Skip to main content

読み込み中です

      本稿では、宇宙スキル標準に示された59のロール例を、宇宙事業の価値創造の流れに沿って「構想する」「つくる」「動かす」「使う」「支える」の5つの視点から読み解きます。技術職と非技術職がどのように連携して事業を成立させるのかを示し、企業の人材設計と個人のキャリア検討に役立つ職種マップの読み方を考えます。



      「宇宙業界で働く」と聞くと、ロケットや人工衛星を設計するエンジニアを思い浮かべる人が多いでしょう。もちろん、その仕事は産業の中核です。しかし、宇宙システムが社会価値を生むまでには、顧客や社会の課題を捉えてミッションを構想し、設計・製造・試験を進め、打上げ後の運用を担い、データや通信を顧客の業務へ組み込み、営業、法務、財務、人事、情報システムなどで事業を支える多くの仕事があります。

      人工衛星を例にすると、最初に「誰に、どのような価値を届けるのか」を定め、要求をシステムやサブシステムへ分解し、設計、調達、製造、ソフトウェア開発、試験を進めます。打上げ後は、地上局との通信、軌道・姿勢の管理、監視、異常対応、データ受信・処理が続き、最終的に顧客の意思決定や業務へ組み込まれて初めて価値になります。宇宙産業の仕事は、この一連の価値連鎖を切れ目なくつなぐことで成り立っています。

      宇宙スキル標準には、この価値連鎖を担う59のロール例が整理されています。

      本稿では、全体像を直感的に理解するための補助線として、「構想する」「つくる」「動かす」「使う」「支える」の5つに整理します。この5分類は宇宙スキル標準の公式分類を置き換えるものではなく、ロール間のつながりと、他産業の経験を宇宙産業へ活かす道筋を読み解くための見方です。


      KEY INSIGHT:
      宇宙の仕事は、5つの価値創造領域の「つながり」で見る

      ロケットや衛星という製品名や、エンジニア、営業といった職種名だけで仕事を捉えると、価値創造に必要な役割の受け渡しが見えにくくなります。5つの領域で俯瞰すると、技術職と非技術職を同じ地図の上に置き、成果に必要なロールの組合せを考えやすくなります。

      • 構想する:顧客・社会課題からミッション、事業モデル、要求、実行計画を描く
      • つくる:設計、製造、試験、品質、調達を統合し、システムを形にする
      • 動かす:打上げ、地上局、管制、軌道・姿勢、監視、異常対応を担う
      • 使う:衛星データや衛星通信を、顧客の判断と業務成果へ変える
      • 支える:法務、知財、財務、人事、広報、ITなどで事業を継続可能にする

      1.宇宙産業における仕事とは

      宇宙産業というと、技術者が中心の世界に見えます。しかし、宇宙スキル標準に示されたロール例には、システムや各専門領域のエンジニア、製造・試験、打上げ・衛星運用、データ活用だけでなく、事業企画、サービス企画、営業・顧客支援、法務・コンプライアンス、財務、調達、人事、広報、情報システム・セキュリティなども含まれます。技術を生み出す仕事と、技術を事業として届け続ける仕事の双方がそろって、宇宙産業は成立します。

      一方、59のロール例は、企業がそのまま採用すべき「標準職種」ではありません。それぞれの役割・責任、関連する業務、求められるスキルを考えるためのモデルです。スタートアップでは1人が複数のロールを兼ね、大企業では1つのロールを複数人で分担することがあります。同じロール名でも、事業やプロジェクトの段階、製品・サービスの性質、組織規模によって責任の範囲は変わります。

      したがって、職種マップを部署や組織図へそのまま対応させるのではなく、「実現したい成果のために、どの仕事と能力を組み合わせるか」を考えることが重要です。プロジェクトマネジメント、品質保証、調達、法務、情報セキュリティなどは、特定の一部門だけで完結せず、複数の領域を横断します。中心となる問いは「誰がどの部署に所属するか」ではなく、「価値の受け渡しをどのロールが担い、どこで責任を接続するか」です。

