米国上場支援サービス(SPACによる米国上場)

日本企業を対象としたSPACによる米国上場について、De-SPACまでに必要な手続や関連したアドバイザリーサービス等について解説します。

日本企業を対象としたSPACによる米国上場について、De-SPACまでに必要な手続や関連したアドバイザリーサービス等について解説します。

SPAC上場までのプロセス

De-SPAC(以下、「SPAC上場」)とは、プライベート・エクイティやヘッジファンドの機関投資家チームによって設立され、株式公開(以下、「IPO」)された会社(以下、「SPAC」)と買収対象会社(以下、「対象会社」)が、企業買収・合併して米国上場する手法です。参画した投資家は、IPOが行われた時点では、どの会社とSPAC上場するかは不明な状況で資金提供しています。なお、一般的に、SPAC上場のために設立された会社は、Shell Companyと呼ばれますが、ここでは「SPAC」とします。

SPAC上場までのプロセスは、「合併契約の作成」、「取引開始まで(SECへの登録届出書のファイリング等)」、「取引開始後」の3段階に大きく分かれます。一般的に、このプロセスは比較的短期間で行われる事例が多く、実務上の負担も大きいため、迅速な作業が求められます。

米国上場支援サービス(SPACによる米国上場)図表01

出典:KPMG

合併契約の作成

ここでは、合併契約の締結前のプロセスについて解説します。

上場したSPACは、一般的に上場から2年以内に対象企業を決定し、株主総会の承認を得て、SPAC上場するのが一般的です。通常SPACがIPOで調達した資金は、信託口座で保管され、資金使途は企業買収、合併企業への出資、合併が成立しなかった場合の清算中の株主への分配、株式の償還に定款上で限定されています。そのため、SPACが一般的に2年以内にSPAC上場を完了しなければ、SPACは清算され、IPOで調達した資金は株主に返還されます。

対象会社が決定すると、対象会社はSPACからのデューデリジェンスを受け、その検討結果を踏まえてSPACと対象会社双方で協議を重ね、会計、法務、税務面からストラクチャーを決定します。

こうした協議の結果を踏まえ、基本合意書(以下、「LOI」)をSPACと対象会社の間で締結し、さらに協議を重ねて合併契約書を作成します。したがって、ストラクチャーを決定し、合併契約書を作成するためには、複数の観点から検討を行わなければならず、専門家の関与が必要となります。

また、上場後にどう企業を成長させるか(エクイティ・ストーリー)についても協議を重ね、投資家へマーケティングを行うとともに、SPAC側では、負債による資金調達やPIPE(Private Investment in Public Equity)取引のように追加の株式を発行して調達します。

SPAC上場にかかわる主な関係者

ここでは、SPAC上場の主な関係者について解説します。代表的な関係者は以下のとおりです。

前述のように、SPACが買収・合併取引であることから、SPACと対象会社それぞれに米国法弁護士、日米の税務の専門家や監査法人が関与し、通常のIPOを行うときに比べ、関係者の数が増加します。以下は、日本企業が対象会社で、かつ米国のSPACとSPAC上場をする場合の関係者のイメージです。米国法弁護士や監査法人の他に、日本法弁護士、日米の税務の専門家が参画しています。なお、関係者はSPAC上場ごとに異なるため、下記はあくまで参考であることにご留意ください。

米国上場支援サービス(SPACによる米国上場)図表02

出典:KPMG

取引開始まで(SECの登録届出書のファイリング等)

SPAC上場を行うためには、合併契約の内容を、米国証券取引委員会(以下、「SEC」)へ、登録届出書(主に「Form S-4」、SPACが米国外発行体(FPI)の場合は「Form F-4」)を作成してファイリングする必要があります。そのうえで、SECの厳格な審査(通常3~4ヵ月)を受け、かつ審査を踏まえたコメントがなくなるまで、関係者で対応していきます。また、SECのコメントが少なくなってきた段階で、合併取引完了を見越して、NASDAQやNYSEにも取引開始に向けた申請を行います。

こうしたプロセスを進める際は、さきほど記載した関係者全員でレビューして対応するため、非常に複雑で情報が輻輳しやすくなります。したがって、こうしたレビューにかかる時間をあらかじめ織り込んでおくことが重要です。

