前回は、わが国における健康医療等データの利活用に関するこれまでのあらゆる課題、そしてここまでとこれからのデータ利活用政策の動向について述べました。

本稿ではより具体的にデータベース(以下、DB)の内容等にも言及しながら、わが国における健康医療等データの利活用のためのDBやプラットフォーム、その他取組みや位置付けを紹介します。また、そのようななかで、データの利用を検討する民間企業やアカデミア等へKPMGがどのように貢献できるのかについても言及していきます。

1.健康医療等データの利活用を推進する代表的なDBや取組み

わが国における健康医療等データの利活用を推進する代表的なデータベースや取組みには、構築中のものも含めると以下の7つが挙げられます(図表1)。

現状稼働中の主な3つの健康医療等データの利活用を行うDBの利用者区分ごとの利用実績を分析すると、DBによって特徴があり、NDBの場合は多くが大学・研究機関であるものの、MID-NETでは民間企業や公的機関(PMDA)、次世代医療基盤法認定事業者DBの場合は民間企業が利用者の主となっていることがわかります(図表2)。

これら健康医療等データの利活用を行う主な3つのDBに着目し、以下特徴と民間企業での活用可能性について解説します。

【図表1:現サービス提供中の健康医療等データの利活用実績】

わが国の健康医療等データ利活用の取組みと民間活用の可能性_図表2

出所:末尾の参考資料を基にKPMG作成

【図表2:わが国における健康医療等データの利活用に関するデータベースや取組み】

わが国の健康医療等データ利活用の取組みと民間活用の可能性_図表1

出所:末尾の参考資料を基にKPMG作成

2.NDBの特性と利活用の状況

公的DBとしては、NDBや介護DB、DPC DBなどのレセプト・DPCデータ等を中心としたデータベースが先立って提供されており、特に利活用が進んでいるNDBにおいては、2020年から民間企業を含め利活用が可能となっています。

NDBでは保険者などから収集されたレセプト情報(診療報酬明細書)や特定健診情報等を提供しており(図表3、4)、厚生労働省「匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)の利用に関するガイドライン」によると、利用目的については「公的機関や大学等による疫学的調査や研究のほか、製薬企業をはじめとする民間事業者による、医薬品安全性調査、市販後の有害事象のエビデンス収集等の研究、医薬品や医療機器の創出又は改善に資する調査、研究又は開発等」と学術に閉じない幅広な目的が認められています。

一方、データの特性上、実態としては医薬品や医療機器の創出までは活用されておらず、多くは公衆衛生や医療経済評価等の目的での研究や、民間企業においても疫学的調査を含む医薬品の使用実態、疾患の情報収集等に活用されているという状況です。利活用を進めるにあたって課題となっている点としては、オンサイトセンターやセキュアな環境を構築したうえでの利用が求められている点や、利用申請からデータ提供まで1年以上かかってしまうなど、迅速性の求められるフィジビリティ的な研究活動には不向きである点が挙げられます(2024年11月から、一部条件付きデータセットについては、迅速提供が可能となっています)。

【図表3:NDB収載情報(レセプト)】

わが国の健康医療等データ利活用の取組みと民間活用の可能性_図表3

出所:厚生労働省「(参考資料1)公的DBについて/第11回 匿名医療情報等の提供に関する専門委員会 資料」

【図表4:NDB収載情報(特定健診)】

わが国の健康医療等データ利活用の取組みと民間活用の可能性_図表4

出所:厚生労働省「(参考資料1)公的DBについて/第11回 匿名医療情報等の提供に関する専門委員会 資料」

3.NDBとの比較から見るMID-NETの強み

PMDAが提供するMID-NETでは、民間企業も含め2018年から提供が開始されています。MID-NETは、NDBのような医療レセプトやDPCデータのみならず、電子カルテ由来の情報も提供している(図表5)ことから、患者背景から確定診断情報、処置情報、検査結果まで多様な情報が得られる点が大きな強みと言えます。

また、各種データを集約のうえ、統合DB内で標準化処理を行うなど、信頼性の担保が図られている点もデータの強みとして挙げられます。NDBの情報ではあくまで保険請求上の疾患であり、保険病名であることから、必ずしもそれが診断結果と一致しているとは限らないため、製薬企業等における臨床研究など正確性・質を求められる研究には不向きとされています。

さらに、現状では大学病院をはじめ連携している9拠点31の大規模医療機関(グループ機関含む)のデータおよび匿名データのみの利活用に限られている点、最大の懸念としてそもそものMID-NETの構築の目的から、利用目的が「医薬品の市販後安全監視やリスク・ベネフィット評価を含めた安全対策」ならびに「行政機関、製薬企業又はアカデミアが実施する公益性の高い調査・研究」に限られている点が、利用促進に向けた大きな課題として挙げられます。あくまで本DBは「医薬品の安全性評価」に用いるため、というのが大前提にある点に注意が必要です。

【図表5:MID-NETとNDBの特性比較】

わが国の健康医療等データ利活用の取組みと民間活用の可能性_図表5

出所:厚生労働省「市販後安全対策に係るリアルワールドデータの活用(医薬局提出資料)/第20回 医薬品等行政評価・監視委員会資料」

4.次世代医療基盤法認定事業者によるデータ利活用

内閣府「次世代医療基盤法について」によると、次世代医療基盤法認定事業者には2025年12月時点では3社が認定されており、データ利活用実績は2020年から順次開始されています。2025年10月末時点で最もデータ提供の事例が多い認定事業者としては、一般社団法人ライフデータイニシアティブ(LDI)が60件、続いて一般社団法人日本医師会医療情報管理機構(J-MIMO)では28件、一般社団法人匿名加工医療情報公正利用促進機構(FAST-HDJ)において4件の利用実績と続いています。

