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      近年、急速に普及が進んでいる生成AIは、日本の公共分野においても利活用を促す動きが加速しています。

      その具体的な動きの1つとして、2025年5月、デジタル庁から「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(以下、「生成AI調達・利活用ガイドライン」)が公表されました。

      また、2024年4月に総務省と経済産業省が公表した「AI事業者ガイドライン」では、生成AIを含むAIの開発・提供・利用を担う者(民間事業者、教育研究機関、政府・自治体など)を対象としたAIガバナンスの指針を示しつつ、公的機関については、民間事業者とは別の考えが必要になる可能性について触れています。それに対する1つの答えとして、「生成AI調達・利活用ガイドライン」では、AI全体のなかでも政府における生成AIの調達・利活用に焦点を当てた指針として、そのガバナンス体制、リスク管理やルール整備などが強調されています。

      さらに、2025年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では「取組の方向性と重点的な取組」の1つとして、「(1)AI・デジタル技術等のテクノロジーの徹底活用による社会全体のデジタル化の推進」が掲げられ、2026年度までに政府におけるAI基盤として「ガバメントAI」を構築するなど、政府全体として生成AIの利活用が後押しされています。

      本稿では、このような背景を受け、公共分野の生成AIの利活用を取り巻く環境を概観したうえで、その調達・利活用における課題を中心に考察します。

      1.公共分野の生成AIの利活用を取り巻く環境

      ChatGPTが2022年11月に公開されて以来、中央省庁、地方自治体、独立行政法人などの行政機関において、生成AIの導入・検証が徐々に増加しています。特に、2025年度からは政府が率先してAIを活用する動きも相まって、本格的な利活用に向けた環境整備・導入活用がさらに活発になっていくと予想されます。

      しかし、生成AIは、入力に対して常に同じ出力を返すとは限りません。従来のソフトウェアは、条件分岐や処理内容を明示的にプログラムすることで決まった出力を返すのに対し、生成AIの場合は、出力の正確性、信頼性や処理効率などの面で生成AI特有のリスクが伴います。

      そのため、信頼性・透明性のある公的サービスを提供する公共分野では、生成AIの調達・利活用に際して、特に個人情報や要機密情報の取扱いなどの面においても、民間事業者以上に法令遵守・倫理・公平性が強く求められます。さらに、目的の妥当性や費用対効果について厳しく問われるほか、誤情報の利用やセキュリティリスクといった課題への対応にも迫られます。

      公共分野において生成AIの調達・利活用の検討に必要な視点として、外部環境がもたらすトレンド別の検討事項を分析・整理するために、(1)政治(2)経済(3)社会(4)技術の4点について触れていきたいと思います。

      【公共分野の生成AIの利活用を取り巻く環境】

       

      トレンド

      検討事項

      (1)政治

      • デジタル庁、2025年5月に「生成AI調達・利活用ガイドライン」を策定
      • 「生成AI調達・利活用ガイドライン」を遵守し、リスクベースアプローチに基づく利用環境を整備

        • 2025年度:可能な範囲内で「生成AI調達・利活用ガイドライン」に沿った取組みを実施

        • 2026年度以降:調達・利活用を行う生成AIシステムについて、「生成AI調達・利活用ガイドライン」を全面的に適用
      • デジタル庁、2026年までに政府共通のAI基盤として「ガバメントAI」を構築
      • 既存の生成AIシステムとの棲み分けを明確化

      • ガバメントAIの利活用の推進に向けた教育・人材育成を実施

      (2)経済

      • 製品ベンダーによる生成AIの機能追加に伴い、グループウェア製品等の価格体系が変化するケースが発生
      • 生成AIの導入に向けて適切なライセンス割当て数と費用対効果を検討

      (3)社会

      • MIT NANDA、企業による生成AI導入プロジェクトの95%が財務成果を出せずに失敗していると分析※1
      • 生成AIの利活用に向けて導入アプローチ、効果的なユースケース、明確なリスク管理策や、効果検証の方法などを検討

      • 生成AIの普及・展開計画を含むロードマップを策定・推進

      (4)技術

      • 独自データを利用した生成AIの高度なカスタマイズ利用(RAG、AIエージェントなど)が加速
      • 業務プロセスの見直しを検討し、その業務に対する生成AIのカスタマイズ利用の適合性を評価

