KPMGジャパンは、2022年12月~2023年3月にかけて国内の上場企業のCFOを対象にCFO機能についての調査を実施、「KPMGジャパン CFOサーベイ2023」(以下、「本サーベイ」という)を発行しました。2019年の開始以来4回目となる本サーベイは、外部環境が大きく変化するなか、CFO機能に関する現状の課題について幅広く把握することを目的とし、CFOの役割の変化、経理人材、CFO機能の高度化やオペレーションの効率化、事業ポートフォリオマネジメントやリスクマネジメントなど多岐にわたるテーマについて302社のCFOから回答をいただきました。

本稿では、全回答とテクノロジーセクター企業の回答とを比較することで、多くのテクノロジーセクター企業が直面している状況とその背景について考察を行いました。また、サーベイにおいて、テクノロジーセクターは「エレクトロニクス」、「ソフトウエア」、「システムサービス」の3つのサブセクターから構成されていましたが、回答分析では、セクターとしての類似性を考慮し、「エレクトロニクス」と、「ソフトウエア」と「システムサービス」とを合算した「ITサービス」の2つのサブセクターを設定しました。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

POINT 1テクノロジー業界のCFOの役割は、他の産業のCFOの役割よりも幅広い

「KPMGジャパン CFOサーベイ2023」の調査結果から、テクノロジー業界のCFOの役割は、CFOの役割として広く認識されている財務戦略やコーポレート戦略だけでなく、リスクマネジメントや内部統制・監査、IT戦略・システム企画業務までも担っていることが明らかとなった。

POINT 2DXを成功させるには、DXを推進するリーダーと専門組織が必要

テクノロジー業界では、DX導入は一段落しているが、その効果にはばらつきが見られる。企業が競争力をもってDXを推進していくためには、DX推進リーダーの直下にDX推進の専門組織を設置して、経営戦略と整合性のとれたDX戦略を策定・実行する。

POINT 3XaaS化への対応

今後、あらゆる製品・サービスがXaaS化していくと見られている。テクノロジー業界のビジネスモデルも、製品売り・カスタマイズソリューション売りからSaaSモデルへとシフトしていくと思われる。データ利活用やデータビジネス展開のために、今からデータ収集と分析、利活用するための基盤整備などに取り組む必要がある。

I 主な調査結果

1.CFOの役割

「CFOの管掌業務範囲」は、従来からCFOの役割として広く認識されている「財務戦略」、「コーポレート戦略」、「予算管理」、「IR」の役割においては、全セクター同様、エレクトロニクス・ITサービスサブセクターともに高い比率でCFOが担っていることが確認されました。それだけでなく、エレクトロニクス・ITサービスサブセクターともに全セクターよりも高い比率で、「リスクマネジメント」、「内部統制」、「内部監査」、「IT戦略・システム企画業務」までをも担っていることが判明しました(図表1参照)。

【図表1:CFOの管掌業務範囲】

CFOサーベイ2023_図表1

出所:「KPMGジャパン CFOサーベイ2023」を参考に作成

「リスクマネジメント」、「内部統制」、「内部監査」については、財務業務と関連のある周辺領域への担当領域拡大の流れによるもの、「IT戦略・システム企画業務」については、特に日本企業はシステムやツール開発にあたっての要件をユーザー部門が出す(システム部門はその取りまとめ、および開発ベンダーとの窓口を担当)ことが多い業務慣行によるものと推察されます。

しかしながら、これらは今後は次のようになっていくものと思われます。まず、「リスクマネジメント」は高度化していくでしょう。特に、ESGやSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)などの非財務領域への対応と高度化が求められると予測されます。
「内部統制」と「内部監査」についても、前述した「リスクマネジメント」と併せて「内部統制」が相互に関連し、その実効性を「内部監査・モニタリング」が維持・検証することにより、「ガバナンス」を支えるという意味で、他セクターよりガバナンスの重要性を認識していることがうかがえます。

「IT戦略・システム企画業務」も、アジャイル開発の浸透、検討の手戻り防止の観点から、ユーザー部門への要件の聞取りは行うものの、不慣れなユーザー部門に業務要件定義の責任を担わせるのではなく、経営企画部門やシステム企画部門(またはその意向を受けたベンダー等)が要件化を行い、定義書を記述するような役割分担が進むと見ています。さらには、クラウド利用の促進と、その結果としてクラウドに業務をあわせるFit to Standardが進めば、要件定義の在り方そのものが根本的に変わる可能性があります。