SECからForm S-4(またはForm F-4)の承認を得た後は、株主から承認を取り付けるべく、Proxy(委任状)を作成のうえ、株主総会を開催します。合併に賛成した株主は、SPAC上場後の新会社の株主となり、反対した株主は、信託口座から株式の償還および利息を受け取ります。株主総会で合併が承認された段階で買収・合併取引が完了となります。

取引開始後

まず、SPAC上場完了後4営業日以内に、臨時報告書(「Super 8-K」もしくは「Super 20-F」)をSECへのファイリングを通じて提出します。
また、取引開始後は、SPAC上場後の新会社(以下、「新会社」)は引き続き継続的な報告義務を果たす必要があります。
具体的には、Form S-4でのSPAC上場であればForm 10-K、Form 10-QやForm F-4でのSPAC上場であればForm 20-F、Form 6-Kで継続的に開示しなければなりません。それぞれの報告時期の期限については、SECの規則で細かく定められているため、規則も参照して対応していくことが必要です。

支援サービス内容

SPAC上場にあたっては、これまでに述べてきたとおり非常に短いスケジュールのなかで多岐にわたる作業が発生します。
KPMGでは、クライアントが直面するさまざまな課題に対応すべく、プロジェクトマネジメント、税務ストラクチャリング支援、登録届出書(Form S-4)作成支援とSEC審査への対応支援、対象会社の米国会計基準(USGAAP)による連結財務諸表作成支援、PCAOB基準による監査対応支援など、SPAC上場を成功に導く迅速かつ高品質なサービスを提供します。
また上場後も、US SOX法に基づく内部統制制度の導入についてサービスを提供しており、クライアントのSPAC上場後の道のりも継続的にサポートすることが可能です。

プロジェクトマネジメント(PMO)

SPAC上場を進めるにあたり、上場制度・上場実務慣行を踏まえつつ、SPAC、SEC、弁護士事務所、会計監査人など、さまざまな関係者からの要請に適切かつタイムリーに対応していくことが重要です。

KPMGジャパンでは、上場準備の各ステップでクライアントが解決すべき課題を的確に把握し、上場までの課題解決に向けたタスクの洗い出しと論点整理をしたうえでロードマップを作成します。上記主要ステークホルダーとクライアントとのコミュニケーションと課題解決をサポートし、米国上場プロジェクトを円滑に推進するよう支援します。

税務ストラクチャリング対応支援

SPAC上場では、SPACと対象会社におけるストラクチャリングが重要な課題となり、SPAC上場後のスキームについて検討されます。
日本企業を対象としたSPACによる米国上場にかかる税務上の論点については、以下を参照してください。

日本企業を対象としたSPACによる米国上場における税務上の論点(PDF:387KB)

登録届出書(Form S-4)作成支援と米国SEC審査への対応支援

SPAC上場では、対象会社の情報が含まれることから、登録届出書(Form S-4またはF-4)の作成が必要となります。登録届出書の記載内容として、対象会社の財務諸表、プロフォーマ情報、MD&A、リスクファクター、事業計画等の記載が求められます。

登録届出書の作成には、SPACと対象会社とのLOI締結から登録届出書の提出までのスケジュールが比較的短期間のケースが多いなかで、さきほど紹介した関係者のレビューを受ける必要があるため、効率的な作業が求められます。

また、登録届出書提出後は、SECによる厳格な審査が行われ、その間、SECより複数回コメント(以下、「SECのコメント」)が送付されます。この回答には幅広い専門知識が必要となるうえ、非常に短期間での回答が要請されます。そのため、想定質問と回答案を事前に用意する等、スピーディーに対応することが非常に重要です。

KPMGジャパンでは、これまでの米国上場プロジェクトで培った知識と経験に基づき、登録届出書の効率的な作成を支援するとともに、SECからのコメントに迅速かつ適切に対応可能な体制を整えています。

連結財務諸表の作成支援

登録届出書で開示される対象会社の財務諸表は、直近3期分の監査済み財務諸表の記載が必要ですが、以下の場合は直近2期分の財務諸表となります。

  • SPACがEGC(Emerging Growth Companies)に該当して、IPO後の最初のForm 10-K(FPIの場合はForm 20-F)を提出していない、かつ対象会社がEGCに該当する場合
  • 対象会社がSECへ報告を行っている会社でなく、かつSRC(Smaller Reporting Companies: 直近年度の売上が1億ドル未満など)に該当する場合

