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      「公共分野におけるデジタル化の潮流」第13回の「公共分野における生成AIの利活用の深化」で解説したように、生成AIの利活用は、技術的限界を踏まえた出力の制御や、コンテキストエンジニアリングを通じた実効性の最大化といった「深化」のフェーズへと移行しつつあります。そして今、その先にあるテーマとして注目されているのが、生成AIが「回答支援」から「業務遂行」へと役割を広げる「AIエージェント」です。

      公共分野においても、2025年9月の「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下、AI法)の全面施行、および2025年12月の「人工知能基本計画」(以下、AI基本計画)の閣議決定を受けて、政府自らが先導的に生成AIを利活用する方針が示されました。2026年5月には、生成AI利用環境「源内」の府省庁職員約18万人を対象とする大規模実証も開始され、その先のフェーズでは「エージェントAIの導入」が政府方針として明確に位置付けられています。

      本稿では、公共分野におけるAIエージェントの導入・活用に向けて、その基本概念と検討要素を整理したうえで、行政業務への適用イメージを示し、さらにAIエージェント時代に求められる業務プロセスと組織の再設計のあり方を考察します。



      1.「回答支援」から「業務遂行」へ:AIエージェントが拓く行政業務の新たな地平

      公共分野における生成AIの利活用は、これまで主として職員からの問いかけに対して回答を返す「回答支援型」の使い方を中心に進められてきました。文書の要約、文案の作成や調査の支援などが代表的な活用例として挙げられ、職員の業務を補助するかたちでの活用が進んでいます。

      これに対し、AIエージェントは、目標を与えられた後、自ら計画を立て、ツールを操作し、結果を検証しながら、目標達成までのプロセス全体を能動的に進める「業務遂行型」のシステムです。これは、生成AIの位置付けが、質問に対して受動的に応答する役割から、業務そのものを能動的に担う役割へと変わることを意味します。

      このような流れのなかで、政府の取組みも次の段階へと移行しつつあります。2025年9月にAI法が全面施行され、同年12月にはAI基本計画が閣議決定されました。2026年5月から2027年3月までの期間にかけて、デジタル庁が全府省庁約18万人の政府職員を対象に、ガバメントAIの基盤となる生成AI利用環境「源内」の大規模実証を実施しています。さらに、2027年度には源内の本格的な利用開始が予定されているほか、デジタル庁は今後の施策として「エージェントAIの導入」を掲げています。

      これらの動向は、公共分野における生成AIの利活用が、職員の作業を部分的に補助する段階から、一連の業務をAIエージェントが包括的に遂行する段階へと進んでいくことを示唆しており、行政業務における生成AIの利活用範囲は今後一層広がっていくと考えられます。

      2.AIエージェントの基本概念と検討要素

      (1)AIエージェントとは何か

      AIエージェントとは、与えられた目標を達成するために、状況を把握し、推論し、行動を選択して実行し、その結果を評価しながら次の行動を決定するという一連のループを自律的に繰り返すシステムです。従来の生成AIが人間の問いかけに対して一回限りの応答を返すのに対し、AIエージェントの特徴は、「目標→計画→実行→検証→修正」というサイクルを通じて、業務全体を一貫して遂行する点にあります。

      (2)AIエージェントの自律度のレベル

      AIエージェントの自律度は、「自律型か非自律型か」という二分法ではなく、業務に人間がどの程度関与するかに応じて、段階的に捉えることが望ましいと考えられます。具体的には、すべての判断・実行を人間が担う「完全人手」から、AIが提示した結果を人間が一つひとつ確認する「部分自律」、定型的な処理は自律的に進めつつ重要な判断のみ人間が確認する「監督下の自律」、そして人間の介入なく業務を完結させる「完全自律」へと、段階的に整理することができます。

      特に行政業務においては、判断の公平性や説明責任が厳格に求められ、最終的な責任を人間が負う必要があることから、現時点では「監督下の自律」が中心となると考えられます。すなわち、行政としての判断や対外的な決定など、結果が不可逆となる処理には人間の承認を組み込む一方、情報の収集・整理や素案の作成などの処理はAIエージェントに委ねるという、業務リスクに応じて人間とAIエージェントの役割を切り分ける設計が求められます。

