「年金運用ガバナンスに関する実態調査2024」を発表

組織的対応、利益相反管理、「見える化」対応が今後の課題

組織的対応、利益相反管理、「見える化」対応が今後の課題

有限責任 あずさ監査法人(東京都新宿区、理事長:山田 裕行)は、確定給付型企業年金(以下、DB年金)の運用担当者を対象に実施した「年金運用ガバナンスに関する実態調査2024」を発表しました。

第4回となる本調査は、2024年8月~9月に約1,400社の上場企業の年金運用実務担当者を対象に実施し、123名の有効回答を基に分析しました。ガバナンス・モニタリング体制、年金運用人材配置の状況、スチュワードシップ・コードの受け入れ方針などに加え、外部専門家の利用、コーポレートガバナンス・コード対応と利益相反管理の状況やそれらに対する提言をまとめています。

「新しい資本主義」の施策の一つである「資産運用立国実現プラン」において企業年金のアセットオーナー機能のさらなる発揮が求められる中、実際の企業年金の現場の状況や諸課題を浮き彫りにすることを目的としています。

今回の調査結果によると、多くの企業では年金運用担当者への従事体制、育成等の支援が不十分な状況が続いており、担当者が孤軍奮闘している状況が見られました。また、コーポレートガバナンス・コードの改定による企業マネジメントの関心や具体的な支援はあまり変わっておらず、資産運用に関する利益相反管理には課題がある状況です。「資産運用立国実現プラン」で提案されている企業年金の運用の「見える化」については警戒感が浮き彫りとなりました。

主な調査結果

運用人材の配置・育成は依然として組織的対応が不十分

前回調査(2022年)と同様、大半の企業における年金運用担当者は、兼務しながら年金運用に従事している状況であり、かつ兼務者における年金運用業務への従事割合も25%以下にとどまる企業が大半となっています。
また、人材の配置時には適性や経験を踏まえて選任する企業が多いものの、育成については本人の努力に委ねられている企業が多くなっています(図表1)。人材配置や育成、マネジメントの関与など組織的対応の確立が課題と言えます。

図表1:年金運用担当者の育成状況

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今後のガバナンス面の課題は運用担当者の能力向上

DB年金運用の課題として「ポートフォリオの見直し」は普遍的な課題ですが、その次に多いのが「社内の運用人材の能力向上」、次いで「モニタリング体制の向上」となっています(図表2)。

図表2:DB年金の資産運用に関しての今後の課題(3つまで複数回答)

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コーポレートガバナンス・コード以降もマネジメントの姿勢はあまり変わっていない

コーポレートガバナンス・コードにおいてアセットオーナー機能の発揮に関する原則が盛り込まれ、企業年金を実施する上場企業は、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うことが求められました。しかしながら、過半数の企業ではマネジメントの姿勢の変化はなく、具体的な支援が増えたと回答する企業はほとんどありませんでした(図3)。「資産運用立国実現プラン」が求めるアセットオーナー機能の発揮をより推進するには、マネジメント層のより一層の啓発が必要と考えられます。

図表3:コーポレートガバナンス・コードを受けての企業経営者の姿勢変化

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運用委託先決定における利益相反管理には課題

純粋に運用能力だけで委託先を決定している企業は全体の30%程度にとどまっており、多くの企業では金融機関との取引関係が考慮されています(図表4)。この傾向は前回と同様であり、コーポレートガバナンス・コードの「企業年金の受益者と会社との間に生じ得る利益相反が適切に管理されるようにすべきである」という考えがあまり浸透していないと言えます。

図表4:運用委託先決定における受益者との利益相反管理

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企業年金運用の「見える化」に対しては警戒感

「資産運用立国実現プラン」で提案・検討されている企業年金運用の「見える化」案については、他企業の情報を活用できる点に一定の意義を認める声もありますが、実名での開示に対する抵抗や、利回りの高低にのみ注目が集まることによるミスリードへの懸念などからネガティブな意見も多くなっています(図表5)。「見える化」の意義や功罪を十分検討したルール整備が望まれます。

図表5:DB年金運用の「見える化」

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ガバナンス体制やモニタリング体制は企業間のばらつき

前回調査から大きな変化はありません。モニタリング体制に関しては、一部の企業では毎月あるいは四半期ごとの頻度でマネジメント層への報告が行われる一方、定期的な報告がない企業も一定数存在しており、企業間のばらつきがみられます(図表6)。

図表6:年金運用実績の報告頻度

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調査概要

調査期間:2024年8月~9月
調査対象:以下に該当する上場企業(約1,400社)の年金運用実務担当者
①   連結従業員数300名以上
②   有価証券報告書に退職給付制度に関する注記をしている
調査方法:インターネットによる回答
回答数:123名(回答率:約9%)

あずさ監査法人について

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