2.経理人材の確保と次世代CFO育成

「人材確保のための取組み」では、全セクターとエレクトロニクスサブセクターの傾向はおおむね一致しましたが、ITサービスサブセクターとは異なる傾向が見られました。特に顕著な差異が見られたのは、「人材育成視点を含めた人事ローテーション」と「ジョブ型雇用による専門人材の確保」です。

「人材育成視点を含めた人事ローテーション」において、全セクターとエレクトロニクスサブセクターでは7割を超えましたが、ITサービスサブセクターでは47%(全体比▲26%)でした。伝統的な大企業が多いエレクトロニクスサブセクターでは、従来から見られるジョブローテーション型の人事が続いており、それが有用と評価されていることの証左と言えます。

一方、「ジョブ型雇用による専門人材の確保」は、ITサービスサブセクターが40%と、他のセクターの倍以上となりました。ITサービス業は相対的に新しい企業が多く、特にバックオフィス部門ではスペシャリスト採用が進んでいる結果であると考えられます。

3.CFO機能の高度化

「経理財務部門の業務高度化」で優先順位が高くなったのは、3セクターとも「中期的な成長、中期経営計画の策定に対するさらなる貢献」と「業績管理の精度・スピードの向上」でした。

ただし、ここでの「業績管理」はあくまでも「管理の精度・スピード」であり、業績予測ではありません。それを裏付けるように、「業績予測の精度向上」へのニーズは、「業績管理の精度・スピードの向上」よりも、全セクターで19ポイント、エレクトロニクスサブセクターで36ポイント、ITサービスサブセクターで47ポイントも低くなりました。これは、多くの会社でCFOの守備範囲はあくまでも「業績管理」であり、「業績予測」は経営企画部門など他の部門のミッションとなっていることが推測されます。

また、ITサービスサブセクターでは、「事業部門に対するインサイトの提供」が47%と、他のセクターよりも20ポイント以上も高くなり、高度化ニーズが高いことも判明しました。製品やサービスのクラウド化やサブスク化が進み、リカーリングモデルなど新たなサービスや課金形態の出現は、収益認識などの会計処理にも大きな影響を与えます。会計まわりの方針決定にリードタイムを要し、スピーディーな新サービスのローンチにネガティブな影響を与えることは好ましくありません。このような事態への備えとして、たとえば新しい製品・サービスの検討に際しては、早い段階から財務経理部門とも連携をとるような動きも見られています。

一方、「経理財務部門の業務高度化の障害」については、エレクトロニクスサブセクターとITサービスサブセクターとで異なる結果となりました。エレクトロニクスサブセクターでは、経理財務部門のミッションが明確に定められているものの、高度化対応のためのリソース捻出や推進人材の確保に苦労をしている状況にあることが明らかになりました。

他方、ITサービスサブセクターは、「組織の壁、サイロ化した組織」が他のセクターよりも約10ポイントも低い13%となり、風通しの良さが伺えます。また、「テクノロジーの活用が進まない」(7%)も他のセクターの約半分となり、活用が進んでいることが推測されます。しかし、「現状業務の負荷が高く、業務効率化を優先しないとリソースを捻出できない」が67%、「高度化を推進できる人材が不足」が47%、「システムから得られるデータが限られている」が33%と、高度化対応のためのリソース捻出に課題があることが浮き彫りとなりました。業務の高度化に、既存のシステム・ツールが追いついていない可能性が懸念されます(図表2参照)。

【図表2:経理財務部門の業務高度化の障害】

CFOサーベイ2023_図表2

出所:「KPMGジャパン CFOサーベイ2023」を参考に作成

4.経理財務のオペレーションの効率化とDX(デジタルトランスフォーメーション)

「経理財務部門のDX化」についても、エレクトロニクスサブセクターとITサービスサブセクターとでは大きな違いが見られました。

エレクトロニクスサブセクターでは、「基幹システム・ERPのリプレイスや導入」(71%)、「RPAなどを活用した自動化・デジタル化の推進」(65%)、「経費精算・ワークフロー・請求書など個別機能のITツール導入」(94%)、「電子帳票保存法の対応、ペーパレス化」(88%)が高く、これら事項への高い取組み意向がみてとれます。