      • 生成AIに利用する独自データの取得・加工・メンテナンスを実施

      • 生成AIの出力の正確性検証、新規機能の安全性確認や情報セキュリティの担保を推進

      2.公共分野における生成AIの調達・利活用に取り組む際の課題

      前章で分析しているトレンド別の検討事項の内容を踏まえ、公共分野の生成AIの調達・利活用において検討すべき課題や必要となる取組みを、以下にステップ別で整理します。

      (1)環境整備

      生成AIの利活用に向けた環境整備のステップにおいては、ガバナンス体制の構築や各種ルールの策定などを通じて、リスクベースアプローチに基づく利用環境を整備することが不可欠です。

      「生成AI調達・利活用ガイドライン」では、生成AIシステムのライフサイクルを踏まえたAIガバナンス体制の必要性について触れられており、デジタル社会推進標準ガイドライン群のうち規範として各府省庁に対して遵守することが求められています。なお、地方自治体/独立行政法人においても、参考/準拠することが期待されています。

      具体的には、AI 統括責任者(CAIO)の設置、生成AIシステムの利活用ルールの策定、生成AIシステム特有のリスクケース・対応ルールの策定、生成AIシステムの利活用状況やリスクケース等の「先進的AI利活用アドバイザリーボード」への報告などが遵守すべき内容として言及されています。

      また、生成AIシステムの調達・利活用に際し、企画時、調達時、構築・リリース前の準備時といったフェーズごとの対応事項や、企画者、開発者、提供者、利用者といった関係者の役割に応じた対応事項がまとめられています。

      さらに、生成AIシステムの運用に際し、個人情報の目的外利用を含む不適切な取扱い、要機密情報の流出やプライバシー侵害の有無について、生成AIの入出力結果のログや利用者へのアンケート調査などで継続的に確認する必要があり、生成AIの利活用における価値最大化とリスク最小化を両立するために、体系的なAIガバナンス体制を確立することが求められると考えられます。

      (2)導入検討

      生成AIの調達に向けた導入検討のステップにおいては、費用算出と予算化に向けて、適切な利用者数の検討と費用対効果の算出を行う必要があります。

      近年、グループウェア製品などにおける生成AIの機能追加が進むなか、その価格体系や提供条件が変化するケースが見られます。これにより、従来の利用形態から生成AIの機能利用を前提とした新たなライセンス体系への移行が議論されていることもあって、調達を検討する公共分野では、「どの部門・業務に、どの程度のライセンスを割り当てるべきか」という精緻な検討が求められます。

      そのためには、生成AIの機能利用により期待される業務効率化や意思決定支援の効果を定量的・定性的に検討する必要があります。そのうえで、ライセンス費用と期待される効果(工数削減、品質向上、リスク低減等)を比較し、費用対効果を評価することが重要です。また、必要に応じてパイロット導入・段階導入・全庁展開など複数のシナリオを想定し、計画に応じて最適なライセンス割当て数と予算規模を策定することも必要と考えられます。

      さらに、ベンダーごとの価格改定動向、契約条件やサポート体制を比較・検討し、将来的な費用増加リスク、運用負荷、ITガバナンスやセキュリティ要件との整合性も確認することで、導入後の運用・管理体制まで見据えて最適な調達方針を総合的に検討すべきであると考えます。

      (3)利用定着

      生成AIの業務利用を促進し定着させるためには、導入成果の最大化を目標とし、計画的なライセンス管理、システム化による効果拡大に向けたロードマップの策定と、各種施策の推進が必要です。

      前章で触れたとおり、MIT NANDAは企業による生成AI導入プロジェクトの95%が財務成果を出せずに失敗していると分析しています。その要因としては、ツールの新規導入に対する抵抗感や費用対効果の不明確さなどが挙げられており、生成AIの利活用による成果を実現するためには、包括的な戦略立案と具体的かつ中長期的なロードマップ策定が必要であると考えます。

      こうした背景を踏まえ、安定的な利用促進・定着のためには、導入目的とその範囲、期待効果や活用支援を含む導入アプローチの明確化と、業務に直結する効果的なユースケースの洗い出しが不可欠です。
      また、導入効果を客観的に測定・検証するための指標や評価手法を設計し、定期的に効果測定を実施する体制を整備することが重要です。これにより、生成AIの利活用の成果や課題を可視化し、CAIOや現場への説明責任を果たすとともに、継続的な改善サイクルを回すことが可能となります。

