宇宙産業への注目が高まるなか、持続性のある宇宙ビジネスを民間企業が構築するために、特有のリスクや不確実性とどのように向き合うべきでしょうか。ロケットの射場設備の分野でビジネスモデルの探索に取り組んできたJFEエンジニアリングで、ビジネスの推進を担当する白田要氏とともに、持続的成長とリスク管理を両立する宇宙ビジネスの在り方について考察します。
左から JFEエンジニアリング 白田氏、KPMG 宮原
【インタビュイー】
公的資金に頼る宇宙産業、持続性あるビジネスに向け「民間」の意識がカギに
宮原:
今や日本を含め各国で民間ロケットの打ち上げが注目を集め、公的機関だけでなく民間企業の間でも宇宙領域への関心が高まっています。ただ、宇宙産業では現状、「バリューチェーン上にサービスを展開するプレイヤーや価値を享受するユーザが存在しない部分がある」ことが珍しくありません。確固たる付加価値を生み連鎖させていくことが、宇宙ビジネスを持続的な産業とするために必要な課題であると言えます。一方で、近年産業振興のための公的資金が多く投入されており、多様な組織が参入を検討しています。こうした宇宙産業の現状について、JFEエンジニアリングではどのように考えていますか。
白田氏:
世界経済フォーラム(WEF)のレポートによると、宇宙産業は2030年代にかけて半導体産業に匹敵する成長が見込まれており、私たちも宇宙産業の将来性について一定の確信を持っています。とはいえ当面は、公共調達による資金流入が不可欠である状況が継続するでしょう。一般的には、補助金に頼ったビジネスは制度が無くなった途端に失速する懸念があります。純粋に民間企業だけでビジネスができる状態まで公的支援が継続されるかどうかが、宇宙産業が成長するためのポイントの1つだと認識しています。
企業単位でみると、公的支援の存在が、新たなチャレンジに向けた社内調整の円滑化に貢献していることも事実です。当社においても、地上設備等の分野での取組み拡大に向けた次の一手として、公的支援の活用を検討しています。新たな技術開発において、公的支援を活用することでリスクを軽減できるため、社内の理解も得やすく、新たな領域にチャレンジするときにはありがたい仕組みと言えます。
JFEエンジニアリング 白田氏
宮原:
宇宙産業において、公的支援への依存度を抑制し、ビジネスとしての持続性を強化するには、社会インフラへの浸透、特に「通信」と「人の移動」の分野でブレイクスルーが必要と考えています。通信の分野では実際に、低軌道衛星を用いたインターネットサービスが価格面と性能面の両面で既存の地上通信インフラに対する競争優位性を高めています。また、仮に現在飛行機で12時間かかる場所へ60分程度で移動できるのであれば、ロケットの利用に飛行機の倍のコストを払う人は少なくないはずです。持続的なビジネスの構築に向けて、JFEエンジニアリングではどのような宇宙ビジネスを構想していますか。
白田氏:
理想形としてイメージしているのは、ロケットを宇宙に打ち上げる射場のトータルコーディネート役を担うことです。将来的に、宇宙への人やモノの輸送需要が高まり、民間企業が複数のロケットを連続して打ち上げることが当たり前になれば、射場の在り方が根本的に変化すると考えられます。個人的には「短時間内での連続打ち上げに耐え得る設備」の実現を見据えて、ビジネスモデルの構築を進めることが重要だと感じています。たとえばロケットから噴出される炎や熱などの方向を調整する部品「ディフレクタ」のビジネスであれば、製造だけでなく設計段階から協業するなど、取組みの範囲を拡大していくようなイメージを持っています。
宇宙ビジネスで求められる、社内外の仲間集めのポイント
宮原:
JFEエンジニアリングが初めて宇宙産業に足を踏み入れた2016年当時、民間企業が手掛けるビジネス領域としてその将来性を評価する人は今ほど多くなかったはずです。その時から10年以上にわたり、宇宙領域の取組みを続けることができた理由はどこにあると考えますか。
KPMG 宮原
白田氏:
これまで取組みを継続できているのは、宇宙ビジネス自体の意義に加えて、収益性の観点だけでは算定しきれない人々を魅了する力があるからでしょう。だからこそ技術的なハードルの高さ、そして長期目線での相応の不確実性を乗り越え、一定のリソースを確保し続けられたのだと考えています。
実際、宇宙領域の取組みについて社内からの関心度は非常に高いと実感しています。各部署の取組みについて横断的に共有する集まりで宇宙のテーマを取り上げると、普段は直接的なやり取りが少ない部署の社員を含め多くの聴講者が集まります。実務的な連携だけでなく、このように緩やかなつながりを通じて社内で興味・関心を持つ人を増やしていくことで、いつか思わぬ折に新たなアイデアを提供してくれると期待しているところです。
宮原:
