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      現在の病院経営を取り巻く構造変化

      病院経営が急速に悪化している。「令和7年病院経営実態調査報告」によると、2025年の段階で全国の医療法人は赤字66%、黒字34%となり、21年の黒字60%、赤字40%と比べて真逆の状況にある。コロナ補助金の終了や、いわゆる「ゼロゼロ融資」の返済開始時期の到来、さらには建設費高騰などインフレの影響が病院経営を直撃し、事業再生支援を必要とするところも急速に増えている。

      こうした状況下で診療報酬のプラス改定が実施され、一定の収益下支えが期待されている。しかし、筆者らが分析した開設主体別のEBITDAマージンの推移によると、病院経営が抱える課題は、報酬改定だけで解決できるものではないことが示唆される。

      医療法人は、コロナ禍による患者減少や補助金等の給付、建設費の高騰などを経験してきたが、今後も収益低下傾向が続く。病院経営の悪化は、一時的な環境変化だけによるものではなく、医療提供の体制自体が抱える構造的課題そのものといえる。

      その背景には、人口動態の変化と医療技術の高度化がある。人口減少や高齢化・少子化は、患者数だけでなく地域で必要とされる医療内容そのものを変えつつある。しかも、医療技術の高度化は、新たな医療機器や設備への投資を促す一方、低侵襲治療や薬物療法の進歩によって在院日数を短縮させ、必要病床数や手術室、内視鏡室など設備構造にも影響を及ぼす。

      必要とされる医療の量と内容が変化しているにもかかわらず、多くの地域では過去の人口規模や患者数を前提とした医療提供体制が維持されている。その結果、重複機能の併存や診療機能の偏在など、医療資源のミスマッチが顕在化している。現在の病院経営の危機を個別病院の収益問題だけで捉えるべきではない。人口・患者構造の変化に合わせ、限られた医療資源を地域全体で再配置することが事業再構築の出発点となる。

      集約を通じて促される高度化・効率化への転換

      厚生労働省は、構造的な収益悪化と医療資源のミスマッチを踏まえ、さらなる病床再編の方向性を示す。26年7月3日に公表された「地域医療構想策定ガイドライン」の参考資料によれば、病床数は116万4,000床(25年)から106万9,000床(40年)へ約8%減少する見通しである(図表1)。

      Japanese alt text: 図表1

      ただし、その内容は単純な総量抑制ではない。高度急性期病床は16万床から13万4,000床へ16%減、急性期は50万床から24万床へ52%減、包括期は21万1,000床から41万6,000床へ97%増、慢性期は29万3,000床から28万床へ4%減となる見込みだ。すなわち、急性期を大規模に集約して高度化・効率化する一方、高齢者の複合的なニーズを受け止める包括期機能の拡充方針が示されている。

      ここで重要なのは「病床を減らすこと」と「医療提供体制を強くすること」は、必ずしも同義でないということだ。病院単体での病床削減には、短期的な収支改善効果が期待できる一方、規模の経済を損ない、医師・看護師の確保や医療機器への投資、診療機能の高度化を難しくする可能性がある。個々の病院が一律に減少すれば、地域全体が「縮小均衡」に陥りかねない。

      必要なのは単なる縮小でなく「集約による高度化・効率化」である。医療人材や症例を集約して医療機能を高度化し、重複投資を抑制して限られた資本を効率的に活用する。その有力な手段が医療機関の統合・再編だ。

      統合・再編の手法は、大きく「医療機関の統合」と「医療機関の機能の再編・分化」に整理できる。前者は医療人材や設備を集約し、医療機能の高度化と投資効率の改善を目指す。後者は、病院間の役割分担を明確化し、専門性と運営効率を高めるものだ。重要なのは統合という形式ではなく、将来的な需要や医療技術の高度化を起点として医療機能、人材、資本の配置とマネジメント方針を再設計することである。

      重点支援地域における統合再編事例

      医療機関の統合・再編を考える上で示唆に富む事例が、広島県の尾三構想区域と山形県の置賜(おきたま)医療圏である。いずれも国の重点支援区域として進められ、筆者らも総合アドバイザーとして構想策定から合意形成、再編実行まで関与した。前者は複数病院を集約する「病院統合」の事例、後者は病院間の役割を見直す「機能再編・分化」の事例である(図表2、図表3)。

