本連載は、2026年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
不確実性が増す自動車業界
本稿では、現状の自動車業界を端的に示す指標として、「第25回KPMGグローバル自動車業界調査2025」の結果を確認し、AIを起点にした事業のあり方について考察します。
「今後5年間で起こり得る変化」を問う設問に対し、従来型自動車メーカーが競争力を取り戻すとの回答は69%、新興企業が業界の主導権を握るとの回答は68%でした。従来型自動車メーカーの復権と新興企業の躍進という相反する未来像に対して、ほぼ同じ割合の回答が並ぶ結果となりました。この結果は、誰が次の主導権を握るかは、環境変化への向き合い方と実行力に左右されるということを示しています。
欧州、米国、中国といった海外市場では要因はさまざまですが、不確実性と複雑性がますます高まっています。欧州では電動化に向けた過度な規制への対応が自動車メーカーの重荷となっており、米国では保護主義のもと、生産拠点の自国回帰を促す圧力が強い状況です。中国では価格競争が激化し、レッドオーシャン化が進んでいます。勝敗を分けるのは、どの市場・領域に投資し、資源をどう配分するかだと言えるでしょう。
ゲームチェンジャーとしてのAI(人工知能)活用への期待
電動化や地政学リスクに加え、テクノロジーへの対応も重要です。とりわけAIは「事業の再設計」としての活用に踏み込めるかどうかが、競争軸となるでしょう。こうしたAI活用では、欧州、米国、中国の取組みに、それぞれ特徴が見えています。
欧州では、AIを車両ソフトウェアの軸として事業基盤に位置付けるものの、その領域では新興企業などとの協業を積極化しています。他方でモビリティサービスへの実装を前倒しし、「車のAI」から「交通・運行のAI」へと射程を広げつつあります。提供価値の単位を移動体験へ移し替える狙いと言えるでしょう。
米国では、車載機能で培ったAIを起点に対象領域を広げようとしています。自動運転やロボタクシーで収益とデータを確保しつつ、磨いたAIスタックをロボティクスに横展開し、製造・サービスを横断して最適化することで、製造産業の変革を狙う様相を呈しています。
中国では、AIの大衆化とスピードで競争の次元を押し上げる状況が見られます。車内空間をAIデバイスとして再定義し、提供機能を低価格帯まで拡張しつつ、ヒューマノイドロボットやドローンなどの低空経済の領域への技術転用を進めています。
一方で日本の現状のAI活用は、業務効率化やコスト削減に重心が置かれがちですが、AI活用によって産業構造を変え競争力の向上を目指すという気概をもって、自社の事業を再設計することが重要です。
「目指す事業像」と「劣後しないための必須要件」を切り分け、内製で対応する領域と外部活用の領域を線引きし、早期に汎用化する領域は自前にこだわらないという判断も鍵となります。まずは、AIを起点に事業のあり方をどう再定義するのか――どの価値をどのように提供して収益を生み、どういう単位で顧客と関係を結び直すのか――を定める必要があると筆者は考えます。
日刊自動車新聞 2026年4月23日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
執行役員 パートナー 犬飼 仁