1.グローバル

投資家の流動性への楽観的な見方もあり、4四半期連続で増加

2025年第3四半期の世界のベンチャーキャピタルによる投資は、南北アメリカと欧州では季節的な要因もあり全体的な取引数や取引規模はわずかに減少しましたが、投資家の流動性への楽観的な見方もあり、1,200億ドルと4四半期連続で増加しました。

  • 南北アメリカがベンチャーキャピタル投資の最大シェアを占める
  • AI分野が依然としてベンチャーキャピタルの最優先投資分野に
  • 防衛テックが引き続き世界的に注目を集める
  • ハードウェアが世界のベンチャーキャピタルの間で一定の牽引力を獲得

2025年第4四半期に注目すべきトレンド

AIモデルや特定の業界にフォーカスしたAIソリューション、AIインフラへの継続的な投資もあり、世界のベンチャーキャピタルによる投資は比較的安定した状態が続くと予想され、ロボティクス分野も勢いを増すと考えられます。AIへの投資家の関心の高さを考えるとAI関連のソリューションを持たない企業は今後資金調達に苦慮する可能性がある一方、アフリカやラテンアメリカ、東南アジアなどではフィンテックが投資の最優先分野であり続ける可能性が高いと考えられます。また、成熟したスタートアップが米国のIPO環境の改善を活用すると考えられ、イグジットが世界的に増加すると予想されます。

2.米国

イグジットの増加やAI関連ソリューションへの活発な投資に支えられ、投資額は増加

米国のベンチャーキャピタル市場ではIPOによるイグジットの増加に加え、各ステージでのバリュエーションの上昇、AI関連ソリューションに対する活発な投資環境に支えられ、取引数が減少するなか809億ドルに増加しました。

  • 米国ではAIへの投資が過熱、過去最大のシードラウンドが実施される
  • 活発化するIPO市場
  • 米国でのM&Aは4年ぶりの高水準に
  • ベンチャーキャピタルは依然として収益性を重視。アーリーステージには厳しい環境が続く
  • フィンテック分野での再編が始まる

2025年第4四半期に注目すべきトレンド

米国のベンチャーキャピタル市場には楽観的な見方が広がっており、AIや防衛テック、宇宙テック分野は今後も多くのベンチャーキャピタルからの投資を受けると予想されます。また、フィンテック分野でのイグジットが引き続き増加すると考えられます。市場の安定が続けば、IPOによるイグジットが第4四半期から2026年にかけてさらに勢いを増す可能性があります。

3.南北アメリカ

新興市場におけるフィンテックとモビリティへの投資家の関心が高まる

南北アメリカのベンチャーキャピタルによる投資は比較的安定しており、取引数が減少したにもかかわらず前四半期の800億ドルから850億ドルに増加しました。米国以外では、カナダのCoherenceが当四半期の米国を除く同地域で最大となる6億ドルを調達したほか、ラテンアメリカではブラジルのQI Techが3億1,300万ドルを、またメキシコのVEMOがPEグロースラウンドで2億5,000万ドルを調達するなど、新興市場におけるフィンテックとモビリティによるイノベーションの可能性について、ベンチャーキャピタルの関心の高さを示しています。

  • 投資家の収益性重視の姿勢から、AI分野以外の案件は低迷
  • ラテンアメリカで注目を集めるフィンテック。メキシコのフィンテック企業が銀行免許の取得を目指す
  • カナダは好調な四半期に
  • 米国とカナダではAI分野が最大の投資案件を占める

2025年第4四半期に注目すべきトレンド

南北アメリカでは、主に米国のIPO市場の回復に支えられ楽観的な見方が広がりつつあります。米国とカナダではAIが引き続き最もホットな投資分野になると予想され、フィンテックとヘルステック分野は同地域のより広い範囲で高い関心を集めると考えられます。カナダでは、政府の科学研究実験開発(Scientific Research and Experimental Development:SR&ED)優遇税制プログラムの見直しによりアーリーステージのスタートアップに資本効率の改善とイノベーションのパイプラインの加速という好影響をもたらすと考えられ、その動向が注目されます。メキシコでは、米国との関税交渉が解決するとの期待から投資家心理が改善しており、第4四半期後半から2026年にかけて海外からの投資が増える可能性があります。

