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      感情を揺さぶるピッチと、視座を高めるリーダーシップ

      2025年、KPMGが主催する世界規模のピッチイベント「Global Tech Innovator Competition(GTIC)」世界大会において、日本代表のライノフラックス株式会社が優勝しました。昨年のThermalytica社に続く、日本勢の2年連続世界一という快挙です。ライノフラックスは、バイオマスを用いて二酸化炭素(CO2)を回収しながら発電する技術を開発する、京都大学発のスタートアップ。世界各国で予選を勝ち抜いた精鋭たちが競い合うなか、なぜライノフラックスは評価されたのか。優勝直後の代表取締役社長 間澤敦氏に、KPMGジャパンの阿部博がインタビューしました。


      世界の舞台でも「やるべきことを淡々と」

      阿部 世界大会での優勝、おめでとうございます。これまでにない高効率・低コストなバイオマス発電でCO2を回収する新しい技術を、わかりやすく伝えられたことがポイントであったと感じます。日本としては2年連続の快挙となり、日本のディープテックの底力を世界に示すことができました。優勝した瞬間の率直なお気持ちはいかがでしたか?

      間澤氏 ありがとうございます。実は意外とさっぱりした気持ちでした。特別な感情というよりは、いつも通りピッチをして終わったという感覚に近く、やるべきことを淡々とやった結果、ご評価いただけたという心境でした。

      阿部 世界大会という大舞台で、特に意識されたことはありますか?

      間澤氏 3分間のピッチの中で「感情の起伏」をどう作るかを強く意識しました。大会前のメンタリングで「15枚のスライドの中で、どこで観客をうならせたいか1枚だけ選べ」と問われたのが印象に残っています。英語のピッチでは、同じ表現の繰り返しは嫌われます。冗長な表現を極限まで削ぎ落とし、簡潔かつストレートに、どこで聴衆の心を打つかという構成を、KPMGの方とブラッシュアップしました。


      間澤 敦(Atsushi MAZAWA) 
      ライノフラックス株式会社 代表取締役社長

      (略歴)
      2014年三菱商事入社。金属資源ビジネスやスタートアップ投資に従事し、重厚長大産業のダイナミズムに触れる。2023年、京都大学の客員起業家(EIR)制度を活用してアカデミアの世界に飛び込み、2024年にライノフラックス株式会社を設立。


      国境を越えて共鳴する起業家たち

      阿部 現地では20ヵ国以上の代表と交流されたそうですが、どのような気づきがありましたか?

      間澤氏 事業内容も国も違いますが、話してみるとみんな同じ悩みを持っていることに気づきました。顧客への販売、資金調達、チームのモチベーション管理など、ファウンダーが直面している課題は世界共通なんだなと。年齢も出身も異なりますが、国境を越えて悩みを共有できる仲間になれたことは、非常に貴重な経験でした。

      阿部 特に印象に残った国やピッチはありましたか?

      間澤氏 南アフリカ代表のフィンテック企業ですね。金融という堅いテーマでありながら、流暢な英語で感情に訴えかけ、最後は詩の一節のように締めくくっていました。あのピッチを見た時は「負けたかもな」と思いました。また、インド代表のスポーツAI企業が、クリケットではなくサッカー市場を狙う戦略的な視点を持っていたのも、非常に興味深かったです。

      阿部 GTICは、グローバルな視点を持った世界各国の経営者とのネットワークが広がることも特徴ですよね。

      間澤氏 はい、20ヵ国以上のファイナリストだけでなく、各国のKPMGの方との繋がりもできました。あとは、各国の投資家や興味を持ってくれた方からも連絡があって、世界の舞台に立てたという実感があります。

      阿部 博(Hiroshi ABE)
      KPMGジャパン プライベートエンタープライズセクター スタートアップ統轄パートナー/あずさ監査法人 企業成長支援本部 パートナー

      (略歴)
      監査業務のほか、大学発スタートアップへのサポートや、オープンイノベーションのイベントを推進。KPMGジャパンの活動として、スタートアップの発掘・育成支援に従事している。

      組織の「視座」を高め、メンバーの「心」に寄り添う

      阿部 グローバルな企業へと成長していくなかで、CEOとしてどのようなことが必要だと感じられましたか?

      間澤氏 大きく2つあると考えています。1つは「メンバーの視座を高めること」です。今回、世界大会に参加するにあたり、ニューヨークのNASDAQの巨大スクリーンに弊社のロゴを映していただきました。その写真を社内に送ったところ、メンバーが非常に喜んでくれて、何人かはデスクトップの背景にして「いつかこれを目指すぞ」と言ってくれています。このように、トップが視座を引き上げるような景色を見せることは重要だと実感しました。

      阿部 まさに世界を肌で感じる瞬間ですね。もう1つの要素は何でしょうか。

      間澤氏 メンバー一人ひとりに興味関心を持ち続けることです。組織といっても結局は人の集まりですから、事業のことだけでなく、その人のプライベートや興味のあることにしっかりと関心を持つことが不可欠です。「視座を高く上げる」ことと、「個人の興味に寄り添い続ける」こと。この2つを両立させることが、CEOとしての重要な役割だと今は解釈しています。


      泥臭い努力の先に、世界が待っている

      阿部 間澤さんは商社出身ですが、ゼロからディープテックの世界に飛び込むことに不安はありませんでしたか?

      間澤氏 飛び込んだ当初は、想像以上に泥臭い世界だと感じました。先生方と対等に話すために、化学の教科書を買って勉強し直すところから始めました。最低限のリテラシーがないと、先生方も「我が子のような研究」を預ける気にはなりませんから。起業は華やかなイメージがありますが、実際は一つひとつやるべきことをやる、その積み重ねでした。

      阿部 最後に、今後の展望と、世界を目指す日本のスタートアップへメッセージをお願いします。

      間澤氏 来年は、いよいよ顧客の敷地にプラントを設置する設計が進み、技術が商用化に向かう重要な一年になります。世界に出ると、日本に対して「製造業の国」「ディープテックの国」としての期待があることを肌で感じます。簡単ではありませんが、日本には技術の蓄積と世界からの期待という恵まれた環境があります。「うまくいくまで挑戦し続ける」というマインドで、ぜひ世界に挑んでほしいと思います。


      ライノフラックスがGlobal Tech Innovator Competition世界大会で優勝
      ライノフラックスがGlobal Tech Innovator Competition世界大会で優勝