      (3)AIエージェントを支える3つの要素

      AIエージェントの動作は、基盤となる言語モデルだけで決まるものではなく、それを取り囲み、実際に動作させるための層によって規定されます。この層は「ハーネス」(Harness:馬具を指す語で、言語モデルなどが業務を安定的に遂行できるように、想定外の動作を防ぎ、必要に応じて行動を中断・修正できるようにするための仕掛けのことを指す)と呼ばれ、AIエージェントの挙動を望ましい範囲に保つための「制御(Control)」、AIエージェントに許された行動範囲としての「自律性(Agency)」、その動作を実際に成り立たせる「実行環境(Runtime)」という3つの要素※1に分解できます。本稿では、この3つの要素からAIエージェントの動作の中身を説明します。

      • 制御(Control)
         AIエージェントの行動範囲や権限、参照可能な情報、失敗時の挙動などを規定し、それらを人間が意図する範囲に保つための仕組みです。AIエージェントの自律性を活かしつつ、その動作が想定された境界を越えないよう、いわばガードレールとして機能します。行政業務には、機密性の高い情報の取扱い、結果が不可逆となる処理、複数組織にまたがる権限関係など、AIエージェントの動作を厳密に管理すべき場面が多く含まれます。制御の設計は、こうした場面で特に重要となります。

      • 自律性(Agency)
        人間が定めた範囲のなかで、目標に対して自ら計画を立て、状況に応じて行動を選択し遂行する能力です。前述の「目標→計画→実行→検証→修正」のサイクルを駆動する中核となります。前述の自律度の4段階のように、AIエージェントにどこまでの判断を任せるかを業務ごとに見極めることが、自律性の設計の要となります。

      • 実行環境(Runtime)
        AIエージェントが業務を進めるなかで、その実行時の挙動を支える仕組みです。具体的には、対話履歴の圧縮や状態の保存、失敗時の再試行や巻き戻し、承認フローの実行、動作の記録など、長時間・多段階の動作を安定的に続けるために必要な処理が含まれます。

      これらの要素がバランスよく整備されることで、AIエージェントは単発の応答にとどまらず、複数の手順を要する業務をワンストップで進めることが可能となります。なお、業務の規模や複雑性に応じて、専門領域ごとに役割を分担した複数のAIエージェントが連携して業務を担う構成も想定され、業務の性質に応じた柔軟な設計が求められると考えられます。

      前回の第13回で取り上げたコンテキストエンジニアリングの構成要素(プロンプトエンジニアリング、RAG、メモリー機構、ツール・オーケストレーション)も、こうしたAIエージェントの実装を支える重要な技術ですが、AIエージェントを安定的に稼働させるためには、それに加えて本稿で述べた「制御」「自律性」「実行環境」という3つの要素を整備していくことが求められます。

      3.AIエージェントの行政業務への適用イメージ

      それでは、AIエージェントが実際の行政業務でどのように機能し得るのか、ユースケースを通じてイメージを具体化します。なお、ここで取り上げるユースケースは、AIエージェントの活用イメージを具体化するために、一般的な業務を例として整理したものであり、AIエージェントの適用範囲は、組織や業務の特性に応じて適用範囲は多様に考えられます。

      【AIエージェントを組み込んだユースケースのイメージ】
      Japanese alt text: 公共分野におけるAIエージェントの利活用と行政業務の変革_図表1 出所:KPMG作成

      定例会議の運営から資料作成までの一連の支援(例)

      審議会や検討会などの定例会議の運営に伴い、職員は議事録の作成、対応事項の整理、次回会議に向けた資料準備に多くの時間を割いています。これらの業務は、関連情報の参照や関係部署とのやり取りに伴う準備など複数の工程を要し、AIエージェントによる支援に適した領域と考えられます。