      さらに、全庁的な普及展開を見据えたロードマップを策定したうえで、段階的な展開計画を実行し、Q&A窓口や勉強会などの事務局運営を推進することで、生成AIの導入効果を拡大していくことも欠かせません。最終的には、業務に活用可能なユースケースの拡充と、効果測定・検証結果の取りまとめを通じて、生成AIの利活用価値の最大化と持続的な業務改善を実現することが求められます。

      (4)効果拡大

      生成AIの高度活用による効果拡大を図るためには、既存業務のBPR検討と独自データを活用した生成AIの高度なカスタマイズ利用(RAGやAIエージェント等)が求められます。

      組織固有の個別業務における処理効率の向上や課題の解決を図るためには、大容量言語モデル(LLM)をそのまま利用するのではなく、組織特有の文脈や業務知識などのデータを取り込みつつ、プロンプトの入出力を部分的に定型化することで、より正確かつ迅速で、実務に即した生成AIの利活用が可能となります。

      そのためには、まず現場のニーズや課題を把握するために、個別業務に関する課題ヒアリングやアイデアソンを実施し、生成AIのカスタマイズ利用に適した業務を特定する必要があります。そのうえで、既存業務のBPRや既存システムの改修を検討するに際して、業務フローの自動化を含むBPR検討や、生成AIのテクニカル面での適合性評価など、生成AIの活用可能性や実効性を多角的に評価することが重要です。

      また、生成AIに利用する独自データについては、データセットの取得・加工・メンテナンスを通じて、その品質を維持・向上させるとともに、最新の状態を保つことが求められます。それに加えて、生成AIの出力結果に対する正確性・安全性の検証プロセスや誤出力・誤判断時のリスク低減策を整備することで、情報セキュリティの担保も並行して推進する必要があります。

      なお、生成AIの高度活用における留意点としては、PoCや要件定義を通じて、導入の妥当性や実現可能性を検証し、必要な機能や条件を明確にすることが肝要です。アセスメントの結果によっては、生成AI以外のツールの活用も視野に入れながらDX・BPRを推進することで、業務の効率化、高度化やコスト削減など、導入による費用対効果を最大化していくことも重要なポイントであると考えられます。

      【生成AIの利活用に取り組む公共分野の課題】
      Japanese alt text: 公共分野における生成AIの利活用を取り巻く環境と課題_図表1 出所:KPMG作成

      3.公共分野におけるAXの未来に向けて

      今後、公共分野における生成AIの利活用は、AI技術を戦略的に活用して業務プロセス、意思決定の在り方や、組織文化そのものを抜本的に変革する「AX(AI Transformation)」を象徴する取組みとして位置付けられ、単なる業務効率化にとどまらず、政策立案や国民サービスの質的向上といった本質的な行政改革の推進力となることが期待されます。

      政府全体で共通で利用するための「ガバメントAI」や、「生成AI調達・利活用ガイドライン」を含む各種ガイドラインは、生成AIを安全かつ効果的に活用するための基盤として、生成AIシステムの継続的な評価・改善を促進し、公共分野におけるAXを推し進める司令塔的役割を果たすでしょう。

      行政変革の実現に向けて、生成AIは不可欠なツールとなりつつあり、その活用の巧拙が、今後の行政の質を左右する重要な要素になると考えます。


      ※1 「The GenAI Divide:STATE OF AI IN BUSINESS 2025」(MIT NANDA)

      ※文中の社名、商品名等は、各社・各団体の商標または登録商標である場合があります。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      シニアコンサルタント Lee Dongyeon(イ ドンヨン)

      デジタルソリューションを活用し、公的機関全般に対し、各種コンサルティングサービスを提供します。

      公共分野における各種施策やデジタル技術、分野別のユースケース等さまざまなテーマについて国内外の事例やトレンドを交えて解説します。

      「公共分野におけるデジタル化の潮流」第11回。日本の「ギフテッド教育」の課題と対応策について、KPMG英国での事例にも触れながら解説します。

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