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      生成系AIがモビリティ産業に与える影響と求められるモビリティ業界企業対応

      はじめに

      2022年末のChat GPTのリリースから始まった生成系AIのブームは、世界中に非常に大きな影響を与えている。また多くの企業が対応を迫られる事態となっているのは、読者の皆様もご存じのとおりである。

      一方で、モビリティ業界においては、まだ現実的な影響を感じていない方も多いようだ。確かにモビリティ業界においては、生成系AI以前のデジタル化のトレンドについても、自動運転、EV、サブスクリプション、オンライン販売、サーキュラーエコノミー等、大きな変化が予想されてきたが、実態としては中々進んでいない現状もある。そもそも、生成系AIを含むデジタル化は、メディア・エンタメや、通信・インターネット業界、IT業界等、「質量」が少なく「情報」の重要性が高い業界では早く進むが、「大きな質量の物質」を「エネルギーにより移動」させるモビリティ業界のような「リアル」な業界では遅れてやってくる特性がある。

      しかし、生成系AIは、そのような業界のデジタル化を劇的に進めるドライバーとなる可能性を秘めている。ここでは、生成系AIの特徴・モビリティ業界における意味合い・影響と、すでに活用が進んでいる事例に加え、M&Aを含めた個々の日本企業に求められる対応について、解説していく。


      生成系AIの特徴と意味合い

      生成系AIには、多くの特徴があるが、ここでは主な特徴として、以下の点を挙げてみよう。

       

      1. 高度な自然言語処理・生成能力人間の言語を理解し、適切な応答を生成できる
      2. マルチモーダル性テキスト、画像、音声などの異なる形式のデータを統合的に処理し変換できる
      3. 汎用的なタスクの処理幅広い領域のタスクに対応し、新しい状況に迅速に適応できる
      4. コンテクストの理解と推論能力深い文脈理解に基づく適切な応答や論理的推論

       

      上記の特徴により、いままでのコンピュータ・人間の能力の住み分けに大きな変化が発生し、人間が得意としていたタスクにまで生成系AIが侵食していくことが予想されている。詳細は図表に整理したが、コンピュータは1950年代の誕生から、近年でのビッグデータやアナリティクス技術に至るまで、主に「大量・高速・正確性・常時性・スケーラビリティ」にその能力の特徴があった。一方、人間は「固有性・柔軟性・抽象性・身体性・社会性」等に優位性を持っていたと言えるだろう。

      これらの特徴からも分かるように、今までのコンピュータは、比較的単純でボリュームが多い業務の自動化を行っていた。しかしながら、生成系AIは、人間の脳の動きを模倣したニューラルネットワークがコアな技術となっていることから、人間だからこそ可能だと考えられてきたより複雑で高度かつ、固有性の高い業務も置き換えていくことが予想される。


      生成系AIによる対応タスクの拡大の構造

      生成系AIの今後の進化について

      それでは具体的に今後の生成系AIの進化についても考えていこう。24年7月に生成系AIの進化について、OpenAIが定義した5段階の成長モデルが話題になった。それらの5段階の能力は下記のとおりである。

      1. チャットボット(現在の段階)基本的な対話や情報提供が可能
      2. 推論者より複雑な問題解決や分析が可能になる
      3. エージェント数日間にわたって自動的にタスクを遂行できる
      4. 革新者新しいアイデアや解決策を生み出すことができる
      5. 組織マネージャー組織全体の運営や意思決定を担うことができる


      特に注目すべきは、レベル3の「エージェント」段階である。この段階では、AIが数日間にわたって自動的にタスクを遂行できるようになる。AIが現在の人間のサポートという役割から、人間のタスクを積極的に代替していく契機となると考えられる。

      また、もう一つの進化の流れがエンボディドAIである。身体性を持ち、物体の操作・コミュニケーションをとりながら進化する、生成系AIとロボティクスが融合した概念である。特に政府によるインターネット上の規制により、自然言語の分析が難しい、中国において開発が進んでいる。これらは特にリアル空間における身体の活用といった人間が優位だと考えられていた能力をさらに代替していくだろう。

      そして、こういった「エージェント」や「身体性の獲得」というのは、まさしく、モビリティ業界での最重要技術である自動運転の開発とも、歩みが重なってくるものである。


      モビリティ業界での生成AIの活用領域

      それでは、生成系AIのモビリティ業界における活用領域を見ていこう。主に業界共通の領域と固有の領域に分けられる。


      <業界共通の活用領域>

       ・マーケティング・セールス
       ・顧客サポート
       ・顧客の与信・保険業務
       ・R&D

      <モビリティ業界固有の領域>
       ・車体のデザイン
       ・運転中の社内コミュニケーション
       ・フリートマネジメント
       ・自動運転


