化学セクターM&A概況
注:取引金額は小数点以下を切り捨て
出処:各種M&A資料に基づくKPMG分析(2026年)
注:取引金額は小数点以下を切り捨てているため総額と内訳の合計が一致しない場合がある
出処:各種M&A資料に基づくKPMG分析(2026年)
業界動向
取引環境:戦略的なポートフォリオの見直しや財務状況の安定化が進んだ一方、地政学的緊張(米国・イラン紛争およびウクライナ侵攻)、供給過剰の継続、最終需要の低迷、コスト圧力を背景に、2026年第1四半期のM&A件数は前年同期比で2%減少しました。
注目分野:電子・建設用化学品、特殊製剤、底堅い最終需要のある技術主導型事業など、高収益なニッチ分野に買い手が注力したことから、スペシャリティケミカル分野が取引をけん引しました。
取引金額:小~中規模案件が取引の多くを占め、 戦略的投資家による取引が活発でした。
M&Aハイライト
注: (a) 端数処理の関係で構成比合計が100%とならない場合がある
取引動向:グローバルの化学セクターにおけるM&A件数は前年同期比2%減、取引金額は約31%減となりました。小型案件は19%減、中型案件は7%減となった一方、大型案件は約33%の大幅な減少となりました。
M&A市場環境:供給過剰、需要低迷、価格圧力、地政学リスクにより、2026年第1四半期のM&A市場は厳しい環境となりました。借入コストの上昇や信用供与の厳格化によりシンジケートローンや大型LBOの実施に制約がある中、小規模で実行しやすい案件が選好されました。
企業の動向:M&A市場をけん引したのは戦略的投資家で、非中核事業や構造的に競争力の低い事業のカーブアウトに加え、ポートフォリオの最適化、バリューチェーンの強化、川下領域の拡大を目的としたボルトオン買収を積極的に実施しました。主な取引は小~中規模案件でした。
プライベートエクイティの動向:PEによる取引は2026年第1四半期の取引全体の41%を占め、主に投資対象となったのは、安定したキャッシュフローと明確な成長余地があり、長期保有に適した小規模なバリュー案件・カーブアウト案件です。
現地化:地政学リスクや関税リスクの高まりから現地化が進み、取引全体の約75%を国内案件が占めました。企業がクロスボーダー案件よりも、供給の安定確保、原料調達の柔軟性、現地生産を重視したことが要因です。
M&Aハイライト(大型案件)
Deal Thermometer
Deal Thermometer 2026
注:(a) Forward P/Eレシオ:2026年の時価総額を2027年の予想純利益で割った数値
注:(b) 投資余力:2027年の予想ネットデットを予想EBITDAで割った数値
注:(c) 各四半期末の90%分位を指す
まとめ
2026年第1四半期は、スペシャリティケミカルおよび基礎化学品・石油化学品のバリュエーションが低下しました。その要因としては、原料依存度の高い事業におけるバリュエーションの乖離拡大、エネルギーコストの上昇、供給過剰の継続、買い手需要の低迷があります。このような環境下、戦略的投資家はポートフォリオの合理化と規律ある資本配分を重視し、慎重な姿勢で案件を厳選しました。一方、プライベートエクイティは豊富なドライパウダーを背景に引き続きM&Aを下支えしたものの、投資判断では買収後の価値創出を重視する姿勢が鮮明となりました。
KPMGのDeal Thermometerは、2026年も十分な投資余力と高い投資意欲が続くことを示しており、バリュエーションに対する投資家の受容度も改善しつつあります。堅調なレバレッジ水準と資金調達環境の改善がM&Aを後押しすると見込まれる一方、投資家は引き続き規律ある投資姿勢を維持し、明確な価値創出が見込める資産を厳選するでしょう。
今後の見通し
2026年のグローバルの化学セクターにおけるM&Aは、投資家による案件の厳選が続くと見られるものの、カーブアウトやポートフォリオ最適化を中心に取引は堅調に推移する見込みです。スペシャリティケミカル、先端材料、 テクノロジー主導型事業に関心が集まる一方で、供給過剰やコスト圧力を背景に、大型案件に対しては慎重な投資判断が続くでしょう。
地域別では北米が市場をリードすると見られる一方、欧州では原料依存度の高い事業を中心にバリュエーションの乖離が広がっており、案件を絞り込む傾向が続くと見込まれます。 規模の拡大よりも事業の強靭化や価値創出を重視する動きが続き、中規模案件やボルトオン買収が中心になると見られます。
スペシャリティケミカル
取引内訳(a)
注:(a) パーセンテージは小数点以下を切り捨て
サブセクター動向
