2025年に入り、2月に資源エネルギー庁の「第7次エネルギー基本計画」が閣議決定・公表され、7月には電力広域的運営推進機関(以下、OCCTO)が将来の電力需給シナリオを公表しました。これらのなかで、2040年、2050年の電源構成の想定が示されています。しかし、「第6次エネルギー基本計画」等の従来想定と異なって電力需給の増加が見込まれている一方で、供給側の技術革新や社会実装の状況、政策動向による発電所の建替え、新設の進展等の不確実性に鑑みて、供給側の電源構成には複数のシナリオが用意されているのが大きな特徴です。
本稿では、これら長期の電源構成想定の内容と先行きの不透明さが増している状況が、事業者にどういう影響を与えるかについて解説します。
目次
1.「第6次エネルギー基本計画」における電源構成
- 再生可能エネルギー:36~38%(主力電源化を推進)
- 火力発電:41%
- 原子力発電:20~22%(可能な限り依存度を低減しつつ、安全最優先で活用)
- 水素・アンモニア:1%
出所:「2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな「エネルギー基本計画」」(資源エネルギー庁)
同じく2030年度の想定を示した第5次エネルギー計画と比較すると、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の比率が、「22~24%程度」から「36~38%程度」と大幅に割合を増やし、「再エネ主力電源化」を目指すことが標榜されました。原子力は「20~22%程度」と割合としては横ばい(第6次計画では、大幅な省エネによる需要減が織り込まれているため、発電量の絶対値としては減少)とされたことで、非化石燃料の割合が「59%程度」となり、初めて化石燃料の比率を上回りました。また、電源構成の41%という想定となった化石燃料については、LNG20%、石炭19%、石油等2%となっており、相対的に石炭比率の減少幅が小さいと言えます。
2020年に菅政権が「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」こと、および2030年度のCO2排出削減目標を2013年度比46%にする「野心的目標」を公表しました。これを受け、またエネルギー自給率の向上を目指して、この長期見通しでは、大幅な省エネと並んで、再エネ比率を大幅に高めるという「野心的な見通し」が示されています。36~38%程度とされた再エネの内訳としては、太陽光14~16%、風力5%、地熱1%、水力11%、バイオマス5%と、太陽光および風力の発電量を大幅に増やすこととしています。
2.「第7次エネルギー基本計画」と2040年度の電源構成の見通し
2025年2月に公表された「第7次エネルギー基本計画」では、「2040年度におけるエネルギー需給の見通し」が初めて公表されました。同時期に発表された「GX2040ビジョン」と一体的に遂行する計画と位置付け、第6次計画と同様に、再エネの主力電源化それも含めた脱炭素電源の最大限の活用が謳われています。
一方で、ウクライナ情勢等によるエネルギー安全保障上の課題や需給ひっ迫が生じたことに鑑み、S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)の原則のうち、「エネルギー安定供給を第一」とすることが明記され、エネルギー資源の確保や電力の安定供給に重点が置かれています。
本計画の大きな特徴は、やはり再エネと原子力の位置付けです。2040年度における電源構成の見通しは、以下のとおりです。
- 再生可能エネルギー:4~5割程度
- 火力発電:3~4割程度
- 原子力発電:2割程度
再エネの比率が火力発電の比率を上回り、電源種別で最大のシェアとなっています。再エネの内訳は、太陽光23~29%程度、風力4~8%程度、水力8~10%程度、地熱1~2%程度、バイオマス5~6%程度となっています。2023年度速報値で比率9.8%の太陽光および1.1%の風力は、やはり大幅な増加が見込まれています。
原子力については、約2割程度と比率ではほぼ横ばいですが、本計画では電力需要がDXやGXの進展により増加すると見込まれており、原子力の発電電力量も伸びる可能性があります。また、第6次計画まで原子力への依存度を「可能な限り低減させる」との記述がありましたが、エネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源として「最大限活用する」との記載に変更され、比率は横ばいであるものの方針が大きく転換されています。
