求める人材採用には徹底分析と数が重要 スタートアップにとっての生命線となる「人材」をいかに惹きつけるか
シリーズ第2回目は、株式会社M&A総研ホールディングス取締役CFOの荻野 光 氏(あずさ監査法人OB)よりお話を伺います。
シリーズ第2回目は、株式会社M&A総研ホールディングス取締役CFOの荻野 光 氏(あずさ監査法人OB)よりお話を伺います。
少子高齢化が進行するにしたがい、日本の国内市場は縮小していくことが見込まれています。そこで、政府は新しい資本主義を実現するために「スタートアップ育成5か年計画」を決定しました。終戦直後の第1次ベンチャーブームが日本経済を復興させたように、第2次ベンチャーブームを起こすことで持続可能な経済社会を実現しようという壮大な挑戦です。その「スタートアップ育成5か年計画」 決定から1年、見えてきたのは「人材」という大きな壁でした。「スタートアップ×人材」 シリーズは、官公庁、スタートアップ企業、アカデミアから有識者をお招きし、プロフェッショナル人材領域にフォーカスしてご意見を伺う連載です。
シリーズ第2回目は、株式会社M&A総研ホールディングスより、取締役CFOの荻野 光 氏(あずさ監査法人OB)をお招きしました。株式会社M&A総研ホールディングスは2018年10月の創業からわずか3年9ヵ月で東証グロース市場に上場。その1年2ヵ月後には上場区分を変更し、東証プライム上場企業となりました。このスピード感を支えるものこそ、「多くの候補者との接点づくり」と「優秀な人のパフォーマンスを最大限発揮させる環境づくりの徹底」という人材戦略にあります。今回は、「スタートアップにおける人材採用」をテーマに、スタートアップだからこそ求める人材像、理想とする人材確保の難しさ、それを解決するためにどのようなメッセージを発信するかなどについてお話を伺いました。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。
Point
- スタートアップの強みは、スピード感とフレキシブルな対応にある。自社内で業務システムを構築することで、無駄な業務を効率化し、最大限にパフォーマンスを発揮できるような会社作りを常に考える。
- M&Aは信頼関係が重要になる仕事。M&Aアドバイザーに必要なのは「地頭の良さ」と、オーナーに好かれる「人柄の良さ」である。そうした人材を採用し育成する仕組みがある。
求める人材採用のため、KPIを 設定してより大きい母集団を形成する
小川:
スタートアップにとって優秀な人材の獲得は常に課題と言われています。御社では人材を獲得するためにどのような点を意識していらっしゃるのでしょうか。
荻野:
我々は人材紹介会社との接点を広く持っています。採用チームのメンバーは、採用におけるKPIを設定し、母集団形成を行っています。M&Aアドバイザーの採用に限らず、バックオフィスの採用も同じように行っています。
創業期は仕事のインフラが整っておらず、やらなければいけないことが多くて、私も会計士だということをほとんど忘れて仕事をしてきました。たとえば、パソコンが壊れたのでどうにかしてほしいなんていう連絡がくるくらいです。ですから、社内に何も無いのを当然と受け止めて、「無いものは自分たちで作るしかない」というマインドで仕事ができるかどうかを一番重視していました。仕事のポテンシャルというか、そういう泥くささみたいなマインドは絶対外せないポイントです。今はもうスタートアップと呼べる規模では無くなりましたが、採用において候補者の方が「どのようなマインドで仕事に取り組むか」というのはずっと重視しています。
中村:
創業期においては採用したいと思う人材は、どの程度の割合で採用できていたのでしょうか。
荻野:
採用したいと思う方は、ほとんど採用できていました。それは、明確なビジョンを伝え、上場の確度をしっかりと語っていたからでしょう。
Ⅱ.内製の業務システムで無駄な業務を効率化する
小川:
訴求ポイントに「やりたいと思っている仕事に注力できるようにする仕組み」とありますが、具体的にどのような仕組みなのでしょうか。
荻野:
無駄な業務を全部効率化して、やるべきことだけに集中できる環境を提供することです。そうした環境を実現するために、我々は業務システムを全部自社内で作っています。普段の業務で無駄だと感じることがあれば、社内のエンジニアと「ここをこういうふうにできたら効率化できます」というような話をして、日々システムをアップデートしています。これは創業当初からで、いかにシステムを使って自分たちの業務を効率化できるかを考えることが企業文化にもなっています。
中村:
開示資料を見ると、創業から1万回近くアップデートしているようですから、これはもう会社の強みと言えますね。
荻野:
こういったシステムがあることで同業他社との差別化においても優位性があります。特に今の若い世代はタイムパフォーマンスを意識している方が多いので、魅力に感じていただける方が多いと思います。
中村:
そういう積み上げでタイムパフォーマンスが上がり、それが人材の採用にも生きてくるのですね。
荻野:
社内のシステムの使いにくさや煩雑な決裁ルールなど、仕事のスピード感に不満を感じる人は、特に大企業に多いように思います。そこをフレキシブルにできるのがスタートアップならではの強みですから、そこは積極的に訴求しています。
小川:
決算資料などを拝見すると、データシフトを意識されていることが感じられます。データドリブンを実現するにはデータ入力が必要となりますが、社員は入力のわずらわしさを割り切っているのでしょうか。
荻野:
入力するのは、お客様とどういう話をしたかという日々の日報くらいです。その他の個人個人の営業活動状況や、顧客に対する営業活動のデータは自動で集計しています。営業や社内手続きなどは1つの業務システムで完結しているので、社内におけるすべての情報が自動的に集まるようになっています。
中村:
そういうことも採用の面接の時に説明するのでしょうか。
荻野:
はい、採用面接では、入社後に齟齬が生じないように、明確な説明を心がけています
Ⅲ.ビジネスの主軸であるM&A アドバイザーには、能力だけで なく人柄も重要
小川:
社員募集にはよく「未経験者大歓迎」とか「経験者優遇」などと書かれていますが、それはどの程度意識されているのでしょうか?
荻野:
最初は、どうしても経験者に頼らざるを得ませんでした。経理にしても、他の会社で経理部長を務めていたような方を採用していましたし、法務も弁護士を採用していました。今は未経験者を育成できる体制になったので、未経験者も採用しています。
小川:
M&Aのアドバイザーはどうでしょうか。未経験者も採用されているのでしょうか。
荻野:
M&Aアドバイザーも、創業直後は経験者を採っていました。人数が増えてくると、証券会社や銀行といった金融機関出身でM&A業務に携わったことが無い方や、不動産業界の方など、未経験者も採用するようになりました。
小川:
つまり、他業界でも新規開拓営業ができる人を採用されたということでしょうか。
荻野:
そうですね。「お客様をゼロから開拓していました」とか。ただ新規開拓の経験が無くても、入社されている方はたくさんいます。
小川:
今は未経験者も採用されているということですが、そのなかには新卒の方も含まれているのでしょうか。
荻野:
はい。その新卒も、非常に優秀で中途の人と同じレベルの方たちです。一握りですが、我々はそういう学生を見つけるようにしています。
小川:
それは地頭がいいとか、コミュニケーションスキルが高いということなのでしょうか。
荻野:
そうですね。特に、長期インターンで「社会人の先輩と一緒に営業したことがあります」みたいな方や体育会系の部活動をされていた方、学生団体などで何かしら役割を担っていた方などが結果的に多く残りました。共通しているのは、受け答えがしっかりしており、経営者に好かれるキャラクターであることです。我々のビジネスはオーナー社長にM&Aを提案し、伴走する人間として信頼していただくところから始まるので、人柄が重要です。
小川・中村:
本日はありがとうございました。