我が国での新リース会計基準適用に向けて
本稿は、現状のリース会計基準から変更される可能性が高い会計処理の紹介と、ASBJでの議論の内容や今後の方向性、適用スケジュールの見通しなどについて解説します。
本稿は、現状のリース会計基準から変更される可能性が高い会計処理の紹介と、ASBJでの議論の内容や今後の方向性、適用スケジュールの見通しなどについて解説します。
2019年度よりIFRS及び米国会計基準で新リース会計基準が適用されており、既に我が国においてもコンバージェンスに向けた検討が開始されています。新リース会計基準が我が国でも適用されると、現状のオペレーティング・リースがオンバランスされるなど財務諸表に大きな影響が生じると思われます。
本稿は、現状のリース会計基準から変更される可能性が高い会計処理を紹介するとともに、コンバージェンスに向けたASBJでの議論の内容や今後の方向性、適用スケジュールの見通しなどについて解説します。
一方、我が国の会計基準である実務対応報告第18号適用のもと、2019年度から在外子会社で新リース会計基準を適用している企業は多いと思われます。そこで本稿では、同報告適用の際に注意すべき点についても取り上げます。
また、在外子会社の現地決算で新リース会計基準が適用されるケースもあり、その場合における在外子会社現地決算における留意点についても解説します。
ポイント
- 我が国の会計基準としてコンバージェンスが検討されている新リース会計基準では、現状のオペレーティング・リースを含むすべてのリース取引が、原則的にオンバランスされる可能性が高く、借手の財務諸表や財務指標に大きな影響が出ると思われる。
- ASBJでは新リース会計基準の我が国会計基準へのコンバージェンスに向けた検討に着手しており、2~3年後に最終化される可能性がある。
- 実務対応報告第18号適用のもと、在外子会社の財務諸表を現地会計基準からIFRSに組替えて連結するケースが多いが、一部の国では非上場企業であっても現地財務諸表にIFRSと同等の会計基準が適用される。したがって、新リース会計基準の適用が求められる場合がある。親会社連結財務諸表作成時の重要性に従えば、簡便な処理で大きな問題はないと判断できる場合であっても、現地決算で適用する場合には、より厳密な適用が求められると思われ、注意が必要である。
I.ASBJでの議論と今後の見通し
1.新リース会計基準とは
IFRSの新リース会計基準(IFRS第16号)と米国会計基準の新リース会計基準(ASC842)を総称して、本稿では新リース会計基準と呼称しています。将来のリース期間に支払う予定のリース料を現在価値に割引いてオンバランスするという基本的な会計処理の考え方は両者共通です。しかしながら、両者が規定する会計処理は部分的に異なっており、詳細な解説は本稿では割愛しますが、どちらの基準を採用しているかによって差が生じる可能性があります。
上述の「将来のリース期間に支払う予定のリース料を現在価値に割引いてオンバランスする」という意味合いですが、リース期間に支払う予定のリース料の現在価値を「(資産)使用権資産/(負債)リース負債」として貸借対照表に両建てで計上するということを意味しています。この会計処理は、従来のオペレーティング・リースを含むすべてのリースに適用されるため、オフィス・店舗・倉庫・物流センター等の不動産リースについてもオンバランスしなければいけない点に注意が必要です(図表1参照)。
図表1 新リース会計基準におけるオンバランス処理
一方、損益面での費用の認識方法については、IFRS第16号とASC842では大きな違いがあります。IFRS第16号では借手の会計処理モデルをシングルモデル(借手の会計モデルをファイナンスリースとオペレーティング・リースに分類しない考え方)で考え、原則的にすべてのリース取引において負債から発生する金利コストを逓減させるため、リース期間全体では前半の費用が多くなります。それに対して、ASC842では借手の会計処理モデルをデュアルモデル(借手の会計モデルをファイナンスリースとオペレーティング・リースに分類する考え方)で考え、従来オペレーティング・リースに分類されていたものは、ASC842でもオペレーティング・リースとしてリース期間全体にわたって基本的に毎期同額のリース関連費用を計上します。
新リース会計基準適用による影響でもっとも重要なものは、上記の通り、貸借対照表上に将来のリース料がオンバランスされるということです。リース料がオンバランスされることにより、総資産及び総負債が増加し、各種財務比率や業績評価指標に影響を及ぼす可能性があります。また、借入金の財務制限条項への影響や、システムやプロセスへの影響も想定されます。
2.我が国の会計基準へのコンバージェンスに向けた動き
ASBJでは、2018年6月に新リース会計基準の開発に着手するか否かの検討を開始し、その後の議論を経て、2019年3月に新リース会計基準の開発着手を決定しています。
新リース会計基準の開発に着手するか否かの検討にあたり、まずはニーズの識別と懸念点の整理が行われました。新リース会計基準に対するニーズとしては、国際的な会計基準と整合させることによる財務諸表の比較可能性の確保などが挙げられ、懸念点としては、適用の困難性・適用コストの問題・リース資産負債をオンバランスすることがそもそも実態を表していないとする懸念などが挙げられました。また、ニーズの識別や懸念点を整理する際、新基準開発に関する予備的分析が行われ、図表2のような論点が議論されました。
図表2 新リース会計基準開発における予備的分析
論点 | |
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会計上の考え方 |
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財務諸表利用者のニーズ |