それに対して、ITサービスサブセクターでは、「基幹システム・ERPのリプレイスや導入」(33%)、「RPAなどを活用した自動化・デジタル化の推進」(20%)が低くなったことから、すでに対応を終わらせていると推測されます。

このようなDXを担う人材の調達・受入れの方法として、「DX人材の確保・育成」では「既存メンバーのリスキリング」が、エレクトロニクスサブセクターでは59%、ITサービスサブセクターでは40%と、ともにトップとなりました。一方で、ITサービスサブセクターでは、「DX人材の外部採用」(27%)がエレクトロニクスサブセクター(6%)の約4倍となり、人材確保には外部調達も取り入れていることが明らかとなりました。この結果は、業界の人材の流動化の度合いを示す指標として捉えることができ、興味深いと言えます。

5.SX(サステナビリティトランスフォーメーション)

「SX実現のための長期的な経営課題を特定できているか」との問いに対しては、エレクトロニクス・ITサービスサブセクターともに、半数以上が「特定している最中・特定を検討している」、もしくは「特定できていない」という回答でした。

大手企業を中心にESGやSXを担う専門部署の設置は進んでいるものの、社内に専門家も少なく、多くは企画やリスクマネジメント系の部署からの異動や兼務で担っており、業務で必要なスキル・ケイパビリティの醸成からスタートしている状況にあると思われます。また、多くの課題や取組みアジェンダが洗い出されるものの、それらの解決に向けたオプション出しや評価、優先順位付けなどには苦慮されているとの声もよく耳にします。

一方、「SXの実現に向けた事業ポートフォリオの変革」に関しては、エレクトロニクスサブセクターの回答者は過半数が「必要」と回答し、変革の内容として「インオーガニック成長(M&A)によるコア事業の強化」(82%)に高い取組み意向を示しました。また、「ノンコア事業の縮小・撤退」(55%)が全セクター(32%)よりも2ポイント以上も高くなり、コア事業の強化にも高い意向が示されました。コングロマリット化したエレクトロニクスサブセクターは、事業の選択と集中、ノンコア事業の縮小・撤退で得た資金を、新たな成長領域に振り向ける構造改革の必要性が根強くあることが伺えます。

6.グループガバナンス・海外地域統括会社

「経理財務部門におけるグループガバナンスの強化」では、強化するにあたり取り組むべき課題について、エレクトロニクス・ITサービスサブセクターともに、「事業部門に対する牽制機能の強化」と「本社のモニタリング体制の強化」に高い意向が示されました(図表3参照)。これは、リスク・コンプライアンスへの一層の準拠を求める世の中の動きとも整合します。

【図表3:経理財務部門におけるグループガバナンスの強化】

CFOサーベイ2023_図表3

出所:「KPMGジャパン CFOサーベイ2023」を参考に作成

また、前述したCFOの管掌業務領域の広がりと併せて勘案した際に、グループガバナンスは経理財務領域のみだけではないため、経理財務部門以外のコーポレート本部のモニタリングやその連携、独立部門である内部監査部門による監査の拡充がより一層進む可能性があります。

7.リスクマネジメント

企業価値に重要な影響があるリスクとして、エレクトロニクスサブセクターでは「地政学リスク」が最も高くなり、次いで「サプライチェーン分断」、「為替・金利変動」が続きました。一方、ITサービスサブセクターでは、全回答企業が「人材確保」をあげました。

この結果は、企業規模やビジネスモデルの違いによるものの可能性がありますが、特にエレクトロニクスサブセクターでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による地政学リスクとサプライチェーン分断の顕在化をうけ、過度な中国依存を適正化する動きの影響によるものとも推測されます。

国を跨いだ最適な生産拠点網・サプライチェーン構築のためには、調達・生産・物流効率のみならず、各種規制や税制(特に移転価格税制)などの検討も行う必要があります。生産・サプライチェーンの再構築までは行わない場合でも、感染症や地政学的なリスクの顕在化など、自然災害以外の事由で人やモノの移動が制約を受けた場合の影響分析とBCP(事業継続計画)プランの検討は必要です。

