2023年のディールトレンドにおけるKPMGの予想
- 大型合併は引き続き敬遠される傾向にあります。ファイザーのシージェン買収は業界最大級のディールですが、シナジー効果の大きい真の大型合併ではなく、プラットフォーム戦略に近いものです。2023年度中には同規模のディールは期待できないでしょう。
- 中小規模企業の完全買収件数は、過去数年を上回る見込みです。2023年末から2024年初めにかけて、小規模バイオテクノロジー企業の買収競争が活発化するためです。厳しい資本市場の影響で、これらの企業はバリュエーションの再検討を余儀なくされるでしょう。
- 2023年には大手バイオ医薬品企業の事業売却やライセンスアウト契約が増加すると予想されます。過去3年間の活発なディールにより、多くの企業が開発初期段階のパイプラインを保有していますが、それらを進めるための研究開発能力や資金に苦労しています。
- 米国連邦取引委員会(FTC)の積極的なM&A政策は業界に影響を与え続けますが、メタのウィズイン買収裁判でのFTC敗訴はバイオ医薬品業界にプラスの影響をもたらす可能性があります。今後注目すべき裁判は、アムジェンとホライゾン、イルミナとグレイル、ファイザーとシージェンのディールです。これらの訴訟結果が今後のディール市場に大きな影響を与えるでしょう。
- KPMGは、インフレ抑制法(IRA)の影響で、メディケア・パートDとパートBの高額治療に対する交渉基準があるため、低分子に焦点を絞るバイオテクノロジー企業のバリュエーションが下がると予測しています。
不確実要素により減速が進むが、改善が顕著となる分野あり
2022年第4四半期から2023年第1四半期にかけて、バイオ医薬品業界のディール市場は大幅に減速しました。主な原因は、ライセンス契約と共同研究開発の減少、資本・信用市場の引き締め、経済の不確実性、中小バイオテクノロジー企業のバリュエーション低下などです。
逆風:IRAの影響により特定のアセットのバリュエーションが困難に
IRAにより、製薬企業はM&Aターゲットの予測やバリュエーションを再検討する必要があります。特にメディケア・パートDおよびBに関連するパイプラインアセットが影響を受ける可能性があります。IRAの影響が明確になるまで、一部のディールの実施根拠を示すことが困難になっています。
逆風が追い風に?:プライベートファンディング市場
2023年は、金融機関からの資金調達が難しくなり、負債比率の高い取引や大規模取引の実施がさらに困難になるでしょう。また、中小規模のバイオテクノロジー企業は、主要パイプラインアセットの開発資金の調達が難しくなると予想されます。
逆風:積極性を増すFTC
過去2年間、KPMGはFTC活動の増加を予想してきました。2022年末から2023年にかけて、M&Aの競争性の精査が強化され、特にイルミナとグレイルのディールが厳しい精査を受けています。一方、ファイザーは2021年と2022年にほとんど精査を受けておらず、注目されるシージェン買収に対するFTCの審査結果が業界全体の関心事となっています。
バイオ医薬品企業は何を追い求めてきたのか
近年、腫瘍関連のディール活動が盛んですが、2022年には他の適応症のディールが増加しました。大・中規模の医薬品会社は依然として腫瘍関連アセットを求めていますが、競争激化により質の高いアセットの入手が困難になっています。
結論
- 2023年のディール市場は例年とは異なるスタートを切りました。全体的なディール件数は減少していますが、大型合併への意欲の欠如というトレンドは続いています。
- 製薬業界の大・中規模プレーヤーにとって、インオーガニックなパイプライン構築の必要性は依然重要であり、金融市場が不利でも一定のディールは続くでしょう。
- 小規模バイオテクノロジー企業は2023年と2024年に資金調達の問題でバリュエーションが下落する可能性がありますが、最高品質のアセットを持つ企業は競争により高いバリュエーションを維持すると予想されます。
- 医薬品業界では、特定のターゲットへの関心が低下しているとKPMGは考えています。例えば、自家細胞療法への関心が低下する一方、製造やサプライチェーンが比較的単純な革新的分野には関心が集まり、競争が激化するでしょう。
- 2023年以降、最も重要な問題はインフレ抑制法(IRA)です。RNAベースの治療薬は低分子治療薬とされ、価格交渉の影響を受けるため、買い手とターゲットがバリュエーションを巡って争い、一時的に動きが鈍化する可能性があります。
- 腫瘍学は依然として医薬品業界の注目分野ですが、前臨床やフェーズIの段階を検討しない限り、質の高いアセットを見つけるのは難しいでしょう。
- 企業はパイプラインのギャップを埋め、将来の収益成長を確保するために、ディールの対象を幅広い治療分野に拡大し続けるでしょう。
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