また、もう一点この需給見通しで特徴的なのは、技術革新の度合いによるシナリオが設定されていることです。2050年というかなり先を見込むと、発電に関する技術がどうなっているかは不透明です。「再エネ」「CCS」「水素・アンモニア」の技術進歩によるコスト低減・普及度合いによって電源構成が異なるシナリオとなっています。CCSや水素・アンモニアが低コストで活用できれば、火力発電からのCO2排出量が大幅に削減されることから、導入、更新および稼働率が変わってきます。
需要の想定と同じく将来の不確実性を反映した形ですが、これら脱炭素技術の進展に不透明性が大きいことから、これまでの計画で示されてきた火力発電の燃料種別内訳が今回の見通しでは示されていません。ただし、LNGの活用と、非効率石炭火力のフェードアウトについては言及されています。
3.「将来の電力需給シナリオに関する検討会」報告書における供給力の想定
2025年7月にOCCTOの「将来の電力需給シナリオに関する検討会」は、2040年および2050年の電力需給シナリオを公表しました。将来の供給力の在り方、電源構成について、原子力、再エネ、蓄電池、火力のCCS貯留量と脱炭素化の想定や、公表されている新設・廃止情報等に加えて経年廃止時のリプレイス有無を考慮し、それぞれ複数のモデルケースを設定しています。エネルギー基本計画のシナリオが技術革新を主に組み立てられているのに対し、こちらはより政策、事業者の投資判断等を主にシナリオが組まれていると考えることができるでしょう。
この想定においては、エネルギー基本計画における長期需給見通しと異なり、需要側と供給側を別々に考えていることが大きな違いです。需要側はいくつかの要因別にシナリオを想定し、2040年に2つ、2050年に4つのモデルケースを想定しています。供給側は前述のような要因を基に、再エネ導入量の大小、原子力の設備量の大小、火力のリプレイス有無などを組み合わせて、2040年に4つ、2050年に16のケースを作成しています。需要に応じて電源ごとの発電量の一部を連動させているものの、その他の要素は需要と独立した要素と捉え、需給バランスが崩れている場合は、「供給力が不足(もしくは過剰)である」という状況を示しているのが特徴です。
2040年の供給力については、再エネと原子力が需要量に応じて決まっています。再エネは、1.5億~2.25億kWの容量が導入され、発電量ベースで38~46%程度の割合になる見込みです。原子力については、「2040年度におけるエネルギー需給見通し」並みの需要の2割を賄う発電量を見込んでいます。火力については、稼働45年で廃止もしくはリプレイスすることとし、リプレイスなしのケースと、すべてリプレイスのケースで供給力の過不足を示しています。需要の伸びが小さい場合は全数リプレイスで600万kW程度の余剰、需要の伸びが大きい場合は、リプレイスがなければ4600万kW不足すると試算されています。
2050年の供給力についても、基本的に2040年と同じ考え方で算定されていますが、原子力についてハイケース、ローケースが設定されています。再エネの導入量は、1.7億~2.6億kW、発電量で全体の40~46%程度の見込みになっています。原子力は2300万~3700万kW、発電量では、需要量との組み合わせによって、12~26%となっています。その残りを火力で賄うという考え方ですが、需要が小さくリプレイスがされるケースのみ発電能力が足りるものの、需要想定が最大のケースでは、リプレイスあり原子力大のケースでも2300万kW、リプレイスなし原子力小のケースでは8900万kWもの電源が不足するという試算結果になっています。
本報告書は、前述したとおり需要と供給を独立して想定していることが大きな特徴です。再エネと原子力の導入量をシナリオ別に固定し、残りの部分は火力の設備量でコントロールすることとしているため、需要想定との差分について「火力発電所の経年リプレイスおよび新増設が必要」というメッセージが発されており、注目されました。一方で、検討会のなかでも、「電源構成やそのコストによって需要が影響を受ける等両者の相関性を検討すべき」という意見もあり、今後の見直しのなかでどのように検討が進むか注目されます。
出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成
出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成
4.電源構成の長期見通しにおける共通点と不確実性
- 再エネ電源は、今後も太陽光・風力を中心に増加し、いずれ火力を上回って電源構成で最大になる。
- 原子力は新増設を前提に、引き続き電力供給の2割程度を担うこととなる。
- 火力電源の電源構成比率は徐々に減少していくが、引き続き再エネに次ぐ主要な電源として活用される。
エネルギー基本計画でも謳われているとおり、2050年カーボンニュートラルという目標を達成するには、ゼロエミッション電源である再エネおよび原子力を可能な限り活用することが必要であり、それが電源構成の想定に反映されています。国際エネルギー機関(IEA)が発表している「World Energy Outlook 2024」でも、再エネの大幅な増加とともに、エネルギー転換の鍵となる7つのクリーンエネルギー技術の1つに原子力を挙げており、今後の拡大が予測されています。
