Skip to main content

読み込み中です


      1.なぜ今、取締役会事務局機能の強化が必要なのか

      日本のコーポレートガバナンス改革は、2015年のコーポレートガバナンス・コード制定から約10年を経て、「形式」から「実質」への転換点を迎えています。企業による成長投資の促進による産業競争力の強化という政策的要請もあり、金融庁・東京証券取引所が公表した「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」においては、形式的な体制整備にとどまらず、企業と投資家の自律的な意識改革や建設的な対話を通じて、ガバナンスの実質化を一層進める必要性が明確に示されています。

      また、現在進められているコーポレートガバナンス・コードの第3次改訂に関する議論も、こうした問題意識が背景に位置付けられます。

      このような「実質」への移行を実現するためには、取締役会が独立性などの構成要件を満たすことのみにとどまらず、経営の前提条件や判断軸そのものに踏み込み、成長投資や事業ポートフォリオの転換といった本質的なテーマについて、継続的かつ高度な監督・審議を行うことが不可欠となります。

      その文脈において、取締役会の実効性を高めるための具体的な対応策として、取締役会事務局の機能強化が注目されています。

      2.取締役会事務局の役割強化の方向性

      金融庁の「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」では、取締役会が迅速・果断な意思決定と、独立・客観的な立場からの実効的な監督機能を十分に発揮するためには、質・量の両面で充実した独立社外取締役の選任に加え、取締役を支える取締役会事務局の役割がきわめて重要であると示されています。

      また、コーポレートガバナンス・コード第3次改訂に向けた検討資料においても、取締役会事務局は「取締役会の議論を実効的なものとするため、議長や独立社外取締役等を支援する重要な役割を果たす存在」と位置付けられ、その機能強化を促進する必要性が明確に示されています。

      これらの議論は、取締役会が成長戦略や経営資源配分といった本質的なテーマについて深度ある議論を行うためには、適切な議題設定、論点整理、情報提供が不可欠であり、その中核を担う存在として取締役会事務局の役割が再評価されつつあることを意味しています。

      3.海外におけるコーポレートセクレタリーとは

      取締役会事務局機能の強化を検討するにあたっては、日本と比較して制度面・実務面の蓄積が進んでいる海外におけるコーポレートセクレタリー(Corporate Secretary、英国においてはCompany Secretary)の役割・機能が参考になります。

      英国では、UK Corporate Governance Codeおよびこれを補完するFRC(Financial Reporting Council)のガイダンスを通じて、取締役会の実効性を確保するための枠組みが体系的に整理されています。そのなかでCompany Secretaryは、取締役会議長や社外取締役と緊密に連携し、情報の質および適時性の確保、アジェンダの形成・設計、意思決定プロセスの整備、十分な審議時間の確保等を支援する中核的な存在として位置付けられています。すなわち、Company Secretaryは単なる事務管理機能にとどまらず、取締役会における意思決定および監督の質を高めるための重要なガバナンス機能を担うことが期待されています。

      さらに、Company Secretaryは取締役会全体に対して責任を負い、特に取締役会議長を直接支援する存在として想定されており、経営執行から一定の距離を保った独立した立場で職務を遂行することが重視されています。これは、取締役会の機能発揮を形式から実質へと高めるうえで、Company Secretaryの独立性と専門性を制度的に位置付けている点に、英国ガバナンスの特徴があることを示しています。

      4.日本における取締役会事務局機能の課題

      こうした英国の状況と比較すると、日本の取締役会事務局機能には、実効性の観点からいくつかの構造的な課題が存在します。

      第1に、取締役会事務局が会議運営や資料調整といった事務的役割にとどまり、議題設計や論点整理といった取締役会の議論の質を高める領域にまで十分に踏み込めていない点です。その結果、取締役会における議論は、執行側が提示する意思決定の前提や論理の延長線上で展開され、追認や限定的な助言にとどまりがちとなります。このような構造のもとでは、執行側自身が十分に認識し切れていない戦略上の論点や潜在的なリスクが取締役会で顕在化しにくく、本来取締役会に期待される視座の転換やリスクテイクを後押しする役割が発揮されにくくなります。

      第2に、取締役会事務局の組織上の位置付けが経営執行側に近く、取締役会、とりわけ社外取締役を独立した立場から支える機能が相対的に弱い点です。その結果、社外取締役に提供される情報が、執行側の説明や提案のロジックを補完・補強する内容に偏りやすく、取締役会が俯瞰的かつ批判的な視点から執行を監督するための情報環境が十分に整備されていない可能性があります。

      加えて、見逃されがちではあるものの、近年、取締役会事務局の業務負荷は着実に増大しています。社外取締役の増員や役割の高度化に伴い、事前説明、追加資料の作成、個別対応、日程調整などが恒常化するなか、多くの企業における取締役会事務局は、経営企画部、法務部、総務部などのスタッフが兼務していることも多く、従来の役割設計のままでは、取締役会の実効性向上に向けた新たな取組みに十分な余力を割くことが難しくなっているのが実情です。

      5.取締役会事務局機能の強化に向けたアプローチ

      日本企業において、英国のCompany Secretaryのような高度に独立したガバナンス機能を一足飛びに設計することは、制度的裏付けや組織慣行の観点から現実的ではありません。一方で、取締役会における議論の実効性を高めるためには、取締役会のアジェンダそのものを変えなければ、本質的な改革には至らないこともまた事実です。