      特に自動運転技術は、現在のOEMを中心とした産業構造を抜本的に変革する可能性が大きく、生成系AIがその実現を加速することが予想される。

      自動運転領域での生成系AIの活用状況

      自動運転技術への生成系AIの応用は急速に進んでいる。特に2024年に入って、自動運転向けの生成系AIを開発する下記の2社のM&Aがみられた。


      1. ウェイブテクノロジー
      - E2E(エンド・トゥー・エンド)やAV2.0と呼ばれる技術を開発中
      - 車両の認知・計画・制御等を1つの大規模言語モデルで統一的に管理
      - マイクロソフトや国内大手通信企業が出資
      - エヌビディアが約1000億円の資金調達ラウンドに参加し、GPUの供給を通じて開発を加速

      2. チューリング(日本)
      - 国内大手通信企業が30億円の資金調達ラウンドに参加
      - 日本市場向けに、生成系AIを活用した自動運転AI技術・車体デザインのサービスを開発中


      また、テスラ社(米)も独自の生成系AIを活用した自動運転モデルを開発中だとの噂が存在する。特に、生成系AIによって、実現されるAV2.0と予想される現在の自動運転技術(AV1.0)との違いは下記の通りとなる。


      AV1.0とAV2.0の違い

      既に中国の10都市、米国の4都市では商用化されたロボットタクシーが運営されているが、今後AV2.0技術の普及により、多くの制約が取り払われ、安全性・活用地域が飛躍的に増加し、ロボットタクシーのビジネスモデルが実現する可能性がある。

      モビリティ産業における生成系AIの影響・OEMに求められる?対応

      今後のモビリティ産業における生成系AIの影響は、主に業界共通領域に見られるオペレーション領域の改革と、自動車業界固有の領域の影響を受けるビジネスモデル改革への対応が含まれる。

      オペレーション領域の改革において、その効果は当初は、マーケティング・セールス、与信等、機能レベルでの優勢性の創出に留まる。しかし、将来的にはOpenAIのAI進化ステップが示すように、徐々にその範囲と高度化のレベルが高まっていき、将来的には組織運営全体に大きな影響を与えることが予想される。

      また、生成系AIの自動運転技術等により、ビジネスレベルの改革では、各社の競争優位性が根幹から覆される。結果的に産業構造そのものにも大きな影響受け、全ての企業が影響を受け、対応を迫られることになる。

      このような影響に備えて、改めて下記のような対応が必要となってくるだろう。


      <戦略レベル>
      1. 産業構造の変化を見据えた自社の事業モデルの検討
      2. 全社AI・データ戦略の再構築
      3. 不足するケイパビリティの獲得方針検討

      <個別施策レベル>
      1. 対象領域毎の目標・実現方式の検討
      2. パイロットプロジェクトの実施
      3. 実際のサービス開発・導入
      4. 導入後のPDCAサイクルを踏まえた継続的な改善


      多くの場合、特にオペレーションレベルの施策においては、既存の基盤系モデルを活用し、RAGやファインチューニングといった比較的安価な手法で開発を行うか、AIソリューションベンダーのサービスを活用することになるだろう。一方、業界固有の領域になった場合は、有力ソリューション企業との連携や、場合によっては自社による主体的な開発が求められる。当然、自社でのモデル構築となると、非常に高価なGPU・クラウド基盤の確保や、固有のデータの準備、大掛かりなパイロットの実行体制等、大きなコストが発生することが予測され、その投資が可能な企業は決して多くはない。

      想定されるM&A戦略のオプション

      上記を踏まえて、想定されるM&Aのオプションについては、業態やポジショニングにより、多様なものが存在すると考えられる。その上で、多くの企業にとっての選択肢となる主要なオプションは下記のようなものだろう。


      1.AIソリューション企業への業務提携・出資
      既存のAIソリューション企業への業務提携・出資により、提供ソリューションの優先的な活用や、深い連携、カスタマイズを可能とする。また将来的には出資比率を高めて、完全な統合を目指す選択肢も存在する。

      2.ケイパビリティ・ソリューション獲得を目指したAIスタートアップの買収
      小規模なAIスタートアップの買収によるAI人材の獲得を行い、自社のAIチームを強化する。獲得した人員の維持等、多くの課題が存在するため、買収合意前の早期からのPMI方針の検討が必須となるだろう。新規事業といった外部向けのソリューション提供を継続することも選択肢となる。

      3.業界内外企業との戦略的なパートナーシップ構築
      生成系AIモデル構築については、多額コストが発生するため、自社での実現が困難である場合が多い。ある程度の利害関係が一致する業界内外の大手企業との共同での開発も選択視となる。その際のオプションとしては、業務提携・JV設立・資本提携・共同出資等、幅広いオプションが存在する。

      4.オープンイノベーション実施・CVC設立
      より広範囲な知見と目利き力の獲得のために、オープンイノベーションの取組推進・CVC設立等を進めることも選択肢となる。想定される幅広いAI導入のオポチュニティに対して、スタートアップ・研究室のリソースも活用しながら推進が可能となることも大きなメリットである。


      終わりに

      上記を踏まえて、想定されるM&Aのオプションについては、業態やポジショニングにより、多様なものが存在すると考えられる。その上で、多くの企業にとっての選択肢となる主要なオプションは下記のようなものだろう。