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      不確実性が高まるなか、新規事業や中長期のビジョン・戦略を「未来起点」で描こうとする企業が増えています。

      一方で、未来洞察に取り組んでも既存事業の延長線上から抜け出せない、外部環境変化の意味付けが難しい、シナリオが議論の素材にとどまり意思決定や事業検討に接続できないといった壁に直面しがちです。

      KPMGは、2026年2月17日に開催された一般社団法人 デジタル経済連盟主催のイベント「Digital Space Conference 2026」で未来洞察ワークショップを提供しました。

      本稿では、未来を「当てにいく」のではなく「創造する」ために、兆しの収集をはじめ、複数のシナリオ構築や「自社を主語」にした論点化、事業の骨格への落とし込みまでのプロセスを整理し、ワークショップで使用した未来予測カードの狙いと、実際に創出されたアイデア例を紹介します。



      1.新規事業立案やビジョン・戦略策定に必要な観点とは

      近年、多くの企業で新規事業の立案や中長期戦略の策定にあたり、未来洞察や将来シナリオづくりに取り組む動きが広がっています。実際、Digital Space Conference 2026でKPMGが提供した未来洞察ワークショップでも「未来洞察の手法・フレームワークを体験したい」「未来の兆しを知りたい」「ビジョン・戦略策定のヒントを得たい」といった目的意識が多く見られました。

      一方で、未来洞察や将来シナリオづくりに取り組んでいても、既存事業の延長線上でしかアイデアが出ない、中長期ビジョンの策定において未来起点の視点が不足している、あるいは外部環境の変化が事業にもたらす影響や意味合いの読み解きが難しいといった課題に直面するケースも少なくありません。

      未来を「当てにいく」のではなく、「創造する」ために、未来の兆しを収集・解釈し、事業や課題といった自社の文脈に照らして組み合わせながら“複数の未来シナリオ”を描き、アイデアを事業の骨格に落とし込むためのプロセス(観点)を以下に整理します。

      観点1:フォアキャストより先に「未来の兆し」を集める

      未来洞察の出発点は、いきなり“当てにいく予測”を作ることではありません。まずは、顕在化していない多様な「兆し」を幅広く拾い、関心度の高いものを可視化し、組み合わせる材料を揃えることが大切です。

      KPMGが提供する未来洞察ワークショップにおいても、以下の流れで整理していきます。

      (1)未来の兆し(未来予測カード)を解説する
      (2)参加者が関心度を投票する
      (3)関心の高いカードを共有し、カード同士を掛け合わせて未来シナリオを検討する
      (4)「自社を主語」にして、その未来シナリオが投げかける論点を検討する
      (5)ビジネスの種やビジョン・戦略策定のヒントを得る

      この「俯瞰する→選ぶ→掛け合わせる→自社の問いに変える」という段取りが、未来洞察を「眺めて終わり」にしないための基本型となります。

      観点2:複数の未来シナリオで幅を持たせる

      変化が大きい時代ほど、未来は一本線ではなく分岐することの想定が重要となります。そこで有効なのが、PEST分析等の観点で起こり得る変化を複数のシナリオとして定義し、「それぞれの未来で、求められるサービスや仕組みは何か?」を行き来しながら考えるアプローチです。

      シナリオA/B/Cのように複数の未来環境を置き、各シナリオ環境下で求められるサービスや必要な仕組みを検討する、という建て付けが必要となります。

      観点3:アイデアを“ひらめき”で終わらせず、事業の骨格に落とす

      未来シナリオを描けても、そこで止まると「面白い話」で終わってしまいます。新規事業やビジョン・戦略策定につなげるには、将来ニーズ・課題を起点にして、実現に必要な要素まで具体化することが重要です。

      未来洞察ワークショップでは、将来ニーズ/課題を整理したうえで、下記のように、アイデアを“事業として成り立つかたち”へ寄せていくアプローチを採用しています。

      (1)課題を解決するために必要なケイパビリティを特定する
      (2)そのケイパビリティを実現するビジネスコンポーネントを特定する
      (3)巻き込むプレーヤーを整理の上、価値交換を検討し、可視化する

