データ分析が導く経理ガバナンス強化の現実解

経理ガバナンス強化にスポットを当て、昨今ますます重要性が高まっているデータを活用した分析業務態勢の構築に向けたポイントについて解説します。

経理ガバナンス強化にスポットを当て、昨今ますます重要性が高まっているデータを活用した分析業務態勢の構築に向けたポイントについて解説します。

近い将来、経理には、記帳や集計、決算書作成などの作業を効率化し、企業価値向上と毀損防止をサポートする組織となることが期待されています。それに向けて、業務・プロセス・データなどの基盤を構築し、デジタルリテラシーを備えた経理人材を育成しながら、組織能力を高める取組みが「経理DX」です。多くの企業が経理DXを目指してデジタル化や業務の標準化、自動化を進めており、最近では経理ガバナンス強化に関する意識も高まってきています。

本稿では、経理ガバナンス強化にスポットを当て、昨今ますます重要性が高まっているデータを活用した分析業務態勢の構築に向けたポイントについて解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

POINT 1
会計データを活用したガバナンス強化に向けて解決すべき課題

グループ各社の実態をいち早く把握して対応するという観点では、会計データを活用した経理ガバナンス強化が有効である。それに向けては、会計データ生成過程の整備と誤謬・不正の予防・発見の仕組み構築が課題である。

POINT 2
経理ガバナンス強化に必要な標準データを定義し、利用可能な状態とする

理想は、グループ全体で経理業務を標準化し、統合された基幹・会計システム上に展開することである。一方で、データそのものにフォーカスして均質化し、分析業務を行なうことでガバナンス強化を図る方法もある。いずれもデータの品質向上と活用がカギとなる。

POINT 3
親会社を中心としたデータ分析業務を経理プロセスに組み込む

決算品質向上のため、データによる客観的・網羅的・効率的な分析と、経理人材による高度な判断を組み合わせた分析業務プロセスを構築すべきである。分析業務の運用を通じてノウハウを蓄積し、経理部門の組織能力の向上を図ることが重要である。

I.会計データを活用した経理ガバナンス強化の課題

経理ガバナンスの目的は、決算を適時・正確に行ない、経営に有用な情報を提供することです。そして、グローバル企業における親会社経理部は、グループ横断的に統制権限を持っており、グループ全体の経理ガバナンスを向上させる重要なミッションがあります。

一般的には「人・組織・権限」によるガバナンスや資金管理ポリシーなどの財務的なガバナンスが考えられますが、グループ各社の実態をいち早く把握して対応するという観点では、会計データを活用した経理ガバナンス強化が有効です。それには、会計データの生成過程を整備するとともに、誤謬・不正の予防と発見の仕組みを組み込み、会計データの透明性・信頼性を確保することが重要です。しかしながら、実際にこれを実施しようとするとさまざまな課題に直面します。

1.システムとデータがばらばら

欧米のグローバル企業に比べて、日本企業はグループ各社に一定の自治を認める考え方が強く、会計システムにもその影響が表れています。典型的なのはグループ各社で利用する会計システムが異なっていることや、個社最適の視点で構築された業務・システムなどです。グループ各社で各社各様の経理処理プロセスや統制が整備されていたのでは、経理業務の品質に差異が生じる要因となります。また、親会社およびグループ各社において、決算データの基礎をなす勘定科目や取引先などのマスタが統合されておらず、同じ意味のデータであっても、システムによって異なる定義・管理がなされるケースも多く見られます。つまり、業務・システムの作り方として「機能ドリブン」となっており、「データドリブン」の視点が薄いのです。データの均質性の欠如は、グループ全体で保持するデータを十分に利用することができない最大の原因と考えられます。

2.余力がなく分析能力が向上しない

多くの企業では経理部門のスリム化が進み、日々の経理処理や決算業務をぎりぎりで回せる少数精鋭体制となっていることもめずらしくありません。親会社では、タイトなスケジュールで連結決算業務を行なっており、異常兆候を分析するための多面的なデータ集計や、深掘りのための仕訳・取引明細などの追加的なデータ入手と理解、グループ各社への事実確認にかけられる時間は限られています。こうした状況では、ベテラン経理人材の経験に頼った分析とならざるを得ず、そこに業務が集中し、ますますの逼迫状況と業務の属人化を生むことになります。さらには、ベテラン経理人材が保有する知識・経験の若手への伝達・育成といった、組織としての能力向上に時間を割けないという負のスパイラルへと陥っているかもしれません。特定の経理人材に依存したオペレーションは、経理部門の逼迫を生むだけでなく、これまでに培った経験を組織知として活用できず、グループ各社のビジネス実態にまで踏み込んだ分析ができない原因になっていると考えられます。

