化学セクターM&A概況
注:取引金額は小数点以下を切り捨て
出処:各種M&A資料に基づくKPMG分析(2026年)
注:取引金額は小数点以下を切り捨て
出処:各種M&A資料に基づくKPMG分析(2026年)
業界動向
取引環境:2025年のM&A取引件数は下期にかけて持ち直し、2024年比で2%増加しました。企業が戦略的なポートフォリオの見直しと成長に注力しつつ、世界的な化学品の供給過剰や地政学的不確実性に対応したことが要因です。
注目分野:スペシャリティケミカル分野が取引をけん引し、買い手は多角化と高収益カテゴリーへの転換を推進しました。
取引金額:小~中規模の案件が中心で、戦略的投資家がバリュエーションの乖離に対応しつつ規律ある資金調達のもと取引をけん引しました。
M&Aハイライト
取引件数:2025年、グローバルの化学セクターにおけるM&A取引状況は改善し、取引件数は前年比2%増、取引金額は45%増となりました。背景にあるのは、小~中規模の戦略的買収への堅調な需要と複数の大型案件です。
取引促進要因:企業が地政学的圧力と成長戦略の両立を図る中、ポートフォリオ再編、地域統合、サステナブルおよびスペシャリティ資産への需要が取引を後押ししました。
企業の動向:事業の効率化、コア機能の強化、垂直統合の推進、サプライチェーンの管理強化、コストシナジーの実現を目的として、カーブアウトやボルトオン買収などの戦略的投資が継続的に行われました。
プライベートエクイティの動向:プライベートエクイティによる取引は前年比で2.4%増加し、全体の38%を占めました。ドライパウダーを投入しつつも、バリュエーション改善を見込み既存資産を継続保有しています。
現地化:地政学・関税リスクの高まりにより現地化が進み、国内取引が全体の67%を占めました。企業は強靭なサプライチェーンの構築を進めるとともに、米国などサプライチェーン再編の影響を受けやすい市場では現地生産を拡大しています。
M&Aハイライト(大型案件)
Deal Thermometer
Deal Thermometer 2025
注:(a) Forward P/Eレシオ:2025年の時価総額を2026年の予想純利益で割った数値
注:(b) 投資余力:2026年の予想ネットデットを予想EBITDAで割った数値
注:(c) 各四半期末の90%分位を指す
まとめ
2025年第4四半期、スペシャリティケミカルおよび基礎化学品の分野ではバリュエーションがやや落ち着きました。ポートフォリオの見直しや資本配分の最適化を進める企業にとっては適正な水準での売却がしやすくなり、選別的な売却の後押しとなりました。
一方で、マクロ経済の不透明感が続き、売り手と買い手のバリュエーション期待値にも依然として乖離があることから、買収意欲は抑制されました。投資家は慎重ながらも投資意欲を維持し、小~中規模案件を中心に取引を行い、大型・複雑な案件は僅少でした。
KPMGのDeal Thermometerによれば、取引の勢いは2026年に向けて続く見通しです。P/Eレシオが上昇し、収益改善とバリュエーションの安定が示されています。加えて借入にも余力があり、高付加価値の優良資産を求める投資家に投資資金の調達余力があることが示唆されます。
今後の見通し
世界の化学セクターでは、ポートフォリオ最適化の取組みとスペシャリティ資産への関心を背景に今後もM&Aが堅調に推移し、その勢いは2026年にかけて継続するでしょう。
スペシャリティケミカルは引き続き戦略的投資家の関心を集め、バリュエーションは比較的高く推移する見込みです。
基礎化学品および石油化学品サブセクターでは、供給過剰の緩和によりバリュエーションが落ち着き、革新的もしくは環境対応型の汎用化学品などを対象としたM&Aが活発化する可能性があります。
販売事業者は、現地化の推進とデジタル・サステナビリティ分野への投資を通じてネットワークの拡大・強靭化を図ると見られます。戦略的投資家が積極的な拡大よりも整理統合・シナジー創出を重視していることから、今後は中規模取引や選別的なボルトオン買収が取引を下支えするでしょう。
スペシャリティケミカル
取引内訳(a)
