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      ポイント

      • コーポレートガバナンス報告書において、大多数の企業が政策保有株式の縮減に言及しているものの、具体的な目標を開示している企業は少ない。
      • 2022年から2023年にかけて政策保有株式の売却ペースは高まっているものの、政策保有株式の純資産比率から見た縮減ペースは緩やかである。
      • 低PBR・低ROE企業はそうでない企業と比べて政策保有株式の純資産比率が高く、政策保有株式の保有が企業価値の低下を招いている可能性がある。
      • 政策保有株式を利益剰余金の範囲内で売却・株主還元を実施することで、全体的にROEは改善した。一部業種においてその効果は特に顕著であった。

      1.コーポレートガバナンス報告書記載内容の分析

      社数に関する分析

      ここでは、各社コーポレートガバナンス報告書における「原則1-4.政策保有株式」に関して、社数の切り口から分析を実施します。

      プライム市場に上場する企業1,650社のうち、有価証券報告書の提出があった企業※1は1,640社でした。このうち、政策保有株式※2を保有する企業は1,348社でした。政策保有株式を保有する企業のうち、「縮減」に言及※3した企業は1,095社でした。さらに、縮減に言及する企業のうち、具体的な縮減目標を開示した企業は86社でした。

      項目社数
      プライム上場企業1,650
      有価証券報告書提出企業1,640
      政策保有株式保有企業1,348
      「縮減」言及企業1,095
      縮減目標開示企業86

      縮減目標に関する分析

      次に、具体的に開示された縮減目標について分析を行います。

      縮減目標の位置付けを、「中期経営計画」の一部であるとした企業は36社でした。その他の50社は、中期経営計画とは関係なく、個別の削減目標として設定しています。

      目標の達成時期に関して、最短で2023年度とする企業がある一方、最長では2031年度とする企業もありました。目標の設定方法について、政策保有株式残高の純資産比率を一定以下(未満)とする企業(52社)や、特定時点の残高から一定額・一定割合減らすとする企業(34社)の2パターンがありました。純資産比率を削減目標にする場合、その比率を10%に掲げる企業が最も多くなりました。


      2.有価証券報告書に記載された政策保有株式を用いた分析

      縮減状況に関する分析

      ここでは、各社有価証券報告書に記載された政策保有株式の銘柄数や金額を用いて、実際の縮減状況を分析します。
      2020~2023年※4の合計売却額※5は、13.8兆円でした。同時期の取得額は3.8兆円であり、相殺すると売却が進んでいることが分かります。年ごとの売却額では、2020~2021年では3兆円前後でしたが、2022~2023年にかけては4兆円前後となっており、売却ペースが加速していたことが分かります。

      取得金額売却金額
      2020年1,124,662百万円3,138,430百万円
      2021年1,148,656百万円2,922,368百万円
      2022年1,014,538百万円4,070,401百万円
      2023年559,594百万円3,754,536百万円
      3,847,451百万円13,885,736百万円


      保有するのべ銘柄数※6の平均は、2020年の34銘柄から2023年は27銘柄となり、約2割減少しました。

      一方、純資産比率は、2020年の6.9%から2023年は6.4%となり、0.6%ポイントの減少に留まっています。純資産の蓄積に対して、政策保有株式の縮減ペースは緩やかであることが見てとれます。

      保有銘柄数 平均純資産比率 平均
      2020年34.186.9%
      2021年32.177.6%
      2022年29.756.8%
      2023年27.736.4%

      業種ごとの純資産比率に関する分析

      ここでは、保有する政策保有株式が純資産に対してどれだけの割合を占めているか、業種別に分析します。

      2023年中に決算期末を迎えた有価証券報告書を集計し、東証17業種でグループ化して、純資産比率の中央値をもってその比率が高い順に並べ替えました。

      この結果、上位5業種は、銀行、食品、建設・資材、運輸・物流、医薬品となりました。


      PBR等財務指標と保有状況に関する分析

      ここでは、政策保有株式の保有状況と財務指標を組み合わせて分析します。

      まず、PBR1倍未満と1倍以上の2グループに分けて、政策保有株式の純資産比率を比較しました。PBR1倍未満グループの純資産比率の平均値は9.1%、1倍以上グループの純資産比率の平均値は3.6%でした。PBRが低いグループは、相対的に政策保有株式の純資産比率が高い傾向にあることが分かります。