一方で、火力電源については、カーボンニュートラルに向けてCO2排出量削減・ゼロエミッション化技術の進展度合いで将来の動向が異なってきます。技術の進展が見られなければ、火力電源自体の発電量を抑制しないと排出量削減が実現しませんし、どの技術が大きく進展するかで燃料種ごとの相対的優劣が変わってくることから、火力発電の燃料種内訳は不確定要素ということになります。
5.長期の電源構成の想定が事業者の活動に与える影響
大規模な発電所建設は、計画から建設、運転開始に至るまで、場合によっては10年以上の期間を要するうえに、一度稼働すると40年以上稼働を続けるケースもあります。また、火力発電所の燃料調達にあたって、たとえばLNGの長期契約では平均して15年程度の期間にわたるものであり、発電事業は大変足の長い事業であると言えます。発電事業者にとっては、将来の予見性は事業実施において非常に重要な要素になります。2040年、2050年という長期の電源構成想定は、主に発電事業者の将来の見通し、長期事業戦略に影響を与えるものと考えられます。
エネルギー基本計画はエネルギー政策の基本方針であり、増加を見込んでいる電源投資等に対して何らかの政策的措置が執られる可能性があります。特に2050年カーボンニュートラルに向けて、再エネ等のゼロエミッション電源の導入や火力発電における水素・アンモニア燃料の導入、CCUS等の脱炭素技術への制度的支援や補助金等の政策が期待できることも、これらの見通しから想定することができます。
一方で、CO2の排出原単位が高い非効率な石炭火力については、廃止を促す措置が執られることとなりそうです。このように電源構成の目標が示されることで、発電事業者にとってどういう電源に投資をするか、また保有電源を維持するか撤退するか、といった戦略的判断がしやすくなると言えます。
OCCTOの検討会報告書にも、この需給の長期想定を「長期脱炭素電源オークション等の円滑な実施や、計画的に電源開発を進める上での参考とする」ことが期待される旨明記されています。
しかし、これらの想定では電源投資の判断には不十分だという声もあります。火力電源の燃料種別構成が示されなくなったことにより、どの燃料種の電源がどれだけ必要になるか不透明になっているためです。比較的CO2排出原単位が低い天然ガス火力発電所が火力発電の主力となる状況は続きそうですが、具体的な投資を検討する際には、安定調達の確保可能性、価格の安定性、脱炭素技術の進展見込み、電源に関する政策・制度の動向等を踏まえた判断が必要になるでしょう。
6.さいごに
2025年に入り発表された長期の電力需給想定において、将来の電源構成の見通しが公表されましたが、増加が見込まれた需要に合わせ、また2050年カーボンニュートラルに向けて、再エネや原子力を最大限活用することや火力電源について新増設も含めて利用を継続することが示されています。
ただし、火力電源については、脱炭素技術の開発・普及等によって構成比率が異なること、どの燃料種の電源がどれだけ導入されるかが明示されていないこと等、電源投資や燃料確保といった長期電源戦略の指針とするには不確実性が高いものとも言えます。今後数年ごとにこれらの需給見通しが更新される際に、関連技術の進展度合い(の見通し)とともに、発電事業者は段階的に戦略を見直す必要に迫られるでしょう。
KPMGは、発電に関する技術開発動向や容量市場等の市場制度改革を含む事業環境変化を踏まえた電源ポートフォリオの最適化戦略をはじめ、事業上特に重要なファクターとなっている蓄電池や水素、CCS等のGX関連技術に関する調査やカーボンニュートラル電源の導入から非化石価値の販売まで脱炭素化に向けた戦略策定を支援します。
また、既存の電源も含めた電源部門の運営面において、事業者の収支に直結するトレーディングの実施およびリスク管理における業務支援、ならびに、老朽化設備の増加や要員不足が顕在化しているなか、運営コスト削減と安全性確保が求められている課題に対し、DXを活用した設備の保守・保全を効率化・高度化するスマート保安の導入等、電力の安定供給、事業の収益確保に資する発電事業者向けサポートを行っています。お気軽にお問い合わせください。
※本文内の図表の参考資料は以下のとおりです。
- 「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」(資源エネルギー庁)
- 「2040年度におけるエネルギー需給の見通し」(資源エネルギー庁)
- 「将来の電力需給シナリオに関する検討会の報告書」 (OCCTO)
執筆者
KPMGコンサルティング
リードスペシャリスト 桑原 鉄也