      【59のロール例を読み解く5つの価値創造領域】
      Japanese alt text: 宇宙産業にはどのような仕事があるのか_図表1 出所:「宇宙スキル標準」(内閣府)を基にKPMG作成

      (1)「構想する」仕事:事業の方向性を定める

      「構想する」仕事は、顧客や社会の課題を捉え、宇宙を活用する意義を明確にしながら、ミッション、サービス、事業モデル、要求事項、実行計画へと落とし込む役割です。ビジネスアーキテクト、ミッションマネジャー、プロジェクトマネジャー、サービス企画、事業開発・パートナーシップなどのロールがかかわり、技術開発を始める前提と、後工程が目指すべき成果を定めます。

      求められるのは、魅力的な将来像を語る力だけではありません。市場・顧客理解、ビジョン・戦略、サービス・価値設計、プロジェクトマネジメント、リスク・機会管理などを組み合わせ、顧客価値、技術成立性、コスト、期間、規制、リスクのトレードオフを整理して、実行可能な意思決定へつなげる力が重要です。構想が曖昧なままでは、設計要求、調達条件、運用設計、顧客への提供条件も定まりません。

      この仕事には、コンサルティング、新規事業開発、商社、公共政策、社会インフラ、研究企画などで培った経験が接続します。ただし、一般的な企画力だけで完結するわけではありません。実際に宇宙産業で働くことを通じて、宇宙システムの制約、技術成熟度、長期開発、規制、政府調達などの固有条件を理解し、技術者や専門家へ適切な問いを立て、共通の言葉で議論できるようになることが求められます。

      (2)「つくる」仕事:技術とものづくりを形にする

      「つくる」仕事は、構造、熱、電源、通信、制御、推進、ソフトウェアなどの専門技術を統合し、要求に応えるシステムを実現する役割です。宇宙システムでは、多数の専門領域が相互に影響します。個々の部品が高性能でも、要求やインタフェースが整合していなければシステムは成立しません。要求分解、インタフェース管理、構成管理を担うシステムアーキテクトやシステムエンジニアと、各領域の専門家が連携する必要があります。

      設計だけでなく、製造、加工、ソフトウェア開発、調達、組立、試験・検証、品質保証まで含めて初めて製品として成立します。商業化が進むほど、試作品を一度完成させる能力だけでなく、工程、品質証拠、トレーサビリティ、サプライヤー、原価、納期を再現可能に管理する能力が競争力になります。設計時の判断を製造性、試験性、運用性までつなげることが重要です。

      ここでは、自動車、航空、重工、半導体、産業機械、医療機器、ロボティクス、ITなどで、複雑なシステム、高信頼性、量産立上げ、品質保証を経験した人材には大きな接続可能性があります。そして、宇宙業界での就業を通じて、宇宙環境、修理困難性、打上げ荷重、熱真空、放射線、長期の無人運用など、宇宙固有の条件を追加で理解していく必要があります。

      (3)「動かす」仕事:宇宙システムを安定して運用する

      「動かす」仕事は、打上げ準備、射場運営、地上局運用、衛星管制、軌道・姿勢管理、通信、監視、異常対応などを担い、宇宙システムを長期間安定して稼働させる役割です。宇宙機は打ち上げて終わりではなく、継続的な運用によって初めてミッションを達成し、顧客へ価値を届け続けられます。正常時の定常運用だけでなく、限られた情報のなかで異常を検知し、影響を評価し、復旧や回避を判断することも含まれます。

      安定運用には、手順書、監視項目、アラート基準、権限とエスカレーション、ログ、訓練、交代体制などを事前に設計し、運用で得られた知見を設計やサービス改善へ戻す仕組みが必要です。運用は開発後の付随業務ではなく、設計段階から考慮すべき価値創造の一部です。衛星数や顧客数が増えるほど、人手に依存した運用から、自動化、標準化、複数システムの統合監視へ移行する必要があります。