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適用上の判断の困難さ |
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作成上のコスト |
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重要性 |
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その他の検討事項 |
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新リース会計基準の開発着手決定後に審議・検討を行うべき論点として、図表3のような論点が提案されています。
図表3 新リース会計基準開発における審議・検討を行うべき論点
費用配分のあり方 | IFRS16/ASC842で費用配分のパターンが異なるが、新リース基準ではどのように費用配分を行っていくか |
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整合性と現行基準改廃 | 仮にIFRS16との整合性を図る場合、文言レベルか、基本的なアプローチのみか、現行基準を改訂/廃止するか |
サービスに関するリース | オペレーティング・リースにおけるサービス提供の性格が強い取引について、新リース基準の適用が経済実態を表すか |
収益認識基準との整合性 | 製造業者/販売業者の割賦基準による収益認識やリース/非リース構成部分の区分に関する検討 |
適用上の判断の困難さ | リース期間を決定する際、延長オプションの行使可能性について判断の困難さが指摘されており、当該判断の比較可能性をどのように担保していくか |
重要性に関する定め | IFRS16/ASC842は重要性の閾値を明示的に定めていないが、新リース基準では比較可能性を害しない範囲で採りうる方策をどのように検討するか |
連単財務諸表の関係 | 単体財務諸表への適用において、周辺制度に与える影響や中小規模の連結子会社などにおけるコストなどを踏まえ、連結財務諸表と同一の扱いとすべきか |
3.今後のスケジュール見通し
ASBJでは新リース会計基準の開発に着手したばかりであり、今後の適用スケジュールを見通すのは難しいですが、新収益認識基準における開発着手決定から、意見募集、公開草案公表、基準公表、強制適用までのスケジュールが参考になります。
図表4をご覧いただければお解りのように、新収益認識基準のケースでは開発着手決定から基準公表まで3年間を要し、さらにそこから強制適用まで3年間を置いています。
図表4 新リース会計基準開発スケジュール見通し
新リース会計基準においても同様のスケジュールになる可能性もありますが、収益認識という企業活動の根幹にかかわる部分の会計基準と比較すると、新リース会計基準における論点の多様性は限定的とも考えられますので、新収益認識基準策定時のスケジュールよりも短縮される可能性もあるのではないでしょうか。
II.実務対応報告第18号適用上の留意点
1.実務対応報告第18号とは
実務対応報告第18号とは、連結財務諸表の作成において、在外子会社などの会計処理に関する当面の取扱いを定めることを目的とした会計上の取扱いです。本来は、連結財務諸表を作成する場合、同一環境下で行われた同一の性質の取引などについて、親会社及び子会社が採用する方針は、原則として統一しなければなりません。すなわち、日本企業である親会社が我が国の会計基準に準拠して連結財務諸表を作成している場合は、原則的に、在外子会社においても我が国の会計基準に準拠しなければならないということになります。しかしながら、在外子会社が我が国の会計基準を採用することは実務上困難であることが想定されるため、IFRSもしくは米国会計基準に準拠して子会社財務諸表が作成されている場合には、例外的に親会社の連結財務諸表でも利用可能であるという取扱いがされています。ただし、下記の項目については、重要性が乏しい場合を除き、連結決算手続き上において我が国の会計基準に沿った考え方への修正が必要になります。
- のれんの償却
- 退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理
- 研究開発費の支出時費用処理
- 投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価
- 資本性金融商品の売却・減損時のリサイクリング
2.適用上の留意点
上記のように、新リース会計基準(IFRS第16号及びASC 842)に関する会計処理は実務対応報告における要修正項目には含まれていないため、在外子会社の財務諸表に適用されているIFRS第16号もしくはASC842に係る会計処理に関しては、原則的に修正せずに親会社連結財務諸表に取り込む必要があるということになります。したがって、親会社が3月決算の場合は、2020年3月期の第一四半期から在外子会社の財務諸表に新リース会計基準を適用したうえで連結する必要があるということになります。なお、このスケジュールは在外子会社の財務諸表がIFRSに準拠している場合であって、米国会計基準においては非上場企業におけるASC842の適用が2020年度からとされているため、1年遅れての適用で構わないといえます(仮に在外子会社が上場企業であって米国会計基準を採用している場合には、ASC842の適用は2019年度から必要です)。
