2026年2月27日(金)に国際秩序研究会の第1回研究会を開催しました。
本研究会では、国際秩序に関する各分野の有識者が集い、変化する国際秩序について、最新の知見に基づく研究成果の共有と活発な議論を重ねています。本会では「力・利益・価値」の観点から研究活動が行われ、第1回研究会では、「利益」の観点をテーマとしました。これは、国際政治学者・高坂正堯が国際政治を「各国家は力の体系であり、利益の体系であり、そして価値の体系です。したがって国家間の関係はこのレベルの関係が絡み合った複雑な関係である。」と喝破したことに基づいています。
本稿では、第1回研究会の研究成果と当日の議論の内容について、概要をご紹介します
(国際秩序研究会第1回研究会=東京都千代田区において2026年2月27日、八木正氏撮影)
報告内容・要旨
(1)「日米中関係から見た米中覇権競争:政治体制と国際秩序」(発表者:武内委員:サザンメソジスト大学 政治学部 准教授)
武内委員からは、日米中の政治・経済体制の違いを軸に、国際秩序の行方についてご報告がありました。
武内委員は、戦後80年の節目となる2025年を、「戦後80年続いた『米国主導のルールに基づくリベラルな国際秩序』が終焉を迎えた年」だと指摘したうえで、これまで戦後80年間続いた「ルールに基づくリベラルな国際秩序」は揺らぎつつあり、その擁護主体がいま問われていると問題提起しました。特に、日本としては、EUやTPPなどのルールに基づく多国間枠組みを活用しながら、国際秩序を主導する役割が求められていると強調しました。
議論のなかでは、「(国際秩序の不安定性が高まるなか)日本は『分配』のあり方を世界に問うていくことが強みになるのではないか」との意見や、「欧州の社会民主主義モデルを支えてきた製造業と中産階級の関係を鑑みた時に、分配だけでは構造的な問題は解決できないのではないか」などの指摘が上がりました。
(2)「新興技術と国際秩序:中国系大規模言語モデルの挑戦」(報告者:伊藤委員:東京大学 社会科学研究所 准教授)
伊藤委員からは、中国製大規模言語モデル(LLM)が国外市場に浸透し始めている状況と、それによる国際関係への影響について報告がありました。
伊藤委員からは、中国は研究者数の多さを強みに、AI・LLM開発で急速に米国の水準へ接近しており、Alibabaが開発したQwenシリーズなどは世界的にも主要なオープンソース基盤モデルとなりつつあるとご説明されました。その一方で、これらのLLMには回答結果について、その国の規制に沿ったバイアスが発生することが懸念されると問題提起しました。また、このバイアスは海外に輸出された派生モデルにも引き継がれる可能性を提示されました。
AIに関する各国の開発状況を踏まえて、伊藤委員は日本企業については特定の国・地域でのモデルを利用する際には、事前の評価等の適切なリスク管理が必要であると意見を提示しました。また、日本としては国産AI開発やフィジカルAI分野での競争力強化を目指しているところであるものの、資金力・人材・技術力の面で課題があると見解を示されました。
議論のなかでは生成AIに関しては、「労働市場への影響を踏まえて開発においても持続可能性について考慮することが重要だろう」、「特定国のAIが浸透する状況は止められない。適切なリスク管理が必要。」との意見が上がりました。
(3)「経済安全保障リスクから見た国際通商秩序の課題」(報告者:久野委員:亜細亜大学 国際関係学部国際関係学科 教授)
久野委員からは、経済安全保障リスクから見た国際通商秩序の課題について報告がありました。経済安全保障上のリスクに対して既存の国際ルールでは限界があり、各国がそれぞれ自衛に走っている状況であるとの見解が示されました。加えて、経済安保上のリスクを技術流出、過剰生産能力の問題、経済的威圧の問題に整理したうえで、下記のような問題提起を行いました。
- 「技術窃取活動は、既存の通商ルールでは対応が困難。ワッセナーアレンジメントはあるは強制力がなく、モノは規制できても頭のなかの技術までは規制できない」
- 「過剰生産を規制するルール形成は進まず。アンチダンピング関税等の手段はある。これまで日本はこの措置の利用に消極的であった」
- 「経済的威圧による、物資と市場の武器化が進む一方で、威圧を無力化するためのサプライチェーンの多元化は時間がかかる」
議論のなかでは、「WTOルールを尊重すべきだが、それだけでは不十分。経済安保政策は必要」、「報復よりは、リスク低減(脱特定国依存)が現実的なオプション」、「CPTPP、EU、ASEANとの協力が重要」などの指摘があがりました。
左:武内委員:サザンメソジスト大学 政治学部 准教授(武内委員はオンライン参加)
中:伊藤委員:東京大学 社会科学研究所 准教授(東京都千代田区において2026年2月27日、八木正氏撮影)
右:久野委員:亜細亜大学 国際関係学部国際関係学科 教授(東京都千代田区において2026年2月27日、八木正氏撮影)
参加者
国際秩序研究会 第一回研究会参加者 (五十音順)
<共同座長>
岩間 陽子:政策研究大学院大学 教授
粕谷 祐子:世界政治学会 会長/早稲田大学 教授
<顧問>
国分 良成:一般社団法人アジア調査会 会長/慶應義塾大学 名誉教授/元防衛大学校長
<委員>
五百旗頭 薫:東京大学 法学部 教授
伊藤 亜聖:東京大学 社会科学研究所 准教授
久野 新:亜細亜大学 国際関係学部国際関係学科 教授
阪田 恭代:神田外語大学 グローバル・リベラルアーツ学部 教授
鈴木 隆:大東文化大学 東洋研究所 教授
武内 宏樹:サザンメソジスト大学 政治学部 准教授
東島 雅昌:東京大学 社会科学研究所 教授
宮川 徹志:日本放送協会 チーフ・ディレクター
足立 桂輔:KPMGコンサルティング 執行役員パートナー
新堀 光城:KPMGコンサルティング アソシエイトパートナー/弁護士
<統括>
岸 俊光:一般社団法人アジア調査会 常務理事・事務局長
<参与>
伊藤 弘:元国家安全保障局内閣審議官/海上自衛隊元横須賀地方総監
上月 豊久:前駐ロシア大使