池田氏
おっしゃるとおりです。こうした課題をどのように企業に伝え、理解してもらうのが良いでしょうか。我々としては、ポイントや事例を共有していこうと考えていますが、土屋さんのように企業をサポートする立場から見て、何か効果的なアプローチはありますか。
土屋
私が最近意識しているのは、「自社の企業価値を把握していますか」という問いかけから始めることです。特に最近のM&A環境を考えると、自社の適正価値を把握することはきわめて重要です。それにより、買収提案の妥当性や自社の企業価値向上策の適切さを判断できるようになるためです。
池田氏
なるほど、そういった視点は企業にとって考えるきっかけになりますね。
土屋
はい。現在のように同意なき買収の可能性がある環境下では、自社の本源的価値を理解し、それを実現するための施策を講じることが重要になってきています。仮に買収を仕掛けられたときに、自分たちの株価の適正価格を把握していれば、買収提案者の価格の妥当性も判断できます。
自分たちの本源的価値はいくらなのか、それを実現するための施策に実際に取り組んでいるのか、施策を開示して投資家とコミュニケーションを取っているのか。これは東証が推進しているPDCAサイクルにも通じる考え方ですが、これによって企業価値は向上していくはずだと考えています。
池田氏
そのとおりですね。企業価値を正確に把握することは経営判断を行ううえでも必要ですね。そういった考え方を企業に感覚的に理解してもらえるような環境づくりが重要だと感じました。
土屋
はい。同意なき買収が起こりうるというのもありますが、不確実性が高い現在だからこそ、取締役会が自社の企業価値についてしっかりとした意見を持つことがきわめて重要になってきています。
池田氏
よくわかりました。こういった視点は、我々が企業とコミュニケーションを取るうえでも非常に参考になります。今後も企業の企業価値向上を支援するために、こういった観点を踏まえて取り組んでいきたいと思います。
CFO視点を持つ社外取締役の役割がますます重要に
土屋
最近、社外取締役が株主と対話する機会が増えていますね。しかし私たちの調査では、企業価値向上策に関する社外取締役のアカウンタビリティのレベルは、依然として不十分であると45%の企業が感じています。現状をご覧になって、取締役会が果たすべき本来の役割や、社外取締役が起点となるべきアクションは何だとお考えですか。
池田氏
社外取締役の役割としては、まず経営陣が進めている施策について、自身のスキルを活かして積極的に議論に参加することが基本だと考えています。投資家とのコミュニケーションという面では、企業の成長戦略などの説明は基本的に社長や経営陣が行うべきだと思いますが、社外取締役は株主利益の代表者という側面がありますので、投資家から求められれば、その施策に対する評価などを説明できるようにすることが大切なのではないでしょうか。
社外取締役も含めた取締役会全体でこの話を議論し、どのように投資家とコミュニケーションを取るかを検討することが重要ということです。また、一部の企業では社外取締役が投資家とのミーティングを実施するなどの取組みも見られます。こういった取組みはまだ少数ですが、今後増えていく傾向にあると感じています。社外取締役が投資家と直接対話することで、株主の目線をより深く理解することもできます。そして、その理解を取締役会での議論に活かすことができれば、全体として良い方向に進んでいくのではないでしょうか。
土屋
少数株主の代表者としての社外取締役の役割がより重要になってきそうですね。
池田氏
おっしゃるとおりです。社外取締役の数は過去10年ほどで大幅に増えましたが、これからは実質的にその機能を果たしていけるかが問われるフェーズになると思います。
土屋
投資家との対話という点では、投資家の言語を話せることも重要ですね。上場企業において、その役割を果たせるのはCFO ではないでしょうか。CFO の方々がもっと社外取締役として選任されれば、状況が変わるのではないかと個人的に思うのですが、いかがでしょうか。
池田氏
そうですね。重要なのは投資家の目線や考えを理解することですので、経営者の方でもいいと思います。ただ、単に特定の属性の人をテンプレート的に入れるのではなく、そういった経験を持つ人が求められる役割や機能とマッチしているかどうかが大切だと思います。
