出所:日本郵船株式会社 統合報告書2025
トランプ政権の通商政策、地政学リスクの高まり、脱炭素規制をめぐる国際的な駆け引き──。国際海運業を取り巻く経営環境が激しく揺れ動くなか、日本郵船のCFOとして「経営の羅針盤」を担う河野氏は、CFO直轄のインテリジェンス機能の強化、DXによる経営データの可視化、財務・非財務を横断するKPI設計、そして次世代人材の育成と、多面的なアプローチで企業価値の向上に取り組んでいます。先が読みにくい時代に、どのように先見性を磨き、経営をリードしていくのか。その実践知に迫ります。
日本郵船株式会社 代表取締役副社長執行役員 CFO 河野 晃 氏
※役職はインタビュー当時のもの
大規模な想定リスクをどう抑え込んだか。激変するマーケットへの初動
――2025年のトランプ政権の通商政策をはじめ、今は経営環境が目まぐるしく変化しています。国際海運・物流を主業とされる日本郵船にとって、この変化をどのように捉えていらっしゃいますか。
河野氏
短期的には非常に目まぐるしく状況が変わっています。我々の主業である国際海運あるいは物流の観点から申し上げますと、米国の通商政策が貿易に与える影響は非常に大きいものがあると肌感覚で感じています。
通常、予算の策定は3月から4月にかけて行い、5月の頭にその年の予測を公表するという流れで進めるのですが、ちょうど2025年4月の頭に、以前から言われていたトランプ政権による関税政策の変更──相互関税の導入が宣言されました。それによって、荷動きが短期的にかなり変動しました。お客様によっては関税が導入された段階で輸入を止める動きがありましたし、それ以前に在庫を積み増しされるお客様もいらっしゃいました。また6月に中国への追加関税回避が発表されると荷動きが再開して増えるといった動きもあり、短期的には荷動きへの影響は非常に大きかったと感じています。
ただ一方で、我々の事業そのものへの影響については、当初は大きなネガティブインパクトがあると予想していたのですが、お客様サイドも事前に対策を考えておられましたし、我々の契約形態の工夫や輸送キャパシティの調整を通じて、いわばレジリエンスとでも呼ぶべき対応力が働き、影響はある程度コントロール可能な範囲内に留められたと考えています。
――当初の想定から大幅に影響が縮小したということですね。一方で、今後の見通しについてはいかがでしょうか。
河野氏
今後どういった影響が出てくるのかという点は、非常に読みづらくなっていると思います。関税は貿易にとってはマイナスの側面が大きく現れます。その一方で米国経済に目を転じますと、トランプ政権が打ち出している減税政策に加え、関税収入を財政に活用するということは、経済にとってプラスの側面もあります。そうしたプラスとマイナスの動きが今後どう展開していくのか、非常に注視している状況です。
我々としては、想定されるシナリオごとに事業への影響をシミュレーションしながら、柔軟に対応していく体制を整えています。海運業は外部環境に大きく左右される産業ですが、だからこそ環境変化に機敏に反応できる組織であることが求められます。
CFO直轄インテリジェンスとAIで、情報収集と共有の両面を強化
――プラスの動きとマイナスの動き、それをいかに読み解いていくかは大変難しいところです。グローバルな動きを幅広く捉えて情報を収集することは非常に重要だと思いますが、CFOというお立場でグローバルの動きをどのように捉え、情報収集をされているのでしょうか。
河野氏
当社には以前から「調査グループ」という組織があります。これは私の直轄組織になっており、管掌の役員を間に介さず、直接レポートが上がってくる体制を構築しています。上がってくる内容については、経営トップである社長や会長にも別途報告する機会を設けています。情報が途中でフィルタリングされることなく、CFOとトップに同時に届く仕組みになっており、ガバナンスの観点で極めて重要だと考えています。
今はさまざまな政策的なリスクや変化が起きていますので、その部分の情報収集を一層強化しています。具体的には、地政学リスクなど我々だけでは知見が不足する分野について外部コンサルタントをアポイントしたり、調査グループのシニアスタッフが積極的に外部の会合に参加したりすることで、定期的にレポートを出してもらうようにしています。以前から続けているマクロ経済や荷動きの動向分析と合わせて、今後の事業への影響を多角的に把握することが非常に重要だと考えています。
――情報が集まってくる仕組みについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。自動的には集まりにくい情報もあるかと思いますが。
河野氏