しかし筆者の所見では、我が国の会計基準を適用している日本企業の中には、在外子会社でのIFRS第16号の適用に向けた検討がいまだ十分になされていないケースもあるように思われます。無論、在外子会社でのIFRS第16号の影響に重要性がないことが確かめられていれば問題は無いのですが、中には、在外子会社の現地決算で適用されている会計基準がIFRSと同等の会計基準ではないにもかかわらず、現地決算で十分な対応が図られていると誤解しているケースや、従来我が国の会計基準とIFRSとの差異が僅少であったためIFRS第16号適用による差異も僅少であろうと想像しているケースなども、散見されます。
現実的には、海外で非上場企業にもIFRSと同等の会計基準が適用される国は少数であり、多くの国では、非上場企業には新リース会計基準の考えが含まれていない各国の現地会計基準が適用されています。その点で、在外子会社自らが親会社連結財務諸表のために新リース会計基準の適用を進めようというインセンティブを持っていないケースが大半ではないかと思われます。よって、我が国の会計基準に準拠した連結財務諸表を作成しようとする親会社が、主体的に在外子会社における新リース会計基準適用に取り組まないと、連結財務諸表作成プロセスにおいて十分な対応がなされないこともありえますので、十分な注意が必要です。
III.在外子会社現地決算での新リース会計基準の適用
在外子会社での新リース会計基準適用には、これまで述べてきましたように2段階のレベルがあります。1つが、親会社連結財務諸表作成目的での親会社連結レベルであり、もう1つが、各国の在外子会社での現地決算レベルです。親会社連結財務諸表作成目的での親会社連結レベルにおいては、親会社が我が国の会計基準もしくはIFRSのどちらを採用していても、本来必要となる対応策に大きな相違はないはずです。すなわち、親会社が我が国の会計基準を採用していたとしても、また、IFRSを採用していたとしても、在外子会社の財務諸表を連結する際には、現地決算がIFRSに準拠していなければ連結パッケージ上でIFRSに組替える必要があるからです。
一方、在外子会社の現地決算でIFRSと同等の基準が適用される場合にも、幾つか留意すべき点があります。第一に、まずどの子会社が現地決算でIFRSと同等の会計基準(もしくは米国会計基準)を適用しているかを正確に把握する必要があるという点です。日系企業の子会社の大部分は非上場企業であり、非上場企業の現地決算にIFRSと同等の会計基準が適用される国は実は多くはなく、また適用されるとしても非上場企業には数年間の適用猶予期間が設けられていることもあるため注意が必要です。非上場企業の現地決算でIFRSと同等の会計基準が適用される代表的な国は、香港・シンガポール・オーストラリアなどです。第二に、在外子会社の現地決算でIFRSと同等の会計基準が適用される場合、財務諸表作成における重要性の考え方が、親会社連結財務諸表作成時のものと大きく異なる可能性が高いという点です。一般的に親会社連結財務諸表作成目的での連結パッケージにおける新リース会計基準適用では、重要性が大きいオフィスに係る不動産リースのみに適用対象を限定するといった取扱いもあり得るかもしれませんが、現地決算がIFRSと同等の会計基準に準拠している場合においては、動産不動産を問わず網羅的に適用対象を抽出することが通常は求められます。よって在外子会社の現地決算にIFRSと同等の会計基準が適用される場合には、新リース会計基準を適用するうえで、適用対象取引の選定、仕訳作成、運用体制の構築、といった面で在外子会社の作業負担が大きくなるため、在外子会社サイドでの周到な準備が必要と思われます。第三に、グループのアカウンティング・ポリシーの統一という点です。一般的に親会社がIFRSを適用している場合はグループ・アカウンティング・ポリシーを制定するケースが多いのですが、親会社が我が国の会計基準を適用している場合には、そのようなポリシーを明確に定めているケースは少ないといえます。親会社が我が国の会計基準に準拠した連結財務諸表を作成し、実務対応報告第18号に従って、親会社連結レベルで在外子会社に係る新リース会計基準の仕訳を切る場合には、親会社の目が行き届きやすいと思われますが、在外子会社の現地法定決算で新リース会計基準を適用する場合においては在外子会社と子会社監査人との協議で会計方針を決め、親会社が関与しないことも考えられるため、リース期間の考え方等につきグループ内で統一されないということも十分あり得ます。しかしながら、新リース会計基準のもとでは、連結財務諸表上の重要性が高い多額の資産負債が新たに計上される可能性が高く、親会社主導でリース期間決定や割引率算定の考え方についての指針を用意することが求められる可能性がありますので十分留意すべきと思われます。
IV.おわりに
我が国の会計基準を採用する企業にとっての新リース会計基準の適用には、次の3つの局面が存在します。1.親会社連結財務諸表作成目的での実務対応報告第18号に沿った在外子会社での新リース会計基準の適用、2.現地法定決算でIFRS(もしくは米国会計基準)と同等の会計基準が適用されることによる、在外子会社現地決算レベルでの新リース会計基準の適用、3.近い将来に我が国の会計基準にコンバージェンスされる予定の新リース会計基準の適用、です。
以上の3つの局面で適用される新リース会計基準の考え方そのものに大きな違いはない可能性が高いと思われますが、それぞれの適用開始年度が異なる、または、基準適用するうえでの重要性の考え方に差がある、といった事態が想定されます。したがって、連結グループ内での新リース会計基準適用の考え方に不整合が生じることも考えられます。最終的に我が国の会計基準にコンバージェンスされる可能性が高いということを念頭に、連結グループ内での整合した新リース会計基準適用のため、早期に親会社リーダーシップのもと適用準備を進めることが重要といえます。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
パートナー 山本 勝一