2023年6月29日、欧州連合(EU)において森林破壊防止規則(EU Deforestation Regulation 、以下、EUDR)が発効されました。これにより、2024年末以降の制度適用日より、EU圏内で牛、カカオ、コーヒー、アブラヤシ、ゴム、大豆、木材等を扱う事業者においては、そのサプライチェーンに係るデューデリジェンスを行う義務等が生じる可能性があります。
本稿では、EUDRの概要やEUDRが要請するデューデリジェンスプロセス、および今後の進捗スケジュールについて解説します。
目次
1.森林破壊防止規則(EUDR)の概要
「森林破壊デューデリジェンス」の実施を企業に義務付けるEUDRの制度適用開始日が近づいています(2024年4月15日執筆現在)。
本規則は、2023年4月にEU議会で採択後、同年5月にEU理事会にて採択されており、EU域内へ市場投入、供給またはEU域内から輸出する規制対象品目について、その生産農地が森林破壊により生産されていないことの確認(「森林破壊デューデリジェンス」)を企業に義務付けるものとなります。大企業は2024年12月30日、中小企業は2025年6月30日から当該義務の適用を受けます。
EUDRにおける規制対象品目は、牛、カカオ、コーヒー、アブラヤシ、ゴム、大豆、木材およびこれらに由来する関連製品で、国内において2025年4月に施行予定のクリーンウッド法が木材やパルプ等を対象としているのに比べ、より多くの品目が対象となっています。また、違反時には、EU域内の年間総売上額の4%以上の罰金などが科される見込みであり、クリーンウッド法の最大100万円の罰金と比しても高額な罰則となっています。
2.森林破壊防止規則(EUDR)の適用範囲
【EUDRの影響を受ける主な業界例】
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なお、EUDRの規制対象品目には関連製品も含まれるため、上記以外の業界においても、自社製品が規制対象品目でないか注意する必要があります。
3.森林破壊防止規則(EUDR)の要請事項(デューデリジェンス)
(1) | 情報・データ・文書の収集 |
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(2) | リスクアセスメントの実施 |
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(3) | リスク低減策の実施 |
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ただし、例外規定として、一部の手続を簡素化したデューデリジェンスが認められる場合もあります。
規制対象品目の生産国が、今後定められる下位規則により「低リスク」とされた国または地域であった場合は、デューデリジェンス手続きのうち(2)リスクアセスメントの実施および(3)リスク低減策の実施の実施が要求されず、(1)情報・データ・文書の収集のみ要求されることとなります。
この国別のベンチマークシステムは、国または地域を、森林破壊フリーでない規制対象品目を生産するリスクに応じて、「高リスク」「標準リスク」「低リスク」の3段階で分類したものです。分類は、欧州委員会が行い、主な評価基準は、森林破壊および森林劣化の割合/規制対象品目のための農地の拡大率/規制対象品目の生産動向、などとされています。なお、2024年6月29日時点では、すべての国または地域が「標準リスク」とされ、2024年12月30日までに、「高リスク」および「低リスク」の国または地域のリストが公表される予定です。
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違反した際には、法定される上記罰則の他にも、EU市場へのアクセス権の喪失やブランドイメージの毀損等も生じ、企業への影響は少なくないものと想定されます。
6.まとめ
EUDRは、企業に対し、自社にとどまらないサプライチェーン全体を通じた対応を求める新規の要請事項も少なくなく、違反時の罰則も強化されています。加えて、適用までの時間は多くは残されていません。
しかし、EUDRはサプライチェーンを通じて森林減少、GHG排出、生物多様性の損失を最小化するための重要な規制の1つであり、これに適応することは、単に規制の遵守を超え、企業の社会的責任と環境への配慮を示す機会ともなります。適切な対応を通じてグローバルでの持続可能なビジネスモデルへと移行を図ることが、未来に向けた投資にもなります。
KPMGは、豊富な実績を通じて培ったノウハウや、グローバルネットワークを活用した対応方針の策定やリスクと機会の分析、戦略策定・目標の設定等、サステナブルサプライチェーンの実現に向けたさまざまな支援を行っています。お気軽にお問い合わせください。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 荒尾 宗明
マネジャー 外川 元太
コンサルタント 冨田 響一朗
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