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      本連載は、日経産業新聞(2023年11月~12月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

      求められる経営インテリジェンス機能の確立

      2023年5月に開催された主要7ヵ国首脳会議(G7広島サミット)では、主要議題の1つとして「経済安全保障」に関する共同文書が公表されました。そのなかで、重要物資に関するサプライチェーンの強化や基幹インフラの安全性、重要・新興技術の流出防止、経済的威圧への対処等の課題について国際連携の強化が確認されています。

      経済安全保障とは、国家の主権や独立、国民の生命・財産などの国益を経済面から確保することです。半導体やエネルギー等の重要物資・資源の確保、先端技術の開発・保護といった経済活動を通じて、安全保障上の脅威からの国家・国民の保護を目指す取組みです。国際情勢の不安定化、サプライチェーンの特定国依存への懸念、先端技術の軍事利用等を背景に、各国政府において政策や関連法制の策定が進むのです。

      日本では2022年5月、経済安全保障推進法が成立・公布されました(2年以内に段階的に施行。すでに一部施行)。同法は、(1)重要物資の安定的な供給の確保(2)基幹インフラ役務の安定的な提供の確保(3)先端重要技術の開発支援(4)特許出願の一部非公開、の4つの制度を柱とするものです。なかでも「(2)基幹インフラ役務の安定的な提供の確保」は、その影響を受ける事業者の範囲が広く、2024年春頃に運用開始予定のため、多くの企業が喫緊の課題に挙げています。

      電気やガス、金融など、本制度の対象となる14分野の事業者は、重要設備の導入・維持管理等の委託に関する計画書を事前に届け出、審査を受ける必要があります。その義務履行のため、対象事業者は委託者・供給者等に関する届出事項の把握や、契約条項の見直し等のリスク管理措置、委託先・供給先との調整等が必要となります。委託先等においても、取引継続・新規案件獲得のためには対応協力が必要です。

      また、半導体等の重要物資の安定的供給や技術保護に向けた政策強化は、サプライチェーンや研究開発に影響を与える可能性があります。昨今、前述の経済安全保障推進法に基づく企業支援や、先端半導体製造装置の輸出規制の強化、機微技術流出防止に向けた「みなし輸出」管理の明確化等が図られています。今後も企業への支援と規制の両面で、その動向が注視されます。

      米国や英国などで導入されている、機密情報のアクセスを一部の政府関係者や民間研究者等に限定する「セキュリティ・クリアランス制度」の導入に向けた動向も見逃せません。制度導入により、宇宙やサイバー関係技術の共同開発に向けた参画促進が期待される一方、情報保全に関する体制整備の負担が生じ得るでしょう。

      グローバルサプライチェーンを有する企業において、経済安全保障リスクは対応が必須な経営アジェンダです。日本の経済安全保障政策は米国をはじめ、国際社会との連携を重視する傾向が見られます。今後の事業投資やサプライチェーンを効果的に見直すには、複雑な国内外の動向を適時に把握し事業上の機会と脅威を見定めること、そのために必要な情報の収集・共有・利用のサイクル、すなわち経営インテリジェンス機能を確立することが急務と言えます。

      【経済安全保障推進法の概要】

      視点

      概要

      主な対応事項(例)

      重要物資の安定供給

      重要物資の安定供給の確保を図るため、民間事業者への財政支援をするとともに、その調達先等を国が把握

      • 補助金など金融支援の活用検討

      基幹インフラの安全確保

      基幹インフラ14業種の対象事業者は、重要設備の導入等を事前に届け出、サイバーセキュリティについて国の審査を受ける

      • 届け出事務
      • リスク管理措置
      • 委託先等との調整
      • 委託先管理の強化

      先端技術の開発促進

      AI、量子など重要技術の開発促進のため、国による資金支援や、官民伴走支援に向けた協議会等を設置

      • 研究開発への支援活用
      • 情報管理の見直し

      特許出願の一部非公開

      安全保障上機微な発明の特許出願の流出を防止するため、一定の特許出願について公開を制限

      • 開示制限への対応
      • 特許戦略の見直し

      日経産業新聞 2023年11月20日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      シニアマネジャー/弁護士 新堀 光城


      KPMGコンサルティング

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