スタートアップはパッションとアイデアで世界に出る ―言語の壁は熱意で崩す

シリーズ3回目は、アカデミアの立場からスタートアップ創出に尽力する慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 満倉 靖恵 教授との対談です。

シリーズ3回目は、アカデミアの立場からスタートアップ創出に尽力する慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 満倉 靖恵 教授との対談です。

日本経済を支え、成長させていくために、スタートアップの力に期待が集まっています。2022年度に決定された「スタートアップ育成5か年計画」では、第一の柱として「スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築」が挙げられ、スタートアップを支える人材の獲得は喫緊の課題となっています。

スタートアップ×人材」シリーズは、官公庁、スタートアップ企業、アカデミアから有識者をお招きし、プロフェッショナル人材領域にフォーカスしてご意見を伺う短期集中連載です。シリーズ3回目は、アカデミアの立場からスタートアップ創出に尽力する慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 満倉 靖恵 教授との対談です。

1990年代後半以降に生まれたZ世代が20代を迎え、新しい価値観で社会を動かそうとしています。学科や学部、学校といったこれまでの枠を超えたつながり合いから、新しい研究やビジネスがどんどん形作られてきました。これからの社会を担うZ世代には、これまでと違うどんな特徴があるのか。彼らの力を伸ばし、日本を成長させていくために、どんな教育が必要か。教育の現場でZ世代に向き合う満倉靖恵 教授にお話を伺います。

Ⅰ.言葉の壁に負けないために「熱意をもって話す」勇気を持つ

阿部:

KPMGインターナショナルはテックイノベーターを発掘する目的で、KPMG Global Tech Innovator Competition(以下、「GTIC」という)というピッチイベントを主催しています。3回目となる2023年は、各国を代表する次世代を担うグローバルテックリーダー22社が参加しました。残念ながら、日本代表は入賞できませんでしたが、難解な技術を簡潔にピッチして健闘しました。

我々がGTICを主催している理由の1つは、日本のスタートアップに海外での経験を積んでほしいからです。彼らは日本のピッチで盛り上がり、それで終わりになってしまうことが多い。それでは海外に通用しません。たとえば、シリコンバレーにはいろいろな国籍の人間が集まり、関わり合って、アイデアがはじけていく。そういうふうになってもらいたいのです。ですから、私は若い人たちにはもっと海外に出て、プレゼンしたり、話してほしいと思っています。もっと言えば、「日本で資金が足りないのならば、海外で調達してくるように」と言いたい。

今後も、我々はこうした取組みを行っていくつもりでいますが、先生から何かアドバイスをいただけないでしょうか。

満倉:

日本のスタートアップが海外でプレゼンしないのは、おそらく英語力の問題からだと思います。言語の壁は大きいと思いますよ。

対談

慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授 満倉 靖恵 教授

阿部:

世界大会でピッチした日本のスタートアップの方は「全然わからない」と言っていました。英語がネイティブでも、アメリカの南部やドイツなまりの英語はわからないそうです。だから、彼は「3分間でピッチする時は熱意をもって話す」と言っていました。言語の壁は絶対にあるからと。先生はどうでしたか。

満倉:

そうだと思います。私も熱意だけでしゃべりますから。スタンフォード大学でも、普通に話すだけなら他の人と同じだなと思って、ものすごい熱意を込めてしゃべりました。そうしたら、スタンディングオベーションをもらったんです。その経験があるから自信がついて、いろいろなところに行ってみようという気持ちになりました。

でも、そういうことを日本人の多くは知らない。熱意でしゃべる大切さとか、伝わらなくても片言でもいいのだということを知らないから、失敗することを怖がってしまう。発音がネイティブでなくてもいいんです。ジャパニーズ英語でもいいから、とにかく伝えること。コミュニケーションを取ることが重要なんです。自信をもって話せば、ちゃんと伝わるものなのです。

「怖くない」ということがわかれば、おそらく海外のピッチに出る人も増えるのではないかと思います。そこで、私の研究室のゼミは英語で行っています。やはり、日本人が海外に行かない問題の根底にあるのは言語の壁だと思いますね。

阿部:

シンガポールにいる日本人のパートナーは、「日本のTOEICで900点を取ってる人の英語でも、外国人には通じない」と言っていました。「何を言っているんだ?」というのを何回か繰り返すと、「これを聞きたいのか」となって、それで会話になるのだそうです。

満倉:

それです。とにかくしゃべることが重要です。生まれたところが違えば、話す言葉は違いますから、発音は仕方ありません。日本人だって、海外の人が片言でも何を言おうとしているかを理解できるじゃないですか。それと同じです。

対談

Ⅱ.個人のエコシステムは、その人のパッションを中心に作られていく

阿部:

今は性能のいいAI翻訳機なども出ており、私も使ったことがあります。確かに便利なのですが、あまりにもそれに頼ってしまうと、英語で考える習慣がつかず、自信もつかなくなるような気がします。

満倉:

翻訳機はリアルタイムならばいいのですが、そうでなければ時間差が生じるので、お勧めできません。翻訳機の場合、日本語で話したあと、英語に翻訳されるまでに少し時間がかかりますよね。そのほんの少しの間がすごく重要なんです。熱意はその場の空気感が重要で、そのほんの少しのタイムラグで熱が冷める時があるからです。それよりも、下手でもいいからしゃべってくれたほうが、大事なことは伝わります。

阿部:

そうですよね。

満倉:

もう少ししたら、PCに向かって話すと、リアルタイムかつ自分の声で英語に変換してくれるシステムが完成するでしょう。このシステムで鍵になるのは、「自分の声」になることです。このようなシステムならば、英語が話せなくても、言いたいことがその熱意で伝わりますし、本人も怖くなくなるでしょう。そうしたら、国際会議にもどんどん行くようになり、日本の技術をもっと知ってもらえるようになります。これで世界がまた変わるかもしれません。

阿部:

今日のお話で最も印象に残ったのは先生の熱意です。やはりパッションがすべてを変えていくのでしょう。

満倉:

そう思います。一生懸命にやっている人を放っておく人はいませんから。

対談

阿部:

はい。太陽の重力が星を引き付けるように、そういう人のパッションがエコシステムを作り上げていくのでしょう。本日はありがとうございました。

連載「スタートアップ×人材」

「スタートアップ×人材」シリーズは、官公庁、スタートアップ企業、アカデミアから有識者をお招きし、プロフェッショナル人材領域にフォーカスしてご意見を伺う短期集中連載です。

インタビュアー

あずさ監査法人 企業成長支援本部 
阿部 博/パートナー

対談関与者

あずさ監査法人 企業成長支援本部 
佐藤 太基/パートナー
浜口 基周/テクニカル・ディレクター
須藤 章/マネジャー

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