      この「動かす」仕事は、通信、クラウド、データセンター、航空、電力、プラントなどで、大規模システムの監視、インシデント対応、可用性管理を経験した人材が、その知見を生かしやすい領域です。加えて、軌道・姿勢、地上システム、コマンド管理、長期無人運用などを学ぶ必要があります。複数衛星の同時運用や遠隔運用が広がるほど、運用自動化とサイバーセキュリティの重要性も高まります。

      (4)「使う」仕事:宇宙データを社会の価値へ変える

      「使う」仕事は、衛星データや衛星通信を活用し、顧客の判断や業務成果へ変える役割です。データ処理、AI、GIS、アプリケーション開発といった技術だけでなく、防災、農業、インフラ、金融、保険、海洋など、それぞれの業界に対する深い業務理解が必要です。宇宙から取得できる情報を、既存の業務プロセス、判断基準、システムへ組み込むことで初めて、データはサービスとして機能します。

      重要なのは、精度の高いデータを作ること自体を目的にしないことです。「誰が、いつ、どの判断に利用するのか」「何時間以内に、どの形式で届けるのか」「誤検知や欠測をどのように扱うのか」まで設計する必要があります。高精度でも意思決定に間に合わない、利用者が解釈できない、業務システムへ連携できないのであれば、顧客価値にはつながりません。

      そのため、「使う」仕事では、データ解析者やソフトウェア開発者だけでなく、業界専門家、サービス企画、営業・顧客支援、運用担当者が連携します。データ分析、IT・SaaS、コンサルティング、各産業の現場業務などの経験は接続可能です。加えて、宇宙業界での就業を通じて、宇宙固有の観測条件、分解能、頻度、提供時刻、データ品質を理解し、顧客の業務要件へ翻訳する力をつけていくことが求められます。

      (5)「支える」仕事:事業を持続的に成長させる

      「支える」仕事は、法務、知的財産、調達、財務、人事、広報、情報システム・セキュリティなどを通じて、事業を継続的に成長させるための基盤を整える役割です。営業・顧客関係管理や経営管理も含め、顧客との契約、資金、組織、サプライチェーン、情報、リスクを管理し、技術を継続的に提供できる状態をつくります。これらは単なるバックオフィスではなく、事業の実行可能性を左右する機能です。

      スタートアップでは、創業者や技術者がこれらを兼務することがあります。しかし、事業が拡大すると、契約審査の遅れ、調達の属人化、原価の不透明さ、採用要件の曖昧さ、情報管理やセキュリティの不備が成長を制約します。複数案件を同時に進め、品質と納期を保ちながら顧客へ提供するためには、役割、手順、判断基準、証拠を組織として再現できる状態へ変える必要があります。

      営業、法務、財務、調達、人事、広報、ITなどで培った専門性は、他業界から比較的移転しやすい一方、宇宙分野の技術的制約、法規制、政府調達、長期の投資回収、安全・品質条件を追加で学ぶ必要があります。また、プロジェクトマネジメント、品質保証、情報セキュリティのように複数領域を横断する仕事は、「支える」側だけへ閉じず、構想、開発、運用、顧客提供の各現場と一体で設計することが重要です。