注:(a) パーセンテージは小数点以下を切り捨て
サブセクター動向
スペシャリティケミカル分野の伸長:2025年はカーブアウトおよびボルトオン買収が寄与し、スペシャリティケミカル分野の取引件数・金額がともに大幅増となりました。
高付加価値のニッチ領域:電子材料、電池・EV材料、ライフサイエンス材料などの高付加価値なニッチ領域への資金移動が見られました。いずれもスペシャリティ分野の中でも景気変動の影響を受けにくい最終需要に支えられている領域です。
アジア太平洋地域への注目:現地企業が統廃合を進めているほか、コスト・業務効率向上を狙う海外投資家が参入してるアジア・オセアニア地域は、戦略的地域として注目度が高まっています。
今後の見通し
スペシャリティケミカル分野ではポートフォリオの整理と高成長・高収益領域への投資が進んでおり、M&A取引は引き続き活発な見込みです。今後の取引においては、AI活用による業績向上や長期的なサステナビリティ対応をセクター横断で支える資産が、変動的なグローバル環境下での確かな成長を目指す企業の関心を集めるでしょう。
基礎化学品・石油化学品
取引内訳(a)
注:(a) パーセンテージは小数点以下を切り捨て
サブセクター動向
統廃合の進展:世界的な供給過剰および需要低迷への対応として企業が統廃合やポートフォリオの合理化(売却・カーブアウト)を行ったことから、2025年のM&A取引は前年比でわずかに上昇しました。
取引環境:バリュエーションの乖離により大型案件は低調に推移。市場アクセスの拡大、原料調達体制の確保、サステナビリティ推進を目的とした小規模なボルトオン買収が中心となりました。
国内志向:サプライチェーンの強靭化を背景に国内取引が主流となり、企業は現地生産能力の拡張と生産の国内回帰を進めました。
今後の見通し
石油化学品サブセクターでは、長期目線の価値創出、効率向上、業務の強靭化への取り組みが続いており、M&A取引は安定的に推移する見込みです。貿易政策の変化と、広範に及ぶマクロ経済の不透明感の影響が続く可能性はあるものの、差別化要素を有する分野(特に再生可能化学品、リサイクル樹脂、関連技術などサステナビリティ目標達成に資する分野)への関心は引き続き高まると見られます。
販売事業者・その他
取引内訳(a)
注:(a) パーセンテージは小数点以下を切り捨て
サブセクター動向
2025年の販売事業者サブセクターでは、地政学的不確実性やマクロ環境の変動に対する投資家の様子見姿勢から取引は減速しました。
そのような状況下、戦略的投資家は貿易構造の変化、サプライチェーン再編、デジタル化競争、ポートフォリオ再構築の対応として活発な動きを維持し、取引を下支えしました。
取引の大半は展開地域の拡大やサプライチェーンの確保を目的とした小規模買収で、高度な技術力や差別化要因のあるサービスを有する企業が投資対象となっています。
今後の見通し
販売事業者サブセクターでは、スペシャリティ材料に対する安定需要と主要顧客産業の成長が予想され、投資家は慎重ながらも意欲的な姿勢を維持する見込みです。目下の貿易の不透明感とサプライチェーンの脆弱さから、今後もネットワークの安定化が重視され、国内案件にシフトする可能性が高いでしょう。引き続き小~中規模の買収が中心になると予想されます。
化学業界の今:世界の化学セクターにおけるEU規制の影響
欧州連合(EU)は、大規模な消費市場、高度な産業基盤、サステナビリティ・環境規制におけるリーダーシップを背景に、世界の化学セクターに極めて大きな影響力を持っています。
世界の化学バリューチェーンの相互依存が強まる中、EU規制が製品設計、市場アクセス、コスト構造、競争力に対してもたらす影響はますます大きくなりつつあります。化学企業にとって、EUの政策動向は単なる規制対応にとどまらず、M&A戦略の前提条件となっています。
化学セクターに影響を及ぼす主なEU規制
注:(a) 発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性の物質を指す
注:(b)ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物を指す