おっしゃるとおりです。1つには、調査グループが以前から定点観測を行っていまして、例えば当社で事業の大きな柱である自動車輸送では、各国の販売動向や在庫、新しいテクノロジーの開発状況といった記事を収集してまとめ、報告するという機能がもともとありました。
それに加えて、社長や私自身も含めて、シニアレベルの役員が外部の会合に参加した際のメモや資料は、すべて調査グループが管理しているデータベースに入れ、検索できる仕組みを構築しています。
さらに、当社ではMicrosoft Copilot®やChatGPT®を社内で使えるようにし、それをAI検索できる仕組みにしています。キーワードを入れるだけで、さまざまなテキストやファイルを横断的に検索できますので、何かあった時にすぐ参照できるプラットフォームを2025年の4月ごろに整備しました。
――導入から少し時間が経過していますね。実際にどのように活用されていますか。
河野氏
経営レベルの会議や投資を決める会議の場で、そうした情報を参照しやすくなっていると感じています。例えば議論のなかで『その件は調査グループのデータにも出ていましたよね』といった形で、その場にいる全員が同じプラットフォームにアクセスして確認できますので、意思決定の場で非常に有用なツールになりつつあります。インテリジェンス機能は今後とも強化していきたいと考えています。
DXによって経営の可視化を進め、意思決定の迅速化を実現
――日本郵船は経済産業省が認定する「DX銘柄」に3年連続で選定されています。情報収集や分析のためにDX化は欠かせないと思うのですが、現在の取組みと今後の展望についてお聞かせください。
河野氏
ありがとうございます。これまでは事業面でのDX──船舶の安全運航に関する運航データの活用などが評価の中心だったと思いますが、それと並行して、コーポレートサイドでは経営データの迅速な作成と見える化、そしてそれを共有する仕組みづくりが非常に重要だと考えています。
この2年ほどかけて基幹システムの入れ替えを進め、2025年の7月にカットオーバーしました。従来のSAP®基幹システムから、最新の「S/4HANA® Cloud Public Edition」に移行したのです。おそらく、当社の規模でグローバルに展開している企業がこのオープンクラウドシステムを導入しているケースは、まだそれほど多くないと思います。
このシステムを入れることによって、いわゆる世界標準のベストプラクティスをいち早く取り込み、それと我々の業務プロセスとの乖離を常に可視化してアジャストすることが可能になりました。組織の効率化が図れるとともに、基幹システムに追加した管理会計システムも稼働を始めています。この機能によって各事業の実態や経営指標の可視化がよりスピーディーに行えるようになることは、非常に大きな競争力の源泉になってくると考えています。
――経営の可視化がスピードアップしたことで、具体的にどのような場面で効果を実感されていますか。
河野氏
当社はグループ全体で運航する船舶が増え続けています。2025年の初めの時点で約880隻──2024年が820隻強でしたから、1年で60隻近く増えた計算になります。事業規模が拡大するなかで、現場で何が起きているかをいち早くダイレクトに把握できるかどうかは、経営の舵取りにおいて決定的に重要です。データを可視化し、迅速に取り込む体制を整えることが、拡大する事業をコントロールするうえで欠かせません。
――河野さんのお話を伺うと、DXが事業の可視化に大いに寄与し、競争力の源泉にもつながるということがよく分かります。一方で、企業によってはCFOとDXの距離が遠いケースもあります。CFOがDXを推進する意義についてはどうお考えですか。
河野氏
経営管理データのなかで最も重要な基盤をなすのは会計データです。しかし今後は、開示の観点から非財務情報の開示がどんどん義務化・法制化されていきます。サステナビリティの観点で申しますと、安全運航やGHG排出量といったデータは数値管理を伴うものです。
ですから、これまでスタンドアローンで別々に管理していたデータベースを、会計データと紐付けして同じプラットフォーム、同じデータベースで持つことが、KPIの設定を含めた経営データの可視化において不可欠です。まさにCFOの管掌領域だからこそ、財務データと非財務データを横断的に統合する仕組みを主導できるのだと思います。
1つの数値に固執しないKPI設計と、財務と非財務指標の統合で、企業価値を最大化
――今お話しいただいたDXは、KPIの設定や管理にも直結するテーマですね。日本郵船では事業別ROICをはじめ複数のKPIを取り入れていらっしゃいますが、KPIの在り方についてどのようにお考えですか。
河野氏
対外的に開示しているKPIとしては、経常利益と当期利益があり、それに加えてROICとROEの目標を置いています。また、格付けにも関連するDEレシオで安全性の基準も見ています。
