「KPMGジャパン CFOサーベイ COVID-19特別版」を発表
KPMGジャパンは、コロナ禍での優先課題の認識とアフターコロナを見据え今後高まるCFOの役割について、「KPMGジャパン CFOサーベイ COVID-19特別版」を実施しました。
KPMGジャパンは、コロナ禍での優先課題の認識とアフターコロナを見据え今後高まるCFOの役割について、「KPMGジャパン CFOサーベイ COVID-19特別版」を実施しました。
- コロナ禍において再定義が必要なものとして、「中長期戦略」との回答が最も高く46%だが、それを支える「マテリアリティ(重要課題)」を選択した割合は21%にとどまる
- 脱炭素の観点で気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への対応は規模の大きい企業を中心に進むが、規制が自社に与える複数シナリオ分析までは進んでいない
- 業界ごとに事業戦略は大きく異なるが、消費者により近い業界ではESGに対応した「コア事業の高度化」に注力
- ESGを踏まえた企業価値を高めるための今後の課題として、52%は「社会的責任と経済的成果の調和」をより重視
- 企業価値を大きく左右させるステークホルダーは、「従業員」が84%と最も高い回答
KPMGジャパン(東京都千代田区、チェアマン:森 俊哉)は、コロナ禍での優先課題の認識とアフターコロナを見据え今後高まるCFOの役割について、「KPMGジャパン CFOサーベイ COVID-19特別版」を実施しました。国内の上場企業560社のCFOを対象に、30の設問で構成し、2020年10月に調査しています。
調査の結果、CFOの71%は2年以内に業績が回復するという見通しを示しています。しかし、ヘルスケア業界がおおむね1年以内と回答しているのに対し、自動車業界は1~3年と幅広に見ているなど、業界ごとの差が顕著でした。世界各国でのロックダウン、国内における第三波やワクチンの開発情報など不確定要素が多いなか、「業績管理や予測」は非常に困難になっており、CFOの役割領域として最も重要度が高まりました。一方で、全ての業種・規模の企業に共通して、社会的な価値観や環境の変化に伴い、「従業員」の重要性が高まったと回答しています。
CFOはCOVID-19による影響が組織のあらゆる領域に及んでいることを逆転思考でとらえ、コロナ禍への短期的な対応ではなく、長期的に最も価値を生みだす取り組みを分析し、資源を最適配分する必要があります。
「KPMG ジャパンCFOサーベイ COVID-19特別版」の主なポイント
コロナ禍において再定義が必要なものとして、46%が「中長期戦略」と回答したが、それを支える「マテリアリティ(重要課題)」を選択した割合は21%にとどまる
コロナ禍において、企業価値を高めるために再定義が必要だと考えるものとして、「中長期戦略」との回答が最も高く46%でした。一方、ビジネスモデルとその成果に大きな影響を与え得る事象の「重要度」という意味合いをもち、経営資源の配分における判断の基礎となる「マテリアリティ(重要課題)」の見直しは21%にとどまっています。
中長期戦略の見直しは、本来であれば、CEOや取締役会を中心に企業の存在意義(パーパス)*1を見直し、どのような企業価値を提供できるのか価値創造ストーリーを描いたうえで、マテリアリティに基づいた財務インパクトの要因を分析していくべきものです。今後は、価値創造ストーリーの基軸となるマテリアリティの再評価について、CFOのコミットメントが期待されます。
*1KPMGグローバルCEO調査2020では、コロナ禍で78%のCEOがパーパス(存在意義)の見直しを実施。
コロナ禍において、企業の社会的責任と経済的成果を両立させた上で企業価値を高めるために、再定義(見直し)が必要と考えるものを選択してください (複数選択)
TCFDへの対応は規模の大きい企業を中心に進むが、規制が自社に与える複数シナリオ分析までは進んでいない
気候変動リスクへの対応として、TCFDへの対応は売上高5,000億円以上の企業で取り組みが進んでおり、それ以下の規模の企業との差が顕著な結果となりました。これは企業の規模が大きいほど、気候変動リスクのようなマクロ要因の影響を受けやすく、またビジネスの方向転換にも時間を要するため、気候変動リスクへの対応に早期に着手していることが考えられます。
コロナ禍を受け、マーケットからの注目が高まった気候変動リスクへの対応につき、実施中又は検討中の施策があれば選択してください(複数選択)
世界的な脱炭素の潮流を受け、日本では菅政権により「2050年カーボンニュートラル達成」が宣言されています。今後は規制や投資を通じて、日本企業もより一層の気候変動リスクへの対応が迫られ、これまで以上に脱炭素化を具体的な戦略に落とし込み、課題の明確化、実行方法やタイミング、そして成果を、全ステークホルダーに明確に伝えていくことが求められます。
しかし、売上高5,000億円以上の企業においても、気候変動に関連する規制が自社に与える影響分析の実施は18%(売上高3兆円以上の企業では34%)と回答率は低く、未だ進展しているとは言えない状況です。気候変動リスクに適切に対応できなければ、事業は規制による制約を受け、大手機関投資家や金融機関からの資金調達に支障をきたす可能性も高まります。
CFOは事業の大小にかかわらず、自社の抱える気候変動リスクをバリューチェーン全般にわたって正確に把握し、事業戦略の見直しや事業ポートフォリオの入れ替えといったハイレベルな判断のみならず、サプライチェーンの見直しも実施する必要があります。このような取り組みを不断に推し進めることが気候変動リスクに対するレジリエンスを高め、市場からの評価獲得につながります。
