- 自社の活動~価値創出までの経路を、ロジックモデルを用いて開示しているか
- ロジックモデルによりどのような価値創出の経路を開示しているか
- 人的資本・知的資本への投資による自社の企業価値への影響を開示している場合、(ロジックモデルに関連するデータを)定量的に示しているか
- 社会的インパクトを開示している場合、金銭価値もしくは定量的に分析できているか
ハイライト
1.調査の概要
KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパンは、2012年にその前身組織である統合報告アドバイザリーグループを組成して以来、企業の自発的な取組みである統合報告書の発行を、企業と投資家との対話促進を通じて価値向上に貢献する取組みと捉え、2014年より日本企業の統合報告書に関する動向を継続して調査してきました。その後、調査対象を拡大し、2019年からは有価証券報告書の記述情報を、2021年からはサステナビリティ報告書や企業ウェブサイト上のサステナビリティに関連するページも調査の対象に加えています。
今回は、調査の重点テーマを「統合思考」に定め、「統合思考が反映された報告とはどのようなものか」に主眼を置き、IFRS財団の 「統合思考の原則」に基づいて、調査項目を刷新しました。また、調査対象企業をTOPIX100※構成企業に絞り、これまで以上に各社の報告を深く読み込み、調査を実施しました。
※ TOPIXは株式会社JPX総研の登録商標または商標です。
2.6つの領域の調査結果の主なポイント
(1)パーパス
調査の結果、94%の企業がパーパスを明示し、そのうち85%が社会のニーズや課題にまで紐付けて説明していました。また、経営者が自らの言葉でパーパスを説明している企業は59%、パーパスに関連するステークホルダーを識別している企業は69%でした。
自らの存在意義の明示に加え、経営者がパーパスの「語り手」となって価値創造ストーリーの理解を促し、ステークホルダーが企業のパーパスを「当事者」として捉えられるよう、関係性を意識してパーパスを説明することが重要です。
(2)カルチャー
調査の結果、多くの企業がパーパスや存在意義に言及しているものの、従業員に対するパーパスや組織文化の浸透まで説明している企業は48%でした。また、72%の企業が主要なステークホルダーを特定し、49%の企業がその関係性も説明しています。主要なステークホルダーを特定している企業のうち、ステークホルダーとのエンゲージメントの内容まで示している企業は40%にとどまりました。
企業は定期的にパーパスや経営戦略と密接に関連する重要なステークホルダーを特定し、具体的なニーズ、価値創造や経営戦略との関係、エンゲージメントの内容を解像度高く説明することが望まれます。
(3)リスクと機会
調査の結果、自社ビジネスが外部環境に与える影響について正と負の両面から記載している企業は19%にとどまり、81%の企業は負の影響に言及していませんでした。また、外部環境が自社ビジネスに与える影響について、将来の社会課題まで特定して説明している企業は53%でした。
一方、重要なリスクは79%、重要な機会は68%の企業が説明しており、重要なリスクと機会と、外部環境の影響の開示状況に逆転が見られました。
(4)戦略
調査の結果、79%の企業が自社の競争優位性の源泉となる資本を特定し、64%の企業は財務のみならず、財務以外の資本にも言及していました。また、競争優位性を強化するための資本の活用方針を示している企業は69%、資本や資本の活用方針を踏まえて中長期戦略まで説明している企業は61%でした。
経営上の重要な資本および競争優位性と連動した中長期戦略の構築は一定程度定着していることがうかがえますが、説得力のある一貫したつながりのある説明ができているかどうかという点では、企業間で差が見られました。
(5)パフォーマンス
調査の結果、定量的な戦略目標について「目標と実績及び進捗状況」を報告している企業は67%、「目標と実績」を報告している企業を含めると84%でした。また、非財務KPIについても、目標と実績まで報告している企業は73%に上り、企業の積極的な姿勢がうかがえます。
一方で、その背景にある取組み内容や進捗などの定性的な説明が十分でない企業も見受けられました。
(6)ガバナンス
取締役会議長または社外取締役のメッセージの有無を確認した結果、メッセージを掲載している企業は84%でした。取締役のメッセージを掲載している企業のうち、メッセージの発信主体に着目すると、取締役会議長によるものは43%であり、社外取締役によるものは92%となっています。
自社の価値創造を実現するためには、ガバナンスが実際に機能していることを示す、取締役会によるリーダーシップについて具体的な行動を説明することが重要です。
その他調査トピック
社会的インパクトの可視化
マテリアリティ
- 何に関連するマテリアリティが説明されているか
- マテリアルだと判断された事象
報告の高度化に向けた取組み
- 統合報告書・サステナビリティ報告書の発行時期
- 第三者保証を受けている割合(第三者保証報告書の掲載割合)
- 第三者保証の対象指標
- サステナビリティ情報関連の内部統制の有無
気候変動関連情報
- GHG排出量(Scope1~3)の当期実績開示
- GHG排出量(Scope3)のカテゴリ別の当期実績の開示
- GHG排出量(Scope1~3)のバウンダリー
3.Key Recommendations - KPMGの提言
今回の調査では、TOPIX100構成企業の統合報告書を対象に、IFRS財団の「統合思考の原則」を起点として、価値創造に向けた統合思考の組織への組込み度合いを報告内容から確認しました。その結果、必要な要素の記載は多くの企業で確認された一方、記載の深さや説得力には差が見られました。説得力の高い報告書は、統合思考の浸透の程度を示唆している可能性があります。成果を列挙するだけでなく、持続的で再現性のある経営の仕組みに基づく成果であることを伝えることが、より強固なアカウンタビリティにつながります。そこで今回は、統合思考が読み取れる説得力の高い報告書の特徴を示します。
- 企業固有の「独自性」とその「具体性」
- 長期戦略を軸としたストーリーの「一貫性」
- 経営者メッセージに現れる「インテグリティ」
- 事実の背景にある「エビデンス」
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン