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      東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)が全社を挙げて多角的に取り組んでいるサステナビリティ経営について、KPMGコンサルティング(以下、KPMG)は、そのパートナーとして伴走しました。「人的資本経営」「脱炭素経営」「社会的インパクトの算定」の3つの角度から、東京メトロのSX(サステナビリティトランスフォーメーション)を紐解きます(全3回)。

      本記事では、東京メトロの「人的資本経営」について、プロジェクトをリードした東京メトロ 人事部労務課の加地正人氏と、KPMGコンサルティングの竹下真理が対談しました。

      ビジネスの世界で「人的資本経営」への注目がますます高まるなか、経営戦略に直結した「東京メトロらしい」人事戦略に着目した東京メトロ。
      一連の改革はどのように進行したのでしょうか。

      左から 東京メトロ 加地氏、KPMG 竹下

      【インタビュイー】

      東京地下鉄株式会社

      人事部労務課 加地 正人 氏

      KPMGコンサルティング株式会社
      マネジャー 竹下 真理

      東京メトロが人的資本経営を重要視してきた理由

      -東京メトロで人的資本経営が着目されるようになった経緯について教えてください。

      加地氏:鉄道事業は、駅員や乗務員などの運輸系の社員のほか、車両やトンネル、線路、電気設備の保守管理を担う技術系の社員など、専門的なスキルを持った社員が連携することではじめて成り立ちます。そのため、古くから「人」を財産と考える文化はあり、「人財」という表現も長く使ってきました。2016年に大型の総合研修訓練センター(東京都江東区)を設置して人財育成をますます強化したほか、2019年からは「WORK×LIFE SMILE ACTION ~社員一人ひとりの最大活躍のために~」をテーマに掲げ、働きがいの向上のためにさまざまな取組みを推進していたところでした。

      また、鉄道業界では、夜間の保守や始発列車の準備等のために宿泊勤務が必要となることもあり、近年、人財の確保が難しくなりつつあります。このため、人手に頼らない事業運営体制づくりを進めるとともに、宿泊勤務を減らしたり、柔軟な勤務形態や働き方の選択肢を拡充したりするなど、人財獲得のため、働きやすい環境整備を進めてきました。

      東京メトロ 加地氏

      社会に目を向けてみても、2021年にはコーポレートガバナンス・コードが改定され、2022年には有価証券報告書での人材育成方針や男女間賃金格差などの情報開示が義務付けされるなど、世の中の人的資本経営への関心の高まりをひしひしと感じています。

      我々も今まで以上に経営戦略と連動した実効性の高い人財戦略を展開していく必要があるということで、2022年12月よりKPMGに伴走してもらいながら検討を進めてきました。

      -人的資本経営とは経営にどのようなインパクトを与えるものなのでしょうか?

      竹下:人材に投資すると、結果的に企業価値の向上につながるとされています。近年は「人的資本経営」がトレンドのように言われていますが、東京メトロにも独自の取組みがあったように、これまでも多くの企業が人材育成や働きがいの創出には着目されていました。

      それが最近では、3つの観点から人的資本経営の重要性が再確認されるようになっています。

      1つ目は、SDGsです。目標8に「働きがいも経済成長も」とあるように、人々の働きがいにも注目した持続可能な企業の経済的成長が求められています。

      2つ目は、ESG投資です。有形資産だけではなく無形資産に対する投資家の関心が高まっています。

      3つ目は、事業の不確実性の高まりや人材の多様化など、企業を取り巻く環境変化です。時代の変化とともに、従来のような画一的な人材マネジメントでは対応できなくなってきています。

      このような時代の流れを受けて、「人材版伊藤レポート2.0」の発行や有価証券報告書への人的資本に関する情報開示などが後押しとなり、本テーマは企業にとってまさに「待ったなし」のフェーズにきているという状況です。

      経営戦略を達成するために求める人財像を明文化

      -東京メトロでは求める人財像として「自律」「挑戦」「協働」という3つのキーワードを掲げています。

      竹下:まずは経営として目指すべき姿があり、その達成に向けて必要な人材を獲得し、育成する、という考え方が必要になります。経営戦略を達成するための人材の「量」と「質」を定義するのが肝で、難しいポイントの1つです。

      今回、我々は人財戦略の策定、その開示のためのストーリーの整理、人財戦略の実現に向けたKPIの設定、社内浸透についてアドバイザリーをさせていただきました。「求める人財像」として「自律」「挑戦」「協働」という3つのキーワードが引き出されるための大きなインプットとなったのは、役員の皆さまへのヒアリング調査でした。東京メトロの将来像からブレイクダウンした時にどんな人財を求めているか、いろいろとうかがうことができました。

      図表提供:東京メトロ

      加地氏:「自律」「挑戦」というワードは、「安心・安全のために、決められたことを決められたとおりに行うことが重要な場面が多い鉄道事業を主軸とする当社にフィットするか?」と心配する声もありました。しかし、社内外の大きな環境変化があるなかで、持続的に事業を継続・成長させていくためには、一人ひとりが主体的に学び、アイデアや意見を出しあいながら仕事を良くしていくことが必要不可欠です。また、異常気象・災害なども増えているなか、一人ひとりが知識や技術を高め、異変に気付き、柔軟に対応していくことがますます求められてきています。

