IASB、「COVID-19関連レント・コンセッション(IFRS第16号の改訂)」を公表

ポイント解説速報 - IASBは、2020年5月28日、「COVID-19関連レント・コンセッション(IFRS第16号の改訂)」を公表しました。

IASBが、2020年5月28日に公表した「COVID-19関連レント・コンセッション(IFRS第16号の改訂)」の概要を解説します。

本件に関して2021年3月31日に最終基準が公表されています。
詳しくは、ポイント解説速報 国際会計基準審議会、「2021年6月30日を超えるCOVID-19関連レント・コンセッション(IFRS第16号の改訂)」を公表をご参照ください。

本改訂で新たに導入された措置を選択することにより、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大の直接的な結果としてレント・コンセッション(賃料の免除・支払い猶予等)を受けたリースの借手は、当該レント・コンセッションがリースの条件変更に該当するかどうかの検討の必要がなくなります。

本改訂の背景

レント・コンセッションがIFRS第16号に定義される「リースの条件変更」に該当する場合、原則として借手は割引率を見直してリース負債を再測定し、従来のリース負債計上額との差額を使用権資産で調整する必要があります。しかしながら、COVID-19の感染拡大で社会経済が混乱する中で、レント・コンセッションの対象となった大量のリース契約について、これが「リースの条件変更」にあたるかどうかの検討を行い、該当する場合にIFRS第16号の要求に従った会計処理を実施することは、借手に相当の負担を生じさせることになります。

本改訂はこのような状況を勘案して実務負担を軽減するための実務上の便法を借手に与えるものであり、即時適用を実質的に可能とする措置を講じています。

本改訂の主な内容

1. 本改訂の概要

本改訂は、一定の要件を満たすCOVID-19関連のレント・コンセッションにつき、これがリースの条件変更に該当するかどうかの評価を行わなくともよいとする実務上の便法(以下、「本便法」)を借手に認めるものです。類似の特性を有し類似の状況にある契約に対しては、本便法を適用するか否かの選択は一貫して行われる必要があります。なお、本便法が適用されたレント・コンセッションは、リースの条件変更には当たらないものとみなして会計処理されることになります。

本便法の適用を選択した借手には、以下の開示が要求されています。

(a)すべてのレント・コンセッションに対して本便法を適用している場合は、その旨。また、一部のレント・コンセッションに限定して適用している場合は、どのような特性の契約が適用対象とされているか。

(b)本便法が適用されているレント・コンセッションについて、レント・コンセッションの結果生じたリース料の変動を反映することにより報告期間の損益に認識された金額。

2. 対象となるレント・コンセッションの範囲

本便法を選択できる対象は、COVID-19感染拡大の直接的な結果として発生したレント・コンセッションであって、かつ、以下の条件がすべて満たされている場合に限られます。

(a)リース料に生じる変更が、当該変更の直前と比べて実質的に変わらないか、もしくは減少するようなものであること。

(b)リース料の減額は、従来の支払期日が2021年6月30日までに到来するものに限定されること。例えば、2021年6月30日までに到来するリース料を減額させ、以降の期間のリース料を増額させるようなレント・コンセッションはこの条件を満たします。

(c)その他のリース取引条件に実質的な変更がないこと。結論の背景には、例えば、2021年6月30日までの期間に3か月分の賃料の支払いが免除され、代わりに、リース終了時点から3か月間ほぼ同額の賃料の支払いを生じさせるケースは、その他のリースの取引条件にはあたらないと考えられると記載されています。

3. 本便法を適用した場合の借手の会計処理

本改訂は、要件を満たすレント・コンセッションにつき「リースの条件変更に該当するか否かの検討を行わず、リースの条件変更には該当しないものとみなして会計処理する」という選択肢を借手に与えるにすぎず、「リースの条件変更に該当しない変更はどのように会計処理されるべきか」という点について現行のIFRS第16号に解釈もしくは変更を加えるものではありません。なお、結論の背景では、本改訂により想定される会計処理として、以下のとおり言及しています。

  • リース料の減免を受けた場合、一般的にこれを変動リース料として発生時の損益に認識し、減額を受けたリース料についてリース負債を調整します。これはリース料の減額に伴って消滅した支払い義務につきリース負債の一部の認識を中止するのと同じ結果になります。
  • リース料が減額されるがその後の期間において相応の賃料が増額されるような場合、これは借手のリース負債の消滅や対価の変更には該当せず、個々の支払時期のみの変更となります。この場合は、引き続き、リース負債に係る金利を認識するとともに、支払われたリース料を反映するようにリース負債の帳簿価額を減額します。

上記の結果、本便法を適用する借手が財政状態計算書に認識するリース負債の金額は、貸手に対して将来的に負うリース料の支払義務の現在価値を表すことになります。

4. 発効日及び経過措置

本改訂は、2020年6月1日以降開始する事業年度から遡及的に適用されます。本改訂が公表された2020年5月28日時点でまだ発行が承認されていない財務諸表を含め、年次報告・期中報告を問わず早期適用が可能です。

本改訂の遡及適用によって生じた累積的影響は、本改訂を初めて適用した事業年度の期首利益剰余金(もしくはその他適切な資本の構成要素)に認識することが要求されています。なお、会計方針の変更の場合に要求される、各期間の財務諸表の表示項目や基本的及び希薄化後1株当たり利益に与える影響額の開示は不要である旨が明記されました。

5. 公開草案からの見直しの概要

今回の改訂は概ね公開草案での提案を踏襲するものとなっていますが、コメントレターによるフィードバックを受け、IASBが公開草案に変更を加えたのは主に以下の2点です。

(a)公開草案では、本便法の適用対象を、従来の支払期日が「2020年に到来するもの」に限定していましたが、これを「2021年6月30日以前に到来するもの」に拡張しています。対象範囲を広げつつも、本便法を選択するか否かが比較可能性を阻害するという財務諸表利用者の懸念も考慮したものとなっています。

(b)本便法を適用する借手に対し、レント・コンセッションの結果生じたリース料の変動を反映することにより報告期間の損益に認識された金額の開示が要求されました。これは、財務諸表利用者が表明した比較可能性の懸念に対応したものです。

6. その他寄せられたコメントについて

本改訂の公表に至るIASBでの審議によれば、公開草案に対して寄せられたコメントには、上記の他、主に以下がありましたが、最終基準化の過程ではいずれも対処は見送られています。

(a)多くのコメントレターで貸手にも本便法と同様の措置を認めるよう要請がありましたが、既存のIFRS第16号は「リースの条件変更ではないリース料の変更」の際の貸手の会計処理を規定していないこと、既存のIFRS第16号における借手と貸手の会計モデルはそもそも対称的に構築されていないこと、貸手のファイナンス・リースの会計処理はIFRS第9号「金融商品」、貸手のオペレーティング・リースの会計処理はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」と関連しており、その関係に悪影響を及ぼす可能性があることなどを鑑み、対処は見送られました。

(b)本便法の適用は任意ではなく強制とすべきとのコメントもありましたが、本便法は借手の実務負担を軽減するために既存のIFRS第16号からの逸脱を認めるものであり、既存のIFRS第16号に沿った処理を選好する借手や、同基準に基づきすでに処理を行っている借手に、本便法の適用を強制することは適切でないと考えられました。

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執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
アシスタントマネジャー 鶴谷 香穂

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