不確実性に挑む－人間×AIの共創を目指して

VUCA時代と呼ばれる不確実性の高い環境下で、企業の意思決定や事業運営は大きな転換期を迎えています。勘と経験に頼る従来型のマネジメントは限界を迎え、社内外のデータを活用し、デジタル技術による予測と修正を繰り返す新たな経営スタイルが求められているのです。そのなかでも特に、テクノロジー、メディア、通信キャリア企業は、安定した通信インフラやスケーラブルなプラットフォーム、最適化されたソリューション・コンテンツを通じて、各産業のDXを牽引してきました。いずれも日本経済の中核を担い、常に変化の渦中にある産業と言えます。

そのようなデジタル変革の中心に位置するクライアントに対して、KPMGコンサルティングは、戦略から実行まで一貫した支援を提供する専門集団として価値創出に取り組んでいます。テクノロジー・メディア・通信（TMT）セクターでは、「クライアントに寄り添う戦略思考」と「アカウント知見」を強みに、柔らかい悩みの段階からクライアントの壁打ち相手となり、課題の解像度を高めながら、最適なコンサルティングテーマを導出・具体化し、提案をリードしています。

たとえば、テクノロジー業界では、SIerを中心にAIを活用したシステム開発ライフサイクル（SDLC）の効率化が喫緊の課題となっています。また、通信キャリア業界ではAIをネットワーク運用に組み込み、人手を介さずに自動で最適化・保守を行うノンタッチオペレーションが前提となっています。ほかにも、メディア業界では、生成AIを活用したコンテンツ制作が急速に進展しており、いずれも社内業務におけるAI活用が業界の標準となりつつあります。こうした変化を踏まえ、戦略立案、オペレーション改革、IT構想設計・導入支援、さらにはリスクコンサルティングまで、幅広いテーマに対応しています。TMTが主体となってプロジェクトを推進するケースもあれば、専門性の高いテーマにおいてはサービスラインが主導し、TMTが側面支援を行うケースもあります。

近年では、企業間でAIインフラの垂直統合を進める動きや、自社のAIサービスを外部に展開する外向けAI事業など、テクノロジー産業全体の構造を変えるような取り組みが加速しています。こうした動きは、単なる技術革新にとどまらず、日本の産業競争力そのものに大きな影響を与えるものです。

このような最前線の動きに対し、我々コンサルタントが果たすべき役割は、AIでは代替できない共感性と創造性をもって、クライアントの意思決定を支援することです。AIが提供するデータや分析結果をインプットとしつつも、最終的な方向性を導くのは人間の対話と洞察です。

たとえば、個人情報を保護しながら監視カメラを運用する「セキュリティとプライバシーの両立」が話題になったように、合理性だけでは語れない領域には、人間の共感性が不可欠です。市民感情や倫理観を踏まえた判断や、クライアントの文化的背景への理解が、AIにはない価値を生み出します。また、社内での改革・実証を経て外販ビジネスへと展開する「クライアントゼロ」の発想など、創造的な提案を通じて新たなビジネス機会を共に創出することも、私たちの重要な役割です。

AIと人間の共存というテーマは、今や全業界共通の課題であり、同時に大きなビジネスチャンスでもあります。AIガバナンスにおいては、欧州のAI Actなどの規制が整備されつつある一方で、どこまでが許容されるのかという「グレーゾーン」も存在します。ここにこそ、人間の判断と調和が求められる領域があり、我々の介在価値が発揮される場面なのです。

TMTセクターのクライアントは、日本の屋台骨を支える存在です。そうした企業の変革を支援することは、日本の国力強化にもつながると信じています。これからも、クライアントと共に未来を創り出すパートナーとして、挑戦を続けていきます。

KPMGコンサルティング
執行役員パートナー
テクノロジー・メディア・通信セクター統轄
本下 雄一郎