しかし重要なのは、1つのKPIに固執しないことです。どの指標を重視するかは、その時々の事業環境や経済環境によってファインチューン──微調整していく必要があるだろうと考えています。
――なるほど。非財務情報の開示がますます重要になるなかで、財務KPIと非財務KPIのバランスについてはいかがでしょうか。
河野氏
今後、非財務情報の開示が義務化・法制化される方向に進んでいくなかで、例えばGHG(温室効果ガス)排出量や人的資本に関する指標など、数値管理を伴う非財務情報が加わってきます。こうした指標は規制適合コストを除き短期的には経済的価値に直結するものではありませんが、中長期では必ず経済的価値に反映されていくと考えています。
例えば、GHGの排出量を急激に削減しようとすれば、当然コストが先行しますし、お客様からの回収は後になりますから、他の財務数値は一時的に悪化します。しかし我々はカーボンニュートラルに向けた目標を設定しており、その進捗を図る必要がありますので、重要なのはそのバランスです。当初の計画どおりにリニアに進むものではなく、経済環境や事業環境が動くなかで、時間軸やスピードを微調整しながら進めていくということが求められます。
そのために、これまでスタンドアローンで管理していた非財務情報のデータベースを会計データと統合し、同一のプラットフォーム上で紐付けて持つことが、KPI設定を含めた経営データの可視化において非常に重要になってきます。このプロジェクトを推進するために、IT部門とは別に、横断的に課題を見つけて改善を図る専門組織を2025年の4月に部として新設しました。今後はこの部門をさらに拡大・強化していく必要があると考えています。
――米国の政策動向がサステナビリティの潮流に影響を及ぼすなか、御社のスタンスに変化はありますか。
河野氏
2050年のカーボンニュートラルという長期目標は変えていませんし、今後も変わらないと考えています。2030年に2021年比で45%削減という中間目標を設定していますが、これはもともとかなり厳しい目標です。目標に向けて努力を続けつつ、お客様からの回収や外部環境の整備も必要になってきます。
国際海運には特殊な事情がありまして、我々の排出は各国のパリ協定上のNDCという枠組みに含まれていないのです。国際海運はどの国にも属さない──つまり国連の機関であるIMO(国際海事機関)で規制されるという構造になっています。2025年の秋にグローバルな規制のルールが採択される予定でしたが、米国がこれに反対を表明しました。ただ、運輸長官やエネルギー長官の連名で出された声明でも、「海運の脱炭素化は必要だ」ということ自体は認めています。
ですから、大きな流れとして脱炭素は不可逆だと考えています。現在の一時的な動きがどうであれ、マクロな10年20年単位の流れは変わりません。その大きな流れと、目先数年間の政策の揺れをどう認識して、経営戦略のなかにどう落とし込んでいくか──これが非常に重要な課題になると思います。
CFOの役割は、「財務の番人」から脱却し、事業部門を動かし、経営の羅針盤機能を果たすこと
――短期的な株主リターンと中長期的な先行投資のバランスは、CFOにとって非常に大きなテーマだと思います。河野さんはCFOとして、経営戦略のなかでどのような役割を果たしていらっしゃるのでしょうか。
河野氏
CFOとしての担当範囲で申し上げると、私は経営企画本部とサステナビリティ戦略本部を管掌しています。つまり、純粋な財務部門だけではなく、他社で言うCSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)やCSUO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)的な機能も合わせて担っているわけです。これらはいずれも経営戦略をファシリテイトする役割だと認識しています。
最近のCFO論で言われるように、広義のCFOは単なる財務の番人ではなく、「経営の羅針盤」であり、「CEOのパートナー」として二人三脚で経営をリードしていく存在だと、私は考えています。経営戦略を策定する上での最終的な意思決定は経営会議メンバーやCEOがリードしますが、そのためのファシリテーション機能──広範な観点から全体を俯瞰し、戦略の方向性を整理して提示する役割は非常に重要です。
もう1つ大事なのは、いったん決めた経営戦略や中期計画を実行するにあたって、経営環境が変化した際にそのデータを迅速に提示することです。「このように状況が変わっている」というデータを示し、判断を適正かつ迅速にするためのKPIや外部環境データを提供する──これがコーポレート部門としての経営支援の大きな役割の1つです。