      具体的には、会議の終了後、AIエージェントが会議の文字起こしを取得し、過去の議事録、関連資料、チャットでのやり取り、所属組織の規程・通達と照合しながら、その回の論点・対応事項などを抽出します。続いて、抽出された対応事項に応じて、関連情報の調査、過去の類似ケースの参照、関係部署への照会メールの文案作成、次回会議の資料素案の作成までを、複数のAIエージェントが役割を分担して進めます。職員は、完成した素案の妥当性を確認し、必要な修正・補強を加えたうえで、その修正版を再びAIエージェントが参照可能な情報として蓄積します。

      従来は、これらの作業を職員が限られた時間のなかで担ってきました。AIエージェントが情報整理・突合・素案作成の工程を担うことで、職員は、作業結果の妥当性を確認し、最終的な判断・補強を行うレビュアーとしての役割を担うようになります。さらに、議事録・対応事項・資料素案が一貫した形式の情報として蓄積されることで、組織としての意思決定の経緯や判断根拠が継続的に記録され、後任者への引き継ぎや、過去の判断との整合性確認が容易になるという副次的な効果も期待できます。

      このユースケースが示唆するのは、AIエージェントの活用が、人間の役割そのものの再定義をもたらすという点です。従来は職員が担っていた「情報の収集・整理・素案の作成」といった業務がAIエージェントに移行する一方で、職員は業務フロー全体の設計、作業結果に対する判断・承認、そしてAIエージェントの運用における継続的な改善といった、より上流の役割を担うようになります。

      加えて、業務の節目ごとに人間の判断・承認が組み込まれている点も重要です。最終的な判断・責任を人間が引き続き担う構造が維持されており、これは行政業務における説明責任の確保という観点から、重要な設計上の前提と言えます。

      このような役割の変化と責任構造の維持を両立させるためには、業務プロセスの再設計、組織における人材配置や職員の育成方針にまで踏み込んだ見直しが必要になると考えられます。次章では、こうした観点を踏まえ、AIエージェントの利活用において求められる業務プロセスと組織の再設計について考察します。

      4.AIエージェント時代に求められる業務プロセスと組織の再設計

      AIエージェントの利活用効果を引き出すためには、技術面の整備だけでなく、業務プロセス、組織体制、責任構造とガバナンスのあり方を併せて見直すことが不可欠と考えられます。

      (1)業務プロセスの再設計

      AIエージェントを活用する際に、既存の業務フローをそのままに、その一部にAIエージェントを導入するケースが見られます。しかし、この場合、業務の全体構造はAIエージェントの特性を踏まえて設計されていないため、個別の作業時間が短縮されても、全体の業務効率や品質には十分な改善が見られない可能性があります。

      AIエージェントの利活用効果を引き出すためには、その能力と特性を前提として、業務フロー全体を設計し直すアプローチが求められます。鍵となるのは、人間が果たさなければならない役割を明確に定義し、それ以外の工程をAIエージェントに委ねるという発想の転換です。

      最終的な判断・承認、説明責任を伴う意思決定、政策的な文脈の解釈など、人間が引き続き担う必要のある領域を特定したうえで、それ以外の情報の収集・整理・素案作成といった工程をAIエージェントに任せ、人間がどのようなかたちで作業結果を検証し、その結果をAIエージェントにフィードバックするかを、業務全体を俯瞰しながら再構築する視点が求められます。

      (2)人間とAIエージェントの役割の再定義

      AIエージェントの活用は、従来の業務分担構造に対する根本的な見直しを促します。従来は職員が担っていた「作業の遂行」がAIエージェントに移行することに伴い、人間の役割は主に、業務フローやAIエージェントの設計、作業結果の判断・承認、そして運用実績を踏まえた継続的な改善などに集約されていくと考えられます。

      これは、組織内の役割分担にも変化をもたらし得るものです。たとえば、これまで若手職員が担ってきた資料作成や情報整理といった作業の多くがAIエージェントに移行する場合、若手職員は作業結果に対する一次レビュアーとしての役割を担い、より上位の職員は最終承認や業務設計の判断を担うといった、業務分担の再構築が必要になり得ます。

      AIエージェントを使いこなすうえで求められる素養として、作業結果が正しいかを判断する力、AIエージェントを業務に組み込む設計力、AIの限界・特性を理解して使いこなす視点などが挙げられますが、これらは従来の職員研修では十分に体系化されていない領域であり、人材育成の観点からも検討を要すると考えられます。

