1.中国のサーキュラーエコノミー政策
中国におけるサーキュラーエコノミー(循環経済)の方向性を定めたのは、2005年の「循環経済の発展を加速することに関する国務院の意見」となります。その後、第11次5カ年計画のなかに組み込まれて、国としての運営方針の一部となりました。当初は過去の5カ年計画の内容を引き継ぎ、どちらかというとエネルギーや水・土地を含む資源節約に重点を置いていましたが、徐々に資源の開発と節約を両立させながら、社会全体で循環経済を段階的に構築するための各種制度・取組みの実装を行ってきました。これは、経済成長に伴う資源制約への対応強化ともみなせるでしょう。
この循環経済は歴代の5カ年計画に一貫して組み込まれ、直近の第15次計画では、グリーン転換や2030年カーボンピークアウト達成に向けた手段として明確に位置付けられています。この方向性は、習近平政権が2012年から唱える「美しい中国の建設」のなかで述べられているように、生態・自然環境が改善・保護されて経済がグリーン転換されている状態が中国の目指す将来像であり、そのなかで循環経済は手段という位置付けであることが理解できます。
この点は、循環経済を社会目標として掲げるEUと本質的に異なるといえます。日本ほどではないものの、資源および材料を輸入に依存するEUと、資源・材料輸出国である中国との条件差が大きな要因であることは間違いありません。この資源を持つ国と持たざる国、および中国との関係性の大小という軸は、今後の循環経済にかかわる制度設計や国際ルールへの影響を考える上での重要な論点となるでしょう。
【図表1:5カ年計画における循環型経済の掲載個所】
2.循環経済に関する目標
循環経済にかかわる行動計画もしくはそれに類する方針は、第12次5カ年計画以降に発表されています※1。たとえば、第14次5カ年計画期間中の行動計画としては「第14次5カ年計画における循環経済発展規則」が2021年7月に発表されています。3つの重点任務と11の重点プロジェクトからなるこの規則は、定量目標として主要資源消費量当たりのGDP比率やリサイクル材料の生産量および資源の循環利用に関する企業の生産額などを規定しています。
この定量目標値のなかで農業・利水・エネルギー関連※2以外の推移を示しています(図表2)。主要資源消費量当たりのGDP比率および資源循環利用産業の産出額は共通ですが、それ以外の項目は徐々に達成指標が細分化しつつあることがわかります。現在制定中の第15次5カ年計画における循環経済規則では動力電池、太陽光パネル、風力発電のブレードが「新三様」として重点対象となる予定であり、品目ごとに循環の社会実装を進める方向性がわかります。
さらに、具体的なリサイクル材料の使用量/供給量は他国と比較して圧倒的な量となっています。たとえば、図表2に占める鉄スクラップ使用量の3.2億トンという数値は、世界全体の粗鋼生産量がおおよそ18億トンであることを考えるとその規模感がわかります。この圧倒的な規模感は他の材料系でも同様です。
中国の物資再生資源協会が2025年に発表した報告書では、中国の2023年のプラスチック弁当容器のポリプロピレン(PP)消費量は135万トン、樹脂への再生量は40万トン(約30%)でした。日本の2023年度の国内樹脂消費量が全体で843万トンであることを比較するとそのスケールがわかります。
一方、リサイクル材の使用義務化が製品単位で進んでいるEUのリサイクル業は、安価な域外リサイクル材との競合により、リサイクル設備容量の削減が2023年から2025年で100万トン進んだと報告されています。そのため、EUは域外リサイクル施設への監査義務や安価なバージン材をリサイクル材と偽って輸入することの防止措置など、さまざまな対策をとる予定です。リサイクル材と聞くと印象として地産地消という先入観を抱きがちですが、現実にはグローバルでの輸出入が経済合理性に基づいて行われています。
【図表2:各5カ年計画における循環経済にかかわる主要指標】
3.自動車産業への影響
循環型経済を「美しい中国の建設」の手段として捉える中国の方向性は明らかです。具体計画としては2025年12月に発表された「再生材料の応用普及促進行動案」が新しく、各種製品の材料循環にかかわる具体的な行動が記載されています。
たとえば、自動車に関係する点ではリサイクル材使用の奨励・普及するための基準、リサイクル材使用時のカーボンフットプリント計算法の制定の模索、トレーサビリティプラットフォームの構築、廃棄車の分別回収制度・精緻解体の推進、自動車OEMによるクローズドループのリサイクル奨励など、自動車のライフサイクル全体での取組みとなっています。また、取組み項目としては、筆者の知る限り他国で行われている政策や活動を網羅しています。
中国で進むサーキュラーエコノミーに関する制度形成は、もはや一国の資源循環政策としてのみ眺めるべきものではありません。規制化で先行してきたEUの動向を踏まえつつも、高い生産能力と強い執行力を背景に、要求事項の具体化と制度実装を一段と加速させる可能性があります。もしそこで形成された高水準のルールが、標準や取引要件として域外へ浸透していくならば、従来のEUがそうであったように、中国対応は単なる現地適応にとどまらず、今後の競争ルールそのものにかかわる論点となるでしょう。ゆえに、その帰趨は引き続き注意深く見定める必要があります。
※1:第11次5カ年計画の期間中である2009年に循環経済促進法が制定され、県級以上の人民政府が国民経済および社会発展計画および年度計画を編制する場合には、循環経済発展にかかわる内容が含まれなければならないと定めている。
※2:循環経済にかかわる主要指標のなかで単位主要資源当たりのGDP生産比率(主要資源産出率)がある。この主要資源にはエネルギー資源も含まれているが、表中には記載。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 伊藤 登史政