土屋
もちろん、すべての社外取締役をCFOにする必要はありませんが、1名くらいいてもいいのではないかと思っています。
池田氏
確かにそういった経験や視点を持つ人材が社外取締役として加わることで、より効果的な取締役会の運営や投資家との対話が可能になるかもしれません。
スタンダード市場の企業の課題は、成長戦略と投資家との 関係の構築
土屋
グロース市場についてはいかがでしょうか。東証としてグロース市場をどのように位置づけ、今後どうしていこうとお考えですか。
池田氏
グロース市場も本質的には投資家の期待に応えながら成長していくという点で、ほかの市場と変わりはありません。ただし、若い企業や収益基盤が確立していない企業が多いため、ROE やPBR といった指標でメッセージを伝えることが良いのかどうかということで、別出しで議論をしています。現状、日本のグロース市場はほかの市場と比べて株価も伸びておらず、IPOの規模も小さく、機関投資家の参加も少ないなどさまざまな課題が指摘されていますが、我々の課題意識としては、上場後により高い成長を実現していただけるような環境をどう作るかということです。
土屋
確かに、IPO で調達する金額も数億円程度と小さいケースが多いですよね。
池田氏
そうなんです。アメリカと比べると桁が2つ違います。さらに、IPO 後にエクイティファイナンスを行う企業も全体の1割程度しかありません。我々としては、IPO の規模の大小に関わらず、上場後にしっかりと成長できる環境づくりが重要だと考えています。
土屋
昔は「上場がゴール」という考え方もありましたが、今でもそういう意識はあるのでしょうか。
池田氏
残念ながら、今でもその意識は根強くあるようです。IPO に向けて多くのリソースを投入するあまり、実際の事業成長が止まってしまうケースも多くあります。M&Aや戦略的投資を控えるなど、成長機会を逃している可能性もあります。
土屋
確かに、クライアントでもそういった傾向を感じることがあります。
池田氏
そうですね。IPOを目的化するのではなく、あくまでもプロセスの1つとして捉え、そこから本番だというマインドセットを経営者の方々にどう持っていただくかが市場の課題です。また、IPO 後に、経営者の頑張りに伴走する人が必要だとも感じます。いずれにしても上場後も継続的にサポートする仕組みが必要ですね。
土屋
私たち伴走する立場の側も、そういった意識を持ってサポートしていく必要がありそうですね。
池田氏
おっしゃるとおりです。IPO のスケジュールに合わせるだけでなく、長期的な成長を見据えたサポートがますます重要になってくると思います。
日本企業の企業価値向上に向けた、東証の役割と今後の展望
土屋
最後に締めの言葉をいただければと思います。日本企業の企業価値向上に向けて、東証として今後どのように上場企業をサポートしていく予定でしょうか。
池田氏
取引所の役割は、基本的にプラットフォームを提供することです。上場企業が中長期的な企業価値向上に向けて積極的に取り組み、投資家がそれを適切に評価して投資する。この循環がうまく機能するマーケットを作ることが我々の使命です。資本コストの議論も含め、新しい市場区分の導入も、この循環を促進するためのものです。特に上場企業の皆さまには、これまで以上に株主・投資家の存在を意識していただくよう、さまざまな形でメッセージを発信しています。一方で、企業が努力して情報開示をしても、投資家側が自分たちの利益だけを考えて質問するケースもあるといった課題もあります。企業側から「投資家にもしっかり見てほしい」という声が出てきているのは、大きな変化だと感じています。我々としては、企業と投資家の双方に働きかけ、より良い対話と評価が行われるマーケットを目指しています。
土屋
なるほど。企業と投資家の両方に目を向けた取組みが重要なのですね。私たちアドバイザリー業務に携わる者としても、上場支援や監査はもちろんですが、企業価値向上の取組みを側面から支援していきたいと考えています。本日はありがとうございました。
インタビュー
あずさ監査法人
土屋 大輔/マネージング・ディレクター