なお、登録届出書に開示される対象会社の財務諸表の会計基準については、通常USGAAPとなります(SPACがFPIである等の場合は、国際財務報告基準(IFRS®会計基準)を選択することも可)。

対象会社が日本企業のケースでは、USGAAPによる財務諸表を作成していないことが多いため、実務上日本基準をUSGAAPにコンバージョンするための必要な時間が確保できない場合、SPACの要求するスケジュールに間に合わない可能性が高いことから、事前に準備をしておくことが重要です。

KPMGジャパンでは、米国SECの規則(開示関連通達等)やSECのコメントの傾向を考慮しつつ、クライアントの業種に即した効率的かつ効果的なアプローチで、USGAAP連結財務諸表の作成を支援します。

PCAOB基準による監査対応支援

登録届出書に開示される対象会社の財務諸表については、より厳格な米国公開会社会計監査委員会(PCAOB)基準の監査が必要になります。日本における、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した監査が終了していても、再度PCAOB基準による監査が必要となります。

対象会社が日本企業のケースでは、通常PCAOB基準による監査を受けていないケースがほとんどのため、現状の会計監査人がPCAOB基準による監査に対応できる会計監査人であるかどうかの確認、PCAOB基準による監査に対応できる会計監査人である場合でも、PCAOB基準による監査にどのくらいの期間が必要になるかあらかじめ確認する必要があり、PCAOB基準による監査スケジュールを十分に考慮することが重要です。

KPMGジャパンでは、これまでPCAOB基準による監査の経験から、PCAOB基準による監査が迅速に進むようにサポートします。

US SOX法(Sarbanes-Oxley Act)に基づく内部統制の構築支援

SPACは、通常業務プロセスが複雑でないため、SOX法に基づく内部統制構築の対象の中心は、新会社になると考えられます。

新会社は、経営者による内部統制(ICFR)に対する年次評価と報告(SOX404(a))および監査法人による内部統制監査(SOX 404(b))が必要となります。

US SOX法に基づく経営者による内部統制に対する年次評価と報告および会計監査人による内部統制監査についてSPAC上場後、2年目の年次報告書(Form 10-KもしくはForm 20-F)から必要となります。

ただし、新会社がEmergent Growth Company(「EGC」)に該当する場合、監査人による内部統制監査については、原則SPAC上場後5年間は免除されます。

US SOX法に基づく内部統制制度の導入においては、現行業務プロセスの見直しと改善、さらにITシステムの導入が必要となるケースもあり、必要な項目に焦点を絞ったプロジェクトの推進が重要です。KPMGジャパンではUS SOX法に基づく内部統制構築における専門的な知識や経験を有するメンバーが内部統制制度の導入を支援します。

 

ここで紹介するサービスは、公認会計士法、独立性規則および利益相反等の観点から、提供できる企業や提供できる業務の範囲等に一定の制限がかかる場合があります。詳しくはあずさ監査法人までお問い合わせください。

コピーライト© IFRS® Foundationすべての権利は保護されています。有限責任 あずさ監査法人はIFRS財団の許可を得て複製しています。複製および使用の権利は厳しく制限されています。IFRS財団およびその出版物の使用に係る権利に関する事項は、www.ifrs.orgでご確認ください。 

免責事項: 適用可能な法律の範囲で、国際会計基準審議会とIFRS財団は契約、不法行為その他を問わず、この冊子ないしあらゆる翻訳物から生じる一切の責任を負いません(過失行為または不作為による不利益を含むがそれに限定されない)。これは、直接的、間接的、偶発的または重要な損失、懲罰的損害賠償、罰則または罰金を含むあらゆる性質の請求または損失に関してすべての人に適用されます。この冊子に記載されている情報はアドバイスを構成するものではなく、適切な資格のあるプロフェッショナルによるサービスに代替されるものではありません。 

「ISSB™」は商標です。「IFRS®」、「IASB®」、「IFRIC®」、「IFRS for SMEs®」、「IAS®」および「SIC®」はIFRS財団の登録商標であり、KPMG IFRG Limitedおよび有限責任 あずさ監査法人はライセンスに基づき使用しています。この商標が使用中および(または)登録されている国の詳細についてはIFRS財団にお問い合わせください。