      こうした制約と要請を踏まえ、KPMGは、取締役会事務局の役割を「事務局業務の効率化と基盤整備」「取締役会審議の質と密度の向上」「監督視点に基づく執行の意思決定メカニズムへの関与」という3段階を経て、段階的に高度化していくアプローチに沿った実行支援を提供します。

      本アプローチを通じて、取締役会における論点整理や判断の前提条件の共有が進むことで、取締役会との議論がより建設的かつ効率的なものとなり、その結果として、執行における意思決定の質の向上と、投資家に対する説明責任の一層の高度化につながることが期待されます。

      【取締役会事務局機能の強化に向けたアプローチ】
      Japanese alt text: ページタイトル_図表1

      (1)第1段階:事務局業務の効率化と基盤整備(Board DXの活用)

      第1段階では、取締役会事務局が担う業務負荷が近年増大しているという現実を踏まえ、事務局業務の効率化と基盤整備を優先的に進めます。具体的には、取締役会関連情報の一元管理、資料・議事録・過去の議論へのアクセス性向上、ならびに業務プロセスの標準化・効率化といったBoard DXの活用が有効です。

      KPMGは、取締役会運営の実態や事務局業務の負荷状況を踏まえながら、デジタル活用や業務設計の観点から、実行可能性の高い効率化施策を支援します。これにより、取締役会事務局は従来の「ロジスティクス中心」の役割から脱却し、議題設計や論点整理といったより付加価値の高い業務に時間と人材を振り向けることが可能となります。

      本段階は、取締役会事務局が将来的に参謀機能へと役割を進化させていくための不可欠な基盤を整えるフェーズです。

      (2)第2段階:取締役会審議の質と密度の向上

      第2段階では、第1段階で確保した余力を活用し、取締役会が経営戦略やリスクといった重要事項について、実質的に議論できる状態を目指します。多くの日本企業において、審議時間の確保や議題整理はすでに一定程度進められていますが、議論の質や深度が必ずしも十分に高まっていないケースも少なくありません。その要因として、執行側の意思決定プロセスや問題意識を前提とした資料構成が中心となり、取締役会として問い直すべき論点や代替的視点が明確に示されていない点が挙げられます。

      KPMGは、取締役会事務局が執行から提出される議題や資料を受動的に整理するのではなく、「取締役会として何を判断すべきか」という観点から論点を再構成できるよう、アジェンダ設計や情報提供の高度化を支援します。具体的には、背景情報の整理、複数の選択肢や比較視点、想定されるリスクや不確実性の明示を通じて、議論が単なる説明確認に終始しない運営への転換を後押しします。こうした取組みを通じて、取締役会は個別案件の承認や事後的な報告を中心とする場から脱し、経営の方向性や重要なリスクを主体的に議論する場へと、その性格を深化させていきます。

      (3)第3段階:監督視点に基づく執行の意思決定メカニズムへの関与

      最終段階において取締役会事務局は、執行の意思決定プロセスの延長線上で提案・報告事項を受け取り、取締役会による監督・審議を支援する役割にとどまらず、社外取締役の監督視点を起点に取締役会アジェンダを設計することで、執行における議論や意思決定メカニズムそのものの変化を促す役割へと進化します。日本企業では、資本効率がWACCを下回る事業であっても売却や撤退の意思決定が進まないことや、現預金が積み上がる一方で成長投資が限定的となるなど、「稼ぐ力」が十分に高まらない状況が見受けられます。この背景には、執行の意思決定メカニズムが既存事業や過去の成功体験を前提に構築されているといった構造的な要因があります。

      KPMGは、議長および社外取締役と連携しながら、執行の検討が十分に及んでいない論点や、既存事業の前提により可視化されにくいリスクや機会を整理し、それらを取締役会のアジェンダとして意図的に設定するプロセスを支援します。その際、執行が取締役会に提案・報告を行う際の前提条件や評価軸、意思決定プロセスそのものを可視化し、代替シナリオや異なる資本配分の選択肢を検討する視点を提供します。

      このように、取締役会が執行の意思決定メカニズムに一段踏み込み、判断の前提や構造を見直していくことで初めて、資本効率の改善や成長投資の実行といった実質的な変化が経営に組み込まれていきます。この段階まで至れば、取締役会事務局は、海外のCorporate Secretaryが果たしている役割に機能的に近い形で、取締役会の実効的な監督機能を下支えするガバナンス中核機能として位置付けられることになります。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      シニアマネジャー 延藤 泰道

      取締役会の監督機能強化を推進するうえで、どのようなサポートが有効かについて、取締役会運営に焦点を当ててエキスパートが意見を交わします。

      経済産業省より「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスが推進されています。企業価値創造のためのアジェンダ設計とデジタル活用事例を紹介します。

      外形的な改革とは一線を画し、企業変革ストーリーの要として企業価値向上に寄与する真のコーポレートガバナンス改革の実現を支援します。

      お問合せ

      お問合せフォームより送信いただいた内容は、確認でき次第回答いたします。

      blue

      KPMGコンサルティング

      戦略策定、組織・人事マネジメント、デジタルトランスフォーメーション、ガバナンス、リスクマネジメントなどの専門知識と豊富な経験から、幅広いコンサルティングサービスを提供しています。

      Japanese alt text: KPMGコンサルティング