自動車業界は今、かつてないほどの大変革期を迎えています。新たなテクノロジーやデジタルエコシステムにより、価値創造のあり方そのものが根本から変わりつつあります。この変化は徐々に進む進化ではなく、急速かつ破壊的なものであり、従来のビジネスモデルに大きな挑戦を突きつけています。

さらに、グローバルサプライチェーンの不安定化、規制強化、顧客ニーズの変化が重なり、段階的な調整では対応できず、多くの企業が中核戦略、組織構造、イノベーション体制の抜本的な見直しを迫られています。こうした環境下で競争力を維持し、業界内での存在感を保つためには、アジリティを高め、業界横断的な協業を進め、大胆なモビリティの未来像を含めた戦略の再構築が不可欠です。

本稿では、世界の775人のエグゼクティブの見解を踏まえ、今後の自動車業界で競争優位性を確立するための5つの重要な指針「変革の先導(Spearhead Transformation)」「テクノロジーの習得(Master Technology)」「信頼の獲得(Earn Trust)」「緊張のなかでのかじ取り(Navigate Tensions)」「共に成長(Thrive Together)」を明らかにしています。

変革の先導(Spearhead Transformation)

生産能力の過剰が進み、利益率が圧迫されるなか、従来の量的成長モデルは効率・価値重視のモデルに代替されつつあります。また技術革新は、かつてないスピードでの市場投入を可能にしています。こうした状況は業界に地殻変動をもたらしており、エグゼクティブの3分の1以上が今後3年以内に自社が完全に変革すると予測しています。

調査に回答したエグゼクティブはすでにその影響を肌で感じつつ、業界内での統合は不可避だと考えています。69%の経営者が2030年までに、OEMの統合により市場に存在する自動車会社の数が減少すると予想しており、65%がサプライヤーにも同様の統合の波が到来すると予測しています。

テクノロジーの習得(Master Technology)

自動車がタイヤ付きのコンピューターへと進化するなか、技術革新と堅牢なデジタル基盤は、安全性、信頼性、信用、業績の重要なイネーブラーになっています。しかし、86%がAIや先端技術へ積極投資しているにもかかわらず、それらのテクノロジーがもたらす業界破壊に「十分備えられている」と回答した企業は20%にとどまります。

さらに、自動車のバリューチェーンにおいてデジタルシステムやパートナーの数が増加するにつれ、サイバーセキュリティ、データプライバシー、コンプライアンス違反などのリスクも拡大しています。自動車企業はこれらの機会やリスクに対応するため、自社保有、共同開発、外部委託するテクノロジーを戦略的にすみ分け、管理することが求められています。

信頼の獲得(Earn Trust)

現在のユーザーは、単に信頼できる車を求めているだけではありません。顧客の信頼と長期的なロイヤリティを獲得するためには、コネクテッドカーから得られるデータやAI、車内からのリアルタイムフィードバックを活用し、直感的で個別最適化された、顧客ニーズに合致するエンドツーエンドの体験を創出することが重要です。しかし、多くの企業はこうした顧客体験の実現に苦戦しています。

調査によると、エグゼクティブの3分の1が、デジタル販売への移行が顧客との関係構築を難しくしていると回答しました。さらに、自動車業界のリーダー企業は、他社に比べて約5倍も「顧客満足が事業成長に不可欠である」と位置付けており、顧客満足こそが成功の鍵となっています。

緊張のなかでのかじ取り(Navigate Tensions)

地政学的な緊張により、グローバルな事業環境は分断が進んでいます。原材料調達、関税、半導体不足といった混乱は、どの地域も避けられません。サプライチェーンとサステナビリティの変革は、今後3年間で自動車業界に最も大きなインパクトを与える要因と認識されています。

調査結果によると、こうした変革に「十分備えられている」と回答した企業の94%が、利益目標を上回る業績を達成しています。これは、備えが不十分とする企業の45%と比べて、圧倒的に高い割合です。

共に成長(Thrive Together)

電動化、デジタルモビリティ、サプライチェーンの課題を単独で乗り越えることは困難です。急速に進化するエコシステム主導型の業界で競争力を維持するには、バッテリー技術、ソフトウェアプラットフォーム、クラウド基盤、サステナビリティソリューションにおいて協働しなければなりません。77%の企業が「戦略的アライアンスやパートナーシップがすでに事業成長に寄与している、または今後重要な要素となる」と述べています。特にリーダー企業はこの傾向が顕著であり、他の企業より、より広範な領域で積極的にパートナーシップを展開しています。

<付録>日本における消費者調査結果

2025年8月に日本国内在住の自動車保有者(18歳から69歳)6,007名を対象にアンケートを実施し、主要な業界テーマに対する日本の消費者の受け止めやエグゼクティブと消費者の見解の違いを考察しています。
 
  • 電動化(BEV化)に対する見解:
    日本の消費者は車を次回購入する際、エンジン車77%、HEV30%の順で検討すると回答しました。前回調査(2023年11月)と比較して、エンジン車の購入検討意向が増加し、PHEVやBEVは大幅に減少しています。
  • オンライン販売に対する見解:
    前回調査に比べオンライン販売を利用したい消費者は全年代で減少しており、全体で11%にとどまっています。
  • 自動運転に対する見解:
    1割程度の消費者は、ロボタクシーが普及すれば自家用車を手放す意向を示しています。
  • カーシェアリングに対する見解:
    約20%の消費者がカーシェアリングを利用したいと考えており、特に若年層や都市圏居住者は利用意向が高い傾向です。
  • 顧客体験に対する見解:
    所有する車のブランドの地域によって、消費者が車を購入する際に重視するポイントは明確に異なります。
  • 未来型都市に対する見解:
    日本の消費者は、未来型都市への居住に前向きな層と後向きな層でほぼ二分されています。
  • SDGsに対する見解:
    SDGsより価格を重視する消費者は全体の7割と、前回調査より増えています。

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