コグニティブディシジョンセンターは、豊富なデータに基づいて意思決定を可能な限り効率化し、サプライチェーンの実績を可視化するだけでなく、製品、サプライヤー、流通業者、顧客などに関する未来のパフォーマンスを予測します。
さらに、最適なパフォーマンストレードオフを特定するための先進的なシミュレーションとモデリングを使用し、顧客サービス、リスク、コスト、運転資本などのバランスのとれた意思決定を可能にします。
KPMGは、企業におけるコグニティブディシジョンセンターの構築を支援し、顧客ニーズへの対応と組織のパフォーマンス管理の向上を可能にします。
最適な意思決定への課題
サプライチェーンの成否は、最終的に2つの要因、すなわち効率的なプロセスと効果的な意思決定に左右されます。しかしこのどちらの要因も、組織内の各部門が掲げる相反する目標により、悪影響を受けることがよくあります。
【各部門の目標と懸念される悪影響】
部門 | 目標 | 悪影響 |
---|---|---|
マーケティング | 素早い製品供給、幅広い品揃え、低価格、迅速な配送による収益最大化と優れたカスタマーエクスペリエンスの提供 | 少量の高コスト生産や商品価値の喪失により大量の在庫を抱える恐れ |
調達 | 低コストのパーツや原材料の調達による低価格の実現 | 品質上の問題や短納期での代替品調達に関する柔軟性低下の恐れ |
製造 | 限られた製品の大量生産による規模の効率性の最大化 | 需要変化への対応遅れ、顧客選択肢の縮小、複雑で高コストな長距離物流に繋がる恐れ |
財務 | 在庫レベルの抑制と廃棄の最小化による運転資本の削減 | 製品の安定供給が不確実となり顧客満足度の低下に繋がる恐れ |
あらゆるメーカーは、こうした相反する目標の間で常に最良な調整結果を探り続けています。しかし各部門が、自部門のみに限定された目標を目指してそれぞれ行動し、独自に意思決定を下せる自律性を保持している限り、組織全体にとって最適な意思決定を下すことは難しいでしょう。
膨大なデータ処理
データはよりよい意思決定を行うための鍵であり、あふれるほど豊富に存在していることは確かです。サプライヤー、物流事業者、店頭、倉庫業務、生産ライン、在庫などから得られるデータのほか、大小さまざまな設備や製品に設置されたIoTセンサーから得られるデータは、ますます増加の一途を辿っています。
これらのサプライチェーンデータの大半は適切に構造化されておらず、意思決定者を困惑させることがあります。意思決定者は、タイムリーな洞察を手に入れるどころか、多くの場合、価値を生み出す重要な意思決定の判断材料にならないものや無関係な情報に悩まされています。それに加えて、そのような膨大なデータの処理はシステムの速度を低下させます。
コグニティブディシジョンセンターの必要性
データコントロールタワーは多くの組織に広く導入されていますが、その多くは、部門ごとの狭く短期的な視野からサプライチェーンを把握するにとどまっています。その原因は、組織的な目標への明確な視点を欠いているためです。
それに対して、パフォーマンス重視のコグニティブディシジョンセンターは、サプライチェーン全体を完全に可視化し、さまざまな関係者間のコラボレーションを積極的に取り入れます。過剰な情報で意思決定者の負担を増やすのではなく、価値と利益に影響を及ぼす本質的な洞察だけを提示し、意思決定者の選択を単純化します。
【コグニティブディシジョンセンターと従来のコントロールタワーの比較について】
コントロールタワー | コグニティブディシジョンセンター | |
---|---|---|
プロセス | 単一の業務機能を支援する | 企業全体を支援する |
パフォーマンスとKPI | 過去に遡るインテリジェンスと部門別のKPI | バランスの取れた企業全体のKPI/機械学習を使用して予測する |
スコープ | 単一部門だけのサイロ化された意思決定 | 組織横断的な、協調的な意思決定 |
対象期間 | 短期 | 複数の期間が対象 |
テクノロジーとアナリティクス | リアルタイムの可視性があるが、過去のパフォーマンス履歴のみ | リアルタイムの可視性があり、将来のパフォーマンス予測を行う |
データ | ERPデータと若干の外部フィード | ERPと外部データの幅広い組み合わせに、ヒューリスティックモデリングを適用する(データの欠落を埋める) |
行動と動機 | 従来型の組織行動と動機 | 意思決定を1つのビジネス規律として取り扱い、パフォーマンス向上への協調的な取組みを動機とする |
的確な意思決定のためのシナリオプランニング
コグニティブディシジョンセンターにより、組織はより大局的に状況を把握して、さまざまな問題について効果的な判断を下すことが可能となります。
主要な組織目標を重視するコグニティブディシジョンセンターは、成果をモデル化するシナリオに基づき、より厳格なアナリティクスと明確に定義された意思決定プロセスの採用を促します。
このプロセスは4つの主要要素から成り立っています。
- 変化(例:需要の変化)に意味があることをいつ知ったのか?