事業者ごとに利活用可能なデータ種別は異なり、医療レセプトやDPCデータ、また電子カルテデータ以外にも、LDIでは画像情報や各種報告書・紹介状などのレポート情報も利活用可能となっており、NDB等の公的DBやMID-NETで提供されるデータ項目を含む、さらに多様なデータの提供が受けられる点は大きな強みとなっています(図表6)。

また利用目的の観点からも、MID-NETでは困難な安全性評価以外の商用目的にも活用が可能である点が民間企業を中心に利活用されている主な要因と言えるでしょう。前章で述べていますが、2024年4月改正(施行)に伴い、仮名加工医療情報の利活用が特定の条件下(利活用者には認定が必要)において利活用が可能となったこと、もしくは別途提供用IDを付与した連結可能匿名加工医療情報の取扱いが可能となったことにより、NDB等の公的DBとの連結した解析も可能となっています。

これにより、入院前の通院時点からどのような経過を辿って病院受診・入院に至ったのか、過去どのような健診の結果であったのか、など病院外を含め中長期に追跡することが可能であり、より精緻な医療研究が可能となると考えられています。

【図表6:認定匿名加工医療情報作成事業者が収集する医療情報】

わが国の健康医療等データ利活用の取組みと民間活用の可能性_図表6

出所:内閣官房「次世代医療基盤法の施行状況と課題について(資料4)/第5回データ利活用制度・システム検討会」

5.急拡大する官民双方の健康医療等データの利活用

上記のような官民の各種データベースのほか、多数の民間企業も独自にデータ収集・提供を行っています。これら官民双方のデータ提供事業の拡充も背景に、特に製薬企業において健康医療等データの利活用が盛んに検討されるようになっています。

なかでも臨床開発の効率化から適応拡大/再審査対応、PMS(製造販売後調査)、MA(メディカルアフェアーズ)・HEOR(医療経済・アウトカムリサーチ)における活用など、官民双方の健康医療等データの利活用市場は多方面で急速に拡大しています。一方で、各DBにおけるデータの網羅性・粒度・遡及/追跡期間、利用手続き、利用目的制限・セキュリティ・各種ルールなど、利活用に当たり組織横断で理解・整理すべき前提条件も多岐にわたるなかで、自社における検討にどのように活用可能であるのか困っている企業も少なくはないでしょう。

一例として、製薬企業が健康医療等データを利活用するにあたり、上述の各DBや取組みがどこで活用可能であるのか、横軸を製薬におけるバリューチェーン、縦軸を提供する健康医療等データの種別としてマッピングした結果を示します(図表7)。

現状提供を行っている官民のDBの多くは、提供データの種別や利用条件から、PV(安全性情報管理)や、MA領域での活用が主の活用目的になると想定しています。そのため、今後創薬や臨床開発等への活用に耐え得る健康・医療等情報として、分子レベルでの各種オミックスデータや、幅広な各疾患の臨床画像情報や検査情報など、それらが経時的な情報として集積されているDBが求められます。

【図表7:製薬企業におけるバリューチェーンに対応した健康医療等データの利活用に関するDBや取組み】

わが国の健康医療等データ利活用の取組みと民間活用の可能性_図表7

出所:末尾の参考資料を基にKPMG作成

6.KPMGの支援

製薬企業のみならず、新規に健康医療等データの利活用を検討する企業は多岐にわたり、かつ関連企業や社内の組織間の足並みを揃えたデータ活用が求められるようになっています。そのなかで、KPMGでは利活用者が「どのような目的に対して」「どのようなデータを」「どのようなDBを活用して」「誰と」「どのように進めるか」を短期間で合意できる状態に落とし込み、利活用に足るユースケース設計とデータ可用性の見極め、実際の活用に至るまでの伴走サポートを行う「健康医療等データ(RWD:リアルワールドデータ)利活用検討支援」のコンサルティングを提供しています。(図表8)。

【図表8:KPMGによる健康医療等データの利活用を見据える事業者(製薬企業等)への支援イメージ】

わが国の健康医療等データ利活用の取組みと民間活用の可能性_図表8

出所:KPMG作成

7.おわりに

前章にて述べたように、健康医療等データの利活用については、データヘルス改革(2017年)を皮切りに、医療DX(2022年)における電子カルテ情報共有サービス内の医療情報の二次利用(電子カルテ情報DB(仮称):2026年から構築開始)、さらにはEHDSを参考にしつつ検討が進むとされる医療情報等の二次利用基盤(2026年夏を目途に議論を整理予定)など、法改正の検討を含め今後さらに加速していくことが予想されます。

これらのDBはデータ提供がゴールではなく、多くの人に利用してもらい、最終的には国民に提供される医療の質の向上としての還元が求められます。KPMGとしてもこれらの動きと連動しながら、積極的に民間企業やアカデミアにおける健康医療等データの利活用の推進を支援することで、わが国の医療の質の向上に貢献していきます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 山口 将大
マネジャー 久保 竜之介

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