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      コンプライアンスは企業にとって重要な経営課題の1つであり、持続的な企業価値向上を目指すうえで欠かすことのできない取組みです。しかし現実には、意図的な不正行為のみならず、無知や過信から、意図せず法令違反を起こしてしまう事例があとを絶ちません。これらが表面化し、企業の信頼が揺らぐ不祥事に発展した例も数多く見受けられます。

      KPMGでは、「事例に学ぶ企業コンプライアンス最前線」と題して、コンプライアンス違反が発生した際の適切な対応策や違反を未然に防止するための予防策について、身近な事例における特定の登場人物の経験・成長を通じて、実践的な知見を提供します。

      連載第4回となる本稿では、不祥事発覚後の信頼回復に係る実務的なアプローチを解説します。事例における部長と新卒2年目の社員のやり取りには、いくつかの問題点がありますので考察ください。

      なお、本文中のコンプライアンス違反事例は、架空のものであることをお断りします。

      コンプライアンス違反事例

      これは、ある大手事業会社における、法務部の部長と新卒2年目の社員(大野)の会話です。彼らは前回完成した特別調査委員会による調査報告書の公開と再発防止に着手します。

      ※前回(連載第3回)の寄稿は下記リンクからご確認いただけます。

      特別調査委員会による調査報告書を受領した部長と大野氏は、報告書とともに再発防止に向けた方針として「品質ガバナンスの強化」と「もの言える風土の醸成」に取り組む旨を開示し、さらにはIRと協働し、株主や投資家のために業績等への影響を説明する資料も公開することとした。

      しかし、週刊誌をはじめとしたメディアからは経営陣の責任や製品の認証停止解除を含めた今後のスケジュールについて厳しい追及がなされ、さらには、対象製品の品番等の開示がなかったことから、取引先や消費者からの問い合わせも相次いだ。

      大野:
      経営陣の責任や今後のスケジュールについては説明が不足していました。どのステークホルダーが何に関心があるのかについてもっと意識を向けるべきでした。

      部長:
      そうだね。昨日は今回問題となった製品AとBの出荷先である重要顧客に営業部とともに謝罪に赴いたが、先方もコンプライアンスに問題ある企業とは取引を継続できないとお怒りでね…。「当社の製品にどの程度影響があるのか」や「製品に影響がある場合には、補償をどうするのか明確にしてほしい」とのご要望をいただいたよ。

      大野:
      調査報告書の公表に合わせて、影響分析を行い、対象製品の品番や保証方針を明確にすべきでした。それとつい先ほど、営業部から、「別の取引先との対応のなかでほかの製品についても追加調査を実施することや、品質保証期間を延長することなどを約束してしまった」との連絡が入りました。

      部長:
      それはかなりリスクがあるね。追加調査の体制整備や保証期間の延長には、コストも人員もかかるし、ほかの取引先からも同様の対応を求められる可能性もある。

      大野:
      はい。現場としては信頼回復と取引維持を最優先に考えた結果だと思いますが、個別対応が先行すると整合性が取れなくなります。早急に対応方針を策定し、社内に共有する必要があります。

      部長:
      そういえば、当社に融資している銀行からも、再発防止策の実施状況を月次で報告するように要請を受けたと財務部から連絡があったよ。再発防止については今どんな状況かな。

      大野:
      はい。実は、こちらも進捗が思わしくありません。調査報告書の提言や当社が打ち出した「品質ガバナンスの強化」や「もの言える風土の醸成」を具体的な再発防止計画に落とし込むことができず、なかなか取組みが進んでいない状況です。そもそも当社は以前からCQO(最高品質責任者)の設置や内部通報制度の周知、コンプライアンス研修・ハラスメント研修の実施などに取り組んできました。これ以上何をすればいいかわからず、対応チームの手が止まっています。

      部長:
      たしかに、既存の制度設計・運用の延長線上の対応では、再発を防止できないだろう。今回の事態を考えると、これまでの対応が形式的な整備にとどまっていたところは否めない。再発防止に取り組むにあたって、社内だけでは専門性が不足しているし、ステークホルダーからは客観性が強く求められている。ここは外部の視点を入れて、再発防止策の立案から実行、モニタリングまで伴走してもらおう。