4.欧州

フィンテックやディープテック分野が取引規模は控えめながら、複数のラウンドを実施

欧州では取引数が前四半期に続き低迷したものの174億ドルと前四半期から増加しました。AI分野ではフランスのMistral AIによる15億ドルのほか、英国のNscaleの15億ドルなどいくつかの大型案件があり、これらを合わせると欧州地域での資金調達のかなりの部分を占めました。AI分野以外にも、フィンテックやディープテック分野において取引規模は控えめながら、英国のRapyd Financialによる5億ドルのほか、英国の暗号資産およびクラウドインフラストラクチャ企業のPS Minerの3億5,000万ドル、フィンランドの量子コンピューティング企業IQMによる3億2,000万ドルなど複数のラウンドが行われました。

  • 欧州の投資家は強気を維持する一方、不確実性のなかでディールメイキングは長期化傾向に
  • 欧州ではクリーンテック分野への投資が続く
  • 英国では長引くマクロ的な逆風にもかかわらず回復傾向に
  • ドイツではベンチャーキャピタル市場の改革により、実績のあるプレーヤーに資金が集まる
  • 北欧地域では量子コンピューティングへの関心が高まる
  • アイルランドでの投資は軟調に推移

2025年第4四半期に注目すべきトレンド

米国と欧州連合(EU)との間で貿易協定が締結され、市場の不確実性が一部取り除かれたことで、欧州におけるベンチャーキャピタルによる投資が活発化し始めるとの慎重ながらも楽観的な見方があります。世界的にESG(環境・社会・ガバナンス)が後退する可能性があるなか、クリーンテック、特に代替エネルギー分野への投資は欧州では堅調が続くと予想されます。AI分野、特にヘルスケア分野向けのAIアプリケーションと防衛テックは、どちらも2025年第4四半期の欧州における主要な投資先分野であり、さらに、量子コンピューティングとディープテックへの注目はますます高まると予想されます。

5.アジア

地政学的緊張の継続や中国のマクロ経済環境の不確実性などにより、アジアでの投資は低調に

アジアでは地政学的および貿易上の緊張の継続、中国のマクロ経済環境の不確実性、アジア全域での大型案件の不在などもあり、投資総額は168億ドルと低調でした。アジアの投資総額の約半分を占める中国での投資額は84億ドルで、前四半期に見られた記録的な低水準から緩やかな回復を示しましたが、投資家に根強く残る警戒心から、中国ではここ数年で最も低調な四半期の1つとなりました。

  • D+ラウンドを除き、取引数は低調に推移
  • アジア全域において、AI対応とインフラがベンチャーキャピタルの関心の上位に
  • アジアでのIPOは2024年実績を超える
  • 中国ではユニコーン企業の勢いに陰り
  • インドでは不透明な地政学的環境のなかで投資は低調に推移
  • 日本のベンチャーキャピタル市場は慎重だがコーポレートベンチャーキャピタルは勢いを維持

日本のベンチャーキャピタル市場は慎重だがコーポレートベンチャーキャピタルは勢いを維持

2025年第3四半期の日本のベンチャーキャピタルによる投資は、貿易摩擦や政治的不確実性、高金利のなかで投資家が慎重な姿勢を維持したため、前四半期の16億ドルから13億ドルへとわずかに減少しました。日米間の新しい貿易協定はロボットや半導体などのハードテックスタートアップに影響がある一方で、AIやバイオテクノロジー、国内に焦点を当てた企業への影響は少ないと考えられます。
日本ではコーポレートベンチャーキャピタルによる投資が資金調達の多くを占めるなか、投資家の多くは大型の案件を避け、国内市場向けや多様なグローバル戦略を持つスタートアップに対して、アーリーステージでの投資に重点を置いています。

当四半期、日本ではAIやヘルスケア、エネルギー、宇宙、モビリティ分野が引き続き投資家からの高い関心を集めましたが、実績のある企業や大規模なベンチャーキャピタルが繁栄する一方で、小規模なファンドや体力のないスタートアップは大きなハードルに直面し、投資先の二極化がますます鮮明になっています。

2025年第4四半期に注目すべきトレンド

アジアでは景気回復に時間がかかると予想される中国におけるベンチャーキャピタルによる投資は引き続き低調に推移すると予想されるなか、AIとディープテック分野に加え、ヘルスケアとバイオテクノロジー分野がアジアの投資家の投資先として最優先分野であり続けると考えられます。インドでは強力なマクロ経済と活気ある資本市場から、貿易の不確実性が解消されればベンチャーキャピタルによる投資が回復するという楽観的な見方があります。日本では今後数四半期にわたり、M&AがIPOに代わって主要なイグジットの手段になる可能性が高く、スタートアップ同士のM&Aも増加すると考えられます。第4四半期は、特に半導体、エネルギー、モビリティ、ヘルスケア分野における企業による戦略的な投資が注目されます。

英語コンテンツ(原文)

Q3’25 Venture Pulse Report — Global trends

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