      ここまで検討することで、アイデア実現に向けた論点(何が足りないのか、どこが勝ち筋なのか)が扱いやすくなります。

      観点4:望ましい未来像を置き、制度・人材・技術設計まで視野に入れる

      生成AIのような非連続な変化が進むと、機会と同時に不安も増加します。だからこそ、起こり得る未来を追うだけでなく、「どんな未来を望み、実現したいのか」という意思を言語化しておくことが重要です。

      たとえば、一般社団法人 日本デジタル経済連盟が2026年2月17日に公表した「2045年社会像検討委員会 報告書」では、技術浸透(テクノロジードリブン)×人間中心性(ヒューマンドリブン)の2軸で未来を4象限に整理し、目指すべき世界観(人間中心のデジタル社会)を置いたうえで、制度・ガバナンス/教育・人材/技術設計といった論点が示されています。新規事業の検討やビジョン・戦略策定でも、この“世界観の置き方”があることで、何を大切にする事業なのかがブレにくくなります。

      ここまで見てきた4つの観点は、未来洞察を「情報整理」で終わらせず、新規事業立案やビジョン・戦略策定の材料として使えるかたちに整えるためのポイントです。

      では、これを実際に事業のなかに落とし込むには、どのようにすればよいでしょうか。

      本来、KPMGが提供する未来洞察ワークショップは、複数のステップ(回)を重ねながら、未来の兆しの収集と組み合わせ、シナリオ化、そして「自社を主語」にした論点を深めていくかたちでアプローチします。しかし、Digital Space Conference 2026ではそのエッセンスを50分の思考体験として凝縮し、KPMGが独自に収集・分析した科学技術の進展や社会変化に関する未来の兆し(未来予測カード)を起点に、投票→掛け合わせ→論点考察→アイデア検討までを一気に実施しました。

      2.KPMGが提供する未来の兆し

      KPMGにおいてデータ&テクノロジーのセンター・オブ・エクセレンスを担うプロフェッショナル組織であるアドバイザリーライトハウスでは、OECDや世界銀行といった国際機関や、日本および世界各国の政府・官公庁、研究機関・学術機関から発行される膨大なレポートをキュレーションし、独自の基準に基づき未来の兆しを選定・蓄積しています。その数は2026年5月時点で2,200件を超え、定期的な更新プロセスを通じて、常に最新の状態が維持されています。

      【「未来予測カード」のサンプル(イメージ)】
      Japanese alt text: 新規事業立案や中長期戦略策定における未来洞察の活かし方_図表1 出典:KPMG作成

      アドバイザリーライトハウスでは、KPMGのセクターおよびサービスラインとの連携により、予測情報を活用した未来洞察ワークショップをクライアントに提供しています。本ワークショップの特徴は、参加者が自らの問題意識に基づいて「兆し」を取捨選択し、主体的に解釈を加える点にあります。

      予測カードを触媒として、客観的な情報を「自社の文脈」へと引き寄せることで、未来シナリオは単なる予測を超えた「自社への問い」へと昇華されます。この思索の過程こそが、既存ビジネスの延長線上にはない新しい発想や着眼点を鮮明にする鍵となります。

      【未来予測カードを用いたワークショップの概要】
      Japanese alt text: 新規事業立案や中長期戦略策定における未来洞察の活かし方_図表2 出典:KPMG作成

      3.ワークショップ体験会で創出されたアイデアの例

      Digital Space Conference 2026では、計3回のワークショップ体験会を開催し、数十名の参加者が未来洞察のプロセスを体験しました。一例として、参加者が実際に予測カードを組み合わせて描き出した金融業界における2045年の未来シナリオと、そこから導出されたビジネスアイデアを紹介します。

      【ワークショップ体験会で参加者が記入したワークシートの例】
      Japanese alt text: 新規事業立案や中長期戦略策定における未来洞察の活かし方_図表3 出典:ワークショップ参加者の発言を基に、本人の許可を得たうえでKPMGが編集して掲載

