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      1.環境デュー・ディリジェンスをめぐる最近の動向と、日本企業にとっての主な論点

      環境デュー・ディリジェンス(環境DD)が、各国・地域での法制化や市場要請を背景に、企業の重要な経営課題となりつつあります。特に規制で求められる環境DDはバリューチェーン全体を対象とした継続的なリスク評価と情報開示を前提とする点が特徴です。

      EUのCSDDD、EUDR、EUBR、PPWR等により、企業は自社およびサプライチェーン全体の環境影響の特定・防止・軽減を求められ、一定条件下では域外企業にも影響が及ぶこと、また国内でも環境省のガイダンス整備など対応を後押しする動きがあります。

      日本企業は環境DD体制を「ゼロから構築する」のではなく、既存の枠組みを起点に段階的に高度化するアプローチが有効となります。詳細編では、(1)法制度・国際枠組みの詳細、(2)既存フレームワークとの関係性、(3)環境DDプロセスの具体ステップの3点から、環境DDを実装するためのインプットを提示します。

      ※それぞれ以下の略称
      CSDDD:企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(Directive (EU) 2024/1760)
      EUDR:森林破壊防止規則(Regulation (EU) 2023/1115)
      EUBR:電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)
      PPWR:包装・包装廃棄物規則(Regulation (EU) 2025/40)

      2.環境DDを取り巻く法制度・国際枠組みの詳細

      世界的なサステナビリティをめぐる潮流は、欧州を中心に大きな転換点を迎えています。従来は、サプライチェーン上の環境や人権への配慮について、企業による自主的なDD実施や情報開示が推奨される段階にとどまっていましたが、近年はこれらを法的義務として企業に求める動きが急速に進展しています。

      こうした法規制の適用が本格化するなかでは、域外適用の対象となり得る日本企業に限らず、そのサプライチェーン上に位置する日本企業についても、取引先から実務レベルでの対応を求められる可能性が高まっています。環境DDは、一部の大企業だけの課題ではなく、バリューチェーン全体に波及するテーマとして捉える必要があります。また、環境省の整理においても、OECDガイダンスの枠組みを参照しながら、企業が環境や人権に関する負の影響を特定し、防止・軽減し、その取組をリスク管理に統合したうえで説明することの重要性が示されています。

      ここで問われているのは、結果としての数値目標のみではなく、負の影響を特定し、防止・軽減し、必要に応じて是正・救済につなげ、そのプロセスを説明できる状態を継続的に運用しているかという点です。環境DDは一過性のプロジェクトではなく、年次での見直し・改善を前提とする「経営の仕組み」として設計する必要があります。

      【図表1:主要な環境DDが関連する法規則の適応開始スケジュール】
      Japanese alt text: 環境デュー・ディリジェンスの法制化と企業に求められる対応 (詳細編)_図表1

      3.既存フレームワークを活かした環境DDの設計

      多くの日本企業では、ISO14001に基づく環境マネジメントシステム(EMS)がすでに構築・運用されており、環境DDにつながる基礎的な取組みは一定程度進んでいます。さらに、TCFDや TNFDへの対応を通じて、近年求められる国際的な環境リスク・影響評価の考え方にも段階的に対応してきました。

      このように、日本企業においては、環境DDに取り組むための基盤そのものはすでに整いつつあると言えます。今後の検討において重要となるのは、環境DDを新たに独立した取組みとして構築することではなく、既存の枠組みや取組みをどのように整理・統合し、相互に活かしていくかという点です。

      環境DDの中核となる考え方やプロセス設計にあたっては、OECDのデュー・ディリジェンス・ガイダンスの参照が推奨されます。また、ISO14001に基づくEMSは、日本企業において従来から導入が進んでおり、環境DDにおける管理体制の構築においても有効な基盤となります。一方で、環境DDでは、自社の管理範囲にとどまらず、サプライチェーンを含むバリューチェーン全体を対象とすること、環境やステークホルダーに対する「負の影響」を起点として評価を行うこと、さらに外部への説明責任を前提とすることなど、EMSを超える要素が求められます。