新たな事業の立ち上げに向けて動き出す時、その意義を理解してくれる社内の協力者をいかに増やすかは業界・業種を問わず、立ちはだかる課題の1つであり、KPMGにおいても、社内の合意を得るための相談をたびたびお受けします。初期のハードルを乗り越えるうえでは将来の成長可能性に関する定量的な分析に加え、挑戦しようとしているビジネス領域自体が持つ魅力などの定性的な力こそが、かえって最終的な決断を後押ししやすい傾向があると認識しています。ただ、新しい事業を始める段階では、社内では賛同する意見ばかりではなかったのではありませんか。
白田氏:
既存ビジネス以外での新事業を探索するためあらゆる可能性を模索しており、その1つとしてロケット周辺技術を検討しています。少人数の組織のため、できることには限界があり、事業を動かすためにはまず、社内の賛同者を集めることが不可欠です。当社は宇宙ビジネスに馴染みのない会社なので、懐疑的な声も多少ありましたが、関連する部署の人々と真摯に向き合い、語り合い続けることで、宇宙産業への情熱に共鳴してくれる人どうしの繋がりの輪を、現在に至るまで地道に拡げてきた経緯があります。
また、宇宙は一足飛びに取組みや技術開発を進めることが難しい領域です。だからこそ、社内ではあえて大きく目立たずに、小さな取組みを継続してきたことで、足元の宇宙産業の盛り上がりの輪のなかに入ることができたのではないかと考えています。
宮原:
宇宙産業などの将来見通しが難しい領域においては、推進する担当者としては自信があるものの、万人が納得する根拠を示しにくいケースもあり、収益見込みなどの数字のみで勝負するのではなく、将来的なビジョンや競合動向、定性シナリオを組み合わせた複合的なアプローチで意思決定者の理解を促すことも重要です。「取り組まなかった場合のリスク」や「取り組んだ場合の定性的メリットやレピュテーション効果」をセットで訴求することも効果的です。そして、宇宙事業に理解あるエグゼクティブが社内にいるタイミングを逃さず積極的に推進したり、そのような環境を意図的に作り出したりすることも仲間集めにおける戦略の1つと言えます。これまでの取組みを通じて、JFEエンジニアリングではどのような発展をみせていますか。
白田氏:
これまでの取組みを通じて射場で用いるディフレクタ技術については、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で論文発表や特許取得をしました。現在ではそれらの取組みに加えて、既存の自社技術を応用できる可能性のあるロケットの起立装置や極低温燃料供給設備にも着目しています。具体的には、コンテナクレーンなど大型搬送機械装置の技術をロケットの起立装置に、LNG貯蔵搬送設備の技術を極低温燃料供給設備に、それぞれ応用できるのではないかと考えています。とはいえ、社内の知見だけでは対応しきれないため、新興企業との協業を促進することについても重視していきたいと考えています。
宮原:
社外における仲間集めにおいては、組みやすい国や地域、プレイヤーを選んでいくことも必要な視点となります。軍事要素が強い場合にはデュアルユースの規制などによって国を越えた企業間連携が難しかったり、特定の国の公的支援を受けていると行動に制限が生じたりするリスクもあります。仲間集めの際には、声をかける企業や組織を動かしている資本、どのような目的で活動しているかにも意識を配ることが重要です。
不確実性のある宇宙ビジネスで、適切にリスクをコントロールする
宮原:
長期目線で新たなビジネスを立ち上げて一定の期間が経過すると、何かしらの成果を求める社内のプレッシャーが高まりがちです。特に宇宙ビジネスは他社のロケット開発の動向など外部環境に左右される部分が大きく、組織全体でモチベーションを維持する取組みが求められます。この点について、JFEエンジニアリングにおいては何を重視していますか。
白田氏:
開発途上の技術を他領域に転用するアイデアを生み出すことがきわめて重要だと考えています。たとえば、近年私たちが力を入れている金属3Dプリント(積層造形)は、ロケット部品の製造など宇宙分野だけでなく、他の事業にも応用できる汎用性の高い技術です。全社的な経営戦略への宇宙ビジネスの統合はこれからの課題ですが、今後も「総合エンジニアリング」の力で社内外の多様な知見と熱意を融合させ、宇宙が人々のくらしを支えるインフラとなる未来を目指し続ける所存です。
宮原:
宇宙ビジネスは成長余地が大きい領域ながら特有の不確実性があり、外部環境に依存しないプランB(代替案)の策定や、技術の他分野転用といったリスクヘッジを、ビジネス戦略にあらかじめ組み込んでおく工夫が欠かせません。情報が限られている業界において、財務や地政学といった多角的な視点からリスクをコントロールし、成功確率を高めていく企業の取組みを息長く後押しすることが、私たちコンサルタントの果たすべき役割だという考えを、改めて強くしました。本日はありがとうございました。
左から JFEエンジニアリング 白田氏、KPMG 宮原