      【5つの価値創造領域と、他産業から接続しやすい経験】

      領域

      主な仕事・責任

      接続しやすい経験

      宇宙分野で補う視点

      構想する

      顧客課題、ミッション、事業モデル、要求、プロジェクトマネジメント

      コンサル、新規事業、政策、インフラ、研究企画

      宇宙システム制約、技術成熟度、規制・政府調達

      つくる

      要求分解、設計統合、製造・試験・品質・調達

      自動車、航空、重工、半導体、医療機器、ロボティクス

      宇宙環境、打上げ荷重、熱真空、放射線、トレーサビリティ

      動かす

      打上げ準備、地上局、管制、軌道・姿勢、監視・異常対応

      通信、クラウド、データセンター、航空、電力、プラント

      軌道・姿勢、地上システム、コマンド管理、長期無人運用

      使う

      データ処理、AI・GIS、アプリ、顧客業務への実装

      データ分析、IT・SaaS、防災、農業、金融・保険、海洋

      観測制約、分解能・頻度、提供時刻、顧客判断との接続

      支える

      営業、法務・知財、調達、財務、人事、広報、IT・セキュリティ

      各業界の営業、コーポレート、サプライチェーンマネジメント、IT・セキュリティ

      宇宙法規制、政府調達、長期投資、技術・安全条件


      2.自分の経験を宇宙産業で活かすには

      企業の構想、技術実証、商業化、量産・拡大といった事業フェーズによって、重要となる仕事の組合せは変化します。構想段階では顧客価値、ミッション、事業モデルを描く仕事が中心となり、実証段階では設計、ソフトウェア、試験、品質、プロジェクト管理の比重が高まります。商業化では営業、顧客導入、運用、契約、サービス設計が重要となり、量産・拡大では製造、サプライチェーンマネジメント(SCM)、品質、情報システム、人事・組織開発がボトルネックになり得ます。

      企業が職種マップを活用する際は、現在の組織図をそのまま将来へ延長するのではなく、次の事業フェーズと成果から必要な業務、ロール、スキルを逆算することが重要です。「今足りない人」だけでなく、「次の12〜24ヵ月で事業が移る局面に必要な仕事」を先回りして捉え、採用、育成、配置、外部活用を準備する必要があります。人数ではなく、事業を前へ進める能力ポートフォリオとして人材需要を見ることが求められます。

      個人のキャリアも、所属してきた業界や肩書だけで決まるものではありません。たとえば、「自動車メーカーにいた」ではなく、構造設計、熱解析、試験計画、サプライヤー管理、量産立上げへ分解します。「IT企業にいた」ではなく、クラウド基盤、API、運用監視、セキュリティ、顧客導入へ分解します。そのうえで、自分がどの業務を担当し、どのような判断を行い、どの成果に責任を持ったかを整理します。

      次に、ロール例一覧から経験に近い役割を選び、業務一覧とスキルディクショナリで、実際の担当業務と必要なスキルを確認します。自分の経験を「そのまま生かせるもの」「他業界から移転できるもの」「宇宙固有の学習や実務経験が必要なもの」に分けると、宇宙全般を漠然と学ぶよりも、現実的な準備計画を立てやすくなります。求人や異動先を見る際には、職種名だけでなく、事業フェーズ、チーム規模、期待成果、他ロールとの責任分界を確認することも重要です。

      宇宙産業に必要な人材は、すでに宇宙業界のなかだけにいるわけではありません。重要なのは、他産業に存在する能力を発見し、宇宙の仕事へ接続し、必要な学びと実務経験を設計することです。5つの価値創造領域による職種マップは、人を1つの肩書へ当てはめるためではなく、企業と個人が「どの成果に、どの能力で貢献するか」を対話するための地図です。

      次回は、個人が宇宙スキル標準を使い、現在地、目指すロール、スキルギャップ、学習、応募をどのようにつなげるかを具体的に解説します。

      参考情報

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      マネジャー 平田 悠樹

      「宇宙スキル標準で読み解く、宇宙産業の人材とスキル」第2回

      宇宙産業にはどのような仕事があり、何が求められるのか。宇宙スキル標準の採用・育成への活用法や30分で読み解くポイントを解説します。

      内閣府策定の「宇宙スキル標準」を基に、宇宙産業の成長に必要な人材と組織について、キャリア設計・採用・育成等の実践方法を読み解きます。

      宇宙産業における戦略立案から実行までを包括的に支援します。

      お問合せ

      お問合せフォームより送信いただいた内容は、確認でき次第回答いたします。

      blue

      KPMGコンサルティング

      戦略策定、組織・人事マネジメント、デジタルトランスフォーメーション、ガバナンス、リスクマネジメントなどの専門知識と豊富な経験から、幅広いコンサルティングサービスを提供しています。

      Japanese alt text: KPMGコンサルティング