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      予測市場とは、将来のある事象に対してその結果を予測し、それぞれの結果に対応するコントラクト(イベント契約)を売買する市場のことです。この市場は、海外を中心に急速に広がりを見せています。

      イベント契約とは、特定の事象(イベント)が「発生するか、しないか」という2択の結果に基づく金融契約を指し、イベントの結果に応じてコントラクトの価値が決定されます。具体的には、実際に発生したイベントの結果と一致するコントラクトを保有している場合はあらかじめ定められた金額が支払われ、予測と異なる結果となった場合には、当該コントラクトは価値を失う仕組みとなっています。
      本稿では、予測市場の現在地を解説するとともに、今後の展望を考察します。

      なお、海外において普及が進んでいる金銭を伴う予測市場は、日本国内においては賭博に該当する可能性があります。本稿は、予測市場に関する一般的な情報および筆者の見解を述べることを目的とするものであり、いかなる形でもその利用を推奨する意図は有していないことをあらかじめお断りします。



      1.予測市場とは

      (1)概要

      予測市場とは、選挙や経済、スポーツやエンターテインメントなど、さまざまな領域において、将来発生する事象の結果を予測し、その結果に対応するコントラクトを売買する市場のことを指します。

      コントラクトの価格は0〜1ドルの範囲で推移し、その価格そのものが、市場参加者が考えるその事象の発生確率を示すと考えられます。たとえば、0.3ドルで取引されるコントラクトがあったとき、その時点における該当の事象の発生確率は30%と考えられていることを意味します。事象の結果が明らかになり、予測を的中させた場合には、保有するコントラクト1単位に対して1ドルが払い出され、反対に予測が外れた場合は、保有するコントラクトは価値を失います。

      【図表1:コントラクトの価格が推移して取引される例】
      Japanese alt text: 予測市場_図表1 出所:KPMG作成

      市場参加者は、対象となる事象に関するさまざまな情報を分析し、変動するコントラクトの価格を考慮したうえで、コントラクトを任意のタイミングで売買することができるため、単純に当たり外れを予測するギャンブルとは異なる性質を持っています。

      予測市場の概念自体は昔から存在していましたが、2024年の米国大統領選挙の結果を予測したことで、世界的に大きく注目を集めるきっかけとなりました。

      (2)仕組み

      予測市場では、基本的にある事象が発生するかという問いに対して、“YES” or “NO”の2択のコントラクトを売買します。1つの事象に対して複数の選択肢がある場合でも、各選択肢において“YES” or “NO”の2択のコントラクトが設定されます。前述のとおり、各選択肢のコントラクトの価格は、市場参加者が考えるその事象の発生確率を示すため、各選択肢の“YES”のコントラクトの価格の合計は1ドル、すなわち発生確率の総和が100%になるように設計されています。

      取引方式については、オーダーブック方式とAMM(Automated Market Maker)方式に大別されます。

      オーダーブック方式とは、株式取引所等と同様に、買い手と売り手が提示する価格と数量を板(オーダーブック)に並べ、価格が合致したところで取引が成立する方式です。流動性が十分にある市場では、スプレッドが小さくなり、効率的な取引が可能となります。一方で、参加者が少ない市場では板が薄くなり、希望価格で約定しないといった流動性依存の問題が生じ得るというデメリットがあります。

      AMM方式とは、買い手と売り手のマッチングを必要とせず、流動性プールを相手に取引を行う方式です。売り注文や買い注文が少ない状態においても取引を成立させることができるため、ニッチな事象においても市場を作ることができ、多くの事象を扱うことが可能になるというメリットがあります。

      (3)海外における法的整理

      米国では予測市場は規制当局の管轄下で「イベント契約(Event Contract)」として位置付けられ、規制された取引所が運営するスキームが確立されつつあります。

      一方で、賭博規制を所管する州法との関係や、政治イベントを対象とする市場の可否を巡り問題が起こっているのも事実です。また、対象とする市場の内容によっては、倫理的な観点でも問題視する声があります。欧州やアジアでも規制スタンスは国ごとに大きく異なり、グローバルでの統一ルールは存在していないというのが現状です。

