宇都:地域で起業家やベンチャー支援を行う場合、どのような課題があるでしょうか? また解決策はありますか?
上山:地域で新しいことを始める時、課題は「リソース(人)」と「ファイナンス(資金)」です。西粟倉村は、地域おこし協力隊制度(国からの隊員1人あたり480万円を上限とする交付税措置や、隊員の起業・事業承継に要する経費100万円を上限とする交付税措置等。以下、協力隊制度)などを活用して、リソースとファイナンスを確保しています。交付金や交付税でほぼ100%カバーしてチャレンジできますから、これを使わない手はありません。村の税収は住民のために使い、住民サービスは決しておろそかにしない。そこは徹底しています。
宇都:一方で、最近は国がEBPM(エビデンスに基づく政策立案)の取組みを強化し、自治体の資金の効果的な使い道やKPIの達成を求めるようになっています。
上山:西粟倉村の場合は、事業計画を作り込んだうえで採択するので、起業した時点でKPIは織り込まれていて、起業家は自分が何をすべきか、どの方向を目指していくのかをしっかりと理解しています。曖昧なままスタートしていないので、事前に想定できる問題は避けられますし、壁に直面しても軌道修正できます。
宇都:とはいえ、移住者が多いと、地元住民との関係づくりといった点でも役場は大変ではありませんか?
上山:現状、西粟倉村は住民の17%が移住者で、その方たちは、すでに村のコミュニティの中心的存在になっています。彼らは新しい移住者にとっての「先輩」として機能し、そこで自然な形で教育が行われています。また、起業した各社が、移住してきた社員や、二次創業・事業多角化などに取り組む人たちを支援し、教育、管理するエコシステムができているため、自治体としての負担は減っています。
牧:確かに、役場は協力隊制度などの活用で、民間のチャレンジに伴うリスクをヘッジしています。しかし、各社の事業が走り出した後、村民感情からくるクレームなどにはすべて役場が対応しています。上山さんは「エコシステムができている」「負担は減っている」と言いますが、その努力は生半可なものではありません。
例えば、協力隊制度の運用の工夫や改善のスピードがとても早いのです。つい先日も、協力隊制度の運用方法の大幅な改善についての役場主催の説明会に、一民間事業者として参加しましたが、制度運用をどんどん変えていくことができるのは、他地域ではなかなか見られないと思います。
上山:制度の効果的な運用には腐心しています。制度を使っていると課題感が出てくるので、運用を厳しくすることはあります。例えば、協力隊員の受け入れ事業者は、年1回の研修を受けなければその年の新たな採用はできません。経営計画については、村の審査会の審査も受けなければいけません。一方で、柔軟に対応するべきことはそのようにして、緩急をつけています。小さな村ですから、私の上には村長と副村長しかおらず、意思決定が早いことも西粟倉村の特徴かもしれません。
宇都:制度の運用についていえば、国の政策は3~5年で変化するため、自治体は短い期間で成果を出そうとし、事業者も振り回されてしまいがちです。
上山:事業の成果はすぐには出ません。都会で3年かかるものは田舎では6~7年かかるものです。それを踏まえて、起業後も安定稼働するまで伴走します。
国の政策は変化しますが、制度(補助金・交付金など)はあくまで、事業(目的)を実現するための「ツール」です。制度に合わせて事業をつくるのではなく、先に事業があり、それに合わせてツールを使っていくのです。
やりたい事業はすでにあるわけですから、同じ計画書をその都度、それに当てはまる制度、例えば、デジタル化(デジタル田園都市国家構想交付金等)、SDGsや脱炭素などの制度(省エネルギー投資促進支援事業費補助金、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金等)に合わせて書き換えるだけです。
牧:制度ができてから、それを使える事業を考えていては遅いのです。事業や試みが国より一歩先に動き出し、チャレンジしているタイミングでちょうどいい制度ができるのが理想です。そうすれば、制度ができたときにすぐに使えます。
西粟倉村は、「他の自治体がやっていないモデルを提示する」という自負を持って動いているので、まさに一歩先に動いています。