      Japanese alt text: 図表2

      Japanese alt text: 図表2

      尾三医療圏では、三原駅から半径4キロ圏内に複数の病院が立地し、限られた医師資源が分散していた。そこで、三菱重工業が運営していた三菱三原病院(81床)を廃止。日本赤十字社傘下の三原赤十字病院(197床)に診療機能や人材、医療機器等を承継させ、2022年4月に232床の病院を統合した。

      両病院合計278床から大幅に病床を減少させる一方で、病院単体としての規模は拡大した。さらに、消化器内科をはじめ重複していた診療機能と医師を集約することで救急対応力を向上させ、三次救急医療機関への依存の低減にもつながった。管理部門の統合や設備投資の重複回避による経営効率化が図られている。同様の考え方による病院統合は、広島県因島地域でも実現した。

      一方、置賜医療圏では病院自体を統合せず、病院間の役割を再定義した。米沢市立病院と三友堂病院は共に急性期から回復期・包括期までを担うケアミックス型病院であり、機能の重複が課題となっていた。

      そこで、急性期機能を米沢市立病院に、包括期から慢性期・介護までを中心とする機能を三友堂病院に集約した。大型医療機器を米沢市立病院に集約して共同利用する一方、三友堂病院には健診機能や給食事業を集約した。さらに、エントランスやレストラン、会議室といった機能を両病院で共同利用するための共有棟やエネルギーセンターを共同整備し、設備全体としての効率化を高めた。23年11月に完了したこの再編は、病床適正化を進めつつ、医療資源の集約による機能高度化と資本効率の向上につながった事例といえる。

      二つの事例に共通するのは、病床削減そのものを目的とせず、地域に必要な医療機能を起点に、医療機能の高度化と効率化のための人材や設備、病床を再配置したことである。縮小ではなく集約による高度化と効率化によって地域医療を強くする考え方こそ、統合再編の本質といえる。

      統合・再編を成功させる条件

      病院統合・再編の難しさは、再編スキームや施設整備だけにあるわけではない。いずれの案件も、出身大学や系列の異なる医局の医師を一つの医療提供体制へ再編成するプロセスを伴う。医療機能の再編は、医師や医療従事者の理解と協力なしには実現しない。医局や医療従事者への説明に加え、地域住民や議会との対話を通じた合意形成も欠かせない。

      とりわけ地域住民にとって身近な病院の縮小や廃止は、医療へのアクセスが失われることへの不安につながりやすい。だが、統合・再編の目的は、地域から医療を撤退させることではなく、限られた医療資源を集約し、将来にわたり必要な医療の提供を維持・強化することにある。

      病床削減や病院廃止を起点に議論するのではなく、再編によって地域医療がどのように改善されるのかという将来像と、その実現に向けたロードマップを示す。その上で、住民や議会と情報などを共有することが重要になってくる。この合意形成のプロセスこそ、一般企業のM&Aとは異なる医療機関の再編において重要な特徴である。

      同時に、統合ストラクチャリングの設計やバリュエーション、統合条件の交渉、守秘性の確保など、M&Aで求められる専門的知見も欠かせない。この領域は、地方自治体や病院経営主体にとって経験が十分に蓄積された分野ではない。

      さらに人口動態や医療需要、医療技術は今後も変化し続ける。統合・再編は一度実施すれば完了するものではなく、環境変化を継続的に捉えながら、医療機能や人材、設備、病床の配置を見直していく必要がある。地域医療提供体制の最適化を、継続的な経営・変革プロセスとして捉えることが重要である。

      従って、統合再編の成否を分けるのは、M&Aの技術だけでも、医療政策や医療データに関する知識だけでもない。地域医療の将来像を描く構想力や、多様な関係者との合意を形成して変革を進める実行力、それを実現可能な事業・財務ストラクチャーへ落とし込む専門性である。

