-濵野さんが異動されて4年、つまり経営推進本部で社会課題を解決するような新規事業開発の取組みをされるようになって4年になるわけですが、どの程度進展されているのでしょうか。
濵野:順次インキュベートの期間を終えて事業化を進めています。その1番目がロボティクス事業です。将来の少子高齢化による人手不足を解消するため、人とともに働けるというコンセプトで、協働型ロボットの事業化をスタートしました。これはもう独立して、組織化しています。インフラ事業部では、信号機連携路側機やスマートポールIT(S 高度道路交通システム)、 BR(T バス高速輸送システム)など、自動運転社会を目指した製品、システムの開発を進めています。これらは今、いろいろな企業と連携して事業化に向けて取り組んでいるところです。
また、次世代の省エネの切り札にもなり得るものとして、京セラが注目しているのがGaN(窒化ガリウム)です。さらなる省エネルギーを実現するにはより高性能なデバイスが必要になりますが、GaNは低炭素社会を実現するのに有力な基幹材料として、最も注目されている素材です。そこで、2021年にGaNを基盤とした高効率・高出力レーザー技術を持つ米国のSoraa Laser Diode社を子会社化し、そのレーザー技術と京セラの結晶育成技術や半導体パッケージ技術を融合させて新たなデバイスをつくろうという取組みがスタートしました。今ではKYOCERA SLD Laser(KSLD社)として、事業化段階に進んでいます。このように、新しい事業を順次送り出しています。
-経営推進本部のなかで事業の種を育て、ある程度事業化の目処がついたものは独立させて発展させていくということですね。そのなかで、GaNにはかなり着目されているようですね。
濵野:そうです。GaNというのは、我々からすると新しい技術なのですが、この技術を使って解決できる社会課題が実は結構あります。先ほども申しましたように、我々は自社の得意分野、得意技術を起点に、どのような課題を解決できるのかを考えます。そこで、持てるものが増えると、視野も広がりますよね。その意味でも、KSLD社の設立はすごく重要な分岐点になっています。
GaNにはいくつかのテーマがありますが、その1つとしてパワーオーバーファイバー(Power-over-fiber:PoF)技術を、2022年1月に米国で開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)でコンセプト実証しました。PoFは、光ファイバーケーブルでデータと電気を一緒に伝送する光電力伝送技術ですが、これを実現するには高効率のレーザーが必要となります。現段階ではまだ効率は低いものの、GaN技術でその課題を克服したところです。
今回デモしたのは電力だけを送り込むところまでですが、最終的にはデータ転送しながら給電もできるようにしたいと思っています。光でデータも電力も伝送できれば、シンプル化、軽量化できますよね。商品化はまだこれからですが、自動車や航空機への応用など、CESではKSLD社で実現できる可能性を示せたと思っています。
-社会課題の解決に資することに新規事業開発として取り組むとのことですが、多種多様な社会課題のなかからどのように解決すべき課題を集め、選択されているのでしょうか。
濵野:我々の本部は、おおまかな分野別に事業開発プロジェクトをいくつか抱えています。それらの組織が取り組むテーマについては、「何らかの社会課題の解決に資するテーマであること」を着手要件にしています。 テーマの集め方には、あらかじめ方向性を定めてチームとして考えさせるトップダウンの仕組みと、従業員の公募による新規事業アイデアスタートアッププログラム(以下、スタートアップ制度という)というボトムアップの仕組みがあります。スタートアップ制度は、当初は募集時期を決めてテーマを集めていましたが、3年目からは通年募集にして、随時相談に近い形で精査しています。また、どのようにアイデア出しをするのかといったイノベーション創出の教育にも力を入れています。
-制度として恒常的に継続していくということですね。スタートアップ制度のテーマ採択では、何を重視されているのでしょうか。
濵野:どのような社会課題を解決するのかが明確になっているかを重視しています。ただ、スタートアップ制度の場合、起案者の比較的身近なところで感じ取った社会課題をテーマに設定していることが多いですから、より社会課題起点になっているように思います。
テーマの採択でも、既存事業との関連性よりも、課題解決に臨む提案者の思い入れの部分に重きを置いています。ちょうど第1期が事業化をしようという前段階にまで進んでいますが、その1つにアレルギーフリーの記念日用ごちそうキット「matoil(マトイル)」があります。先日、谷本も含めてみんなで会食をしたのですが、卵や小麦を使わなくても美味しいのです。私にはアレルギーがないのであまりそういう問題意識がなかったのですが、社内のアンケートによると、京セラには7世帯に1世帯くらいの割合で家族にアレルギーの方がいます。他の家族はみんな美味しいものを食べているのに、その人だけ食べられない。そうした状況を解決したいということで始まったのが「matoil(マトイル)」です。この取組みによって、本業ではあまりお付き合いのなかった業界とのつながりもできました。各自が培ってきた技術をフルに活用して、大きな社会課題解決に向けて取り組んでいきます。