II.経理ガバナンスの理想像と現実解

1.統合された業務・システム

理想は、会計方針を含む業務ポリシー、勘定科目・取引先などのコード、記録および分析に関する業務ルール・プロセスが標準化され、それらがグループレベルで統合された基幹業務システム・会計システム上に展開された状態にあることです。理想とする環境下では、事業活動で生じる取引から生成されるデータは、標準プロセスに基づく手順・判断によりグループ全体で均質性が確保されます。結果として、グループ各社の決算書レベル、勘定・仕訳レベルのみならず、必要に応じて取引明細レベルまでの実態把握が親会社の経理部門において可能となります。この状態であれば、会計データの誤りや不正が起こりづらく、発生してしまった場合でも調査・対応を迅速に行うことができるでしょう。

さらには、データ生成・分析の自動化や高速化が進むことにより、将来的にはリアルタイムにグループ全体の会計への影響を可視化するとともに、想定するシナリオに応じてシミュレーションする機能性を備えることもできるようになるでしょう。これらの実現に向けては、グループ各社の業務処理で生成されるデータが、経理ガバナンスやグループ経理管理を目的とした分析業務でどのように活用されるかをデータドリブンの観点で思考することが求められます。

そして、グループレベルのポリシー・ルールなどを整合性の取れた形で作成し、全拠点の業務プロセス・システムとして整備します。これは、全社での利用を想定した標準業務モデルの策定をはじめ、業務構築・展開に多大な作業を伴う社内外のリソースが必要になることから、取組みの難易度は高くなりがちで、実現までには相応の時間を要すると考えられます。

2.目的に合致するデータの入手にフォーカスしたガバナンス強化

一方で、経理ガバナンスやグループ経営管理の強化という目的に合致するデータ収集とその分析にフォーカスすることも代替案として考えられます。グループ全体の業務・システムを標準化するのではなく、重要性の高いデータにフォーカスして標準を定義し品質向上させることで、より短期間かつリソース消費を抑えて経理ガバナンスの強化をねらうのです。

親会社の経理部門によるグループ全体の分析業務の実施には、最低限、グループを横串で管理するための勘定科目、事業セグメント、組織、サービス分類、商品などに関する項目およびコードを標準として定義することが求められます。また、データ品質を確保するためには、必要な範囲でその精度・鮮度・粒度を整える必要があります。たとえば、勘定・仕訳とその基となる取引明細の数値の整合性をチェックしたり、グループ各社から収集するデータを同質とするための抽出条件・基準日を設定したりなどです。そのためには、グループ各社には、それらのデータを提出することを前提として、ローカルシステムやデータ収集ツールに既述の項目を追加するなどの改修を実施させる必要があります。もしくは、グループ各社から親会社へのデータ転送時に、共通的なチェック・コード変換を掛ける仕組みを構築してもいいでしょう。個社最適の観点で設計された業務プロセス・システムには必要以上に手を加えず、親会社の経理部門では、ビジネス動向やグループ各社の事業特性・リスクを踏まえ、グループ横串の分析を実現するデータ利用に注力することで、経理ガバナンス強化を実現することができます。このように、企業が置かれた状況や考え方により、経理ガバナンス強化の実現にもさまざまな方法があります。いずれの方法を選択するにせよ、データ活用を念頭に置き、グループ全体を対象としてデータの均質化を図り、利用可能な状態を作ることが重要です。

以降では、経理ガバナンス強化の実現方法の1つである、親会社を中心としたデータ分析業務の構築・運用に係るポイントについて解説します。

III.親会社を中心とした分析業務

決算品質向上を目的として、分析手続きによる異常兆候検知と調査・是正のプロセスを親会社の経理部門の決算業務のなかに組み込むことが考えられます。グループ各社の財務三票・勘定残高を用いた横並びでの俯瞰的な分析や連結仕訳計上時の抜け漏れ・誤りのチェックなどを、タイトな決算スケジュールかつ限られた経理体制でも実施できるよう、データとツールを用いて効率的に実施する体制を整えます。

数百に及ぶ子会社データや膨大な仕訳明細から着眼すべき異常兆候を浮かび上がらせるプロセスは機械に任せ、経理人材は事業環境やこれまでの経緯などの個別事情を踏まえた実態調査と是正判断の役割を担います。こうすることで、親会社ではデータに基づく客観的・網羅的な分析と人による高度な判断に基づく分析により、決算品質を向上させることができます。また、分析業務を通じて、経理人材へのノウハウ蓄積と共有も期待できます。さらには、分析業務を通じて親会社とグループ各社とのコミュニケーションが活発化することで、親会社では従来は見えていなかった子会社実態の理解が進みますし、グループ各社では親会社から見られているという牽制が働きます。それによって、グループとして良い緊張感を持った関係性を確立することも可能となります。経理ガバナンスの一例として、親会社の経理部門による分析業務について述べてきましたが、その在り方は一様ではありません。グローバルな経理ガバナンスを実現するために親会社と統括拠点が協同する場合や、経理部門と内部監査部門とで役割分担する場合なども考えられます。また、分析手法も目的やタイミング、入手可能なデータなどによって変わってきます。以降では、親会社を中心とした分析業務の構築・運用の進め方に係るポイントについて解説します(図表1参照)。

