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      1.はじめに

      欧米を筆頭に、アジアでも広まってきた通信インフラシェアリングについて、日本においても、次世代通信を早期に普及させる手段として注目されています。筆者も十年以上にわたって欧米、アジアのインフラシェアリングビジネス(タワービジネス)の動向を追っているなかで、日本企業にとっての商機を述べてきました。

      ご参考:「タワービジネスは日本企業の商機となるか」(KPMG)

      しかし、先行していた国外のインフラシェアリング業界では、近年になってさまざまな不協和音が聞こえてくるようになりました。いま、国外のインフラシェアリングで何が起こっているのか、現状を踏まえたうえで、日本企業がそこから何を学べるか整理したいと思います。

      2.国外の通信インフラシェアリングで起きている不協和音2つの事例

      (1)欧州におけるカーブアウト型タワー会社のケース

      欧州では2010年代半ば以降、通信キャリアの資金調達手段として、タワー(通信鉄塔など)をカーブアウト(切り出し)してタワー会社を設立し上場させる事例が複数発生しました。カーブアウトしたあとも親会社である通信キャリアとは資本関係が残り、親会社からの安定的なテナント収入が長期にわたって見込まれていました。それゆえ、子会社であるタワー会社も株式市場で高く評価されてきました。

      しかしながら、時間の経過とともに、通信キャリアが子会社であるタワー会社の株式を売却するようなケースがあり、また、逆に親会社であった通信キャリア側がM&Aによりオーナーが変わるケースがでてきました。その結果、もともと親密であった通信キャリアとタワー会社に資本関係がなくなり、新たに着任した通信キャリアの経営陣により、タワー会社へのテナント料支払いを厳しく精査されるようになっています。なかには、リース契約で定められた期間をまたずに早期解約を実行に移す事例が発生しています。

      (2)欧米における通信キャリア撤退と統合のケース

      欧米では通信キャリアが事業撤退をしたり、事業会社間が合併したりすることで、タワー会社にとってのテナントになる通信キャリアの数が減少するケースが複数発生しています。

      欧州の通信会社は消費者便益のためには価格競争だけではなく、通信品質の向上やイノベーションにも目を向けるべきだと主張するようになってきています。その投資余力を生むためにも、通信キャリア間の合併のルール見直しを訴えています。つまり、これから新たな通信キャリアを増やして価格競争をさせるよりも、通信キャリアの撤退や合併により通信キャリアの数を減少させる方向に向かう可能性が高くなっています。

      通信キャリアの撤退や合併により、タワー会社とのリース契約は早期解約されることになり、一部では解約を巡って紛争に発展するケースもでてきています。

      3.見えてきたタワービジネスの「4つの事業リスク」

      アメリカや中国のように国土が広い国では1990年代からインフラシェアリングモデルが発展してきましたが、欧州やアジアでは2010年代にLTEに移行するタイミングで資金需要が発生したことから、タワーの売却やインフラシェアリングのビジネスモデルが発展してきました。

      欧州、アジアでタワービジネスが勃興したこの15年の歴史で見えてきた事業のリスクは以下のようにまとめることができます。

      (1)通信キャリアに依存した収益構造

      多くのタワー会社がIoTによるスマートシティなど付帯ビジネスに力を注いでいますが、収益の大半を占めるのが通信キャリアからのテナント収入(リース料)です。したがって、通信キャリアがリース更新のタイミングで解約したり、通信キャリア同士が合併する場合はテナントが減少することになり、致命的な収益インパクトがあります。ほとんどの国で3社~5社程度しかいない通信キャリアに依存したビジネスモデルであることは改めて認識が必要です。

      (2)コスト増をテナント料へ価格転嫁しにくいこと

      通常、通信キャリアとタワー会社のリース契約ではテナント料は物価上昇率(CPI)に応じた金額の見直しが認められています。電気代の上昇も通信キャリアに転嫁するケースが多いものの、鉄塔等のメンテナンスをする人件費がいずれの国も上昇傾向にあり、タワー会社の減益要因になります。また、多くのタワー会社はタワーを新規構築、買収する際に多額の資金調達をしており、世界的な金利上昇がタワー会社の収益を圧迫しています。さらに、最近では、タワー会社が鉄塔を建てた土地の地主から土地の所有権を買い取り、タワー会社に高い使用料を請求するビジネスモデルが登場しています。

      タワー会社はさまざまなオペレーション費用の上昇リスクを抱えていますが、通信キャリアに請求できるテナント料に転嫁できる額は限られていると見られます。

      (3)衛星通信の急激な成長

      昨今の衛星通信サービスの発展は、タワービジネスが急成長した2010年代に予測することはできませんでした。タワービジネスの成長シーンの1つは、通信困難地域をインフラシェアリングにより通信キャリアの負担を軽くしてエリア化するところにありました。しかし、キャリアの電波が届かない圏外では衛星通信がダイレクトに消費者の端末がつながるようになった今、通信キャリアは通信困難地域のエリア化にどこまでコストをかけるかをシビアに判断するようになってきています。さらに、欧米では通信キャリアが衛星通信活用の高度化に向けて連携する動きもあります。

