本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

「バイオ燃料で読み解くモビリティCN化」と題した本シリーズの第2回では、バイオ燃料を世代区分別に解説したうえで、カーボンニュートラルに向けた次世代のバイオ燃料の位置付けや導入の課題、メリットを説明します。

カーボンニュートラルに向けたバイオ燃料の位置付けとは

カーボンニュートラルの議論では、電動車や水素が主役になりがちです。しかし、実際には「液体燃料をどう低炭素化するか」という、重要な課題があります。なぜなら、トラック、バス、建設機械、航空機、船舶など、当面は液体燃料なしでは動かせない分野が多く残るからです。

そのギャップを埋める有力な選択肢の1つが、バイオ燃料です。

「バイオ燃料」と聞くと、かつてのトウモロコシ由来エタノールのように食料と競合するイメージや、森林減少を招く恐れがあるパーム油問題を思い浮かべる方も多いでしょう。

実際、第1世代バイオ燃料は、植物由来の糖質・でんぷん・油をそのまま燃料に変換する方式で、食料との競合や供給量の制約が大きな課題でした。ガソリンや軽油の代替として一定の成果はあったものの、「地球を救うはずの燃料が、食卓と奪い合う」という構図は、世界的な批判を招いたことを覚えている方も多いと思います。

そこで開発が進んでいるのが、第2世代と次世代のバイオ燃料です。
第2世代は、セルロース系バイオエタノールや廃食油由来のバイオディーゼルのように、農作物の非可食部や廃油など「本来捨てられていたもの」を原料とします。食料との競合は避けられますが、技術的に高度でコストが高く、供給量もまだ十分とは言えません。

さらにその先に位置付けられる次世代バイオ燃料は、廃油やごみ、バイオガスなどから合成した炭化水素系燃料で、ガソリンや軽油とほぼ同等に扱えることが特徴です。これらはガソリン・軽油をそのまま置き換えられるポテンシャルを持ち、原料選択を誤らなければ食料と競合しないという意味で、カーボンニュートラルの本命候補と言えます。

【図表1】

合成燃料までの10年をどう繋ぐか_図表1

出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成

実際の生産動向を見ると、潮目の変化がはっきりしてきます。世界全体のバイオ燃料生産量を時系列で見ると、バイオエタノールは2010年代半ば以降、頭打ちの傾向が見られます。一方、バイオディーゼルはその後も右肩上がりで増加を続けています。

その背景には、ガソリン向けでは多くの国でエタノール混合比率が上限に近づいている一方、ディーゼル車や航空・海運分野では、バイオディーゼルやHVO(Hydrotreated Vegetable Oil)の受け皿がまだ広く残っていることがあります。特に欧州やインドネシアでは、再生可能燃料の義務化政策の後押しもあり、バイオディーゼルの需要が伸び続けています。

【図表2】

合成燃料までの10年をどう繋ぐか_図表2

出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成

欧州の再生可能エネルギー構成を見ると、バイオ燃料の存在感は小さくありません。欧州の再生可能エネルギーのうち約6割はバイオマスで、風力や太陽光を合わせた分野を上回っています。

そのバイオマスのなかで、液体バイオ燃料は約1割強に過ぎませんが、運輸部門に直接投入されるため、排出削減への短期的な貢献度は高いと言えます。
現状では、軽油代替のFAMEが約半分を占め、次世代型のHVOとバイオエタノールが残りを分け合っています。将来予測では、廃棄物や残渣を原料とする「先進バイオ燃料」が伸びると見込まれています。

【図表3】

合成燃料までの10年をどう繋ぐか_図表3

出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成

では、これからのバイオ燃料はカーボンニュートラルのなかでどんな役割を担うのでしょうか。

日本を例に見ると、現状ではほぼすべてが化石燃料です。移行期(1)では、第1・第2世代のバイオ燃料を既存の化石燃料に混合し、低炭素化を進めます。移行期(2)では、合成燃料(e-Fuel)も加えながら、将来的に化石燃料そのものの比率を下げていくという姿が描かれています。

電動車や燃料電池車の普及に伴い、ガソリン需要は減少する可能性がありますが、完全にゼロにはならないでしょう。その残った部分を、バイオ燃料と合成燃料で「カーボンニュートラルなガソリン」として置き換えていくというのが基本的な考え方です。

【図表4】

合成燃料までの10年をどう繋ぐか_図表4

出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成

ただし、バイオエタノールの導入を本格的に拡大するには、いくつかの課題があります。

第1に、安定的なサプライチェーンの構築です。 世界の有望地域から輸入に頼るのか、国内の未利用バイオマスをどこまで活用できるのかによって、エネルギー安全保障やコスト構造は大きく変わります。

第2に、ガソリンへの混合方式の選択です。 日本ではこれまで、エタノールを一度ETBEに変換して混合する手法が主流でしたが、欧米のようにE10やE20といった直接混合方式に移行するかどうかは、精製・流通・車両側の対応を含めた総合的な設計が必要です。

第3に、燃料品質と既販車への影響です。 エタノールは水分を吸いやすく、揮発性や腐食性も異なるため、単に「混ぜればよい」という話ではありません。安全性評価や排出ガスへの影響検証を踏まえ、新たな燃料規格づくりが求められます。

さらに、供給インフラと車両対応の課題も避けて通れません。バイオ燃料を本格的に普及させるには、製造設備だけでなく、貯蔵タンクやパイプライン、ガソリンスタンドの設備改修など、サプライチェーン全体への投資が必要です。
車両側も、E20対応のガソリン車をどのタイミングで標準化するのか、非対応車をどう扱うのかといった、きめ細かな移行設計が求められます。これらを同時並行で進めるには、エネルギー事業者、自動車メーカー、政府・自治体が共通のロードマップを描き、投資リスクをある程度シェアする仕組みが不可欠です。

一方、次世代バイオ燃料やHVOのような炭化水素系燃料には、既存のインフラやエンジンでほぼそのまま使えるという利点があります。

ディーゼル代替としてのHVOは、寒冷地での性能や酸化安定性にも優れており、トラック・バス・建機向けに現実的な選択肢といえます。
航空分野では、SAF(Sustainable Aviation Fuel)が注目されています。廃油や廃材を原料とする経路を拡大することで、航空機の排出削減に大きく貢献できる可能性があります。

こうした状況を俯瞰すると、カーボンニュートラルに向けたバイオ燃料は「食料と競合しない資源を起点に、既存インフラと両立させながら、合成燃料や電動化と共存していく移行期のツール」と位置付けられます。

第1世代で露呈した課題を踏まえ、第2世代・次世代では、原料の選定とライフサイクル全体でのCO2削減効果の検証が一層重要になります。
同時に、2030年代に本格化が期待されるe-Fuelだけに将来を託すのではなく、商用化までの「つなぎ」として、さらに商用化後も一部の分野で役割を担い続ける存在として、バイオ燃料の位置付けを明確にしておく必要があります。

日本にとって、これは単なる環境対策にとどまりません。未利用バイオマスや廃棄物をエネルギー資源に変えることは、地方の雇用創出や廃棄物処理コストの削減にもつながります。

さらに、自動車産業にとっては、エンジン車の価値を「高効率なカーボンニュートラル燃料対応パワートレイン」として再定義できれば、電動車との役割分担のなかで新たなビジネス機会を開く可能性があります。

※各種グラフの表記数値は、小数点以下を四捨五入しているためパーセンテージ合計は100%とならない場合があります。

※本稿の図表の参考資料は以下のとおりです。

執筆者

KPMGコンサルティング
プリンシパル 轟木 光

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