- どのくらい迅速に、データと分析を活用してシナリオを作成することができるか?
- いつ決断を下して、その意思決定を確定させることができるか?
- どのくらい迅速にその意思決定を実行に移せるか?
このようなアプローチをとることで、さまざまな意思決定が顧客サービスレベル、売上、および利益に及ぼす影響を予測できるほか、そうした意思決定のスピードも予測することができます。
コグニティブディシジョンセンターを設立するための5つのステップ
- パフォーマンス主導
テクノロジーによって意思決定が左右されることは許されません。パフォーマンス目標の設定を出発点として、どの選択肢がそれらの目標に影響を及ぼすかを理解し、組織内の全員が全社規模の目標の達成に向けて行動するように奨励すべきです。そのうえで、適切なアナリティクスツールを開発(または購入)し、パフォーマンスに最大の影響を与え、最大のROIを実現するデータのみを収集する計画を作成する必要があります。 - 意思決定をビジネスルールとして取り扱う
先進的なアナリティクスを通じて可能となる組織横断的な素晴らしい意思決定スキームは、まったく新しく刺激的なビジネスルールとなります。シニアマネジャー、サプライチェーンオペレーターおよび技術者は、データ主導のコグニティブディシジョンセンターが効果を上げるように、業務慣行や組織文化を根本的に変革する必要があります。特に大きな変革が必要となるのは、問題が生じたときに、その解決が最も適切な知識を有している人員に付託されるのではなく、上位の役職へと上申されるのが通例となっているような組織です。 - 専門知識をデータアナリティクスと融合させる
コグニティブディシジョンセンターにおけるすべての意思決定は、データ主導であるべきです。短期的には、必要なデータがすべて入手できることはまずないかもしれません。それでもやはり、可能な限り多くの適切な情報源を人間の経験と結び付けることによって、従来よりもはるかに的確な意思決定を下すことが可能となるでしょう。 - コグニティブディシジョンセンターへの移行を組織変革として推進する
意思決定の重心を分析主導へと移すことと同様に、サイロ化を解消し、より協調的な組織へ移行することは大きな変革です。コグニティブディシジョンセンターへの移行を大規模な組織変革として推進すべきです。なぜならそれは、業績管理、ガバナンス、組織構造、役割と責任、リーダーシップ、組織文化、そして働き方など、あらゆる領域に影響を及ぼすからです。 - 新たに必要とされる能力を開発し、エコシステムを形成する
テクノロジーベンダーが、コグニティブディシジョンセンターの要件に対応できるレベルまで十分に垂直統合されていることは期待できません。したがって、エコシステムを構築する能力が重要になります。企業は、学会や専門機関との連携も含み、データサイエンティスト、アナリスト、データアグリゲーターなど、高い技術力を持つ人材を確保する必要があります。情報が果たす役割が増大する中で、データ共有に置かれる優先度はますます高まっています。