――お話にあったように、コーポレート部門が事業部門をいかに支援していくかは、多くの企業が悩んでいるテーマです。御社では事業部門に対してどのように相対されているのでしょうか。
河野氏
大きく2つあると考えています。1つ目は、企業価値の向上という観点からの経営支援です。企業価値というのは、株主資本の評価──時価総額に加えて、人的資本やサステナビリティ、社会貢献、ステークホルダーにとっての社会的意義といった非財務的な付加価値も含まれます。これらを、いかに投資家を含めた外部の方に説明するかが大きな役割です。
事業部門はどうしても目先の利益や契約、事業拡大に重心が偏りがちです。そこで、外部の投資家が日本郵船全体を見てどう評価しているかという目線を事業部にも伝える。例えばROICを使って事業を評価する、あるいは個々の投資についてはキャッシュフローをベースにしたIRRやNPVで判断する。案件を獲得して終わりではなく、投資した結果がきちんと収益に反映されているかをROICで検証する──そうした客観的な評価軸を提供するのが1つの重要な役割です。
2つ目は、個々の事業を進めるうえでの直接的な事業支援です。資金手当やリスクマネジメントのサポート、リーガルサービス、そして調査グループがまとめている中長期の市場予測の提供などがこれにあたります。これらは事業部にとって直接的に役立つサービスであり、コーポレート部門の重要な機能です。
――投資家と事業部門の間に立つCFOとして、その調整の難しさについてはいかがでしょうか。
河野氏
もちろん、難しいですね。私自身、どちらかと言うと事業サイドの経験が長いので、数値目標を言葉だけで達成してくださいと言っても、もちろんできる場合とできない場合がある。そこは理解しているつもりです。
だからこそ大事なのは、まず目標を目指してもらうこと。そして達成できなかった場合には要因分析をしっかり行い、それを事業部と共有して改善を図ってもらうこと。一方、外部に対してはなぜ達成できなかったのかを透明性を持って説明していくことです。それによって投資家や株主の皆さんからの信頼性が高まり、当社の予見性──先々の見通しに対する信頼が向上していくと考えています。
投資家の皆さんが求めているのは、リスクがないことではなく、リスクをマネージする仕組みがあるか、ということなのです。海運業には市況のボラティリティがありますが、それをどう乗り越えるかの仕組みと実績を丁寧にお伝えしていくことが、企業価値の適正な評価
不況の経験を糧に描いた成長シナリオと、「自ら考える」コーポレート部門をめざす人材育成
――海運業特有のボラティリティのなかで、日本郵船はどのような成長シナリオを描いていらっしゃるのでしょうか。
河野氏
海運業はシクリカル(循環的)な産業であることは否定できませんし、現在もPBRが1倍を超えていないことは、過去のボラティリティに対する懸念──完全には信頼されていない部分があることを示していると思います。
しかし、日本郵船には過去の不況期に得た「糧」があります。当社の経常利益の推移を振り返りますと、2011年から2014年の中計期間は平均143億円でした。リーマンショック後にドライバルクが非常に苦しんだ時期です。次の2014年から2018年は平均433億円。この時期も業界全体としては不況期でしたが、他の事業部門でカバーしながら利益を積み上げてきました。
そして2018年から2023年のコロナ禍の時期を含む期間は、平均で4,741億円に達しました。約10倍です。現在の中期経営計画では約3,150億円を見込んでおり、2030年には4,400億円を目指しています。
――数字には裏付けがある、ということなのですね。
河野氏
そうです。海運は世界のGDP成長に連動する産業であり、2000年以降で見ると年率5%弱の成長を遂げています。LNGやコンテナ、鉄鉱石といった荷動きは5%以上で伸びています。今後、IMFなどの長期予測では若干スローダウンして3%プラスアルファの成長率になるとされていますが、それでも需要は確実に伸びていきます。
出所:Clarksonsデータ、IMFデータより日本郵船株式会社にて作成
重要なのは、我々がこの成長を享受するだけでなく、需給による変動を乗り越えるための事業基盤を着実に強化してきたことです。不況期にドライバルクが苦しんだ時期でも、自動車輸送やエネルギー輸送など他の事業部門でカバーして利益を積み上げてきた。この経験こそが、我々のポートフォリオ経営の根幹にあります。
――過去の苦い経験を、どのように現在の経営に活かしていらっしゃるのでしょうか。
河野氏
需給による変動は避けられませんが、過去の不況期の経験を通じて、しなやかに市況の波を乗り越える力が我々にはついてきたと考えています。事業ポートフォリオを継続的に調整し、さらに将来の成長に向けた種まきも行っています。
