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      本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

      「電気自動車用バッテリーの新たなサプライチェーン~モロッコに集まる視線~」第2回である今回は、KPMGが毎年行っている調査レポートである「グローバル・オートモーティブ・エグゼクティブ・サーベイ2023」から、再生可能エネルギーの調達や電気自動車(以下、EV)のバッテリー製造地として躍進するモロッコの特徴と、それをとりまく各国の投資動向を考察します。

      バッテリー製造環境に適しているモロッコの魅力

      リチウムイオン電池の製造過程では、乾燥工程があることから多くのエネルギーが必要となります。そのため、欧州電池規則では製造時に排出した二酸化炭素(CO2)の開示、性能クラスの記載が義務化されており、それぞれ2025年、2026年からの開始が予定されています。このため、材料メーカーやセルメーカーは再生可能エネルギーの確保が必要となっています。

      第1回でも言及したとおり、モロッコは砂漠地帯に位置しているため、乾燥した気候と貿易風帯の影響で、太陽光や風力などの再生可能エネルギー資源に恵まれています。国際エネルギー機関(IEA)の調査では、再生可能エネルギーが占める割合は2022年では16.9%に過ぎませんが、これは今後の開発余地が多いことを示しています。

      特に、国際エネルギーイニシアティブのRE100(Renewable Energy 100%)では、再生可能エネルギー調達の際に技術的な要件を満たすことが求められています。発電開始から15年以上を経過した発電設備の電力は認めないという要件が提示されており、モロッコはこの条件を満たす優れた候補地であると言えるでしょう。

      再生可能エネルギー資源開発の事例としては、再生可能エネルギーを利用した電力を他国に送電するプロジェクトも新たに進行中です。さらには、「Morocco Offer」と呼ばれる再生可能エネルギーで製造したグリーン水素に対して用地提供、インフラ整備、税制優遇が行われることも発表されています。このグリーン水素の輸出先は欧州と想定されており、モロッコは欧州にとっての重要なエネルギー供給国ともなりつつあります。

      モロッコの優位点は資源だけではありません。バッテリー工場の建設が進められている欧州と比較して、モロッコの製造コストは低く、製造業にとって非常に魅力的な選択肢となっています。

      たとえば、自動車部品のなかでも労働集約型製品であるハーネスを製造するメーカーがモロッコに多く進出しており、拠点を構えている外国企業は多くの従業員を雇用しています。また、これらの会社は現地完成車メーカーへの納入とともに欧州への輸出も行っており、輸出金額の順位では自動車やリン化合物などについで第5位(2021年時点)となっています。

      モロッコは、ラストフロンティアとも呼ばれるアフリカや欧州への玄関口という地理的特性とともに、イスラムの西端という歴史的・文化的特性が交差する場所でもあります。そのため、各国が大規模な投資戦略やパートナーシップを打ち出し始めており、将来はコスト面で優位性をもっていることを考慮した欧州のサプライチェーンの一翼ではなくなる可能性があります。

      そのような状況で、日本企業はモロッコでの拠点拡充・強化という従来の方向性とともに、新たな戦略が求められるのではないでしょうか。

      【モロッコと関係国との経済協力関係】

      分類

      内容

      時期

      欧州

      「グローバル・ゲートウェイ」戦略のもと、世界のグリーン移行やデジタル分野へ投資。アフリカには1,500億ユーロを費やす(2021~2027年)。モロッコへの経済投資は最大84億ユーロと想定される。

      2021年戦略公表

      中国

      15分野における戦略的パートナーシップを締結

      2016年締結

      一帯一路構想のMoU締結/合同実施計画書に署名

      2016年締結/2022年署名

      米国

      大西洋協力(Atlantic Cooperation)という環大西洋パートナーシップを立ち上げ(加盟38か国/2024年2月時点)、持続可能な海洋経済という枠組みの下、経済、環境、科学技術に関する協力を推進

      2023年9月宣言採択

      アラブ諸国

      UAE:政府間で貿易・投資交流を2倍にする目標を設定

      2023年4月発表

      サウジアラビア:両国の民間企業団体が経済協力と統合の道を前進させるための共同作業プログラムと一連の取組みについて合意

      2024年1月合意

      日本

      日・モロッコ投資協定を締結し、二国間の投資を促進

      2020年締結/2022年発効

      本文の数値は下記資料を参考にしています。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      スペシャリスト 伊藤 登史政

      電気自動車用バッテリーとして注目されるLFPについて、その原材料であるリン資源に焦点を当てて、サプライチェーン動向を解説します。

      「自動車サプライチェーン ~グローバル企業と中国企業の比較分析~」第1回。自動車の材料・部品の供給不足への見解やサプライチェーン強靭化に向けた取組みを全4回にわたり解説します。

      自動車のデジタル化がもたらすシームレスな顧客体験と、顧客満足度に与える影響を分析し、業界の未来を探ります。

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