      そのような観点で「自律」「挑戦」という要素は欠かせないものだと考えています。また、「協働」については、当社が従前から大事にしていたチームワークを改めて点検し、同質的一体感ではなく、多様な社員の連携から価値が生み出されていくという考えのもと、「異なる価値観を受容・尊重し周囲と連携することができる」ことと定義しました。このように、我々の目指すべき姿を整理し、明文化できたことは有意義だったと感じています。

      竹下:作っただけで終わらせず、時間をかけて東京メトロらしく落とし込んでいくことが大事ですね。「自律」「挑戦」「協働」というワードへの納得感も社内コミュニケーションを通じて、より東京メトロらしい輪郭を作っていけると思います。

      外部の目線だからこそわかる、その会社の「らしさ」

      加地氏:KPMGからは、他社の動向や当社の経営状況、鉄道事業の特徴などすみずみまで目を凝らしたうえで、「東京メトロらしさ」について客観的な視点でアドバイスをいただきました。やはり当社らしさというのは内部にいると気づきづらいので、ありがたかったですね。実際に現場の作業も見学していただきましたが、いかがでしたか?

      竹下:駅員の方の業務を拝見する機会を設けていただいたのですが、駅ではさまざまな出来事が同時進行で発生し、ほとんど座る時間もないなかで、皆さまが緊張感を持って冷静に対応されている姿が本当に印象的でした。

      KPMG 竹下

      車両の工場にもうかがったのですが、人による作業の比重がとても大きいことに驚きました。車両のパーツを器具で叩き、その音で異常の有無を判断されている。あらゆるプロフェッショナルが集まっていて、本当に「人」が財産の会社なんだ、ということがよくわかる体験でした。いつも当たり前のように使っている鉄道は、裏側にいるこうした方たちの頑張りで安心・安全が支えられているのだと実感しました。

      実は、我々自身も当初は「自律」や「挑戦」は東京メトロに馴染むのか、と少し心配していたのですが、実際に現場を拝見して、これは本当に必要な考え方なのだと確信しました。

      多様なステークホルダーに向けて、最適な情報を

      -今後、人財戦略を社外にも社内にも浸透していくことが求められます。どのようなポイントを意識して発信していますか?

      加地氏:それぞれのステークホルダーによって当然知りたい情報が異なりますよね。社員へ、求職者へ、投資家へと、伝える先を意識して、情報を発信することが重要だと思っています。人事の仕事をしていると、どうしても会社と従業員の関係に目が向いてしまいますが、求職者や投資家に対して開かれた眼差しを持つことの重要性は、KPMGとのプロジェクトで改めて気付かされた点でもあります。

      また、採用ホームページに「求める人財像」を載せるなど、社外への発信も強化しましたので、この人財像に共感して当社で働くことを選んでくださる方が増えたら嬉しいです。

      竹下:入社を検討する方は「自分が成長できるか」「働きやすい職場なのか」などさまざまな視点でその企業をチェックしますよね。その判断基準の1つが、サステナビリティレポートや有価証券報告書に開示されている、研修にかけている時間や年次有給休暇の取得率といった情報かと思います。

      見る人に「東京メトロでは社員のことをこんな風に考えているんだ」「人に投資をしている会社なんだ」と魅力に感じていただけることも開示のメリットです。特にサステナビリティレポートでは、ストーリーを感じてもらえる構成や、グラフィックの活用で、わかりやすさを意識しました。

      社内外への浸透に向けて「社員」の一員として関わったコンサルティング

      -今回の施策を振り返ってみて、印象に残っていることはありますか?

      加地氏:社内コミュニケーションという点では、人財戦略策定のために東京メトロの人事部とKPMGで行ったワークショップも印象深かったですね。ワンチームで本音で議論することができました。おかげさまで、細かい文言までこだわりが詰まったものができたと感じています。

      東京メトロ 加地氏

      加地氏:今後は、今回のプロジェクトで作った人財戦略やその中核となる「求める人財像」を社内にしっかり浸透させていくフェーズになります。社員がみな「同じ言葉」で語れる必要はありませんが、それぞれの部署や役割において意味を噛み砕き、自分の言葉で表現していくことができるように落とし込んでいくことが大事だと思っています。

      竹下:作る・発信することで終わらせずに、定期的なモニタリングを行い、それを分析して課題を抽出し、コミュニケーションプランを刷新することで、よりブラッシュアップしていただけると思います。

      加地氏:そうですね。人的資本経営推進していくうえで、これからが大事な局面です。ぜひ、引き続き、意見交換などできればと思います。

      ※所属や肩書は2024年3月の取材当時のものです。

      関連リンク

      東京メトロのケーススタディと他のテーマに関する対談記事を紹介します。

      東京メトロのサステナビリティ経営が社会にもたらすインパクト

      脱炭素経営を中心に、CO2削減に向けた取組みや排出量算定について、東京メトロと対談しました。

      環境負荷低減に向けたCO2削減貢献量の効果や社会的インパクトの算定に関する取組みについて、東京メトロと対談しました。

      KPMGコンサルティング

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