      2.予測市場の代表例

      (1)Polymarket

      Polymarketは、Polygonチェーン上で稼働する、世界最大級の予測市場プラットフォームです。米ドルにペッグされたステーブルコインであるUSDCを取引媒体として用いるブロックチェーンベースの予測市場であり、2024年の米大統領選において取引高が数十億ドル規模に達し、選挙確率の参照先として主要メディアにも引用されるなど、社会的認知度が一気に高まりました。グローバルアクセス性が特徴であり、ウォレットを接続することで世界中の参加者が同一市場にアクセスできる点が、従来の中央集権型予測市場との大きな違いです。

      (2)Kalshi

      Kalshiは、米国の規制当局から正式に認可を受けた、米国初の規制に則ったイベント契約取引所です。法定通貨建てで運営され、KYC/AMLを完備し、機関投資家から一般投資家まで合法的にアクセスできる点を強みとして、Polymarketと並ぶ業界の2大勢力を形成しています。

      3.Web3.0との親和性

      予測市場において、ブロックチェーンやトークンの活用は必須ではないものの、親和性が高い部分がいくつか存在します。以下にその代表的な観点を整理します。

      【図表2】
      Japanese alt text: 予測市場_図表2 出所:KPMG作成

      (1)パーミッションレスな市場参加

      ステーブルコインを取引媒体とすることで、銀行口座を介さず、世界中の参加者が同一市場にアクセスできるようになります。これにより、地域的・属性的に多様な参加者からの情報が集約され、市場予測の精度が向上するとともに、流動性も国境を越えて確保されるという効果があります。

      従来の金融インフラでは、銀行口座の有無、地域ごとの決済システムの差異、為替変換の手間とコスト等が参加障壁となり、多くの参加者からの多様な視点に基づいた意見や情報を集めることに障壁がありました。ブロックチェーンとステーブルコインを活用することで、こうした障壁から解放された「グローバルに開かれた予測市場」を成立させる土台が整うと言えます。

      (2)スマートコントラクトによる自動化

      コントラクトの決済、結果の判定、払い戻しといったプロセスをスマートコントラクトに実装することで、運営者の事務作業や恣意的判断の介在を低減することが可能になります。

      事象の判定結果がオラクル経由でオンチェーンに書き込まれると、即座に払い戻しが実行されるため、運営コストの削減と、不正操作等の運営者リスクの低下が同時に達成されます。中央集権型の予測市場では避けられない「運営者への信頼性」を、コードによる自動執行に置き換えられる点が、ブロックチェーン活用の大きな特徴と言えます。

      (3)データの透明性

      取引履歴や払い戻し処理がオンチェーンで公開されており、誰でも検証可能となります。従来のブックメーカーや中央集権型プラットフォームにおける「ブラックボックス問題」を解消する点で、予測市場にブロックチェーンを活用することの優位性と言えるでしょう。

      メディアや研究機関が予測市場のオッズを引用・分析する背景には、このデータの公開性と検証可能性があり、運営者の恣意的な操作の余地が少ないということが、信頼の根拠となっています。

      (4)クロスプラットフォームによる新たな価値創造

      ブロックチェーン上の予測市場は、それ自体が独立したサービスに留まらず、他のオンチェーンプロジェクトとの組み合わせによる新たな価値創造の可能性を秘めています。

      現時点でも、Solana上のDeFiプラットフォームであるJupiterがPolymarketを統合し、同プラットフォーム上で予測市場の展開を可能にするなど、Web3.0エコシステム内での予測市場の普及が進んでいます。これにより、たとえば、予測市場で予測を的中させ、獲得したステーブルコインを次の関心のある事象の市場が立つまではDeFiで運用するなど、プラットフォームを超えた効率的な資金運用が可能となります。

      将来的には、オンチェーン予測市場におけるデータを活用したスコアリングやレンディング等の新たなサービスが登場してきてもおかしくありません。これは、ブロックチェーンという共通基盤の上で展開されることで可能となり、予測市場が単独のサービスを超えて、より大きな金融インフラの構成要素として機能していく可能性を秘めていると言えます。

