会計不正の再発防止や早期発見には、データを活用したモニタリングの導入が非常に効果的です。本記事では、導入時の課題やデータ分析の進め方に加え、調査体制の強化やPDCAサイクルを視野に入れたモニタリング体制の構築方法について解説します。


※本記事の執筆者本人が、スライド付きで解説する「会員限定コンテンツ」(無料)を視聴する。

お問合せ

データモニタリングの期待と現実

会計不正の再発防止には、リアルタイム検知やデータ横断的分析、自動化による効率化、教育による不正抑止などが期待されます。しかし、そこにたどり着く前に、データ収集範囲や信頼性の確保、分析結果の正確な解釈など、課題は少なくありません。特に会計不正の背景解明には、モニタリング対象となるデータ項目の抽出行為だけでなく、抽出した項目の確認、いわゆる実態調査を遂行・支援する体制が不可欠です。データを活用し、効率的かつ効果的な防止策をどう進めるべきかの課題について、整理・検討が必要不可欠です。

会計データを活用したモニタリングの不正抑止・検知の実践法

再発防止としてのデータを活用したモニタリングの効果を高めるには、まず現状で入手可能な信頼性のあるデータを最大限に活用し、データ可視化による体制を早期に構築することが重要です。会社の状況に即した分析シナリオの設定やAIの活用領域の特定による精度向上、調査体制の構築が鍵となります。一方で、中長期的には「あるべき姿」を明確に描きながら、データ収集範囲の拡大(例:売上明細データの分析対象の追加)、信頼性を高める統制の仕組みの再構築、さらにPDCAサイクルを意識した調査体制の強化を進めることが求められます。

不正リスクを考慮した分析シナリオの検討

定量情報&定性情報

会計不正領域のモニタリングを検討する際には、まず定量情報を基に分析を行います。その際、不正リスクの兆候を把握するための分析シナリオを策定することが重要です。分析シナリオの検討には、入手可能な財務数値情報(例:T/Bデータなど)を活用し、形式的な誤謬チェックだけでなく、会計不正リスクやデータ状況を考慮し、各社固有のシナリオを設定することが効果的です。また、グループ会社の業種や事業内容を把握した上で、PL&BSの勘定科目の粒度を意識しながらリスクシナリオを構築することが求められます。

会計不正のモニタリングを効果的に行うには、定性情報を活用した分析も重要です。例えば、架空収益がリスクとして判断された場合、新規事業の有無(収益認識の統制が脆弱)や買収後間もない状況(業績へのプレッシャーが強くガバナンスが効きづらい)監査上の指摘が多いなど、関連する定性情報を考慮します。

定量情報と定性情報を考慮し、不正リスクが高いと判断する拠点に対しては重点的なモニタリングが求められます。

財務数値の分析ツールや仕訳データをAI解析するツールなど、分析ツールの活用も欠かせません。これらと定性情報の不正の兆候を組み合わせることで、不正発見・抑止に向けた効率・効果的なアプローチが可能になります。

調査体制の強化

実態調査方法の確立

会計不正の兆候を確認するには、慎重な検証体制が不可欠です。その強化のためには、分析ツールを活用して不正の兆候を絞り込み、調査の必要性を判断し、確認・検証する仕組みが求められます。仕組みの強化には、翌期以降の活用のため知見の蓄積や生成AIによる質問票の作成による業務効率化等に加えて、会計や監査の専門家の関与によるスピーディーな体制整備も有効です。当該領域は、社内の適任者不足や専門知識の欠如などの課題が伴う可能性があるため、慎重な検討が必要です。

調査体制の強化

PDCAによる取組

調査体制を強化し、実効性を高めるには、データ分析のPDCAサイクルを意識した対応が不可欠です。前回の調査結果を踏まえ、分析シナリオのブラッシュアップや新たなシナリオの追加を行い、形式的な運用に陥らないための仕組みを構築することが重要です。

今後再発防止として活用を検討すべき領域

リスク×デジタルソリューションMAP

テクノロジーの進化により、従来は財務数値など構造化データを対象とした分析ツール(例:会計不正)が主流でしたが、品質コンプライアンス違反などの非構造化データへの対応も可能になってきています。不正の原因を考える際には、ヒトや風土に着目した分析を含め、構造化データと非構造化データを併用したモニタリング手法の活用が効果的です。今後は、これらのデータ領域に対応する分析ツールを意識した対応がますます重要になると考えられます。

こちらは「KPMG Japan Insight Plus」会員限定コンテンツです。
会員の方は「ログインして閲覧する」ボタンよりコンテンツをご覧ください。
新規会員登録は「会員登録する」よりお手続きをお願いします。

競合他社の方は、登録をご遠慮させていただいております。

執筆者

三浦 一成

KPMG Forensic & Risk Advisory アソシエイト・ディレクター