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      本連載は、2024年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

      コモディティ商品に潜むリスク

      コモディティ商品とも呼ばれ市場取引されている材料には、原油や天然ガスなどのエネルギー商品のみではなく、鉄やアルミなどの汎用金属や電気自動車(EV)に利用されるコバルト、リチウムなども含まれ、自動車業界とも関係が深いものが多くあります。ウクライナ情勢を契機として、天然ガスの供給リスクが表面化するとともに、需給の不一致はエネルギー危機を欧州で引き起こしました。

      先行きが不透明で、将来の予測が困難なVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代では、これら材料の供給リスクへの対策がグローバル規模で進められています。

      民間経営者の供給リスク認識

      まず、民間企業経営者がどのように材料の供給リスクを捉えているか見てみましょう。KPMGが30の国と地域、1,000人以上の自動車業界のエグゼクティブに対して行った「KPMGグローバル自動車業界調査2023」で、「材料および資材の供給に対する懸念」について調査したところ、〝まったく懸念していない〟または〝やや懸念している〟と回答した比率は、いずれの調査項目でもグローバル全体のエグゼクティブでは20~30%という結果に対し、中国のエグゼクティブは40%以上でした。中国企業のエグゼクティブは材料の供給継続に関してあまり問題視していない様子がうかがえます(図表1)。

      【図表1:材料および資材の供給に対する懸念性調査】
      出典:KPMGグローバル自動車業界調査2023

      これは材料生産における中国のシェアが高いということが理由の1つと考えられます。たとえば、前述の鉄、アルミといった汎用材料の世界生産シェアはそれぞれ過半数を超えており、リチウムやコバルトなどの他の金属でも同様な状況です。つまり、世界の工業製品は中国産の材料に依存していると言えるのです。

      米国やEUにおける対応

      材料の中国依存リスクを低減するため、各国政府もさまざまな取組みを行っており、海外ではEU原材料法案や米国IRA法(インフレ抑制法)が広く認識されています。たとえば、EUの重要原材料法案は域内での資源採掘や製錬能力の向上のみならず、サプライチェーンの国際的な多様化を目指した法案が制定されようとしています。その対象となる材料は重要原材料および戦略的原材料と呼ばれ、電池や磁石に用いられる材料のみならず、汎用金属であるアルミニウムも立法化の調整過程で付け加えられました(図表2)。

      【図表2:EUの重要原材料法案の指定材料】

      重要原材料(CRM)

      戦略的原材料(SRM)

      • アンチモン
      • 砒素
      • ボーキサイト
      • バライト(硫酸バリウム)
      • ベリリウム
      • ビスマス
      • ボロン​
      • コバルト
      • 粘結炭
      • 長石
      • 蛍石
      • ガリウム
      • ゲルマニウム
      • ハフニウム
      • ヘリウム
      • 重希土類元素
      • 軽希土類元素
      • リチウム
      • マグネシウム
      • マンガン
      • 天然黒鉛
      • ニッケル
      • ニオブ
      • リン酸塩岩
      • リン
      • 白金族元素
      • スカンジウム
      • 金属シリコン
      • ストロンチウム
      • タンタル
      • 金属チタン
      • タングステン
      • バナジウム
      • ビスマス
      • ボロン -冶金グレード
      • コバルト
      • ガリウム
      • ゲルマニウム
      • リチウム -電池グレード
      • 金属マグネシウム
      • マンガン -電池グレード
      • 天然黒鉛 -電池グレード
      • ニッケル -電池グレード
      • 白金族金属
      • 磁石用希土類元素(Nd、Pr、Tb、Dy、Gd、Sm、Ce)
      • 金属シリコン
      • 金属チタン
      • タングステン
      • アルミニウム

      出典:欧州議会発表のLegislative Train Scheduleを基にKPMG作成

      グローバルで起きるせめぎ合い

      世界のGDPの過半数を占める米国、中国、EUのせめぎ合いはグローバルで行われています。たとえば、EVの電池材料として使われつつあるリチウムリン酸鉄の原料である「リン」は確認埋蔵量の約7割が北アフリカのモロッコに存在しており、農業の肥料原料としても必須です。

      このモロッコでは中国系企業を中心に、電池向け材料の工場建設計画が発表されています。その理由の1つとして、モロッコは米国およびEUとFTA(自由貿易協定)を締結しており、特に米国IRA法のインセンティブ措置の対象としてモロッコで作られたバッテリー用材料が該当することが挙げられます。

      守りと攻めの視点が重要

      材料に関するサプライチェーンはグローバルで最適化を図った結果、資源採掘から材料使用・部品製造まで、プロセスごとに国や地域が変わるという複雑な状況が起きています。企業がバリューチェーンを考えるうえでは、リスクを定量化して有事に備えるという「守りの視点」とともに、優位な局面をどこでどのように作り出すかという「攻めの視点」が重要です。

      たとえば、新たなEU廃車指令ではリサイクル材料の使用が義務付けられていますが、静脈企業と呼ばれるリサイクル関連企業の規模は小さいものの、今後の市場の成長は見込まれています。今まで未着眼であった企業とのM&A(合併・買収)やJV(共同企業体)等の手段も考慮しながら、強靭なグローバルサプライチェーンを構築していくことも1つの選択肢だと言えるでしょう。

      日刊自動車新聞 2024年5月20日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社 の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      スペシャリスト 伊藤 登史政


      KPMGコンサルティング

      戦略策定、組織・人事マネジメント、デジタルトランスフォーメーション、ガバナンス、リスクマネジメントなどの専門知識と豊富な経験から、幅広いコンサルティングサービスを提供しています。

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