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      現在進められているサステナビリティ関連財務開示のデジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」)は、データ収集や増減分析などの初歩的な業務に活用されている一方、人の判断や手作業に依存する領域が依然として多く残っています。制度開示に対応できる内部統制の整備やサステナビリティ経営に資する有益な情報を活用するためには、従来のDXをさらに発展させる必要があります。今回の連載では、2025年の連載『サステナ制度開示に向けた保証業務体制のデジタルトランスフォーメーション』の内容を踏まえつつ、その発展編としてAIエージェントをどのように実務へ組み込めるのかを詳しく紹介します。

      第1回の本稿では、サステナビリティ関連財務開示のDXの現状を整理したうえで、AIエージェント活用が求められる背景と期待される役割について解説します。


      サステナビリティ関連財務開示・保証に関するDX推進の背景

      SSBJ基準の適用が今後予定されており、開示業務にはさらなる適時性と正確性の両立が求められています。有価証券報告書における開示情報は企業の信頼性に直結するため、これまで個人の専門的な知見に依っていた部分を適正な内部統制プロセスに組織化し、企業として高度な業務を維持していくことが不可欠です。 

      また、制度保証の導入に伴い、保証基準、品質管理基準、倫理・独立性基準が厳格化され、保証人においても膨大なデータを迅速かつ精度高く検証するため、業務の品質向上が求められます。こうした要請は、企業と保証人の双方に業務のさらなる効率化と高度化を迫っています。


      現状のDX推進とその限界

      現在、多くの企業でDXが進み、サステナビリティ関連財務情報のデータ収集や増減分析といった業務でもデジタル技術の活用が広がっています。OCRによる文字認識・項目抽出やリスクシナリオに応じた異常点の自動検知などの導入により業務の効率化と品質向上も進展しています。 

      しかしながら、依然として次のような課題が残っています。 

      • 判断を伴う業務の属人化:拠点から提出されたサステナビリティ情報に対して、本社がチェックの一環として実施する「増減分析の結果から異常を判断する閾値の設定」や「拠点からの回答内容の評価」には本社担当者の経験に基づく解釈が求められるため、定型業務であっても属人化しやすく、対応スピードが制約されます。 
      • マニュアル業務の負荷:拠点から提出されたサステナビリティ情報を本社側で収集・管理する際には、データの格納状況の確認やファイル形式のチェック、進捗管理などの精査業務が発生し、定型的でありながら時間がかかることがあります。 
      • 組織全体への知見共有の停滞:デジタル技術を導入しても、その仕組みや背景となる知見を担当者が理解していない場合、対応が機械的になりがちです。そのため、知見が組織全体に浸透しにくいことがあります。 

      こうした課題を解決するためには、DXを次の段階に進める改革が求められています。


      AIエージェント活用への期待

      AIエージェントは、状況に応じた判断支援と処理の自動化を特徴とし、従来のツールでは対応が難しかった複雑な業務の効率化と高度化を実現します。また、一定範囲の判断業務を担うことも可能です。 

      従来のDXでは対応が難しかった業務上の課題を解消するために、AIエージェントには次のような役割が期待されています。 

      • 自然言語によるレポート生成:ツールが実行した処理内容を人が理解できる言葉に変換し、報告書を自動で作成します。 
      • ナレッジの蓄積:過去の判断や事例を学習し、業務の品質向上を継続的に推進します。 
      • 判断業務の支援:状況に応じた一定範囲の判断を担うことが可能です。ただし、最終的な判断を完全にAIに委ねることや、常に100%の精度を保証することは難しく、人による確認は不可欠です。 

      これらの機能を既存のデジタルツールに組み込むことで、企業は開示業務を適時性と正確性の両面で強化でき、保証人は保証業務の信頼性を高めることが可能になります。 


      企業と保証人にとってのベネフィット

      • 企業: 
        • 内部統制の強化による制度対応力の向上 
        • 開示業務における適時性と正確性の両立 
      • 保証人: 
        • 専門家の知見を学習した判断支援による信頼性の向上 
        • 業務プロセス全体の効率化による早期フィードバックと適正開示の支援 

      AIエージェントの導入は、経験豊富な個人の知見を組織全体の知見へと昇華させ、単なる効率化にとどまらず、企業の高品質な内部統制の構築および第三者保証業務の信頼性向上を可能にします。これは、サステナビリティ開示への対応だけでなく、企業がサステナビリティ経営を実践し、社会課題の解決や持続的な成長に貢献するための基盤にもなります。 

      次回以降は、実務プロセスにおける具体的なAIエージェント活用事例を取り上げ、導入効果や検討すべきポイントについて詳しく解説します。


      執筆者

      有限責任 あずさ監査法人
      サステナブルバリュー統轄事業部
      KPMGあずさサステナビリティ株式会社
      SUSアシュアランス事業部
      アソシエイト・ディレクター 加藤 将也  

      有限責任 あずさ監査法人
      Digital Innovation & Assurance統轄事業部
      アシスタントマネジャー 八幡 菜々子

      KPMGジャパンは、社会的課題の解決を通じて、サステナブルバリューの実現を目指す組織の変革に資する的確な情報やインサイトを提供しています。

      KPMGは、企業の中長期的な価値向上の取組みとしてのサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現を包括的に支援します。