      ――その後、法務部からの提言を基に、社外コンサルタントを招へいし、コンプライアンス改善対策本部が設置された。「品質ガバナンスの強化」においては、CQOや品質保証組織の役割・権限を抜本的に見直すとともに、人材ローテーション制度の活性化や品質監査の高度化など、組織運営の基盤を強化する取組みも進められた。また、「もの言える風土」については、風土改革ワークショップの実施や職場の心理的安全性を高めるための管理職研修、従業員アンケートによる意見収集など、現場の声と行動変容を促す施策が段階的に導入された。さらに、これらの進捗状況や施策効果は、取引先や認証機関、規制当局へ個別説明を行うとともに、コーポレートサイトでの開示によって、定期的に情報発信されていった。

      ――1年後
      報告書発表直後は混乱を招いたが、誠実で透明性ある対応を継続的に積み重ねたことが功を奏し、社会からの信頼は徐々に回復していった。再発防止策の進捗や浸透度を継続的にモニタリング・評価し、その内容を認証機関や取引先、銀行等に報告することで、認証停止を解除でき、ほぼすべての取引が再開・正常化された。

      大野:
      部長、実は家庭の事情で地元に戻らなければならなくなり、転職を検討しています。

      部長:
      大野さん、君には本当に助けられたよ。君のような人材がいなくなるのは非常に惜しいが、そういう事情であれば仕方がない。私の友人が大野さんの地元で法務コンプライアンス部の部長をしているから、もし良ければ紹介するよ。

      大野:
      ありがとうございます。部長にはたいへんお世話になりました。

      一連の有事対応を通じて成長を遂げた大野氏。新天地では、果たしてどのような試練が彼を待ち受けているのか──。

      (次回へ続く)

      本事例の解説

      不祥事発覚時(有事)における信頼回復のアプローチとして、「計画的かつ整合性あるステークホルダー対応」と「社内外の期待に沿う再発防止」の2つが挙げられます(下図参照)。これらのアプローチに基づく信頼回復に向けた取組みが、企業の再建の成否を大きく左右します。

      本解説では、上記2つのアプローチに基づき、信頼回復で重要となる以下の3つのポイントに着目し、部長と大野氏のやり取りを振り返ります。

      Japanese alt text: 不祥事発覚後の企業信頼回復_図表1

      (1)シナリオ分析に基づく計画的な対応

      本事例において部長と大野氏は、多様なステークホルダーの反応を十分に予測できておらず、結果として開示後に問合せが相次ぐ事態となりました。特に、取引先への対応では、受け身の姿勢が目立ち、整合性のある説明や対応が困難となる場面も見られました。

      信頼回復を図るうえでは、多様なステークホルダーの期待を正確に把握し、計画的かつ整合性のある対応を行うことが不可欠です。不祥事対応における情報発信は、「開示するか否か」だけでなく、どのような事象が起こり得るかを事前に想定し、それぞれのシナリオに応じて、誰に・何を・いつ・どのように伝えるかを設計することが重要です。企業には多くのステークホルダーが存在しており、自社に不祥事が発生した場合、ステークホルダーが取る対応のマイナスの影響を受けることとなります(下図参照)。​

      Japanese alt text: 不祥事発覚後の企業信頼回復_図表2 出所:KPMG作成

      不祥事が発覚した際には、早期の段階でシナリオ分析を行い、関連するステークホルダーを特定のうえ、情報発信・説明のタイミングを検討することが重要です。たとえば、品質不正において、認証規格からの逸脱が判明した場合には、認証機関への報告が必要となり、安全性に関する懸念が判明した場合には、規制当局や販売代理店、消費者に対する説明が必要となります。このように、事案の性質や影響範囲に応じてシナリオが変化するため、どのシナリオの確度が高いかを適時見極め、関連するステークホルダーを事前に整理しておくことが望ましいと考えられます。