      (4)キャリア間の基地局共用技術の高度化

      日本においても通信キャリア間でジョイントベンチャーを設立して基地局を共有する営みは始まっています。5Gの新規基地局だけでなく、LTEを含めた基地局資産の相互利用についての検討も進められています。今後も基地局共用技術については通信キャリアや通信機器ベンダーでの検討が進むものと考えられます。

      4.国外の不協和音から学ぶべき日本企業への示唆

      (1)通信キャリアにとっての学び

      • インフラ調達の適材適所化
        海外の多くの国で見られるように、気がつけばタワー会社へのテナント料支払いが莫大な固定費となってしまうのを避けなければいけません。通信困難地域の解消にむけては、衛星通信での代替や通信キャリア間での協調により実現ができないか、タワー会社を活用するか、より慎重に検討することになるでしょう。
      • 最先端通信の拡張と災害対策のパートナーシップ
        通信キャリア間の協調の結果、5Gや先端通信技術への投資が抑制されていると見られれば、消費者や行政からの視線は厳しいものになります。高周波数帯の基地局を早期に拡張するためにタワー会社は引き続き有力なパートナーです。また、災害が甚大化する昨今において、ネットワークインフラを維持するパートナーとしてもタワー会社と長期的関係の構築が必要ではないかと思われます。
      • 経済安全保障と契約のガバナンス
        欧州におけるカーブアウト型タワー会社のケースが示すように、タワー会社はM&Aによって外資系ファンドや他国の事業者に所有権が移り、後日のトラブルの要因になる可能性があります。自社の重要通信設備が適切に守られるか、契約解除や買収時の拒否権など、リース契約の文言には経済安全保障の観点からも細心の注意を払う必要があります。

      (2)タワー会社にとっての学び

      • 「不動産貸し」から「アクティブインフラパートナー」への脱皮
        鉄塔のスペースを貸すだけのビジネスモデルは、衛星通信やキャリア間の独自共用技術に代替される可能性があります。今後は、AI-RANのための処理基盤(MEC)、基地局のグリーン電源供給、バックホール回線の提供など、キャリアの次世代ビジネスに不可欠な「付加価値」を提供する能動的なパートナーへの進化が求められます。
      • キャリアの環境変化に耐え得る柔軟な契約設計
        インフレや金利上昇リスクを負いつつも、テナント料の過度な引き上げは海外事例のとおり通信キャリアの離反を招きます。CPIへの単純連動ではなく、省電力化の貢献度合いや、AIトラフィックの処理量に応じた柔軟なSLA(サービス品質保証)型の価格体系の導入など、キャリアとのWin-Winを探る契約モデルの模索が必要となるのではないでしょうか。
      • 業界再編(M&A)を前提とした事業計画
        中長期的に日本のキャリア数がどう変遷するかは不透明です。特定のキャリア1社に依存しないテナント獲得戦略や、キャリア統合が起きた際の解約リスクを最小限に抑える違約金設定、あるいは異業種(自治体や公共インフラ企業)とのアセット共有など、不測の事態に耐え得る事業ポートフォリオの多角化が急務です。

      以上、この1年程で立て続けに発生した国外の通信インフラシェアリングにおける不協和音についての学びを整理しました。

      人口が減少する日本では、通信キャリア各社内でネットワークインフラを構築、運用する人員を十分に確保することが難しくなってきています。通信建設業界においても、データセンター構築や公共・防衛案件での人員需要が高く、祖業であるネットワークインフラの人員確保は困難な状況です。

      その一方で、今後需要が高まるAIも通信がなければ機能しません。AIエージェントが常時情報をやり取りし、自動運転を含むフィジカルAIがミッションクリティカルな業務をこなすなかで、通信が果たす役割はますます重要になっていきます。インフラシェアリングよるコストの抑制だけではなく、技術の継承や次世代AI社会の基盤構築にむけてもタワー会社はより大切な役割を担う可能性があります。

      本稿が、日本の通信キャリアおよびタワー会社にとって、中長期のインフラ戦略を検討する一助になれば幸いです。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      シニアマネジャー 根岸 次郎

      鉄塔を中心とした通信インフラをシェアするタワービジネスが世界の多くの国・地域で活況を呈しています。通信インフラをシェアする動きは海外では10年以上も前から行われてきましたが、日本においても2022年に1,000億円規模の取引が発生するようになり、いよいよ本格化の兆しが見えてきました。

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