スペシャリティケミカル分野の伸長:2026年第1四半期のスペシャリティケミカル分野は、取引件数こそわずかに減少したものの、取引金額は大幅に増加し底堅く推移しました。買い手は、ポートフォリオ最適化やコスト削減に加え、高付加価値のスペシャリティ資産の取得を進めました。
高付加価値のニッチ領域:資金は、先端材料、電子材料、ライフサイエンス向け原料、建設用化学品、水処理など、高付加価値のニッチ分野に引き続き集中しました。
アジア太平洋地域への注目:アジア・オセアニアは今四半期も取引の中心となり、現地企業による国内再編が見られたほか、中国をはじめとするアジア太平洋地域に対する高い関心が伺えました。
プライベートエクイティの動向:豊富なドライパウダーを背景に、利益率が安定した事業やカーブアウト案件への投資が進み、PEによる取引は前年同期比で約7%増加しました。
今後の見通し
2026年のスペシャリティケミカル分野のM&Aは、案件の厳選が続くと見られるものの引き続き底堅く推移する見込みです。買い手は汎用化学品よりも、技術主導型の高収益資産や特殊製剤を引き続き選好するでしょう。カーブアウトやボルトオン買収をはじめとする中規模案件が今後も M&Aを支えると見込まれます。一方、案件実行力や価値創出の実現可能性は、引き続き重要な判断材料となるでしょう。
基礎化学品・石油化学品
取引内訳(a)
注:(a) パーセンテージは小数点以下を切り捨て
サブセクター動向
統廃合の進展:基礎化学品分野における供給過剰、需要低迷、利益率の低下を受けて、ポートフォリオの再構築や地域内再編が進展したことで、2026年第1四半期のM&A件数は増加しました。
取引環境:取引金額は大幅に減少しました。エネルギー価格や原料価格の上昇によるバリュエーションの乖離を背景に、市場開拓や原料調達の強化を目的とした小規模なボルトオン買収が主流となりました。
国内志向:国内案件が取引の中心となりました。関税、貿易、地政学リスクの低減に向けて、地域インフラ、原料の安定調達、事業運営の強靭性の重要性が高まっており、サプライチェーンの現地化が進んでいます。
今後の見通し
2026年の基礎化学品・石油化学品分野のM&Aは、供給過剰、地政学的リスク、需要低迷、利益率の低下が引き続き投資意欲を抑制しバリュエーションを下押しすると見られ、慎重姿勢が続くでしょう。原料調達面での優位性、事業改善、地域における事業規模の拡大が見込める案件を中心に、事業再編、カーブアウト、業界再編がM&Aを後押しする予想です。 地域別では、米国上場企業のバリュエーションが欧州企業よりも高く評価される可能性があります。
販売事業者・その他
取引内訳(a)
注:(a) パーセンテージは小数点以下を切り捨て
サブセクター動向
慎重姿勢:販売事業者サブセクターでは、需要低迷、関税を巡る不透明感、地政学リスクが投資意欲の減退につながり、2026年第1四半期のM&Aは減少しました。
戦略的投資家が中心:戦略的投資家が積極的に取引を展開しました。ボルトオン買収に加え、新たな事業基盤構築のための買収を通じて、事業地域の拡大、供給網の確保、最終市場の多様化を図りました。
ケイパビリティ:展開地域での規模拡大や高付加価値サービス供給体制の獲得を目的として、技術力、規制対応力、デジタル対応力、サプライチェーン管理能力を備えた少数の企業に取引が集中しました。
中国の存在感:中国はアジア太平洋地域の販売事業者M&A市場をけん引し、全体の約3分の1、国内案件の半数超を占めました。業界再編、スペシャリティケミカルへのシフト、物流機能の統合が取引の推進要因となりました。
今後の見通し
2026年の販売事業者M&A市場は、市場の細分化が続くことに加え、買い手が積極的な事業拡大よりも調達網や最終市場への展開、サプライチェーンの強靭性を重視していることから、慎重姿勢は見られるものの堅調に推移すると見込まれます。取引の中心は小~中規模案件で、地政学的圧力を背景に地域内での提携が一段と進むでしょう。バリュエーションに対する慎重な姿勢や需要の先行き不透明感から、厳選したボルトオン買収や高付加価値なニッチ分野の販売事業者を対象とする案件が主流となると見られます。
化学業界の今:地政学的緊張が世界の化学品業界の構図を塗り替える
中東・ロシアを巡る地政学的混乱を受け、世界の化学業界ではコスト最適化よりも、供給の安定確保や地域レベルの事業基盤の強靭化を重視する動きが強まっています。
リスク要因と市場への影響
注:(a)液化天然ガス
注:(b)液化石油ガス
注:(c)制御不能な事象による供給停止
注:(d)ポリエチレンおよびポリプロピレン。包装材、自動車、消費財、建設、産業用途などで幅広く使用される基礎(汎用)樹脂を指す