業界ごとに事業戦略は大きく異なるが、消費者により近い業界ではESGに対応した「コア事業の高度化」を重要視
銀行業界では、顧客の行動様式が大きく変容したことから、オペレーティングモデルの見直しやデジタル技術の活用も含めた業務運営体制の改革に迫られました。また、リモート環境を利用した新たな犯罪の発生も想定し、サイバーセキュリティリスクへの対応がますます重要になっています。
回復に時間を要すると見込まれる自動車業界では、60%のCFOが中長期戦略の見直しが必要と回答しており(全体平均46%)、不採算事業の梃入れや売却が進むと考えられます。
消費者に近い小売業界では、ESGの意識の高まりにより、サプライチェーンの見える化やサステナブル調達といったコア事業の高度化の実現が重要視されています。
従来からビジネスモデルの見直しが検討されていた総合商社においては、コロナ禍において事業整理の重要性が増し、加速しています。他方でM&Aの機会を積極的に発掘しているとも回答しており(83%)、成長分野へ資源を集中させ、積極的な投資を推進しています。
ESGを踏まえた今後の課題として、大企業のCFOは「社会的責任と経済的成果の調和」をより重視している(52%)
ESGへの対応に注目が集まるなか、企業価値を高めるための課題に関して、「従業員の意識付け」との回答が56%と最も多く挙がりました。
売上高3兆円以上の企業に絞った場合、「社会的責任と経済的成果の調和」との回答が52%(全体平均39%)、「幅広いステークホルダーとの対話」が48%(全体平均25%)と高い割合を示しました。また、開示において今後充実させたい領域として、「社会的責任の履行」が55%(全体平均45%)と、平均値を上回っています。売上高規模の大きい企業のCFOほど社会への影響度も高く、サプライチェーンも広範にわたり、潜在的なレピュテーションリスクが高いことから、社会的責任をより強く意識していると考えられます。長期的には、単に規模や財務パフォーマンスに留まらない資本主義の在り方の変容を見据え、価値創造の源泉たる中長期的な非財務パフォーマンス、そしてそれを大きく左右する多様なステークホルダーとのエンゲージメントを意識し始めていることが推察されます。
コロナ禍を受け、ESGへの対応に注目が集まるなか、企業価値を高めるために、貴社で実行に移すにあたって課題と考えられるものを選択してください(複数選択)
コロナ禍に対応の重要性が高まったステークホルダーとしては、従業員が84%と最も高い回答
コロナ禍の行動変容や価値観の変化により重要性が高まったステークホルダーに関する質問に対しては、「従業員」が84%、「顧客」が67%、「取引先」が49%、「投資家」が41%となり、すべての会社規模およびセクターにおいて、従業員を重視する結果となりました。
従業員の労働環境に改めて目を配り、その安全と健康を守る対策を講じる必要があったこと、リモートワークの導入に伴い業務プロセスや精神衛生面のケアなどにおいても、従来とは異なる方法を模索しなければならなかったことから、実感として従業員の重要性が高まったと考えられます。
従業員は企業価値創造の源泉です。マネジメントは、パーパスを従業員レベルまで落とし込み、従業員の行動の軸とする必要があります。従業員の扱いや、従業員の行動が、企業価値を大きく左右するものであることが再認識されています。
コロナによる行動変容や価値観の変化に伴い、対応の重要性が高まった、ないし高まると考えるステークホルダーを選択してください(複数選択)
従業員重視の風潮に呼応して、「抜本的に改革が必要な領域」に関する質問では、「業務プロセス改善」が58%、「社員の意識改革」が52%、「IT基盤の刷新」が52%となりました。
リモート環境下で紙文化の見直しや、デジタルツールの拡充など業務プロセスの変更が必要となり、従業員のセルフマネジメントやジョブディスクリプションの再定義を行うにあたり、従業員の意識改革の必要性を実感していることがわかります。
「KPMGジャパン CFOサーベイ COVID-19特別版」調査概要
調査対象 | 上場企業904社を対象に実施し、560社のCFOから回答。 560社の内訳は、売上高1000億円未満が294社、売上高1000億円以上5000億円未満が145社、売上高5000億以上3兆円未満が92社、売上高3兆円以上が29社。 |
調査期間 | 2020年10月1日~10月30日 |
調査方法 | インターネットによる回答。 全30問。全般的な傾向(3問)、経理財務(2問)、情報セキュリティ(1問)、資本政策・資金調達(2問)、税務(1問)、事業戦略・M&A(8問)、サプライチェーン(2問)、ガバナンス(4問)、人事労務(2問)、ESG・気候変動(5問)から構成。 注:いくつかの数値に関しては四捨五入を行っているため、必ずしもその合計が100%にならない場合があります。 |
KPMGジャパンについて
KPMGジャパンは、KPMGインターナショナルの日本におけるメンバーファームの総称であり、監査、税務、アドバイザリーの3つの分野にわたる8つのプロフェッショナルファームによって構成されています。クライアントが抱える経営課題に対して、各分野のプロフェッショナルが専門的知識やスキルを活かして連携し、またKPMGのグローバルネットワークも活用しながら、価値あるサービスを提供しています。日本におけるメンバーファームは以下のとおりです。
有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人、KPMGコンサルティング株式会社、株式会社KPMG FAS、KPMGあずさサステナビリティ株式会社、KPMGヘルスケアジャパン株式会社、KPMG社会保険労務士法人、株式会社 KPMG Ignition Tokyo