      あるグループでは、「汎用AIの実現」「中央管理者が不要な社会の実現」「専門家を超える汎用AIの実現」「地域共創プラットフォーム」といった未来予測情報に着目し、テクノロジーの発展によって自動化が進み生存コストが極限まで低下した結果、人々の活動動機が「金銭の蓄積」から「自己表現や徳の蓄積」へと転換する社会を構想しました。

      このシナリオを前提に産業の変化を考察すると、金融業界における「信用」の定義は、年収などの経済合理性から、他者への貢献や信頼といった「ソーシャルキャピタル」のスコアへとシフトすることが考えられるのではないか、という指摘がありました。金融機関の役割も「資産の保管」から、偽情報の洪水のなかで個人の行動や価値の真正性を担保する役割へと再定義されるなど、現在の常識を一度解体した、自由かつ活発な議論がなされました。

      今回の体験会は50分という限られた時間であったため、参加者は産業構造の変化を考察するプロセスまでの体験となりましたが、本来のワークショップでは、この考察をさらに深め、具体的な「自社の介在余地」をビジネスアイデアとしてかたちにしていきます。

      以下は、ワークショップ体験会での参加者の議論を基に、アドバイザリーライトハウスにて次世代の金融ビジネスにおける事業可能性を模索した例です。

      【ビジネスアイデアの例】
      Japanese alt text: 新規事業立案や中長期戦略策定における未来洞察の活かし方_図表4 出典:ワークショップ参加者の発言に基づき、本人の許可を得たうえでKPMGが編集し掲載

      ここで創出したアイデアの種は、即座に事業化するための完成されたプランではありません。こうした検討を行う意義は、既存の延長線上にはない、未来の市場における自社の立ち位置を可視化することにあります。

      未来シナリオを起点にアイデアを練り上げるプロセスは、無意識のうちに縛られている現在のビジネスモデルや成功体験というバイアスを強制的に外す「思考の飛躍」を促します。この過程で得られた着眼点は、将来起こり得る非連続的な変化に対する思考の備えとなり、不確実な環境下での意思決定の質を高める指針となるでしょう。

      4.まとめ~未来洞察を「イベント」で終わらせないために

      未来洞察から新規事業立案やビジョン・戦略策定をするうえで最も大切なことは、未来洞察を単発のワークショップで終わらせず、中長期ビジョン/戦略策定/態勢整備につなげることです。

      今回のDigital Space Conference 2026の未来洞察ワークショップの場でも「中長期ビジョンの策定において未来起点の視点が不足している」という問題意識を持たれた参加者がいました。足元の課題への対応に加えて、「未来の社会でどうなるか」「その社会で何ができるか」を自らの世界観で考え、組織として取り組むべきテーマを検討していくことが重要です。

      ステークホルダーの意思を引き出しながら「目指す姿」を自らの言葉で定義し、継続的に未来認識を更新していくことで、表層的な同質化から一歩抜け出せます。その結果、自社ならではの非連続な成長に向けた新規事業やビジョン・戦略の起点をつくりやすくなると言えるでしょう。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      アソシエイトパートナー 前川 知之
      シニアマネジャー 吉村 昭宏
      シニアマネジャー 上田 智洋

      KPMGアドバイザリーホールディングス アドバイザリーライトハウス
      シニアアソシエイト 加納 寛之

      監修者

      KPMGアドバイザリーホールディングス アドバイザリーライトハウス
      ディレクター 森本 丈也

      「産学官民金共創で未来を構想するFinancial Biotoping」第1回

      バックキャスティングで未来を創造することの必要性と金融サービス業界を待ち受ける未来社会の全体感について解説します。

      金融サービス業界における変革の必然性を整理し、全社トランスフォーメーションアプローチであるKPMG Connected Enterpriseの概要を解説します。

      アナリティクスとクリエイティビティの融合で、非連続な未来を洞察し、ありたい未来像を共創します。


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