図表1 分析業務の流れ

データ分析が導く経理ガバナンス強化の現実解-1

1.分析業務方針の策定

分析業務のテーマ、対象範囲、実施主体、分析方法などの基本方針を策定し、実行計画を立案します。決算書レベルの全般的な分析や特定勘定に係るリスク、特定事業に係るモニタリングなどのテーマと適用対象先を決めるとともに、必要データの入手可能性、分析手法の検討を通じた実現性〔必要に応じPoC(Proof of Concept)〕などを確認します。

2.分析業務プロセスの構築

分析テーマごとの想定リスク、異常兆候を検知するための分析シナリオ・基準、異常判定で確認すべきポイントなど、標準手続きを具体化します。また、分析業務を効率的に行なうため、データ収集、分析処理、可視化処理の定型部分について、ツールを用いて極力自動化します。

  • データ収集:元データがグループ全体で標準化されていれば理想的ですが、そうでない場合は元データのパターンごとに、分析処理で共通的に扱える形へと編集する処理(「前処理」という)を組み込まなければなりません。
  • 分析処理:対象会社の事業に係る基本的な理解に基づき、収集可能なデータも踏まえて、異常兆候を検知する分析ロジックを構築します。
  • 可視化処理:勘定科目の増減分析や中長期の傾向分析などの基本情報およびリスク分析シナリオによる異常兆候検知結果を、変化が把握できるように可視化します。

3.運用主体への展開

分析業務方針に沿って標準化された分析業務プロセスを基に、実際の業務担当者への運用の落とし込みを図ります。たとえば、親会社経理部門で定めたグループ標準の分析業務プロセスを、各統括拠点が主体的に運用できるように、親会社との連携も含めた業務体制を構築することが考えられます。スモールスタートとする場合は、特定の範囲を対象とした分析業務を親会社経理部門のなかで試験的に運用し、結果の共有からグループ各社を巻き込んでいくような進め方が想定されます。

4.分析業務の実施

  • 異常兆候分析業務:親会社により計画された分析業務を運用主体にて実行します。分析担当者は、分析処理により可視化された異常兆候だけでなく、対象会社の置かれた事業環境や内部統制の状況なども踏まえて、実態調査の要否を決定します。
  • 実態調査業務:対象会社担当者への質疑や証跡確認を通じ、異常兆候に関する結果判定を行ないます。結果として異常とは認められなかった場合でも、調査結果および判定理由を記録し、次回以降のノウハウとして蓄積することが重要です。
  • 是正・改善活動:実態調査で異常が認められた場合は、暫定対応および根本対応を行ないます。

5.運用状況のモニタリング

親会社を中心に、各運用主体による計画的な分析業務の実施状況をモニタリングします。実態調査の結果として異常判定され、改善活動へと進んでいる事案については、対象会社だけでなく、横展開やグループレベルでの統制強化の必要性について確認します。

また、グループとして分析業務運用を継続するなかで、経験豊富な経理人材が暗黙的に持っている分析の着眼点・基準などを形式知化して分析ロジックへと落とし込むなど、自社が保有しているノウハウを蓄積し、組織知として活用可能にします。こうしたことがガバナンス向上へとつながると考えられます。

IV.さいごに

本稿の締め括りとして、経理部門によるデータ分析業務をサポートするためにあずさ監査法人が開発したFinancial Data Analytics II( 以下、「FDAII」という)について解説します。

FDAIIは、2020年7月にリリースしたFDAを大幅にバージョンアップしたクラウドベースのセキュアで拡張性の高い業務支援プラットフォームです(図表2参照)。あずさ監査法人が有する経理ガバナンスに関するデータ分析ノウハウをベースとした標準分析ツール9種が利用でき、目的に応じてリスク分析シナリオなどのカスタマイズや独自の分析処理の組込みが可能です(図表3参照)。親会社や統括会社による分析業務を定義・計画し、実施状況を把握するとともに、親子間での分析結果の共有やそれに関するコミュニケーション、実態調査のための質疑応答や証跡授受、顛末管理などを行なえる分析業務支援機能も備えています(図表4参照)。

図表2 FDAII ダッシュボードHOME

データ分析が導く経理ガバナンス強化の現実解-2

図表3 分析ツール例(子会社分析)

データ分析が導く経理ガバナンス強化の現実解-3

図表4 異常兆候に係る実態調査票

データ分析が導く経理ガバナンス強化の現実解-4

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アドバイザリー統轄事業部
ディレクター 高羽 満