      4.予測市場の意義

      (1)集合知の実現

      予測市場では、参加者が自らの予測に金銭を投じるため、単なる人気投票や無責任な発言とは異なり、情報の正確性と確信度を価格に反映させるインセンティブが働きます。結果として、専門家による予測や世論調査よりも高い精度を示すケースが、過去の選挙や経済指標で繰り返し観察されており、集合知を集約するプラットフォームとして機能する点が注目されています。

      特に昨今では、生成AIの普及により、情報の真偽を見分けることが難しくなる傾向にあり、不正確・不確実な情報が氾濫しています。そのような状況下で、予測市場では投じられた金銭に裏付けられた情報に対して、相対的に高い信頼性があると考えられます。AIによってあらゆる情報が安価に量産可能になった時代において、「人間の資金を賭けて表明された確率」が持つ情報的価値は、相対的に高まっていく可能性があります。

      (2)認知の拡大

      予測市場には、認知の拡大というマーケティングの側面も持ち合わせていると考えられます。つまり、予測市場の普及によって、取引される事象自体への関心を喚起するという効果も想定できるということです。

      たとえば、スポーツやエンターテインメントの領域では、予測市場のテーマとして扱われることで、試合やコンテンツへの注目度を高めることが考えられます。また、政治の領域においても、予測市場を入口として、投票や政治参加への関心を高めるきっかけにもなり得ます。

      予測市場自体に熱量が集まれば集まるほど、そこで取引される事象に対しても、熱量が伝播していく可能性が生まれ、新しい形のマーケティングになり得るでしょう。

      (3)ヘッジ取引

      予測市場は、選挙結果、規制変更、スポーツイベントなど、従来の金融商品ではヘッジしづらいリスクに対する保険機能を提供し得るという側面も持っています。たとえば、選挙結果次第で業績が左右される企業にとって、関連コントラクトを購入することは合理的なリスク管理手段となります。

      このようなヘッジ手段としての側面により、実需としての利用可能性が広がっていくと考えられます。予測市場が単なる投機ではなく、企業や個人のリスク管理インフラとして機能していく可能性は、今後の予測市場の社会的位置付けを大きく変えていく重要な論点となるでしょう。

      5.日本における予測市場の現在地と今後の展望

      (1)法的整理

      日本では、金銭を賭けて将来の事象の結果を予測する行為は、刑法第185条以下に規定される賭博罪に該当する可能性が極めて高いと考えられます。
      日本の刑法における賭博罪は、以下の3つの要件のいずれをも満たすことで成立します。

      • 「偶然の勝敗」:勝敗の結果が、当事者にとって不確実な事象に左右されること。
        当事者の技量や能力だけでなく、偶然の要素が結果を左右する場合に該当します。予測市場における将来事象の予測は、この要件に該当する可能性が高いと考えられます。

      • 「財物の拠出」:当事者が、勝敗の結果に応じて得失が生じる財物を拠出すること。
        金銭や金銭的価値を持つ財物を賭けることが該当します。予測市場におけるコントラクトの購入代金は、この財物の拠出にあたると考えられます。

      • 「得失の争い」:当事者間で財物の得失が生じる関係にあること。
        勝者が財物を得て、敗者が財物を失うという構造が存在する場合に該当します。予測市場における払い戻しの構造は、この得失の争いに該当する可能性が高いと考えられます。

      賭博は公営競技や宝くじのように個別法による例外が設けられているものを除き、原則として禁止されているため、海外の予測市場と同等のスキームを国内で展開することは現行法上困難な状況です。加えて、コントラクトの法的性質(金融商品か否か)も明確でなく、金商法・商品先物取引法等との関係整理も今後の論点となるでしょう。