      また、情報発信のタイミングについても、ステークホルダーごとに慎重な判断が求められます。たとえば、取引先に対しては、通常は公表後に説明を行うケースが多いものの、インサイダー取引違反の防止や秘密保持の徹底を前提に、公表前に説明や協議を行うことで、混乱の回避や信頼関係の維持につながる場合もあります。シナリオ分析に基づいたステークホルダーの特定と情報発信の優先順位を早期に検討することにより、情報発信の遅れや対応のばらつきを防ぐことができます。

      (2)多様な期待への整合性ある対応

      (1)で関連するステークホルダーの特定とタイミングを検討した後には、以下の要望の特徴やポイントを踏まえて、説明・対応の内容やコミュニケーション手段を検討する必要があります(下図参照)。

      Japanese alt text: 不祥事発覚後の企業信頼回復_図表3 出所:KPMG作成

      このようにステークホルダーによって企業に期待する内容が異なるため、ステークホルダーに応じた説明を行う必要があります。加えて、これらの対応方針は、従業員が整合性ある対応を行う際の指針となるため、曖昧な表現を避け、過去に実施した説明や他のステークホルダーへの説明と矛盾のない内容とすることが求められます。具体的な取組みとして、社内向けのポジションペーパーを作成し、事案の位置付けや対応方針を明文化することや、ステークホルダーごとの想定問答集を整備して関連部門に共有することが挙げられます。なお、これら一連のステークホルダー対応にあたっては、第2回で紹介した対応事務局(PMO)がステークホルダーから寄せられる情報を収集・統括し、部署間の調整を通じて整合性ある対応を担保する必要があります。

      しかし、不祥事対応の混乱下では、各ステークホルダーの期待や反応を的確に把握し、迅速に対応することは容易ではありません。たとえば、メディアや消費者から迅速かつ透明性ある公表を求められる一方で、取引先からは公表を控えてほしいとの要望が求められるなど、要望が相反するケースが多々発生します。ステークホルダー対応に絶対的な正解がないなか、総合的に判断する必要があるため、外部専門家などの第三者の視点を取り入れることも有効です。

      (3)実効性と客観性を備えた再発防止

      本事例において、同社は再発防止に向けた方針として「品質ガバナンスの強化」と「もの言える風土の醸成」に取り組む旨を開示しましたが、調査報告書の提言や再発防止に向けた方針を具体的な施策にまで落とし込めず、再発防止が進まない状況に陥りました。

      再発防止策が不透明・不十分なものである場合には、中途半端な取組みに終始するおそれがあります。他方で、現場を無視した過度・過剰な再発防止策である場合には、現場の疲弊やサービスレベルの低下を招き、再発防止策の形骸化につながるおそれがあります。社内外からの期待を十分に満たす再発防止策にするためには、現場で機能する実効性と、社外からの信頼を得る客観性の両方が重要となります。

      さらに調査報告書上の再発防止策はあくまで提言にとどまることが多いため、他社の取組みや外部専門家の助言を参考にしながら、提言を読み解き、自社の実情に即した再発防止策を立案することが求められます。

      加えて、制度や体制は、それを支える人材の能力や現場における運用実態、組織文化との整合性が確保されることによってはじめて実効性を発揮するものであり、形式的な整備にとどまっていては、期待する効果は望めません。そのため、制度や体制の見直しにあたっては、当該制度や体制を運用する組織機能の強化や関連する業務プロセスの効率化、人材育成の体系的な整備、さらには企業風土の醸成といった多面的な観点から施策を幅広に検討・立案することが望まれます。

      また、立案した再発防止策を着実に実行するためには、誰が・何を・いつまでに実施するかを具体的に定めた実行計画に落とし込むことが重要です。再発防止策を抽象的な方針のままにせず、タスクレベルに分解し、各タスクの責任者を明確化することで、実行の確度が一層高まります。