      (3)Human-in-the-Loopの組み込みと責任の所在の明確化

      行政業務においては、判断の公平性や説明責任が厳格に求められ、最終的な責任を人間が負う必要があります。したがって、AIエージェントの活用にあたっては、業務フローのなかに人間の確認・承認を適切に組み込む「Human-in-the-Loop」の設計が不可欠となります。

      ここで重要なのは、すべての処理に画一的に人間の確認を要求するのではなく、業務リスクに応じて承認の粒度を段階的に設計することです。行政としての判断や対外的な決定など、結果が不可逆となる処理については、人間が確認すべき箇所を見極め、明示的な承認を組み込む必要があります。

      同時に、情報の収集・整理や素案の作成など、リスクの低い処理についてはAIエージェントに委ね、職員の確認負担が過大にならないよう配慮することも求められます。この設計を通じて、AIエージェントの能力を活かしながら、行政としての説明責任と判断責任を担保する仕組みを構築できると言えます。

      (4)AIエージェント・ガバナンスの設計

      AIエージェントの活用にあたっては、その動作を組織の意図する範囲に保つためのガバナンス設計が欠かせません。AIエージェントは、組織内の機密情報や、業務システムや各種ツールなどを能動的に操作する特性を持つため、従来の生成AIに対するガバナンスとは異なる観点での統制設計が必要となります。

      具体的には、AIエージェントに付与する権限を業務遂行に必要最小限の範囲に限定する「最小権限の原則」、AIエージェントが行ったすべての行動を事後検証可能なかたちで記録する「監査ログの整備」、想定外の挙動や閾値超過を検知した際の「エスカレーションルールの整備」が、ガバナンス設計の基本要素として挙げられます。

      他方、過度に厳格な統制は、職員が組織の管理下にないかたちでAIを利用する「シャドウAI」を誘発するリスクがあります。利活用と統制のバランスを取りながら、職員が安心してAIエージェントを有効活用できる環境を整えることが、組織として求められることになります。

      5.人間とAIエージェントが協業する未来に向けて

      公共分野におけるAIエージェントの利活用は、生成AIが行政業務で担う役割を「回答支援」から「業務遂行」へと広げ、業務効率化の枠を超えた本質的な業務変革をもたらす可能性を秘めています。一方で、その効果を真に引き出すためには、AIエージェントという技術を理解することに加えて、業務プロセスの再設計と組織のあり方の見直しを並行して進めることが必要です。

      ガバメントAIの基盤整備が進み、AIエージェントの実装に向けた検討が政府レベルで本格化していくこのタイミングで、その受け入れに向けた準備に着手することが各組織に期待されます。AIエージェントは「業務を担う新たな存在」として組織に組み込まれていくものであり、その受け入れ態勢の整備こそが、利活用の成否を分ける要素になると考えます。

      その先に描かれるのは、AIエージェントが情報の収集・整理・素案作成といった業務を担い、職員が業務全体の設計や最終的な判断・改善に注力するように、人間とAIエージェントが役割を分担しながら協業する行政の姿です。この変化は単一の技術導入によって実現できるものではなく、業務・組織・技術の各層を通じた地道な取組みの積み重ねによって、徐々に現実のものとなるはずです。

      ※1 Preprints.org(He, C., Zhou, X., Wang, D., Xu, H., Liu, W., & Miao, C.)「Harness Engineering for Language Agents: The Harness Layer as Control, Agency, and Runtime

      ※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標の場合があります。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      シニアコンサルタント Lee Dongyeon(イ ドンヨン)
      コンサルタント 鈴木 爽太郎

      「公共分野におけるデジタル化の潮流」第13回

      生成AIの利活用の効果を引き出すためには避けては通れない技術的限界を整理し、生成AIの利活用や実装に向けた示唆・ポイントを紹介します。

      公共分野における各種施策やデジタル技術、分野別のユースケース等さまざまなテーマについて国内外の事例やトレンドを交えて解説します。

      デジタルソリューションを活用し、公的機関全般に対し、各種コンサルティングサービスを提供します。

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      KPMGコンサルティング

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