      (2)国内における事例

      日本において純粋な予測市場の展開は困難な状況にあるものの、賭博に該当しない形で予測市場を展開する動きも見受けられます。

      • Polymarket Japan

        予測市場の代表例であるPolymarketが日本での普及を計画しています。今回の日本展開にあたっては、国内の法規制に準拠するため、ベッティング機能を持たない閲覧専用の形態をとっており、予測市場という新たなメディアを日本国内で普及させていく意向が表明されています。

      • ヨソクヒロバ

        株式会社gumiが手がける予測市場の取組みです。誰もが無償で予測への参加が可能であり、予測が当たったユーザーに対し報酬(特典ポイント)を付与する仕組みが予定されています。金銭を直接賭けない設計により、日本の現行法の枠内で予測市場の体験を提供する試みとなっています。

      • Signals

        人材評価・教育サービスを展開するInstitution for a Global Society株式会社とWorld IDを展開するTools for Humanityによって構築される金銭を賭けない予測市場プラットフォームです。
        このプラットフォームでは蓄積された個人の予測力の、採用や人材評価などの幅広い場面での活用や、予測データの企業内の意思決定への活用を目指しています。
        また、プラットフォームへの参加には実在する人間であることが証明されることで発行されるWorld IDが必要であり、ボットなどの不正な市場操作を排除する仕組みを導入している点が特徴的です。

      (3)今後の展望

      国内でベッティングが禁止されている以上、海外で展開されているような予測市場を日本で展開することは困難であり、賭博に関する法規制の改革は容易ではないでしょう。

      ここで重要なのは、金銭を賭ける予測市場とそうでない予測市場は、市場参加者に対するインセンティブの強さが異なるため、全くの別物であるという認識です。そのため、両者においては本来予測市場が持つ意義のなかでも、重要なポイントの比重が変わってきますし、それに応じたビジネスの設計が必要となります。たとえば、集合知の実現という観点では金銭的インセンティブの有無が予測精度に大きく影響しますし、ヘッジ取引という観点では非金銭型では本来の機能を果たせません。一方で、認知の拡大という観点では、必ずしも金銭が介在しなくとも一定の効果を発揮できる可能性があります。

      日本で予測市場を展開しようとする場合は、金銭を賭けない予測市場の展開が現実的であるため、賭博に該当しない形式での予測市場において、どのようなビジネス展開が適しているのかは検証が必要と考えます。

      または、デリバティブ取引のように金融の規制の枠組みのなかで予測市場を展開するという選択肢もあるでしょう。もちろん、この方向性での展開のハードルは高いですが、賭博に関する規制が緩和される可能性が低いことを鑑みると、日本で予測市場をスケールさせるためには金融規制の枠組みのなかでの展開可否がカギとなるかもしれません。

      6.まとめ

      予測市場は、将来の事象に対する集合知を価格として集約する、新しい情報・金融インフラとしての可能性を持っています。

      日本においては賭博規制との関係から、海外と同様のスキームの展開は困難な状況ですが、予測市場が実需での活用を含めたさまざまな意義を持つ点は、単なるギャンブルとは一線を画すものとなります。

      予測市場をどう捉え、どう活用していくかは、今後のAI・Web3.0時代の情報・金融インフラを構想するうえで、重要なテーマの1つとなっていくでしょう。今後の制度設計、ビジネス展開、技術的進化のいずれにおいても、健全な議論が深まっていくことを期待しつつ、引き続き注目していきたいと思います。

      ※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      シニアコンサルタント 佐藤 憲信

      「Web3.0~ブロックチェーンが支えるインターネット上の新しい世界観~」第11回

      2021年、NFTの熱狂によって盛り上がりを見せたWeb3.0。本記事では、2025年時点の現在地について理解を深めるとともに、この先の未来を標榜します。

      デジタルの世界にとどまらず、日常生活やビジネスへの活用が進むWeb3.0。社会で起こっていることに焦点を当てながらその展望について考察します。

      KPMGジャパンは、ブロックチェーンやスマートコントラクトを基盤とするWeb3.0の活用に関する顧客ニーズの拡大に対応するため、「Web3.0推進支援部」を設置しました。

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      KPMGコンサルティング

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