      なお、現場の疲弊や再発防止策の形骸化を防ぐうえでは、すべての施策を一律に進めるのではなく、施策ごとに優先度を付け、段階的に実行することが効果的です。たとえば、不祥事の再発防止に直結し、即効性のある施策は優先的に取り組み、システム構築や教育・研修など時間を要する施策は中長期的に進めるといった工夫が考えられます。

      再発防止策は立案・実行するだけでなく、その再発防止策が現場で適切に運用され、実効性を持って機能しているかを継続的にモニタリング・評価することが不可欠です。以下に例示したモニタリング方法で再発防止策の進捗状況や現場への浸透状況を把握することにより、再発防止策が形骸化することを防止し、さらなる改善に取り組むことが可能となります(下図参照)。

      Japanese alt text: 不祥事発覚後の企業信頼回復_図表4 出所:KPMG作成

      また、これら一連の再発防止への取組み状況について、企業のコーポレートサイトや広告媒体、取引先への個別訪問などを通じて、継続的かつ積極的にステークホルダーへ開示・報告することが望ましい対応と考えられます。このような継続的で透明性の高い情報発信は、企業のコンプライアンス姿勢を明確に示す有効な手段であり、ステークホルダーからの信頼回復に大きく貢献します。

      まとめ

      企業の信頼回復にあたっては、「計画的・積極的なステークホルダー対応」と「実効性と客観性を備えた再発防止」が重要となります。

      KPMGでは「再発防止/第三者評価支援」のサービスを提供しており、ステークホルダー対応や再発防止策の立案・実行・モニタリング・評価をサポートしています。お気軽にご相談ください。

      次回(連載第5回)は、平時におけるコンプライアンス体制について詳細に解説していきます。

      ※本稿において、「コンプライアンス」は法令と社会規範の両方に従うことを指し、特に法令に従うことを「法令遵守」と呼称する。

      ※本稿では企業内部起因で生じるコンプライアンス違反を中心に取り上げることを想定しており、「不祥事」とは、本稿の想定対象とする企業のコンプライアンス違反行為のうち、世間に公表され、企業価値やイメージを大きく毀損するものをいう。コンプライアンス違反行為のうち、それ自体が法令に抵触するものを「法令違反」という。

      執筆者

      アソシエイトパートナー 馬場 智紹
      マネジャー 生田 春樹
      マネジャー/公認不正検査士 渋谷 樹

      KPMG Forensic & Risk Advisory
      ディレクター 水上 浩

      事例に学ぶ企業コンプライアンス最前線

      今後の掲載予定は以下になります。ぜひご覧ください。

      回数

      タイトル/テーマ(仮)

      第1回

      (導入)企業コンプライアンスにおける有事・平時対応の全体像

      第2回

      (有事)危機発生時に企業の初動対応で信頼は守れるか?

      第3回

      (有事)企業コンプライアンスにおける事実解明とその手法

      第4回

      (有事)不祥事発覚後の企業信頼回復―謝罪・説明・再発防止 ※本稿

      第5回

      (平時)企業の法令遵守チェックリスト

      第6回

      (平時)グローバル企業のガバナンス 国内外の違いと対策

      第7回

      (平時)企業風土改革の実践 コンプライアンス文化を根付かせる

      第8回

      (平時)ルールメイキング 守りのコンプライアンスから攻めのコンプライアンスへ

      関連リンク

      「事例に学ぶ企業コンプライアンス最前線」第3回

      初期調査によって違反が発覚したあとの初期開示の検討から再発防止まで、信頼回復に向けた実践的な対応を解説します。

      重要な経営課題の1つでありながら、起きてしまうコンプライアンス違反。意図しない“無知・継続・過信”からの脱却のためのポイントを解説します。

      企業の法務機能の高度化、グローバル規制対応、知的財産管理、人権リスク対応など、複雑化・多様化するリスクに対して包括的なソリューションを提供します。


      KPMGコンサルティング

      戦略策定、組織・人事マネジメント、デジタルトランスフォーメーション、ガバナンス、リスクマネジメントなどの専門知識と豊富な経験から、幅広いコンサルティングサービスを提供しています。

      Japanese alt text: KPMGコンサルティング