      地域変革の“触媒役”が期待される地域金融機関

      地域医療の再編を巡り、病院だけを対象として考えることはできない。病院から在宅への移行が進み、在宅医療や介護サービスの重要性が高まるなか、その担い手は医療法人だけでなく、社会福祉法人や株式会社など多様である。

      必要なのは病院や診療所、在宅医療、介護などを個別の事業者として見るだけでなく、相互に連関する一つの「地域ヘルスケア産業」として捉える視点が必要である。病院の統合再編も、その産業構造を将来需要に合わせて再設計する取り組みの一部として位置付けるべきだ。

      この視点に立てば、地域金融機関の役割も変わる。地域金融機関は、地方自治体や医療・介護事業者との幅広い接点を持ち、地域全体を俯瞰できる数少ない存在である。同時に、事業リスクを評価し、資金供給や財務支援を担う機能を有する。株式会社とは異なり、エクイティーによる外部資本調達に制度上の制約がある医療分野では、その役割がより重要になる。

      求められるのは、再編案件が顕在化してから融資を検討する役割だけではない。取引先の経営状況や地域の人口・患者動態から構造変化の兆候を捉え、地方自治体や医療機関、介護事業者をつなぎ、地域医療の将来像を共有する。その上で統合・再編や機能分化を後押しし、必要な資金を供給するとともに、再編後の事業成長まで支える。いわば、地域ヘルスケア産業の「再編プラットフォーム」としての役割である。

      二つの事例を含む地域医療の再編案件では、地域金融機関も融資行等の立場で関与しており、再編に伴う資金調達や既存債務への対応など、資金面で重要な役割を担うことが少なくない。今後は、個別法人の信用力を起点とした従来型融資だけでなく、地域医療の将来需要、再編後の事業性、資産・設備の最適配置を踏まえた事業金融・産業金融の発想が必要になる。具体的には、地域ヘルスケア産業の構築を目的としたファンドの組成や、再編後の再投資力を補完する劣後的なファイナンス設計など、個別法人の財務力だけでなく、事業価値や地域価値に踏み込んだファイナンス設計力が求められる。地域金融機関自身も、個別事業体への資金提供者から地域ヘルスケア産業の構造転換の担い手へと役割を進化させることが求められている。

      人口減少社会における医療提供体制の再構築は単なる病床削減でも、経営不振病院の救済でもない。限られた人材と資本を集約・再配置し、地域に必要な医療・介護を持続可能なかたちで次世代へつなぐ、地域産業の再構築そのものである。

      求められているのは、病院再生ではなく地域医療再生である。その中で、地域金融機関にはその実現を支える地域変革の“触媒”としての役割が期待される。その成否は、地域医療の未来のみならず、地域社会そのものの持続可能性を左右するといっても過言ではない。


      本稿は、きんざいOnline 「人口減少社会で求められる地域医療提供体制の再設計」(2026年9月18日公開)に掲載された記事を許諾を得て転載しています。他への転載・転用はご遠慮ください。


      執筆者

      松田 淳
      KPMGヘルスケアジャパン 代表パートナー/KPMGジャパンヘルスケアセクター 統轄パートナー

      日本長期信用銀行に13年間勤務し、主に投資銀行業務に従事した後、02年にKPMGヘルスケアジャパンに参画。医療機関やシニアリビング事業者、製薬企業などを含むヘルスケア産業に関連する事業体の戦略立案、投資・ファイナンス、事業再編、事業再生に関するアドバイザリーサービスに従事。広島県立病院機構評価委員。北里研究所・北里大学参与(病院経営改革担当)。東京科学大学医療イノベーション機構特任教授。

      KPMGヘルスケアジャパン パートナー 山口結花

      山口 結花
      KPMGヘルスケアジャパン パートナー

      九州大学において医療・心理学関係のデータ分析・調査研究業務、事業会社の医療コンサルティング部門において病院買収、および買収後病院の経営企画部門においてPMI業務に従事した後、18年10月にKPMGヘルスケアジャパンに参画。病院経営改革や地域医療構想、医療機関再編支援を専門とするほか、病院の事業計画策定、事業再生支援に従事。


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