自動車の設計と廃車管理に循環性を織り込んだEU ELV規則について議会および理事会案が出揃い、リサイクルプラスチックの含有義務が注目を集めています。しかし、金属材料のリサイクル材含有義務について、どのような方向性がとられているのでしょうか?公知情報を基に深堀を行います。

1.EUのELVへの金属リサイクル材含有率の議論

EUのELV規制における自動車への金属リサイクル材含有率に関して、前編で紹介したように、影響評価を実施したのちに規制が定められる方向です。一方この影響評価についてはどのような視点があるのでしょうか?その1つが2025年3月に発表された「鉄鋼・金属行動計画(A European Steel and Metals Action Plan)」です。

これは、域内金属産業の競争力確保に向けた政策文書であり、このなかで挙げられている施策の1つが域内循環性の促進による脱炭素化で、2次原材料の使用義務が含まれています。そのなかで鉄鋼材料の影響評価を2626年4Qまでに実施すると記載しており、鉄鋼が優先材料であることがわかります。他には自主的な炭素ラベルの開発について触れられており、これまた鉄鋼からの着手が予定されていることがわかります。

これがどのような影響が生じるかということを、炭素ラベルで先行している電池規則から類推すると、炭素強度に応じた販売制限措置の導入の可能性があります。つまり、リサイクル材使用義務という資源循環とともに低炭素化というグリーンの両面での対応が求められる可能性が高いと考えられます。

2.鉄鋼に対する影響評価

それではリサイクル材含有義務への影響評価はどこまで進んでいるのでしょうか。これに関して欧州委員会は2つの報告書を発行しています。まずはELV規制に対しての影響評価であり、主な内容としては精緻解体した場合に得られる材料とその経済的影響などが記載されていますが、そのなかの暫定評価として鉄鋼のリサイクル材含有率が記載されています。2つ目はEUの鉄鋼産業が循環経済に対して移行する場合の経済・社会的な影響評価を行った政策研究です。このなかでは鉄鋼の大口需要家として建築・土木部門や機械装置とともに自動車産業が挙げられ、循環経済に対応するためのリサイクル材含有率を各種変化させたシナリオを元にした影響評価が行われています。

どちらの報告書とも自動車の鉄鋼リサイクル材使用義務を主対象としている報告書ではないため、あくまでも参考値として捉えるべきですが、JRCの政策報告書は要注意です。その理由はEU委員会の規制に対しての政策オプションとその影響評価をJRCが行っており、鉄鋼リサイクル含有率の政策オプションのベースラインと上限値が出てきたとも考えられるからです。

【リサイクル材含有義務に関する影響評価】

EU ELV規制における金属のリサイクル材含有義務について 後編_図表1

3.自動車産業に求められること

まず短期的には、自社のサプライチェーンや部品ごとの鉄鋼リサイクル材使用率の現状把握が必要となります。これにより、今後の規制強化への対応を定めることが可能となります。

中期的には、保護貿易化や国際的な規制強化など、急速に変化する外部環境に柔軟に対応できるレジリエンスのある経営体制の構築が求められます。具体的には、外部環境の変化を早期に察知するインテリジェンス体制の構築、サプライチェーンの強靭化などの機能単位での取組みのみではなく、迅速な意思決定と対応力を支える全社的な仕組みが必要となります。これらの取組みは、単なる形式的な対応に終始するのではなく、現場への実装と実効性が真に必要となっています。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 伊藤 登史政

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