例えばGHGの削減においても、我々のスコープ1はお客様のスコープ3にあたります。2025年からスコープ3の範囲をかなり拡大しまして、その結果として計上数量が増えましたが、それ自体が問題なのではなく、網羅的にスコープ3を把握することで、カウンターパートであるお客様とのエンゲージメントが可能になるわけです。お客様もスコープ3の開示が求められる方向になってきますので、お互いに「どう削減に取り組むか」というエンゲージメントが進み、一緒に取り組む土壌が出てきます。
また、EU-ETSのような規制によるペナルティーや補助など、金銭的な価値がそこに伴ってくることによって、削減コストとペナルティーのどちらが経済的かという議論がしやすくなります。サプライチェーンのなかでの対話も促進されますので、そうした開示と規制がどのようなスピードでグローバルに進むかが、我々のGHG削減にとっても大きな鍵になると考えています。
海運業は引き続き成長産業であり、そのなかで競争を乗り越えられるだけの知見と組織力、そして経営力が培われてきました。それをサポートするのが、CFOや財務部門、経営企画部門の大きな役割だと考えています。
――最後に、次世代のCFO人材・リーダー人材の育成についてお聞かせください。多くの企業がCFO部門の人材不足に悩んでいますが、日本郵船ではどのような取組みをされていますか。
河野氏
当社の人材育成には、強みと課題の両面があると思っています。日本郵船では伝統的に、入社時から部門の「背番号」を固定せず、だいたい3年から4年の周期でジョブ・ローテーションを行ってきました。営業にいた人が経理部門に移るといったことも当たり前に行われてきたのです。他の企業では入社時に部門が決まり、その部門でずっとキャリアを積むケースもありますし、商社のようにコーポレートならコーポレートで専門性を磨くケースもあります。当社はそれらと比べると非常にローテーションが活発だったということです。
ただ、事業の高度化に伴い「専門性が必要だ」という声も出てきまして、現在は入社10年から15年ぐらいの間に3つから4つの部門を経験し、その後は個人の特性や経歴に応じて部門を固定化してキャリアを積んでいく方式に修正しています。ジェネラリストとしての素養を維持しつつ、専門性も身につけていただくということです。
そして重要なのは、CFOや財務、経営企画の部門を「志してもらえるような魅力ある組織」にすることです。そのためにも、コーポレート部門のDX化を進めて労働集約的な業務を自動化し、戦略を自らの頭で考える──いわば「考える業務」にシフトさせることが欠かせません。各担当が戦略の叩き台を作り、経営とのコミュニケーションを通じてそれをモディファイしていくという仕事は、やりがいのあるものです。そうした面白い組織を作ることが、人材育成の鍵だと考えています。
――河野さんご自身のキャリアも、そうしたジョブ・ローテーションの成果と言えるのでしょうか。
河野氏
そうかもしれませんね。私自身、営業が長かったのですが、40代の前半に一度、企画部門に4年間在籍した経験があります。その後また営業──エネルギー部門に戻りましたが、その経験があったおかげで、CFOに就任した際にもコーポレート部門の業務の全体像をある程度把握できていました。もちろんキャッチアップは大変でしたが、現場とコーポレートの両方の視点を持つことが、戦略をファシリテイトするうえでは確実に役立っていると感じています。
――その当時から、ご自身がやがてCFOになると思っていらっしゃいましたか?
河野氏
まさか、まったく思っていませんでした。しかしですね、振り返ってみると、多様な経験のすべてが今の役割につながっている。営業の現場で培った交渉力や市場感覚、企画部門で得た全社的な視座、エネルギー事業での長期的なプロジェクトマネジメント──すべてが今のCFOという立場で活きています。人のキャリアというのは、何がどう活きるか分からないものですね。
――本日は、激変する経営環境のなかで経営の羅針盤を担うCFOの先見性とインサイトについて、貴重なお話をたくさんいただきました。どうもありがとうございました。
聞き手:あずさ監査法人 アドバイザリー統轄事業部 ディレクター 木村 一也
本記事は、2025年8月実施のKPMGジャパンCFOサーベイ2025/26インタビューの内容を基に構成したものです。
Microsoft Copilotは、マイクロソフト グループの企業の商標です。ChatGPT は、 OpenAI OPCO, LLCの登録商標です。SAP、S/4HANA Cloud Public Editionは、ドイツおよびその他の国における SAP SE またはその関連会社の商標または登録商標です。