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      目次



      「企業買収における行動指針」のポイント・Q&A公表までの経緯

      2023年8月、経済産業省は「企業買収における行動指針」(以下、「本指針」)を公表し、上場会社の経営支配権を取得する買収について、企業価値・株主共同の利益、株主意思、透明性という3原則とベストプラクティスを示した。

      本指針が企業買収実務における共通の判断枠組みとして広く参照される一方で、「最も高い買収価格を提示した提案を選ばなければならない」「本指針に記載された対応をしなければ、直ちに取締役の責任が問われる」等の解釈がみられ、その趣旨が十分に理解されていない可能性が浮上した。

      こうした状況を踏まえ、経済産業省は、2026年2月、本指針の策定時に開催していた研究会を再開し、関係者へのヒアリング等を踏まえ、本指針のアップデート等について検討する旨、公表した。その後、経済産業省が対象会社、買収者、投資家、アドバイザー等計22者にヒアリングを実施した結果、本指針の趣旨について不十分な理解や認識の乖離が生じている可能性が確認された。

      これらのヒアリングの結果等を受け、経済産業省は、同年7月、本指針のポイントおよびQ&Aを公表した。これらは、本指針の内容を維持することを前提として、その原則や留意点を分かりやすく示し、趣旨の正しい理解と実践を促すための文書である。経済産業省は、本指針の趣旨を広く周知・徹底し「望ましい買収」の更なる活性化につなげることを期待している。

      本稿では、本指針のポイントおよびQ&Aで示された実務上の要点や、今後考えられる論点を整理する。


      実務上押さえておきたいポイント

      第一に、買収価格は重要な判断要素であるが、価格の高さだけで「望ましい買収」に該当する訳ではない。「望ましい買収」とは、買収によって対象会社の企業価値が向上し、その増加分が適正な取引条件を通じて買収者と株主との間で公正に分配され、株主共同の利益が確保される買収をいう。

      もっとも、買収価格の重要性が低下した訳ではない。買収価格は買収者が見込む対象会社の企業価値向上を示す重要な要素である。例えば、全部買収を目的とする真摯な買収提案が複数存在する場合には、企業価値の向上に最も資する提案と、最も買収価格が高い提案は通常一致すると整理されている。両者が一致しないことは例外的であり、株主に対する説得力のある説明が必要となる。

      第二に、企業価値は「企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和」という定量的な概念である。従業員や取引先の貢献、サプライチェーンの強靱性、技術・情報の流出リスク、コンプライアンス等も、将来キャッシュフローや割引率への影響が合理的に見込まれる限り、企業価値の検討要素となり得る。

      ただし、測定が困難な定性的価値を過度に強調し、経営陣の保身を図るための道具とすべきではない。影響を可能な範囲で定量化し、定量化が困難な場合にも、将来キャッシュフロー等との関係について株主に対する説得力のある説明が求められる。ポイントおよびQ&Aは、買収防衛を容易にするものでも、価格以外の要素を無限定に考慮することを認めるものでもない。

      第三に、対象会社の取締役会は、具体性、目的の正当性および実現可能性を備えた「真摯な買収提案」に対して、真摯な検討を行う必要がある。買収後の経営方針、取引条件、買収者の資力・トラックレコード、許認可の見込み、企業価値向上策の実現可能性等を確認し、買収提案とスタンドアローンその他の戦略的選択肢を比較検討する。

      対象会社は、合理的な範囲で買収者に質問し、買収者は、シナジーやディスシナジー等の判断に必要な情報を具体的・定量的に回答することが期待される。


      今後考えられる論点

      今後、定性的な要素の定量化の方法と限界、企業価値向上策やシナジー・ディスシナジーに関する情報の収集・検証方法、最も企業価値の向上に資する提案と最も買収価格が高い提案が一致しない例外的な場面における株主への説明のあり方等が、実務上の論点となり得る。

      前述の研究会の委員からは、積極的マーケット・チェック、取引保護条項、公開買付け(TOB)の予告、フェアネス・オピニオン、アクティビストとPEファンドの連携の透明性等についても問題提起があったが、これらは研究会の直接の議論の対象ではない。問題の適否や結論には議論の余地があり、今後の議論の深化が期待される。


      まとめ

      ポイントおよびQ&Aは、新たに画一的な判断基準を設けるものではない。企業価値・株主共同の利益、株主意思、透明性という本指針の3原則に立ち返り、十分な情報収集と検討を行い、その判断過程を株主に説明する重要性を改めて示すものである。今後、法務・財務等の専門家を交えた精緻な検討が一層重要になると思われる。



      執筆者

      篠原 暁

      KPMG FAS 執行役員パートナー

      KPMG FAS

      上場企業のMBOを含む非公開化に向けて、初期的検討から実行支援までを提供し、経営の自由度向上と持続的成長を支援します。

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