      次に、PBRをROEとPERに分解して分析します。

      ROEに関して、ROE10%未満と10%以上の2グループに分けて、政策保有株式の純資産比率を比較しました。ROE10%未満グループの純資産比率の平均値は7.8%、10%以上グループの純資産比率の平均値は3.6%でした。ROEが低いグループは、相対的に政策保有株式の純資産比率が高い傾向にあることが分かります。

      PERに関して、PER15倍未満と15倍以上の2グループに分けて、政策保有株式の純資産比率を比較しました。PER15倍未満グループの純資産比率の平均値は7.3%、15倍以上グループの純資産比率の平均値は4.8%でした。PERの高低と、政策保有株式の純資産比率はPBRやROEの高低のそれと比較して顕著な差異は見受けられませんでした。

      一般にPBRとROEには強い相関性があるといわれています。PBR1倍未満、低ROE企業の純資産比率が高いことから、政策保有株式の保有が資本収益性を損ねる一因となっていることが見てとれます。


      政策保有株式を売却・利益剰余金の範囲で株主還元したと仮定した試算

      最後に、政策保有株式を売却し利益剰余金の範囲内で株主還元したと仮定した場合に、ROEがどれだけ改善するかを試算しました。

      全体平均では、8.1%から8.7%の上昇となりました。

      業種別では、小売業が5.6%から8.1%(+45%)の上昇で最も高く、次いで銀行が4.6%から5.7%(+23%)、食品が6.5%から7.2%(+10%)となりました。

      項目株主還元前株主還元後
      ROE8.1%8.7%

      まとめ

      本分析を通じて、政策保有株式を保有していることが、低PBRや低ROEの要因のひとつとなっていることが明らかになりました。また、政策保有株式を売却し株主還元に回すことで全体的にROEは改善し、特に一部業種においてはその効果が顕著であるという結果も得られました。

      一方で、PBRやROEの向上は株主還元だけで実現するわけではありません。企業には、政策保有株式を保有する妥当性を企業価値向上の観点で改めて見直すとともに、政策保有株式の売却で得たキャッシュを投資あるいは株主還元にどう配分するか、バランスシートや経営資源配分の観点で妥当性と透明性の高い方針を打ち出すことが求められます。

      ※1 2024年3月29日までに、2023年1月31日~2023年12月31日を決算期末とする有価証券報告書を提出した企業

      ※2 政策保有株式は、XBRLタグの要素名「非上場株式以外の株式、保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式、提出会社」「非上場株式以外の株式、保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式、最大保有会社」「非上場株式以外の株式、保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式、投資株式計上額が次に大きい会社」が付された値を「政策保有株式」として集計しました。文中の「政策保有株式」は、すべて上記が集計の範囲です

      ※3 「縮減」への言及は、記載内容に「縮減」「売却」「削減」「圧縮」「処分」「減縮」「解消」のキーワードが含まれるものを「言及している」と定義しています

      ※4 各決算期末日の年を比較用の「年」に使用しています

      ※5 比較可能性を担保するため、新規上場・上場廃止を含めず、上記期間内にわたって同一EDINETコードで有価証券報告書を開示している企業を対象に集計しています

      ※6 連結グループ内で、同一銘柄を保有している可能性があるため、のべとしてカウントしています


      執筆者

      有限責任 あずさ監査法人
      サステナブルバリュー統轄事業部
      アドバイザリー事業部
      マネージング・ディレクター 土屋 大輔

      Digital Innovation & Assurance統轄事業部
      Digital Innovation事業部
      マネジャー 近藤 聡

      KPMGジャパンは、社会的課題の解決を通じて、サステナブルバリューの実現を目指す組織の変革に資する的確な情報やインサイトを提供しています。

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