      こうしたリスク評価や影響評価においては、TNFDにおけるLEAPアプローチなど、すでに日本企業が取り組みを進めている自然関連リスク・機会の評価手法が、環境DDと高い親和性を有しており、有効に活用することが可能です。OECDのDDガイダンス、EMS、TNFDといった既存フレームワークを適切に接続し、それぞれの強みを活かしながら環境DDへと発展させていくことが、実務上、現実的かつ効果的なアプローチと言えるでしょう。

      【図表2:既存フレームワークを利用した環境DDの設計案】
      Japanese alt text: 環境デュー・ディリジェンスの法制化と企業に求められる対応 (詳細編)_図表2

      4.環境DDの具体的ステップ

      環境DDを効果的に実施するためには、「環境DDに関する国際的な規範や原則」(図表3参照)を正しく理解したうえで、リスクベースアプローチに基づく体系的な取組を採用することが重要です。

      環境DDでは、把握すべき情報量が多く、対象となる負の影響も多岐にわたります。加えて、気候変動、生物多様性、化学物質管理などの専門領域が交錯するため、高度かつ横断的な知見が求められます。そのため、対応を担う人材を早期に育成するとともに、バリューチェーンを含めた情報を、事業にかかわるステークホルダー(例:操業地域の住民、環境NGO)とのエンゲージメントも含め、継続的に収集・分析できる体制を構築することが不可欠です。

      【図表3:環境DDに関する国際的な規範や原則の例】

      規範・原則

      内容

      国連「ビジネスと人権に関する指導原則」

      国家の義務・企業の責任・被害者の救済へのアクセスの3本柱で人権尊重の取組みを体系化した国際基準

      OECD「責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」

      企業の責任ある行動を人権・環境等の分野で包括的に規定する指針

      OECD「DDガイダンス」

      「OECD多国籍企業行動指針」に基づき、人権・環境などのDD実務を示す具体的な手引き


      一般的な環境DDの実施にあたっては、6つのステップから成るプロセス(図表4参照)に沿った対応が推奨されます。既存の事業活動のなかにこれらのステップを組み込み、関係部署を巻き込んだ全社的な体制を整えたうえで、環境や規制動向の変化に応じて機動的に見直していく必要があります。こうした環境DDプロセスの構築・運用は、企業によっては相応の負荷を伴う取組みとなるため、規制対応が本格化する前の段階から準備を進め、段階的に高度化していくことが、実効性のある環境DDを実現するうえで重要となります。

      【図表4:対応ステップ例】
      Japanese alt text: 環境デュー・ディリジェンスの法制化と企業に求められる対応 (詳細編)_図表3

      5.まとめ

      本稿では、前編で示した「自社らしい環境DD」を実装するために、「(1)法制度・国際枠組みの詳細、(2)既存フレームワークとの関係性、(3)環境DDプロセスの具体ステップ」の3点を整理しました。環境DDは、規制対応としての外部要請に応えるだけでなく、バリューチェーンを通じた環境リスクの可視化と管理高度化を通じて、企業の事業継続性や説明責任の基盤を強化する取組みでもあります。

      したがって実務上は、「どこまで完璧に網羅するか」を出発点にするのではなく、既存のEMSやTNFD等の取組みを棚卸しし、制度要請とのギャップを把握したうえで、優先領域から段階的に対象範囲と深度を拡張していくことが現実的です。

      環境DDは、もはや担当部門の努力目標ではなく、経営として「どの負の影響から、どの深さで、どのプロセスで向き合うか」を決め、説明できる状態にすることが問われるテーマです。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      シニアマネジャー 荒尾 宗明
      シニアマネジャー 西野 紗世
      シニアコンサルタント 武田 行平
      コンサルタント 上野 寧々

      環境DDに関する法制化の流れと日本企業の課題を概観したうえで、自社らしい環境DDのあり方を考えるためのポイントを解説します。

      EUで発行された「包装及び包装廃棄物規則(PPWR)」の概要と主たる論点を整理し、EUにサプライチェーンを持つ日本企業のベストプラクティスを解説します。

      企業の法務機能の高度化、グローバル規制対応、知的財産管理、人権リスク対応など、複雑化・多様化するリスクに対して包括的なソリューションを提供します。

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