8.人的資本経営とCFOの役割

「CFOによる人的資本の向上・可視化に関与」は、全セクターが60%だったのに対し、エレクトロニクス・ITサービスサブセクターではいずれも80%以上と、高い比率での取組みが見られました。しかしながら、その大半が「部分的な関与」であることから、内容や程度にばらつきがある可能性がある点は留意が必要です。

「人的資本可視化指針」の「人材育成に関連する開示事項(例)」のうち企業価値と相関が高い項目として「リーダーシップの育成」が、エレクトロニクスサブセクターでは83%、ITサービスサブセクターでは73%となりました。なお、次点は「人材確保・定着の取組みの説明」となりました。

リーダーシップ研修は、ともすると単なる精神論で終わってしまう可能性もあります。実効性のあるリーダーシップ育成のためには、求められるリーダーシップの具体化や要素分解、これら要素を体得して具現化するための方法などのコンテンツ作成が鍵となります。

II テクノロジー業界における新たなトランスフォーメーション

1.DX化のさらなる推進

DX化の取組みは、今は導入が一段落したフェーズにあります。ただし、導入効果については、ばらつきがあるように見受けられます。特に、バックオフィスにおけるDX化の取組みにおいては、DXツールなどの導入前に、現状業務を棚卸して集中化し、より大きな業務母数に対する効率化の実現手段としてDX化を推進したケースでは期待どおりか、それ以上の効率化を実現できているようです。一方で、個々の担当者が担っていた業務の一部を部分的にDXツールなどに置き換えるケースでは、効率化は限定的なものにとどまっているようです(図表4参照)。

【図表4:経理財務部門の業務効率化の取組み】

CFOサーベイ2023_図表4

出所:「KPMGジャパン CFOサーベイ2023」を参考に作成

企業には、スピーディーかつ抜本的なDXがこれまで以上に求められていますが、思うように進まないケースも多く見受けられます。その主な要因は、経営戦略に即した具体的なデジタル戦略が策定されていないこと、全社デジタル戦略を推進するCIO・CDOなどが不在であること、そしてDXを推進するリーダーの役割やKPIが定義されていないことなどがあげられます。

企業が競争力をもってDXを推進していくためには、DX推進リーダーであるCIO、CDO、CDXOなどの直下に、DX推進の専門組織である「DXMO」を設置し、経営戦略と整合性のとれたDX戦略を策定し、実行することです。加えて、デジタル化推進に向けた人材像の定義とタレントの確保、デジタルを用いたプロセスの構築、新たなビジネスモデルの策定、ナレッジの収集と共有などを強力に推進することも一案です

2.XaaS化への対応

今後、あらゆる製品・サービスがXaaS化していくと見られます。それによりテクノロジーセクター企業のビジネスモデルは、製品売り・カスタマイズソリューション売りからSaaSモデルへとシフトしていくことになるでしょう。SaaSモデル化にあたっては、主に以下の対応が求められます。

  • 製品・サービスの契約や価格(マージン管理を含む)のバリエーション増大に対応した管理体制構築
  • 課金モデルのサブスク(定期課金)化
    ・売切りではなく、継続的なリレーション構築と維持(そのための営業体制構築)
  • 収益認識タイミング、投資回収試算モデルの変更
  • クラウドプラットフォーム上からのデータ取得、利活用の検討

特に、データ利活用やデータビジネス展開への支援は重要な要素です。プラットフォームからのデータ収集(静的・動的/属性・トランザクションなど)と分析、利活用の基盤整備と提供など、データ分析の代行と集中化をいかに行うかが、ビジネスを成功させるためには重要となるでしょう。そのためには、取引先DB、エンドユーザーDBの構築・提供、およびその前提となるIDやマスターの統一などもあわせて取り組む必要があります。

また、ミドル・バックはグループ共通基盤上で処理を行い、フロントビジネスは共有基盤上のアプリの1つとして位置付けることで、XaaS化への対応とともに、ビジネスの立上げ・撤退などが迅速かつスムーズに行えるようになります。

※出典:『DXMO-デジタル化を推進する専門組織』(KPMGコンサルティング株式会社著、2022年、朝日新聞出版)

執筆者

KPMGジャパン
テクノロジー・メディア・通信セクター
アソシエイトパートナー テクノロジーセクター統轄リーダー 和田 智